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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第240話:やっと素直になれた⓶


(……生きてる、のか?)




 ぼやけた視界が徐々に晴れていく。

 やがて、室内の明るさに目が慣れた頃に気付いた。自分の手を祈る様にしてじっと握る人物がいる。最初にこの世界に来た時に、挨拶をされた時に繋がった手なのだと。




「ア、ウラ……?」

「あ……。ハルヒ、様? ハルヒ様、私が分かります?」

「うん」



 長髪の黒髪に黒い瞳。

 顔立ちは麗奈やゆき、咲と同じ日本人の特徴を持っている。アウラは、この世界にある国の1つ神霊の国ニチリの姫君だ。

 4大精霊の1つであるウンディーネとの契約に成功し、ラーグルング国へと急いだ1人。アウラはじっとハルヒを見た後で手を握り顔に触れたりと丁寧に確認をされた。

 その間も、彼女の目には涙が溜まり続けいつ崩壊してもおかしくない。




「何……どうしたのさ、一体」



 どうにか声を振り絞る。思った以上に、自分は疲れているなと気付くのもあるが丁寧に確認されるのが恥ずかしいのもある。そして、何でそんな事をするのかと疑問も湧いた。


 ハルヒが生きている。

 その事実がストンとアウラに伝わった時、彼女はついにポロポロと涙を零した。




「えっ」

「良かった……ハルヒ様が無事で……本当に……」




 麗奈が魔王サスクールに攫われた後、ハルヒはユリウスから聞いた。

 自分の兄と麗奈を討つ覚悟を決めた事。ハルヒは怒りのまま別の方法を探そうとニチリを飛び出していった。


 それこそアウラに何も告げずに、勝手に出て行った。

 何故、そんな行動に走ったのか。出て行くにしろ自分でなくても、せめてディルベルトには告げて欲しかったと訴えた。




「れいちゃんの力を封じたのは、同じ土御門の元人間で……。だから、奴を早く見付けて討とうと」

「それでも、それでもちゃんと伝えて下さい。こちらは心配でしょうがなかったんですよ!!!」

「ごめん……。配慮が足らなかった」




 アウラが怒る所など想像もつかない。

 ハルヒはそんな彼女の変化に驚きつつも、確かに心配させたなと実感していく。


 アウラが泣き続け、ハルヒはずっと待つしかなかった。出来る事と言えば、握られた手をどうにかして握り返す事。それだけ今のハルヒの体力と力は落ちている。




(霊力も全部、アルベルトを飛ばすのに使った。多分、届いたとは思うけどもう確かめる術もないな)

「何故、相談してくれないのです。ハルヒ様にとって、私達はまだ信じられない人間ですか」

「それは……」

「っ、私達を頼って下さい……。やっとハルヒ様を見付けたと思ったのに、瓦礫に押し潰されたのかと思って生きた心地がしなかったんです」

「な、んで……それを知って」




 アウラの告げた内容に、ハルヒは目を見開くしかなかった。

 瓦礫に押し潰されたと思った。それは、ハルヒが宿敵であるユウトを討った後の出来事だ。地下室での戦闘の激しさから、崩壊が進んでいた場所。


 ギリギリの勝利だったが、ユウトは自身の死と引き換えに麗奈へと呪いを放った。

 命を犠牲にして行うその呪いに、ユウトは言った。龍神でも解けない強力な呪いなのだと。その事実を確かめる為に、ハルヒはその場から立ち去ろうとした。


 だが、激しい戦闘で体力も尽いた上に脱出出来る筈の入り口も瓦礫に埋まった。自身の死を覚悟したハルヒは諦めてその場に座り、崩壊する地下室と運命を共にする筈だった。




(まさか、その時の部分を見られてたのか……。そうか、ウンディーネは水を扱う。水たまりはあったな)




 契約したウンディーネは情報の収集に長けている。

 彼女の力なら、水がある所の情報を見るのは造作もない。そうなれば、契約者になったアウラだって見るのは容易いだろう。

 

 そして気付く。

 ラウルに助けられた時、再会したアウラの様子を。ハルヒが生きていた事を自分の事のように喜び、いつもよりも強い力で抱きしめらた。その理由を知り、ますます悪い事をしたなとハルヒは思う。




「ハルヒ様は、いつも無茶をし過ぎなんです……。私の呪いを解いた時も、麗奈様達の事を助けた時も……。お願いです。自分をもっと大事にして下さい。私、ハルヒ様を失うなんて思ったら……思ったら」




 止まらない涙と言葉に、ハルヒは自分の行動がマズいのだと分からされる。自分も麗奈に対して、自分を大事にしろと言ってきたがハルヒ自身も出来ていない。

 それをしっかりと言われ、自身の行動も見直さなければと反省する。


 泣いているアウラをどうにかしようと思うも、ハルヒが出来る範囲が限られる。それでも、とハルヒはアウラの事を自分の方へと引っ張る。




「え、ハルヒ様……?」

「ごめん。アウラ」



 ギシッと2人分の体重により、ベッドが軋む。どうにか力を振り絞り、泣いているアウラの目に溜まる涙を拭う。それが終わったと同時に背中に手を置き、自分の元へと引き寄せる。




「相談もなしに出て行って悪かった。連絡もするべきだったのも今更だと思う」

「うぅ、本当です」

「れいちゃんに注意しといて自分が出来ないんだから、ホント情けないよね」

「麗奈様の事、好きなんですよね?」

「好きっていうか、僕の初恋の相手だよ」




 ハルヒが麗奈を構う理由として、幼馴染だからとは別の理由がある。

 彼自身は既に自覚している。麗奈は自身が辛い時に助けてくれた存在であり、同時に自分で守りたいと思った。

 だから麗奈に約束も込めて勾玉を渡した。あの時の彼女は、ハルヒの覚悟を知らず大事にしてくれた。そのお陰で、怨霊に意識を乗っ取られたゆきを助ける事が出来た。少し寂しい気もしたが、ゆきはハルヒにとって大事な親友だ。


 そんな彼女が助かったのだから喜ぶべき事だ。

 アウラはハルヒから麗奈の事を聞いていた時に、やっぱり初恋の人なんだと実感した。ハルヒの事を知れるのは彼女にとって嬉しい事。なのに、それが自分ではない女性の事を話されるのは少しばかり悔しい気もしている。




「ハルヒ様。私以外の女性の話をするのは、今は止めて欲しい……です」

「え、嫉妬してるの?」

「勿論です……。私はずっと言い続けているでしょう。ハルヒ様の事を好きだと」




 その時、ガンッと何か壁にぶつかったような音が聞えた。

 驚いた2人は揃って、その音が聞えた方へと視線を合わせる。ハルヒが居るのは、ラーグルング国の客室の1つ。フリーゲが倒れているアウラも含め、城の客室を全て治療用にしろと指示を出した。


 父親のリーファーが、部下に指示を出しながらだったので今でもドタバタと廊下を走り回る音が聞える。きっと走り回った時に誰かが転んだのだろう。そう思う事にして、アウラは言葉を紡ぐ。




「ハルヒ様が麗奈様とゆき様の事を大事にしているのは分かっていますが……。その中に私も入れて下さい」

「そこは自分が一番に、と言う所では?」

「言ってもハルヒ様は言いませんもん。私ばっかり言い続けてますけど、ハルヒ様がお返しをした事なんてないです」




 どうせ今も何もしないのだ。

 そう思っていたアウラにハルヒは名前を呼ぶ。何だろうかと見つめ返すと、いつになく真剣な目で見られ胸がドキリとした。




(え……)

「お返しをした事ない、ね。じゃあ今しておく。――忘れたら承知しない」




 どう言う意味かと思ったら、力強く引き寄せられ驚いた。目を見開いている間に、アウラの唇へと当てられる温かな体温。

 それに驚き戸惑う中で、思わず逃げようとしたがそれを許す程ハルヒは甘くない。さっきまで弱っていた人間の力ではない。抵抗が出来ない中で、アウラの中でハルヒも男性なのだと改めて思い知らされる。




「っ、ハルヒ、様……」

「アウラ。僕を好きだと言ったその言葉、今も信じて良いの?」




 呼吸を落ち着かせ、アウラは必死で思考を巡らせる。

 ハルヒが真剣な目をしたままじっとアウラを見つめ、彼女の言葉を待つ。少ししか経っていないのに、時間の流れがそこで止まったように静まり返る。




「あ、あの」

「早くして。邪魔が入るのも時間の問題だから」

「え、え……?」

「ウィルさんとディルベルトさんは、僕とアウラの味方なんだもんね」




 誰に対して言っているのか。

 赤くなった顔のアウラにはそこまでの考えが及ばない。しかし、ハルヒは何故だか確信を持ったように言っている。

 しかも、視線の先には先程2人で見たであろう扉と廊下。彼はそれを軽く睨んだ後で「それで」とアウラに次を促す。




「言っておくけど。散々、僕の事を好きだって言って来たのに僕から攻められて戸惑うの?」

「えう……」

「僕の中ではれいちゃんは幼馴染みって事で、区切りは付けてるけど確かに構い過ぎたかもね。ま、アイツがれいちゃんの事を泣かせたら問答無用で殴るから良いんだけどさ」

「へ……」




 それはどう言う意味だ?

 既に区切りはついているとは、とハルヒの言葉が気になるも早く答えないといけない。何故だかアウラはそう決断した。




「わ、私――」

「アウラを好きにならないようにって思ったのに。周りがうるさそうだからと知らないフリしてたのにさ」

「えっ」



 一瞬、思考が停止する。

 知らないフリをしていたと言われ、アウラはもしかしてと気持ちを高める。その隙にアウラの額にキスを落とすハルヒ。その時の目が獲物を仕留める様な視線に、アウラがビクリとなる。




(あ、あれ……)

「じゃあ覚悟してね、アウラ。加減なんかしないから」

「ハルヒ様が好きな気持ちはこれからも変わりませんよっ!!!」




 気付いたら声を張り上げていた。

 宣言にも似た言葉に、あとから「あ」と思うもハルヒは満足したように笑みを零す。アウラの言葉に満足したように、キスの嵐が降ってくる。


 慌てるアウラにハルヒが楽しそうにしていると、バンッ!!と扉を破壊しそうな音が響く。




「貴様っ、それ以上姫様に近付くな!!!」

「諦めて下さいリッケル」

「貴様も味方なんかするな。王になんて言う気なんだ」




 ニチリの国の宰相であるリッケルと、彼を止めているディルベルト。

 鬼の形相なのはいつもと変わらないが、この時ばかりはアウラが怖いと思いギュッとハルヒに抱きつく。




「アウラが怖いって。怖がらせたらダメじゃないかリッケルさん」

「貴様の所為だろうが!!!」




 ベー、と反省の色がないハルヒの挑発にリッケルはさらに怒りを爆発。

 愛おしそうにアウラを見て、見せつけるように抱き寄せればリッケルの怒声が響く。ハラハラした様子で見守るゆきに、戦士のドワーフ達は揃って「アイツも男だな」と納得。


 ドワーフ達の感想に、更にリッケルが怒りを爆発させたのは言うまでもなかった。


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