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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第239話:やっと素直になれた⓵

 

 気絶してからどれ位の時間が経ったのか。

 ふと目が覚めた時、イーナスが見た天井や香ってくる薬品の匂いで何処に居るのかを察した。




(フリーゲさんの働いている薬師室。その内の1室か……)




 だが意識がはっきりとしてくれば、自然とやるべき事が浮かんでくる。見ればガラスコップと氷が入った水が1つずつあり、喉が渇いていたので潤した。

 ふぅ、と息を吐きながら自身の体の調子を確かめていく。




(節々が少し痛い位だが、歩けない訳じゃない。フリーゲさんも起きてすぐに私達の事を診たのか。いや、それよりも状況を把握する方が先だな)




 その後、フリーゲに呼び止められるも「仕事してくる」と言えば、呆れた様に「好きにしろ」と厄介払いのように追い出された。いつもと変わらない態度に小さく笑いながら、執務室へと急ぐ。




「報告は以上になります。あの……宰相」




 目的地に着けば、報告書をまとめていた文官達は驚いたように声を上げた。

 イーナスを含めた魔法を扱える人達は、遥か上空で戦いを繰り広げている麗奈達に魔力を渡した。

 大精霊と呼ばれる強力な精霊達。


 彼等を送る為に、少しでも自分達の魔力をと補填した。

 そして、イーナス達は意識を失った。だからこそ、自分が居ない間に何が起きたのか状況を把握する必要がある。


 報告をしている間、文官達はそわそわしたようにイーナスの事を見つめた。

 目が覚めてすぐに仕事に入る。頼もしくもあると同時に働きすぎて心配な面もある。


 そんな彼等の視線に気付いたのか、イーナスは「すまないね」と一言謝ったのだ。




「全く。色々と仕事をし過ぎるのも問題か」

「あ、いえ……」

「そうだ。ゆきちゃん達はどうしてるかな。目が覚めたの?」

「あ、それでしたら――」




 早くに目が覚めたのはイーナス、キールとレーグの3名のみ。


 精霊と契約していたラウル、ヤクル、兄のフーリエ、ゆき、アウラ、咲達はまだに目が覚めていない。咲と共に来ていたナタールも魔力を渡したが、イーナスよりも早く目が覚めてからは大人しくていると聞いている。


 今ではエルフのフィナント達も起きおり忙しく立ち回っている。そんな彼に、コーヒーとサンドイッチを持ってきたのはキールの父親であるイディールだ。




「少しは何か食べた方が良いかと思って」

「お気遣い、ありがとうございます……」




 目を丸くしながらも、お礼を言い渡されたサンドイッチを食べる。

 サイズは小さいが、ゆっくりと咀嚼し自分がどれだけお腹が減ったのかを実感した。


 その間、食事が終わるまでイディールはイーナスに質問するでもなく報告書を読んでいる。

 息子であるキールの状態を知っているにも関わらず、何故ここに来ているのかと少し疑問が湧いた。イーナスよりも自分の息子の様子を見れば良いのに、と思ってしまう。




「目が覚めたようだな、イーナス」

「お、驚きました。まだ居て下さっている事に……」




 見計らったように執務室に入って来たのは、キールの母親であるセルティル。

 魔法師をまとめる魔法協会。その理事を務めている人物であり、魔女と呼ばれる魔力を多く有した人間。その分、特殊な魔法や目を持っているとされているが、詳しい詳細は分かっていない。


 息子のキールが居るとは思えない程の見た目が若く、30歳に近いキールと並んでも親子だと認識はされないだろう。

 父親であるイディールは、それ相応の年の取り方であるが、セルティルから言わせればこれでも年を取っているのだという。

 確か魔法協会から増援を送ってくれたのは彼女の判断だった筈。


 しかし、協会の方でも魔物の暴走などもありそれらの対応に追われている筈。まだラーグルング国に居る事に驚くイーナスに、セルティルは言った。

 



「あのなぁ。私だって恩があるこの国が心配なんだ。まだ戦いが終わってもないのに、協会の方へと帰るバカがどこにいるんだ。そんなに薄情な奴に見えるのか?」

「あ、いえ……。驚いただけです」

「セルティル。イーナス君をいじめないの」

「ふんっ」




 拗ねるセルティルに、イディールは宥め続けた。

 イーナスが起きて来るまでの間、魔力の管理はセルティルが行い国の結界の維持は武彦と裕二の2人で行っていると聞く。

 その上、柱の守護者の役割を風魔、九尾、清の3体で行えているのだと聞きその変化にも驚いた。




「少し前に、四神の覚醒とやらが起きたんだろう? そのお陰か少ない手札でも、今の柱は十分に機能しているんだと聞くよ」

「そうでしたか。色々とありがとうございます」

「まだ終わってない。礼を言うが早すぎる」




 バッサリと言い切られ、反応に困るイーナス。

 イディールは話題を変えようと、フリーゲの父親であるリーファーがいる事に驚いた事を話した。




「あ、えぇ、彼はディルバーレル国のドーネル王と行動を共にしていて。麗奈ちゃんと話をした結果、こちらに戻って来たんです」

「そっか。あの子には色々と感謝しないといけないね。息子も危なかったと聞く」




 キールが陥った魔力欠乏症。


 大賢者であるキールの持つ魔力量は膨大だ。異世界人が持つとされている魔力量とほぼ同じ。だからこそ、そんなに簡単には欠乏症にはならない。


 だが、状況がそうさせなかった。

 あの時、ユリウスに掛かっていた呪いの暴発で麗奈を傷付けた。その動揺もある中、彼は四神との戦いに身を投じた結果、欠乏症へと陥った。

 手立てが遅ければ、助からないとされている為に最初はリーファーも投げ出した。それを救い出したのは、他でもない麗奈だ。



「あとで、キールに聞いたら無茶でもなんでも、私達を守りたかったんだという事です」

「それで自分が危うければ意味がない。その辺の状況も、しっかり見ろっての。バカ息子」

「もう。分かったから、何度も言わないでってば。今はちゃんと反省してるよ」

「分かるように言ったんだよ」




 そこにキールが入ってくる。

 空間魔法を用いたショートカットは、キールの母親であるセルティルから盗み見た。


 見て、実践しろとは母の言葉。人をからかう所まで覚えなくて良いと思いつつ、その被害は殆どが麗奈へと向けられている。




(麗奈ちゃん、改めて思うけどどんでもない人達に目を付けられたな)

「何? 何でこっちの事、じっと見るの」

「……別に」




 イーナスの意図が読めないキールとセルティルは揃って首を傾げる。

 ただ1人、父親のイディールだけは察している。彼も、麗奈が大変な親子に目を付けられたと思っている上にイーナスの苦労を知る1人だ。




「戦闘が始まってもうすぐ3日目だ。普通なら魔力切れを起こしても良いのに、よく保ってられたな」

「多分ですけど、麗奈ちゃんの魔道具のお陰かと」

「……見せてみろ」




 魔道具のお陰と言うイーナスに、セルティルは事実なのかと息子の物とイーナスの魔道具を半ば強引に奪い取り観察。キールがそれに怒る中、イディールは必死で息子を抑えつける。




「魔力の核……いや、魔力の純度が高すぎる。それにこの保有量の物が1つや2つじゃないと聞いた。一体、どれだけ作ったんだ」

「主ちゃんは可愛くて天才なんだぞ。全部で20以上は作ったと言ってたね」

「アホ。その偉業を止めろ」



 思いきり引っぱたくセルティルにキールは睨み付ける。

 イーナスも内心では思っていた。魔力の核と純度の高さ。イディールも、それだけの物をたった1日で作り上げた麗奈に驚きを隠せないでいる。




「そもそも魔力の核だって数年単位で出来上がる上に、見付けるのだってかなり難しいと聞くよ。もしかして、彼女はそれを自前で用意したって事?」

「それしか方法がないでしょ。でなきゃ1日で作り上げるなんて無理だよ」

「……おい、何でその方法を麗奈から聞かなかった」

「え。主ちゃんが奇跡を起こすのなんていつもの事でしょ? 主ちゃんの得意な事として残しても良いと思ったけど」




 何を今更と言った感じでキールが言うと、深い溜め息をした両親。イディールはイーナスに、質問はしなかったのかと聞こうとした。が、既にイーナスは視線を外している。




「イーナス君?」

「すみません。キールが言うように、既に起こしている奇跡なので……その変に慣れた、と言いますか。あの子だから、と言う事で深くは聞かなかったです」

「だってユリウスと同じ虹の魔法の使い手だよ? 始まりの魔法とされてるものを扱うんだから、奇跡の1つや2つは起こすでしょ。こうしてドラゴンが姿を現して、こっちに加勢しているんだから」




 慣れとは恐ろしいなと、改めて思うもそれを口にするのは遠慮があった。

 思い返してみても、麗奈だけじゃなくゆき達が起こした奇跡も凄すぎた。魔族に洗脳されたリーグの解放と呪いの解除。

 魔族に体を乗っ取られたアリサの救出と保護。ニチリに襲い掛かった魔物となった大精霊クラーケンの浄化と契約。4大精霊の契約者がこの時代に同時に生まれた事。


 極めつけは姿を消していたドラゴンの加勢。

 しかも、彼等はただの眷族。その主となる存在は、ユリウスが契約しているエンシェント・ドラゴンのブルーム。虹の魔法の使い手にして、魔法を創り出し交流を果たさなかったブルームの契約に成功したラーグルング国の王族であるユリウス。




「今回の異世界人と王族のユリウスが異常だな」




 ポツリと言ったセルティルに、誰も反応が出来ない。

 思っていても、口はしないでいたがどうやら今回の事はかなりの「異常」だ。

 それを引き起こしたのはやはりと言うべきか、やっぱりと言うべきか麗奈なのかも知れない。


 まだまだ底が知れない。

 異世界人の恐ろしさと頼もしさに、もう驚く事は止めようとその場に居た全員が素直に思った。


 

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