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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
280/433

幕間:女神の協力


「ねぇ、良いの? 私達が手を出して」

「そうね……」




 妹の問いに、冥界の女神であるエレキは考える。その隣には妹のエルナが不安げに聞く。

 だが、やることは最初から決まっている。


 死神であるサスティスからのお願いを、聞いた時点で――。



=====




「まず言っておくけど、アイツを出し抜くっていうのは無理よ。多分、いや……私達が会っているのだって知ってて聞かない」

「私が奴の部下だから?」

「いいえ、私達とは違うから。なんせ最初に生まれた創造主――それがデューオよ」

「!?」




 その事実にサスティスは目を見開く。

 冥界は魂を管理する世界だ。

 その管理者であるエレキは、久々のお客だからとパチンと指を鳴らす。


 辺りが暗く、自分達以外には何も見えなかった筈の空間が変わっていく。

 今度は虹の花が一面に咲き誇る幻想的な世界が広がる。それを眺めながら、いつの間にかテーブルと椅子が用意されていた。

 全てが木で作られたアンティーク調の家具。それをせっせと用意し、今もテーブルの丸みを整えているのは白くてフワフワと浮かんでいる光の玉。


 その光の玉は、短い手をバタバタと動かしながらサスティスに飲み物をとティーカップに注いだ紅茶を渡した。




「あ、ありがとう……」




 呆気に取られ、思わずお礼を言うとピタリと動きが止まる。

 何かおかしな事でも言ったか?

 しかし、それはすぐに間違いだと気付く。お礼を言われたと分かるまでに数秒かかり、高速で動き回った。




(う、嬉しい……のか?)

「久々のお客だもの。この子達も、気合が入るって。いつもありがとうね」




 そう言って微笑み、光の玉をピンッと指で弾く。

 1つ弾かれれば、嬉しいのか次々と高速で動き回った。よほど嬉しいのだろう。それを読み取れる位には、サスティスにも余裕が生まれた。


 やがて高速で動き回っている光の玉がサスティスの眼前へと迫る。

 ピンボールのようにぶつかり、または弾けて動く。その内の1つがたまたまサスティスへと迫ったのだろう。


 反射的に避けようとしたが、彼は動かずにじっとする。

 物凄いスピードで迫りそれはスルリとサスティスの事を通り抜けてしまった。だが、同じ光の玉同士だと普通にぶつかり弾けていく。




「あれは……魂ではないですね」

「私の力で作った魂に似たもの。あの子達に私の世話をお願いしているのよ」




 今も短い手をバタバタとさせ、お礼を言われた事が嬉しいのだろう。

 しばらくは動き回る。それ位にお客からお礼を言われたのと、エレキ自身から告げられたというのが彼等にとっては褒美なのだ。




「気になるなら、見えなくするけど」

「あ、いえ。当たっても被害がないのは、分かってるので」

「そう?」




 エレキも気にしない様子。実際、サスティスも害はないと言っているので平気だ。

 出された飲み物を飲み、味覚が分かる事に驚く。死んでからは、食事をするという行動を起こさなかった。


 起こす必要がないからだ。

 動いても、お腹が空く気配はなく疲れもない。死んでからの変化であり、魂だけだという実感はある。だから驚いた。味覚が分かる要素があるのかと、思わずマジマジと見る。




「言っておくけど、死んでからだって味覚も触覚もあるわよ。ただ、貴方がそれをしたいのか、違うのか。意識しだせば出来なかった事も出来るし、色んな所に目を向けられるわ」

「……」

「前の貴方とは違うわね。あの時は復讐に生きる事を良しとしていた。今もその部分はあるけれど、強い影響を受けたのでしょ?」




 そう言ってエレキが取り出したのは、デューオが見ている水晶だ。

 そこに映し出されたのは、異世界人である麗奈とザジ。麗奈の傍には青龍が立っており、足元には風魔が居て周りを見ている。


 傍から見れば風魔に話しかけているように見せる為。

 青龍の姿は見えないようにしているが、いつでも麗奈を守れるようにと周りを警戒している。




「随分と楽し気ね。会話が気になる?」

「いえ、大丈夫です。ザジも私が居ない方が、素に戻れるんだと思うので」

「ふーん。そういうもの……」




 そこでサスティスは初めて見た。

 ザジが麗奈の言葉に喜び、笑っている姿を。これまで彼と行動をしてきて口数が少なく、仕事をこなすだけに見えていた。

 だが、サスティスもザジも必要以上の挨拶はしないだけだ。

 お互いに距離を保っていた。それを無くしたのはやはりと言うべきか、麗奈に関わってからなのだろう。


 彼女と話し、触れ合い。お礼だと言われて渡してきた魔道具を思い出し、今まで見ていなかった部分を見る事になった。サスティス自身、あんなにも麗奈の前で穏やかに笑える。自分に笑うという行動が出来たのも、捨てて来た感情を再び思い出させたのも――全ては彼女と繋がりを持ってからだ。




「デューオの目的を、貴方は知らないのですか?」

「知っているけど。教えるとでも思う?」

「それは……」




 デューオが気に掛けている存在は異世界人である麗奈。

 彼女を誰かと重ねる様な目をしているのを、これまでにも何度か見た事があった。


 麗奈の祖先が、この世界を滅ぼしかけた出来事を知っている。それをアシュプが止め、同時に彼女を死に追いやったのも話しには聞いていた。


 麗奈はその最初に来た異世界人の子孫。

 脈々と受け継がれて来た陰陽師と言う血族。そして竜神の力をも御する特別な力は、この世界でも麗奈の居る世界でも異端だ。


 だが、異端でありながら魅力的。


 こぞって我が物にしようと考える輩が多い。魔性の血と言われる所以――朝霧家の女性の血は、怨霊を引き寄せ魅了する。

 それが一網打尽にする為の術だとは知らずにいる。知った時には、その身は滅ぼされる。

 大軍を相手に戦えるのは、この力と代々に受け継がれていく秘術があるからだ。


 それまでの情報を聞き、同じ神であるエレキに聞けるのならと思っていたが望みは薄い。

 創造主同士で、何か制約があるのだろう。

 もしくはお互いの干渉を良しとしないのかも知れない。


 だとすれば――。




「何故、私の提案を受け入れる様な真似を……」

「ん、前にも言ったでしょ? デューオの奴を出し抜く事を考える人は今まで無かった。面白いそうだから協力しようかなって」

「そう、でしたね」




 同じ創造主の中でも、デューオは最初に生まれた存在。

 だから特別に強い力を持ち、同期だと言ったエレキの言葉にも嘘はない。

 サスティスもそれなりの年月を生きて来た魔王ではあるが、目の前にいる存在は遥かに長く生きて来た神そのもの。


 あまり自分の物差しで考えない方が良い。そう思い、気を落ち着かせるようにして紅茶を口にするとエレキにクスリと笑われる。




「ふふっ、神の気まぐれだけど協力はちゃんとするわよ?」

「ありがとうございます。感謝しています」

「……ところで、彼女が貴方の守りたい人?」

「そうですけど」




 ふーん、と言いつつエレキは水晶に映る麗奈を見る。

 彼女の瞳は黄金だが、その瞳が一瞬だけ黒く染まる。サスティスが何を見ているのかと聞かず、その行動を見守る。


 麗奈は陰陽師だ。

 彼女達の居た世界では、魔法は存在せず代わりに科学という発展したものがある。だからだろうか。 

 魔法と言う言葉は夢物語とされ、それに近い力を持った者達は人々の好奇の目に晒される。少しだけ聞いていた。


 陰陽師は、目に見えない存在――怨霊を静める職業だと。

 死者を相手に封印し祓う。果たして冥界の神である彼女には、果たして麗奈はどのように映るのか。自分の事ではないが、少しドキドキしている。




「ふーん。珍しいというか、色んなものに惹かれているのね。死者にも生者にも」

「惹かれてる……?」

「ちょっとだけ過去を見たけど、ただ怨霊を祓うだけじゃない。死者と話し、恨みがない魂にはそのまま送ったり話を聞いたりしている。死者に感謝されているのも多いわね」

「死者に……感謝……」




 もしかして、と思った。

 麗奈が今まで自分達の事を、生者と同じように対応していたのはそういった経験があったからなのだろう。麗奈が祓っているのは実害を生んでいる怨霊だけ。まだ害を生んでいない魂には、話しをしてとことんまで付き合う。




(彼女が優しいのは、そういった事なのか。心が安らぐってこういう意味なのか……)

「やっぱり自分があの場に居なくて寂しいんじゃない? それとももう1人の死神に嫉妬しているのかしら」

「どうでしょうね」

「さて、と。出し抜くは出来ないけど、少し力を貸す位ならどうにか出来る。これを持っていて」




 そう言って渡されたのは、金色に光る水晶だ。

 手のひらサイズよりは小さい欠片。しかし受け取った瞬間、その欠片がサスティスの中へと吸い込まれていく。

 驚いて目を見開く。どういう事かと思わずエレキを見てしまった。




「私が現れるのに印が必要でしょ? だから、欠片は常に貴方の居場所を把握する。私が現れる条件はね――」

「!!」




 聞かされた内容にサスティスは驚きを隠せない。同時に、神に願いを叶えようとしているのだと分かりグッと我慢をした。




「……貴方には覚悟があるのかしら。今の条件を飲んだ上で、それでも私に協力して欲しいのだと願うの」

「あり、ます。私は既に失った身であり、彼女達には未来がある。だから、だからここで潰す訳にはいかない」

「大事にされているのね、彼女は」




 そう言ってほほ笑むエレキは再度、水晶を見る。

 そこに映る麗奈とザジは本当に楽し気に笑っており、その雰囲気がよく分かる。微笑ましいと思う程、あまりにも2人が無邪気なのだろう。


 そんな2人を見て、サスティスは改めて決意する。

 復讐したい気持ちはまだ完全に消えている訳ではない。だが、それよりも彼は望んだ。


 死者である自分に優しくしてくれた麗奈。彼女を生かす為なら、自分の復讐心は些細な事。そう思える程にサスティスの心は絆されていた。




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