第23話:告白
「「あ………」」
騎士の誓いを立てた花畑でユリウスと麗奈は同時にハモッた。麗奈はターニャ達と話疲れて理由を付けて抜け出し1人でゆっくり考えられる場所を思いこの場所に。ユリウスは自然と足がここに向かっており麗奈と同じゆっくり考えたいな、と思っていたら彼女に会ったのだ。
「………隣、良い?」
「何で許可取るんだよ……いつも何も言わないでくっ付いて来たのに」
「そ、そうだっけ?」
「そうだよ。リーグとよくじゃれて来るのに今更許可取るなよ」
「……………」
あれ、そんな事ないよね?と思い出してみる。リーグは何かと麗奈をユリウスの所へと遊びに行こうと誘ってきていた。陛下として仕事もあるのだから、と断ろうとするもリーグがそれを聞き入れた事は一度もなく、息を切らしていつもユリウスの所にお邪魔している。
「……慌てなくても何処のも行かないよ。ってか、報告書見てるんだから何処も行けないしな」
「じゃ、お姉ちゃんと居ても別に良いよね?」
「団長としての仕事は?」
「リーナさんが抜けても良いよって言ってくれたからないよ♪」
「………相変わらず甘いな、リーナの奴は」
「優しくて強い副団長さんの許可貰ってるから良いよねぇ~」
「なんか飲むか。……麗奈が息を切らして倒れ掛かってるんだ。そんな状態をほっとく訳にもいくか」
「僕、武彦さんが作ってくれた麦茶が良い」
「麗奈は?」
「お、同じ………で、お願い……」
「はいよ」
陛下にお茶出しをさせるのもどうかと思ったが、軽くふらついている自分がやろうとする前にリーグにソファに連行されて座らされる。そうしている間に、ユリウスは3人分の麦茶を用意して仕事とは関係ない他愛のない話を始める。
「………そう言えば、そうだったね………」
今思えばかなり迷惑を掛けたと思いその場にしゃがみ込む。実際にユリウスと話す時は緊張していたが、今では普通に話す上に安心している自分が居る。ゆきと話す時とは違う感じ、ターニャ達と話す時やラウルと話す時とは違う感覚に何で?と疑問が湧く。
「っ……!!」
「無事で良かった。ホントに………」
体温が近い。体が金縛りにあったように動かなく思考が追い付かない。ただユリウスに抱きしめられていると言うのは分かり、顔が沸騰したお湯みたいに赤くなりそれを見られたくない麗奈は目を瞑って下を向く。
「悪い。俺に力が無いから……麗奈に危ない目に合わせて。結局、守れなかったしカッコ悪いな」
ユリウスはそんな彼女に謝った。魔物の討伐をしながらも不安に駆られていた。何かが奪われるような、心を空っぽにさせられるような感覚。柱からの魔力の乱れを感知したユリウスは南の柱へと急ぎそこでラウルが殺されそうな場面に、麗奈が何かを叫んでいる姿に何も考えずに剣を振った。
奪われる位ならその前に倒すしかない。直感でそう判断し気付いたら、あの黒い力が放出されていた。結局何も出来ずに脱力感が体を支配しつつ言う事が効かないまま自分も倒れた訳だが。
「べ、別に……覚悟の上、だったし……。き、気にしないで」
「無理だ」
「む、むむ無理!?な、何で!!」
「好きだからだ……俺は麗奈が好きなんだ」
「………え」
顔を上げれば真剣に自分を見るユリウス。冗談はあまり言わない彼は黙ってこちらを見ている。好き……そうはっきり言われ口をパクパクと言葉を出そうとも何も出てこない。
「あ、え………と、友達、としてでしょ?」
「違う。最初に見た時からだ……一目惚れだな」
「ひとっ!!!さ、さらりと言わないでよ!!」
「事実を言ったまでだ」
「っ………!!」
「嫌われたくないし、麗奈には兄さんが呼んでた愛称で呼んで欲しいかったしな。で、麗奈は?」
「…………」
「麗奈?」
返事がなく不思議に思ってると柔らかい感触に目が点になった。少ししたら麗奈は離れているが顔が真っ赤のまま「き、嫌いならこんな事、しない………」と声が段々小さくなっていっている。理解したユリウスも少し赤くなり、その場から逃げようとした麗奈を押さえ込むようにして抱きしめた。
「っ、ちょっ」
「何で逃げるんだ。麗奈も好きって事で……良いんだよな?」
「も、もう良いでしょ!!は、恥ずかしさでここから逃げたいんだから」
「そうだな。真っ赤な顔してるもんな」
「言うなわないでよ、あと離して!!!」
「嫌だね」
言っても聞かないユリウスに観念した麗奈は大人しくなり、それに気を良くしたのかさらに強く抱きしめた。今は死ぬのが怖い、とポツリと溢した。
「……父様は35歳の誕生日の時に呪いで死んだ。母様は俺を生んですぐ亡くなったから、俺には兄の……兄様だけが頼りだったんだ。いつか自分にも来るってのは分かってたけど、頼りにしてた兄様も居なくなって自暴自棄になったけどな」
「……そう、なんだ」
「まぁイーナスが許すはずないからな。甘えるなクソガキ、お前が死んだら国は終わるんだよ分かってんのかって蹴り入れてきたからな」
(イーナスさん、やっぱりそっちが素なのか……)
「だから言われた仕事はこなしたよ。イライラついでに魔物狩ったりして発散してたから良かったけど。……あの人兄代わりだけど怖いからさ」
「……でも好きでしょ?よくイーナスさんの自慢するもんね」
「兄代わりとしては好きかな。……言ったら絶対に斬る気だから言わないけど」
「ふふっ、なんか想像つく………」
気付けば笑い合っていた。あぁ、ここまで安心出来るのはユリウスだからなのだろうか?とふと思いだからこそ助けたいと呪いから救わなければと思った。
「死なせないよ、絶対に」
静かにはっきりと言われた言葉。その言葉はユリウスにとって気持ちの良いものではないが何故か今はすぅと自分に満たされたような感覚になる。
イーナスとユリウス、団長として就任したばかりのベール、セクトの4人で調べられる限りの事は調べ尽くした。城にある王族しか入れない資料が保管されている図書館、歴代の魔法師達が書き記した日記や資料、霊薬に通ずる薬剤師の資料など思いつくものは全て調べた。
原因はおろか、何故柱がこの国にあるのか。4つの柱は東西南北に置かれても住民には見えない加工にされている事、それが何故魔物達を引き寄せているのか……これらの事も分からないまま今日を迎えた。
「だからユリィはランセさんに魔力のコントロールを上手くなるように修行つけて貰って。私は私なりに調べて助ける方法を見付けるから」
「…………」
何でか安心してる自分がいる。彼女がそう言っていると……本当にそんな気がしてきて不思議と笑ってる自分に驚きつつも、彼女に目が離せないのだと自覚させられた。
「もう、あんな無茶しないで……」
「麗奈に言われたくないな。自分だってキメラに向かって危ういってのに」
「イーナスさんから言われた課題こないしただけだもん!!」
「あの時、俺がどんだけ……どんな思いしてたか分かるのか」
「うぐっ………だ、だからユリィも無茶しないでよ」
「互いに無茶しないって事で。指切り」
「わ、分かった………」
指切りして無茶しない、と約束した2人。暫くして風邪を引くのは良くないと、ユリウスが麗奈をターニャ達が部屋まで送る。またね、と別れ際に言えばふっと意地悪な顔をしたユリウスが麗奈の首筋にキスを残す。
突然の事に思考が追い付かないでいると、ユリウスはじゃあな、と笑顔で去られ扉を閉めていく。はっと後ろに視線を感じ振り向けば、自分と同じ顔を赤くしてるターニャ達が居た。
「……麗奈ちゃん?」
ビクリ、となりロボットみたいにゆっくりとゆきに視線を合わせる。扉を開けた時、ゆき達が中に居たのは声で分かってただろうし、確信犯だと恨めしながらも今のゆきが物凄く怖い。
「ゆ、ゆき。あ、ち、違っ、これは」
「どう言う事かな………じっくり聞こうか」
「わー、陛下とキスしたキス!!」
「ふふっ、やっぱり……」
「あーあー、明日から大変ね、麗奈」
「何で言ってくれないの!!!私達、親友じゃん!!!」
全員でそっち!!とツッコミを入れるもゆきは聞き入れず、ベッドに引き寄せ逃がさないとばかりに笑顔だ。冷や汗をかいてた麗奈が逃げるも、サティが通せんぼして逃げ場を失う。
「まぁまぁ麗奈ちゃん。何処に逃げるの?あれを見て、気にならない女の子は居ないよ」
「サ、サティ……さんも怖い」
「夜はこれからだから、質問攻めだね♪」
「ご、ごめんなさいーーー!!!」
謝った所でなにが代わるわけでもなく、ゆき達が満足するまでどうなってあの関係になったかのなど、根掘り葉掘り言わされ、全然眠れなかったなどユリウスは知るよしもなかった。
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「あーあー、これじゃあ主ちゃんに覗きされたって嫌われるよねー」
「……そしたらキールさんの所為にしますからね」
キールはいつもの笑顔で隣で睨むラウルを無視して話を進めた。あの花畑で居たのはユリウスと麗奈だけではなかった。ラウルは団長のヤクルに明日の仕事内容を決めて予定表を出しに行った先、同じく疲れたような雰囲気を漂わせたキールがイーナスの仕事部屋から出てきた。
予定表を渡した後は屋敷に帰り寝るだけ。ターニャ達は目を覚ました麗奈が心配だからとずっと城に泊まっている。居るのは姉、兄、両親、見張りをしてくれている兵士達。あとで夜食を作ろうとしていたラウルはキールに呼び止められた。
疲れたから2人で誓いを立てたあの花畑に行こう、と。気分転換もしたいし、良いよね?と悪魔の囁きともとれる言葉に速攻で断った。だか、キールが「主ちゃん」と言い、こんな夜に麗奈が?と振り向けば姿は無く気付いたらあの場所に連れて来られていた。
(魔法師が近接戦闘するなど聞いた事ない……。そしてまんまと騙された自分も自分だ)
悔しがるラウルにキールは気にした様子はなく、空気が澄んだこの場所は魔力の回復にも役立つんだよ。と初めて聞かされた内容に思わず見た。
「純度が高いと回復は早いしね。空気が淀んでたら魔力の回復は出来ても体は疲れやすいからね。整えられた環境って意外に大事だよ?」
「……ラーグルングはその点で良いんですか?」
「良すぎだよ。環境が良いのはダリューセク、ニチリだね。まぁ……ここと同レベルの環境ってなるとエルフ領かな」
「そう、ですか………」
ラウルを含めた殆どの騎士や兵士達は国の外の事は知らない。外から来たのは8年放浪してきたキール、宰相のイーナス、最年少のリーグの3名。兄のセクトとベールは同盟を結んでいた2国に何度か出向いた事がある位だが、今はそれもない。
「……私が居ない間、よく生き延びたね。私だってすぐに戻りたかったんだけど、不安定のままだった柱に拒否をされて主ちゃんが来るまで何も出来なかったんだ。……成長したね、ラウル」
「いえ……俺は何も………」
自分は何もしていない。頑張って居たのは陛下とイーナスだし、団長としての年数が高い兄達だ。言われた指示をこなしただけの自分は何も誉められた事などしていない。
「あの我慢知らずの君が、今や氷の騎士と言われるまでに無表情で仕事をこなすようになるとは」
「からかわないでください」
「え、誉めてるのに?」
「何処がですか。楽しんでますよね?あわよくば麗奈に暴露する気満々ですよね。そんなに楽しいですか?」
「うん♪ベールじゃないけど、君はイジりがいあるから楽しくて楽しくて」
誰かこの人の奇行を止めてくれないか、と心の底から思いそれに付き合わされてきたイーナスの苦労が伺える。やっぱりあの人も凄い人だなと思い……キールの相手は疲れる、物凄く疲れる。そんな事を思っているラウルなど知らず、キールはユリウスと麗奈が2人で居る所を見た。
声を掛けようとしたら、ユリウスが麗奈の事を抱きしめていた。その場面に見守ろうとしながらも2人の会話が聞こえる位置にまで青い球体がフヨフヨと浮かび止まる。
「キールさん?何を」
【何で逃げるんだ。麗奈も好きって事で……良いんだよな?】
聞こえてきた声は陛下のものであり、紡がれた言葉に驚いて声を上げそうな所をキールが足を踏んで止まらせた。しかも睨んで何も言うな、と視線に訴えられ痛みに我慢しながらもそのままでいた。
(すまない、2人共。ワザとじゃない、ワザとではないんだ……!!)
必死で別の事を考え2人の会話を聞かないように努力した。だが、頭の中で声が響く為に何をしても耳が聞き逃すまいとする。キールを睨めば彼はニヤニヤとしながらも「せっかくの告白だから聞かなきゃね」とか言っている。今すぐにでも逃げたいのに会話が気になってその場に止まってしまう。
2人に知られたらただじゃすまない。それが分かりながらも気になるのだから仕方ない。
【……部屋、送るよ。風邪を引かれたら何も調べられないしな】
【う、うん……。ありが、とう……】
【今更、自分からキスしてきたの思い出したのか?】
【い、いい言わないで!!告白はそっちからはしたんだからおあいこでしょ!!】
【はいはい。まっ、今は真っ赤な顔して恥ずかしがる麗奈を見られるだけマシか】
【こ、言葉に出さないで!!】
「へぇ……主ちゃん、大胆だねぇ。どうしたのラウル」
2人が部屋に戻る帰路を見たキールは魔法を解除。良いもが聞けたと思い隣で体育座りをしてブツブツと何かを言っているラウルに声をかける。
「ラウルって主ちゃんの事、好きなんだっけ?」
「ち、違う!!幸せになって欲しいとは思うんだ。陛下も麗奈も……2人ならと、思わなかった訳じゃない。っ、だが、だが……!!!」
「じゃ、何で落ち込んでるの?」
「キールさんが逃がさないからです!!ふ、2人の会話を盗み聞いたなど知られたら………っ、本気で死にそうだ!!」
そこまで2人を思う騎士に、何だか可哀想な事したなと流石に思うキール。そこである事を思いついた。誰にとってもいい方法を。
しかし、ラウルは嫌な予感しかしなかった。なんせ、その時のキールはとても楽しそうに、ニヤリと悪い笑みを浮かべていたからだ。
そして翌日。
ユリウスが麗奈にした告白内容は、城に居た者全員に知られた。国民を含めた全ての人に知られた為、イーナスは頭を抱えた。実行した人物には心当たりがあり、同時にどうしようもなく怒りをぶつけたい気になった。
「「キール!!!!」」
「ちょっと、何で怒る訳?ラウルが言ってたじゃないか、知られたら死ぬって。死なれると困るから、じゃあ皆に知らせようってなるじゃない?ラウルも陛下も頭を冷やそうよ~」
「なんでそうなるんですか!!!」
「ちょっと待てラウル。今のキールの発言はどういう意味だ?」
「い、いえ、それは……」
「どういうつもりなの、君は!!」
そこに剣を持って斬りに来たイーナスに摩法で強化したナイフで応戦。リーグ、ヤクル、リーナにはおめでとう♪と言われ麗奈は赤くなりながら「来ないで!!!」と扉を思い切り閉め部屋から出る事なく全てターニャ達に任せた。
フリーゲは時間を作って、冷やかそうかと思えば同じ考えのセクトとベールが来て相談しに来る。最低、と冷ややかな目を向けたフィルはイールに引っ張られ、麗奈の居る部屋に突撃の準備に巻き込まれる。嫌がるのを無視とはどんな馬鹿力?と思いながらも止められないので諦めた。
「もう城から出られないじゃない………!!!!キールさんのバカーーーー!!!!」




