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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第225話:ザジの正体


 記憶を見せていたザジは違和感を覚えた。

 自分の腰辺りが、妙に濡れている。何だと思い視線を向けると、麗奈が抱き着いて泣いていた。


 自分が死ぬ前に見せた涙を思わせ、何でこうなったと心の中で呟く。




「っザジ……ザジ、ザジ……!!!」




 麗奈はしきりに死神のザジの名を呼び続けていた。

 記憶を見せる前までは、何の反応も示さなかった筈だ。しかし、今の麗奈は大泣きをしていた。ボロボロと零れる涙を止める事もなく呼んでいた。




「なん、で……何で、言ってくれなかったの……」




 顔を上げた麗奈に最初に言われた一言。


 ザジが関わった記憶を見せていたが、それと同時にデューオに死神になるように持ち掛けられた場面すら流れていた。

 その犯人が、ザジ自身でなくデューオの仕組んだものだと分かる。

 苛立つ様に舌打ちをすれば、次に来た衝撃によって頭を打つ事となった。




「いっ……!!」

「家族を忘れてヘルスお兄ちゃんの事も忘れて……。最低な人間じゃない。何で、何も言ってくれなかったの!!!」




 倒れたままどうにか視線を動かす。

 未だに腰辺りを麗奈に抱きつかれたままだ。どうやら、勢い余って押し倒されたんだと思い最初の出会いを思い出した。


 懐かしくて、何だか面白くなった。そう思ったら自然と笑っていた。





「ははっ……最初と同じかよ」

「笑い事じゃない……」




 睨まれている自覚はあり、ザジは困ったように視線を逸らした。

 そんな麗奈を抱きしめていたのはユリウスとツヴァイ。そして、彼女の足元には白い小さなドラゴンがそっと寄り添っていた。




「悪い……。麗奈の記憶、俺達も見たんだ」

《既に幼い頃にサスクールに狙われてたなんて……。死神も死神よ!! 何が再会を願わないよ。思いっきり後悔してるじゃない》

「泣かすのが分かってて、言える訳ないだろうが」




 ツヴァイの指摘に、ザジは気まずそうに答えていた。

 そして、ザジは逆に知る事となった。創造主デューオは、ザジとの約束を1つも守っていない。記憶を消した以外は全て、デューオによって仕組まれている。


 今にして思えば、麗奈と最初に出会った時の――フォーンテールを倒した辺りから。


 そして、麗奈が本来なら存在を感じ取れない筈の自分達を視認し、話すことが出来た理由も簡単に想像がついた。




(俺を通して見てた。って事だよな……)




 死者の魂を見れる麗奈と死神になったザジ。

 飼い猫であるザジは、麗奈との結び付きが強い。


 それは共に過ごした時間、場所、思い出。2人を繋ぐもの全てがお互いに刺激を与えあっていた。

 消された筈の記憶を上書きする程に、強烈でありながらもお互いの性格を形成している。


 デューオは確信していた。


 記憶を消された者同士、関われば必ず綻びが生まれる。そうなればお互いが何でそう思うのかが気になる。

 初めの内は麗奈にきつい態度を取っていたザジも、接していく内に軟化していった。


 ザジと会う内に、初めてではない感覚を覚える麗奈。


 2人がお互いに気になるのは確定的。現にザジはその影響で、戻らない筈の記憶を取り戻した。だが、デューオにもそこで予想外な事が起きた。


 記憶を取り戻し、再会をした彼はそれでも自分が何者なのかを言わないでいた。


 麗奈が大事なのにも関わらず、彼女に似ている存在と濁した。

 彼女を悲しませない為に、ユリウスに残っていた魔王サスクールの残滓を完全に排除した。


 言葉ではどんなに会いたくないと言っていても、行動がそれに伴っていない。どれだけ揺さぶりをかけても、サスティスから説得をされようとも――ザジの意思は変わらなかった。




(ちっ、余計な事ばかりしやがって……。あぁ、くそっ)




 今も泣いている麗奈を見る。

 ザジが泣かせているのだと分かる。今まで隠して来た事が、ここで全て明るみに出たのだ。麗奈だけならまだ良かったが、そこにユリウスとツヴァイが入っている。


 なんとなく気まずそうにしていると、麗奈から謝られた。




「なんだよ、いきなり」

「だって……。ザジの事、家族の事を忘れてたから……ごめんなさい」

「いや、麗奈。それは兄様の所為だし」

「でも……」

「ったく、そうだよ!!!」




 乱暴に言ったザジは、麗奈にされるままだった。だが、麗奈の頭を乱暴に撫でまくる。髪の毛がグシャグシャになる位にやられ、頭がフラフラとなる。慌ててユリウスが抱き寄せてザジとの距離を置いた。




《ちょっと、死神!! あんなに乱暴しなくたって良いじゃない!?》

「うっせぇよ。こっちは会う気なんて無かったんだ。なのに、あの野郎っ……。適当に合わせやがって戻ったら覚えておきやがれってんだ」

《キュー、キュー?》

「え、あぁ。多分、平気だ。目を回してるだけし」




 心配そうに麗奈の顔を覗き込む白いドラゴン。しかし、反応がない麗奈が気になるのか顔をペロペロと舐め始める。今度は自身の羽を使い涼し始めた。

 そんな事をしてから数分後、麗奈がフラフラと起き上がる。




「平気……って訳でもないな」

「ううぅ、目が周る感じが……まだする」

《死神の所為よ!!! 謝りなさいよねっ》

「ま、まぁ。落ち着けってツヴァイ」




 怒り足りないのかツヴァイはザジに突っかかる。それをユリウスが引き寄せ、麗奈とザジの2人きりにしようと距離を置く。白いドラゴンはその意図に気付いたのか、ユリウスの後を付いておりツヴァイは未だに暴れている。




《邪魔しないでよっ》

「良いから。これはあの2人の問題だ。……俺の兄様も記憶を消したのも問題だし、ザジだって麗奈の事を思って行動をしたんだ。一方が記憶を覚えていても、もう一方から「誰?」なんて聞かれたら――俺はショックを受ける」




 ザジを恐れていたのはそういう事ではないのか。

 ピクリとツヴァイの耳が動き、小さな体を震わせている。まだ怒っているのかと思ったが、それ間違いなのだと分かる。


 小さくすすり泣く声が聞こえてくる。泣いたり怒ったりと中々忙しいなと思いつつ、ツヴァイの反応を待った。




《わ、分かってる……。そんなの、分かってる。でも、あんまりじゃない。結局、アイツは麗奈と会う気はなかったってそういう事でしょ。……創造主様が気を利かせてくれたのに、あんな言い方しなくても》

「何なんだろうな。その創造主って」





 ザジの記憶を見ていると彼の性格が分からないでいる。

 ユリウスを助ける素振りもあれば、時には邪魔をしてくる。気まぐれなのか、自分達を追い詰める為に必要だったのか。

 その真意を計れない事に、ユリウスは警戒をする。


 彼のお陰でユリウスは、麗奈の母親が失う場面を思い出した。

 一方で、麗奈も兄のヘルスとの思い出も含めて、現代にまで追って来たサスクールとの辛い記憶をも呼び起こした。


 共に暮らしていた飼い猫であるザジが、今度は死神となって彼女の前に現れた。

 麗奈に会う気がないと言ったのも、記憶がないままの麗奈との接し方が分からないから。考えるだけなら誰でも出来る。


 それでも、ユリウスは会うべきだったと思う。

 会ってきちんと話し合って、これからの事を話し合う。麗奈が今まで行ってきた対話を、今度はあの2人もやるべきだ。


 そう思ったからこそ、ユリウスは空気を読んで2人から離れたのだから。

 



「……」

「あー、その。なんだ」




 一方でザジは乱れた髪を直していた。元はと言えば、自分が乱暴にしたのが原因であり麗奈に非はない。泣かれてしまうとどうして良いのか分からない。猫の時も、そして今もそれは同じだった。




「……ザジ」

「な、なんだ」

「今でも……私の事、家族だと思ってる? 記憶を忘れて、ザジに色々と聞いて……。今思えば、あれって全部私の事なんだよね」




 何度か交流していくにザジと話した事を思い出す。

 ザジには守るべき人が居て、その人の為なら何でも出来るのだと。そして、その人物は麗奈に似ていると言っていたがとんでもない。


 似ているではなく、麗奈本人の事を言っていた。あの時点で、ザジは全ての記憶を思い出していたのだろう。もしくは、そうしないといけないと心の何処かで思ったかも知れない。





「そりゃあ……。命の恩人だし、俺に家族を教えたのは麗奈だからな。託された想いも約束も守れなくて、情けないんだ。だから、そんな俺が――」

「情けなくない!!! ザジは、今もあの時もずっと私の事を思ってた。ううん、今もずっと思ってる」

「……」

「私、終わらせたい。……優菜さんの分も、お母さんの分も。サスクールに関わった全てに、決着を付けたいの。だからお願い、ザジ」




 私に力を貸して欲しい。

 乗っ取られるギリギリの所。その危険を冒してまでザジは麗奈を助ける為に飛び込んできた。ユリウスも、その覚悟がなければザジと行動は起こしていない。


 すがる様な思いで見つめると、フッと笑うザジが見えた。

 その表情は、参ったと言う様に何を言っても無駄だと言うのが分かる。長年、麗奈の傍にい続けたのだからその位の事は分かる。


 表情1つでそう読み取れるのだから、麗奈との絆が強い証拠だ。





「なら、サスクールの奴をぶっ飛ばすのを手伝ってくれ。表でサスティスが時間を稼いでいるしな」

「サスティスさんが?」

「あぁ。仲間のランセ……だったか。ソイツが麗奈の事を殺そうとしてるんだ。今はそれを阻止してる真っ最中だ」

「えっ」

(ランセさんならやりそうだな。……俺に負担を掛けないように、気絶させた位だし)




 驚く麗奈を他所に、ユリウスにはランセの行動が分かるようになっていた。

 魔王である彼は人間に優しい上に、必要とあれば自分が悪く見られても構わない性格だ。ユリウスに辛い思いをさせない為に、気絶させ自分は手を汚す。


 その位の事はやってのけるのだろう。気絶させられた身としては、少し複雑な思いでもあるが止められるのなら止めたいのが本音だ。




「――よし、なら戻るぞ。ほら、お前も手を掴んどけ。2人まとめて表に戻すんだ。さっさとしろ」

「分かったよ……」




 麗奈の前では素直だが、それ以外ではとことん素直でない。

 その性格が少しだけハルヒに似ているように思え、ユリウスは思わず笑ってしまう。既にザジの手は麗奈が握っている。

 もう片方をユリウスが掴み、ザジが一呼吸すれば元の場所へと戻されていく。



 全ての決着を付ける為に――彼等は再び、戦場へと戻る決意をした。



 

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