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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第223話:似た者同士


「そうか。やはり間に合わなかったか……」

《申し訳ありません》




 ヘルスがサスクールに乗っ取られたと同時に、創造主であるデューオはアシュプからの報告を聞いていた。椅子に座りつつ、ヘルスが魔王になるその瞬間を見届けた。


 舌打ちしたくなるのを我慢し、仕方ないと頭を切り替えた。




「ま、器である彼女が行かないだけまだマシか。……それでアシュプ。君の事だ、ただで帰って来たわけじゃないだろう?」

《それはもちろん。念の為、目印を付けて来ました》

「だよね。抜け目がなくて助かるよ」




 アシュプはその時の事を思い出す。

 怨霊による襲撃を受けた朝霧家。協会からも詳細を報告しろと言われて来たが、武彦も誠一も記憶が曖昧だ。


 怨霊ではない何かが襲ってきた。

 何を失った気がする。


 考えれば考える程、記憶を思い出そうとすれば何故かモヤモヤと曖昧になっていく。

 見守っていたアシュプはその現象が、ヘルスの扱う魔法である事にすぐに気付く。サスクールに印をつけられたとされている麗奈は、見た目では何も変わらないように見える。


 だが、アシュプは見えていたのだ。

 麗奈の周りに黒い霧が纏わりついていた。それは麗奈にも分からないし、感じ取る事も出来ないごく微妙なもの。



 だからこそアシュプは同じように自分の魔力を乗せた。

 次に再会する時には、いち早く危険から守れるようにする為に。




「君が付けた印なら、彼女が危険に晒される可能性は低くなる。とはいえ、警戒は怠らないようにしないと」

《それでは自分はこれで》




 アシュプが戻るのはラーグルング国。

 あの国は、自分の魔力をより強く沁み込ませている。何よりあの国は、サスクールに襲撃された傷がまだ深い。


 少しでも復興を手伝おうとした彼に、デューオはある言葉を残していった。




「覚悟を決めろ、アシュプ。彼女を討たないといけないのも考えておくんだ」

《……分かり、ました》





 どうにか言葉として発した後、すぐに姿を消した。


 別れた後で考えなかった訳ではない。アシュプも麗奈を見てすぐに気付いた。彼女の容姿や雰囲気は、前に自分が手にかけた人物と似ているのだと――。


 例えそれでもアシュプはギリギリまで守るの決めたのだ。

 そして、時は流れ麗奈が18歳の時に出会いは生まれた。


 麗奈が必死の思いで討伐した大蛇。親友のゆきから引き剥がし、安堵したその瞬間に地震が起きた。戦いの影響で地盤が緩かったのもあり、あのままにしておけば確実に2人の命はなかっただろう。


 だから、アシュプは彼女に声をかけたのだ。《これは緊急の為の避難》だと。


 その後、彼女と触れ合うのはもっと先の事。自分の事を恨んでもいいと考えていたアシュプは、それでも守り抜くためにと自身の力を振るうと決めたのだから。




======



「ん?」




 アシュプが離れてすぐの事。デューオは、妙な気配を感じ取った。

 自分が見ている水晶からではない。この気配はもっと別の所――冥府へと続く道からだと感じた。




「凄い恨みだな……」




 離れているデューオでも驚いた。

 その恨みは、まるで生きる怨念そのもの。感じ取れるのは、ただ殺すというの一点だけ。そして、その怨念が自分へと向けられている事に少なからず驚きを隠せないでいた。




「エレキに怒られるだろうけど……ま、いいか」




 自分に突き刺さる殺気。

 だから少しだけ興味があった。会った事もない筈の存在は、何故デューオに対してここまで明確に殺気を向ける事が出来るのか。


 辿り着いた先は、ただ真っ暗な空間そのもの。


 上下左右の感覚も分からず、自分が歩いているのか逆さまなのかも分からない。だが、デューオは構わずに進んでいった。


 自分に対する殺気をここまで明確に、そして強烈に浴びせて来る存在が気になってしょうがない。

 そうして辿り着いた先に居たのは――青白い炎に包まれながらも、黒い光を纏う死者の魂があった。




「君か……。何でそんなに殺気を込めて来るのかな? 私に何の恨みがあるの」




 デューオが話しかけた瞬間、炎が更に燃え上がった。

 まるで怨念が意思を持つ様に、揺らめく炎はどこまでも真っすぐに伸びていた。




「んーー。火の勢いが凄いって事は相当の恨みがあるんだよね。……じゃあ、話せるようにしよう。それ位なら私も出来る」




 この場所は、同じ創造主であるエレキの管轄。

 死んだ魂が行きつく場所は冥府。そこで天国か地獄かを選定し、魂を送ると言う役割を持っている。


 エレキはその守護を担う創造主。彼女が管理するのは、異世界に散った魂達だ。

 だからここに別の魂が紛れ込む、または迷い込むと言うのは本来ならあり得ない。


 そんなイレギュラーに興味を示したデューオ。

 死んだ魂が青白い光を灯る所は同じだが、この魂は強い恨みを持って来ている。自分に殺気を向けているにも関わらず、他に破壊衝動を起こす様な事もない。


 死んだ者は大抵であれば、生きている者を恨む。

 理由はどうあれ死んだ者は少なからず「そうではなかった」、「もっと生きたかった」と強い後悔を抱いている。

 創造主であれ死んでいる者からすれば生きているに等しい。


 だと言うのに――。

 この強い恨みを抱いている魂は、創造主を憎む気持ちはあれど他の魂達を襲うような素振りも見せない。感じ取れるのは創造主を殺すと言うただ一点のみ。


 他には目もくれていない。

 そんな魂に近付いたデューオは、その魂の記憶を覗いた。死ぬ直前に何を思ったのか。話せるようにする為には必要な事だ。




「へぇ……これはこれは。また面白い巡り合わせだな」




 記憶を読み、偶然であろうとも思わず笑みが出てしまう。


 デューオがそうなるのも無理はない。なんせその魂は、サスクールによって死んだ飼い猫のザジ。

 記憶を覗けば、猫の性別も含め飼い主である麗奈に対しての深い愛情が伺える。


 単に話せるようにしようとしたが、いっその事――仮の体も創り与えよう。

 デューオがそう思い行動を移したのは早かった。




「君の興味が湧いたよ、ザジ」



======



「んあ……?」




 ザジが目を覚ますと見覚えのない天井が見えた。

 意識がある。そして、思う様に動く体がある。




「……?」

 



 肌の色、腕、足も含めてどう見ても人間になっている。

 どういう事だと起き上がり、どうにか立ち上がろうとしてバランスを崩した。




「う、ぐっ……」

「4本足からいきなり2本足だからね。立つのも苦労するでしょう」

「だ、れだ……」




 言っていて気付いた。今まで思う言葉を言えずにいた。自分が出来た事は鳴く事だけ。それで意思を伝えて来た。


 怒る時も、嬉しい時も、甘えたい時にも鳴いていた。


 なのに今は鳴き声でなく、言葉を発せる。その事に驚きを隠せないでいると、声を掛けて来た人物はザジの前に座り込んだ。




「立つ方法を教える代わりに、君の怒りの正体を知りたいんだ。話の相手、してくれる?」




 それからどうにか自力で立ち、いつの間にか着ていた服に驚きつつデューオに案内されていく。猫の時の視線と違っていた。当たり前だが、人間での身長と猫の身長とでは見える高さが違う。

 思わず物珍しそうにキョロキョロと見渡す。


 そんなザジの様子に、デューオはクスリと笑い「話しが終わったら自由にして良いよ」と言えば分かりやすく立ち止まった。

 怒られると思ったのだろうか。それとも、見られているとは思わなかったのか。




(ふふっ、好奇心旺盛な猫さんだね♪)




 良い拾い物をした。たまには、自分の直感を信じで歩き回るのも悪くない。

 そう思うデューオは、珍しくテンションが上がっていた。




「さて、黒猫のザジ君。君は私に対して強い恨みと殺意を抱いていたね。……理由を聞いても良い?」

「……」




 理由を聞いた途端、ザジの表情が一気に冷めた。


 さっきまでワクワクした感じも、物珍しさに目を輝かせていたのも嘘のように――ピタリと止まった。


 だが彼は知らない。デューオは人間であれ、動物であれ心の中を覗く事が出来る。もちろん、思った事も含めて彼の前では無意味。




「……お前は、アイツと似ている」

「似ている?」

「気配と言うか存在自体が気に喰わない」

「うわっ、酷い言い方。本音を隠す事すらしないのね!!!」

「隠す……? 何をだよ」




 首を傾げるザジにデューオは仕方ないとばかりに溜め息を吐いた。

 まず彼には事情を話さないといけない。何故、自分を人間の姿にしたのか。話せるようにし、デューオが何故興味を示したのか。



 創造主デューオと飼い猫のザジ。


 運命のイタズラなのか、戦いに終止符を打てと言われているのか。創造主であるデューオすら巻き込む運命に、彼は笑っていた。


 この際、使えるものは何でも使おう。

 どんな手を使ってでも、サスクールに止めを刺す。手段を選ばない所は、創造主も魔王も似た者同士だった――。


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