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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第209話:麗奈の心


 最初に感じたのは水に飛び込んだような感覚。

 ドプンと沈んでいく感じが、更に潜り込んで進んでいったのは死神によって引っ張られているからだ。




(これ、は……)




 何の感覚なのか、どういった状況なのか理解が出来なかった。

 しかし、グンッと手を引っ張られる。目的を思い出し、ここがどういう所なのかを思い出す。


 その途端、ザジとユリウスに流れ込んでくるのは麗奈の記憶だ。

 彼女が生まれてからの事も含め、住んできた街の日常。その中には、陰陽師としての訓練を受けている時や幼いハルヒと過ごした事も流れて来る。


 そして、幼いハルヒもゆきも麗奈によって元気を取り戻してく。

 その過程も見え、麗奈は知らず知らずの内に助けているんだと無意識の内に笑みが零れた。




「……っ!!」




 それはユリウスにとっても驚きだった。

 なんせ、ザジも流れ込んでくる記憶によって感化されたからなのか涙を流していた。死神が、たった1人の記憶を見て感銘を受けたのかと思うのと同時に、ユリウスの中で疑惑から確信へと変わる。


 麗奈とザジには何かがある。

 それも、麗奈自身が気付かない程の強い絆を。




「……あんまりここに長居はしたくねぇ。急ぐぞ」

「あぁ」




 どうにか返事をし、誤魔化せているだろうかと考える。

 そんなユリウスの横をある記憶が流れて来る。


 それは、幼い麗奈がしゃがみ込んでいる時のもの。

 小さな体で、必死で抱えている黒くて小さな塊。それが何かを確認するまでもなく急かされる。


 どうにもそれが気にかかり、通り過ぎていく記憶の中でユリウスは後ろを見続けた。

 

 


======



 次に連れて来られたのは真っ白な空間だ。

 その中心に麗奈を見付けるが、遠目から見てもいつもの彼女でないのが分かる。


 いつもの笑顔を見せない。それだけでなく、真っすぐを見ているのに何処か遠くを見ているように視線が合わない。そして――何よりも麗奈の周りには声を掛け続けている存在がいる。


 その存在に彼女が無反応なのだ。

 


 

《麗奈、お願い……。私達の声を、姿を見てよぉ》




 麗奈の目の前で、泣いているのは手のひらサイズの精霊だ。

 ユリウスはディルバーレル国で知り合ったが、麗奈とはその前からの交流らしい。名前は確かツヴァイだったなと思い出し、声を掛けてみる。




「ツヴァイ……で、合ってるよな?」

《ウキュウ~♪ キュウ、キュ》

「うぐっ」




 ツヴァイの代わりに飛び出してきたのは、ユリウスの事を気に入っている白いドラゴン。

 その子は、ユリウスを見た瞬間にすぐに飛び立って行きいつものようにじゃれ付いてくる。




「遊んでる暇なんてねぇぞ」

「遊んでない!!!」

《ちょっ!? ま、ままま、待ちなさい!!! 何でここにっ》




 呆れた様に言うザジに対し、思わず反論をしたユリウス。

 そしてそんな2人を驚いたのはツヴァイだ。しかし、彼女はそこで迷った。

 自分が名前を呼ぶ事で、死神に殺されてしまうのではないか。

 本当なら色々と聞きたいのに、上手くいかないジレンマもあり迷うばかり。そんな彼女の様子を分かったのか、ザジが近付いて小声で伝える。




「ここはアイツの心の中だ。デューオの奴だって、そこまで干渉は出来ない。それは俺等だって同じだ。ここで名前を呼んで、戻った時に殺す様な真似はしねぇ。約束する」

《っ、約束って……》




 聞かされた事にツヴァイは瞬きを繰り返した。

 彼は彼の意思によって、ユリウスを連れて来たのだと分かりチラリと盗み見る。

 一方で、ツヴァイの視線に気付いていないユリウスはじゃれ付くドラゴンをどうにか宥めようとしているも上手くいかない。


 今も髪を甘噛みされ、頬にスリスリとこすりつけてくる。

 そんな光景を見せられては、緊張している方がバカらしくなり頭を切り替える。




《ちょっと、いつまで遊んでんのよ!!》

「う、悪い」

《全くブルームお父様も、困った人を契約者に……》




 てっきり怒られるのだろうと思っていたが、ツヴァイの様子がおかしい。じゃれるドラゴンを定位置の様に、自分の頭に乗せて走る。ツヴァイは未だに涙を零し、悔しそうに拳を握っていた。




《な、んで……何でお父様は、死んでしまったの》

「え」

《アシュプお父様……あの人が、なんでっ!! う、うわあああああんっ》




 声を出して泣いたかと思えば、今度はユリウスの胸をドンドンと叩く。

 それは頭の上に乗っていたドラゴンも寂し気な声を出し、ツヴァイを慰めるようにしてペロペロと舐めだした。




「今の、話……ホントなのか?」

「事実だ。あれはもう手遅れだった。……そこで泣いている大精霊と同じだ」




 聞き返せる相手は死神しかしない。

 何かの間違いであって欲しい気持ちだったが、ザジは事実を伝えた。

 そうだとすれば、ユリウスが契約しているブルームにだってそれは感じ取れる筈だ。同じ虹の魔法を扱う者同士で、何よりもアシュプ――麗奈はウォームと呼んでいた――大精霊はよく自慢をしていた。


 ワシとブルームが揃えば、最強だよ!!! 


 のほほんとしながらも、いつでも助けに入ってくれた原初の大精霊。

 体の大きさは好きに変えられるが、本人としては麗奈の前に現れる時にはツヴァイのような手のひらサイズが多い。


 そして、ザジの言った手遅れと言う事実。

 聞けばアシュプは闇の魔力をその身に受け続けていた。捕まっている間、麗奈の右手首には小さな黒い鎖が巻かれていたのだと言う。

 



「ユウト……とか言ったか。その魔族が作った術式は、アイツの力を奪うと同時に送り込んでいた魔力も含めて闇の魔力を注がれ続けた。時間が過ぎれば、いくら大精霊であろうとも抗えない。それはニチリで分かった事だろ」

「……ポセイドンの事だな」




 ユリウスの答えにザジは静かに頷いた。

 しかも、あの場には自分も関わっていたとついでに言えば「はぁ」と思い溜め息を吐いてしまう。いつの間に死神と交流をしていたのか、とつくづく思った。


 思い出すのは、呪いに侵されたクラーケンの事。

 麗奈とハルヒの話によれば、その大精霊は死を持って強く発動する呪いを魔族から受けた。最初は抗う事が出来たが、長い間苦しみ続けていく内に魔物へと変貌。

 気付いた時には、ニチリと同じような島国を飲み込むだけで足りず漁をしていた船や漁船なども追い続けた。そして、唯一ニチリだけは無傷でいたのでターゲットに含まれた事。


 タイミングとしては偶然にしろ、ユリウスは呪いの恐ろしさを身を持って知っていた。

 自分にも呪いを受けた経験があり、兄のヘルスが背負う筈だった力は弾かれて倍になって幼いユリウスへと長い事苦しみ続けた。

 そうした経験もあり、呪いの恐ろしい部分を知っているだけにアシュプも例外なく苦しめられたのだと分かる。

 最後には正気を失い、サスクールの意のままに操られユリウス達へと攻撃をしてきた。




「酷くなる前に手を下したのは相棒のサスティスだ。ま、その前にダメージを受けてたし与えたのは……ハルヒとか言うムカつく野郎だがな」

「え」




 思わずザジを見る。

 舌打ちをしながら「ムカつく」を繰り返すザジに、何か因縁でもあるのかと思ったからだ。しかし、本人が話したがらないので追及はしない。まだそこまで信頼関係を結べていないのもある。今は様子見でいよう。そう心に決め、麗奈の元へと急ぐ。




「麗奈」

「……」

「麗奈。俺が分かるか?」




 無反応の麗奈に挫けそうになる。いつも明るく、笑顔を見せていた彼女は見る影もない。ふと、麗奈の足元に映る白い塊に「風魔か?」と声を掛けるとひょこりと顔を覗かせた。




『ユリウス……。何でここに? あぁ、彼が連れて来たんだ。相変わらずとんでもない力を振るうよね、死神って』

「ほっとけ。俺からすれば、お前等は大きさを変えられる方が異常だわ」

『うわ~、そんな言い方はないんじゃないかな。主と会ってたのを今まで隠して来たのに』




 交流を続けていた麗奈も麗奈だが、その霊獣である彼等も同じ位に大物だろう。

 そう思ったのは、ユリウスとツヴァイだけであり白いドラゴンは何だか楽し気にしている。事情を聞いた所、風魔は青龍に言われてここ来たのだと言う。


 霊獣は契約者と結ばれたその瞬間、札での呼び出しを行う。

 普段は力を蓄える為に、契約者の心の中で眠りにつく。だから、サスクールが乗っ取る方法として心から潰しにかかると予想をしていた。

 青龍の判断は正しく、風魔が心の中に辿り着いた時はもっと状況が酷かったのだと言う。




『今は無反応だったけど、その前はこの空間に闇の魔力が充満してたんだ。僕が主に寄り添って、ツヴァイとそのドラゴンが声を掛け続けたら、どうにかここまで抑えられた。でも、ここから先がどうしても進まない。……声は聞こえてると思う。でも、どうやっても先に進めない』

「少し待て」




 ユリウスと風魔を退かせると、ザジは麗奈の額に手を当てた。

 何をしているのかと見守る中で、またも舌打ちが聞こえて来た。恐る恐るザジの横に付けば、彼は怒りに満ちていた。




「あの野郎……。記憶を根こそぎ削りやがった。反応がないのは当然だ。お前達との思い出も、何もかもがサスクールの野郎に潰される。こうなったら呼び起こすしかねぇ」

「呼び、起こす?」 




 消された記憶や経験の所為で、風魔達を認識出来ていない。

 それがザジの出した答え。それは、心の中に入った時に見えた麗奈の記憶の数々。それらは本来なら、この空間に収まり続けては広がり続ける。


 生きている間に来る出会いと別れの数々。

 生まれたその瞬間から、麗奈と言う人物の性格や環境は常に変化を続けている。記憶の容量とも言えるそれを、最初からなかった事にすれば容易に乗っ取るのも可能。

 そして、何よりも記憶を失くせば自分が何者かを思い出せない。それを意識的に乗っ取り、サスクールとしての記憶を植え付ければ――周りが違うと訴えても覆る事はない。


 その材料でもある記憶は、サスクールによって全てが消されているからだと言う。

 それを戻すのには、自分達で呼び起こす方法しかない。


 麗奈がこの世界に来てからの記憶と、この世界に来る前の記憶。

 取り戻す為に協力をしろとザジは告げた。

 

 

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