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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第208話:提案


 ユリウスがランセによって眠らされた時、ブルームはすぐにその意図に気付いた。そして、気付いたら驚くほどの声を上げていたのだ。




《起きろ! あの魔王、サスクールと道ずれに死ぬ気だ。そんな事になったら、異界の女だけじゃなくあの魔王にも申し訳がないと思うだろうが。さっさと起きろ!!!》




 双剣からブルームの声が発せられる。

 しかし、ランセによって眠るように魔法をかけられたユリウスには聞こえない。すぐにユリウスを運んできたドラゴンが傍に降り、人型となって治療を開始した。




《彼が闇の魔法を扱えて良かったです。そういう自分も、闇の魔法を扱いますが――そうでなければ、ずっと眠らされたままだ》

《あとどれ位だ!?》




 ブルームがそう言った途端、紫色の杭が飛んでくる。

 サスクールの攻撃魔法だと分かり、即座に動く。天空の大精霊と評されるブルームと、その眷族のドラゴンはなんなく防ぐ。


 バラまかれる量が多いのを感じ、即座に防御しようとした時に見知った姿が割り込んできた。




《なっ……》

《待て、何でここに――》




 ドラゴンは驚いた事で、対処が遅れブルームも動きが止まる。

 だが、割り込んできた人物は「邪魔だ」の一言で全てを蹴散らした。




「おら、起きろ」

「がっ……ごほっ、ごほっ……」




 物量の数も関係なく、全てを消し去ったそれはまさに神の力と評されるもの。

 この世界で嫌な意味を持つ――死神がこの場を助けた。それだけでなく、眠らされていた筈のユリウスを消し飛ばして無理矢理に起こしてきた。




「うあっ……?」




 徐々に意識を回復させてきたユリウスは、まだ状況を把握出来ていないまま呆然となる。だが、そんな彼の前に守る様にして姿を見せたのはユリウスを乗せて来た黒いドラゴンと、双剣から飛び出してきたブルーム。


 そして彼は見て驚いた。


 何度か見た事がある、黒い髪。それは麗奈の色と被るし、瞳も同じだった。

 そして、もう片方の目は死神の証と言われている朱色の瞳。


 聞けば麗奈のような容姿は、珍しくないしゆきと同じように茶色の瞳の人も多いと聞く。だからなのか、彼女達と似ているという点だけなのに前よりは恐怖を感じない。




「……死神、なのか」

「だったら何だって言うんだ。ちんたら寝てんな。アイツを取り戻す時間が無くなる」

「取り戻す?」




 そこで思い出す。

 麗奈を助けた矢先、彼女によってユリウスは動きを封じられた事。両手両足に杭を打ち込まれた激痛に苦しんでいた。

 そしてはっとなる。自分が一体誰によって眠らされたのか。自分の傍で気を失っているのが兄である事――そして魔王ランセによって自分は無力化されたのを。


 その全てを思い出した。




「っ、ぐぅ……」




 まだ体に激痛が走る。

 少しでも動かそうものなら、意識的に動かそうとしてもその全てに痛みが走る。気絶してしまいたい程の、強い痛みに思わず目をしかめた。




「根性はあるな。アイツがお前の事を好きだと言っていたが、まぁいい。今は認めてやる」

「な、にを……さっきから」




 本当なら話すのも辛い。

 話す振動でも痛みが走るのだから。正直、意識を保てている自分の方がおかしいくらいに。


 そして、改めて姿を現した死神を見る。

 黒いパーカーに黒いズボンの男。見覚えがあるのは当然だった。ディルバーレル国で、麗奈の所に連れて行かれた時に見えた姿。

 その国でお礼として客室を使わせて貰った時に、ユリウスの心臓近くに大鎌を振り下ろした男。


 それら全ての情報が、夢でない事と目の前にいる男がやった事なのだと理解した。




「お、前……あの時はよくもっ」

「ん? もしかして、覚えてるのか。ほぅ、どうだったよ。1度死にかけた感想は」

「あんな事、何度も味わいたいなんて思うかよ。あれはどういうつもりなんだ」

「どういうって、お前の中にあったサスクールの魔力を完全に消したんだ。だから、今、お前が満足に戦えるのは俺のお陰。そのドラゴンと本契約できるのだって俺のお陰だ」

「は?」




 何故そこでブルームの見ながら言ったのか理解が出来なかった。

 どうにか首を動かし、ブルームを見るも彼はバツ悪そうにしていた。余計な事を言うなとでも言いたいような雰囲気で。




「ブルーム?」

《……》

「あぁ、そうか、言いたくても言えない契約だったな。もう良いだろう。サスティスの野郎だって、面白がって付けただけなんだし。おい、ソイツの首に朱色の首輪が見えるだろ」

「あ、え……。見えるけど、それが一体」

「こういう事だよ」




 指を鳴らしたその瞬間に、ブルームに付けられていた首輪が音を立てて壊れる。

 見て驚いたのが、ユリウスよりもブルームだった事に不思議そうに首を傾げる。が、すぐにその答えが分かった。




《お前等の所為で、俺は全然話せなかったんだ!! 言った瞬間に首が飛ぶなんて言われたら、身動きが出来ないだろうが!!!》

「あーそれな。あとでサスティスに文句を言え。俺に言われても困るんだよ」

《大体、お前等は行動も何もかも不明だ。何故、そこまで異界の女に執着する》

「大事だからだ」




 ピンと空気が張り詰める。

 息を飲むのはユリウスだけではない。文句を言っていたブルームも、ドラゴンも同じ反応をしていた。


 だけど、ユリウスはそこで疑問に思った。

 大事だと言いつつも、苦しそうに言うのか。切なげに自分達を見返し、そしてその後ろではサスティスによって倒されているランセと麗奈を見る。

 悔し気に唇を噛んだかと思うと、次に振り返った時にはユリウスの前に膝をつく。


 その目は真剣で、ユリウスへと手を差し伸べていた。




「アイツを魔王から引き剥がす。だけど、俺だけじゃダメだ。この世界で、アイツはお前を大事だと言った。その言葉を受けたお前も来い。――取り戻す為に、協力しろ」

「協力……」

「アイツの心はまだサスクールに染められてない。ギリギリの所で踏ん張ってるが、それも時間の問題だ。あの野郎の思惑なのが一番ムカつくが、それでも俺は取り戻さないといけない。今度こそ……絶対にっ」

「分かった」

《おいっ!! 即答するな。死神の提案に乗る奴が》

《危険すぎます。ブルーム様の言う通りです!!》



 

 即答したユリウスに対し、止めに入るブルーム達。

 何よりもその即答に驚いていたのは、協力を申し出た死神の方だ。だけどそれも最初だけ。目を見開いたかと思うと次の瞬間には、悪そうな笑みを浮かべていた。




「はっ、良いのかよ。1度殺されかけた奴の言葉を鵜呑みに出来るのか?」

「信用する材料が少なすぎるけど、でも……助け出したい気持ちは俺も同じだ。絶対に手を離さないって決めたんだ。俺に差し伸べてくれたあの手を、今度は俺も掴みたいんだ!!!」




 この死神がどういうつもりなのかは分からない。

 だけど、ユリウスと同じ気持ちなのは言葉の端々で感じ取れた。


 麗奈を助けたい。その一心は、純粋で確実で――ユリウスが信じるに値するもの。




「初めに言っておく。俺の手を離すな。離れたその瞬間、お前を元に戻せないんだからな。満足に戻りたいなら言う事を聞いとけ」

「どういう――」




 言葉は最後まで言えなかった。

 頭が激しく揺れた様に、ガンガンとする。それでも、死神の言うように手を離さずに出来たのは意地でもある。


 次に見えたのは、ハッとなる麗奈だ。

 その視線に気付いた時、ユリウスは死神と共に――彼女の心の中へと飛び込んでいった。





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