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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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幕間:変化する流れ


 ハルヒがウォームの領域により閉じ込められていた時。

 城門を陣取って防衛を続けていたイーナス達は、こちらに向かって来る一団を見て警戒を強めた。しかし、リーグが何かに気付いて駆け出す。




「ちょっ、リーグ!!!」




 彼の行動に慌てて追うのはイーナス。

 いつも銀髪を1つに結んだ彼は、戦いの連戦で髪先も含めてボロボロだった。魔力の枯渇も、ブルームの回復魔法により持ち直す。

 そして、城門を陣取りドラゴン達が魔物達を近付かせないように攻撃を繰り返してきた。

 今も思う。伝説級のドラゴンが人間に力を貸すという異例さ。


 それも、ユリウスが契約している大精霊ブルームの眷族だから可能な事。

 ドラゴン達は口々に言っていた。自分達が力を貸すのは、ブルームに言われたからでありここに集まったのは自分達の意思なのだと。




「やっぱり……。ゆきお姉ちゃんだ!!!」




 心配しているイーナスをよそに、リーグは感じ取った魔力と見えて来る一団に喜びを隠せない。それもその筈。その中には自分が命を懸けてでも守りたいと思う人物が居た。


 リーグが助け、そして彼も彼女によって救われた。

 井上 ゆき。茶色の髪に茶色の瞳を持った異世界人。料理が得意であり、身の回りの事も普通にこなす。麗奈の親友であり、リーグの事を甘やかす1人。




「わわ、リーグ君!?」

「あ、おい!!」




 ゆき以外にも、従兄弟のキールも居る。何よりも、リーグに魔法を教えていたフィナントも居た。だと言うのに、リーグにはゆきしか映っていない。

 思い切り抱きしめて、無事であることに喜びを覚える。その後も、力一杯に抱きしめ「お姉ちゃん!!!」と何度も呼んでいる。


 そして、それを苦い顔をして見ているのはヤクル。

 リーグと同じ騎士団長であり、ゆきに好意を抱いている。そしてゆきもヤクルの事が好きだと告げているので、恋人と認定してもいい。

 ヤクルは知っている。

 ゆきも麗奈も、年下にかなり甘い。リーグを甘やかし、彼の行動を許している部分が強い。

 今ならよく分かる。副騎士団長のリーナが、団長であるリーグのコントロールが日々難しくなっているのを。




(一直線、だもんな)

「あ、居たんだ。ヤクル騎士団長」

「……」




 無言でリーグに歩み寄る。

 その時の自分はかなり怖い顔をしているのだろう。慌てて止めに入った兄のフーリエと、副騎士団長のラウルが「まぁまぁ」と宥める。

 それに少なからずむっとなりつつも、リーグはゆきにしがみついている。

 その光景が気に入らず、リーグを睨んでも彼はスルー。いい度胸だなと軽く殺意さえ生んだ。




「良かった……。ゆきちゃんっ!!!」

「うきゃっ」




 リーグに続けてイーナスが喜びのあまり抱きしめた事。

 許したくないのに、会えない期間が長かった事を思えば――それも許したくなるのも無理はない。




「イーナス。落ち着いたか?」

「……すみません」

「いや、普段の君ではないからな。それだけあの子が気になっていたんだろ」




 含み笑いをしたフィナントに対し、イーナスは恨めしく思いながら睨む。

 それをニコニコと変わらぬ笑顔でいる妻のエレス。ダリューセクから来た咲とナタールは、ゆきと会うのは初めてであり軽く自己紹介をしていた。


 それを少し離れた所から見ていたキール。

 ハルヒと別れてから随分と時間が経っていた。思わず自分達が走って来た方向を見て、すぐにでも援護をと考えていた。

 イーナスに状況を伝えようとしたその瞬間――自分の両目が、熱を帯びた感覚に襲われる。




「っ、うあっ。ぐああっ……!!」

「キールさん!!」




 突然のうめき声に近くにいたラウルはすぐに様子を見た。

 強烈な痛みが走っているのか、キールは両手を目で抑えたままうずくまる。その異変に、フィナントとエレスが様子を見ようとする。だが、キールは痛みで暴れ回る。

 ラウルがどうにか抑えつけ、自身の手で目を抉ろうとするのを止める。




「キールさんっ」

「ぐぅ……。は、なせっ……」

「ラウル君、そのまま抑えていて。彼の中で魔力の渦が酷い事になってる」

「わ、分かりました」




 その後もラウルは説得を続けた。

 だが、それよりもキールはこの苦しみを逃れる方法なのか目を傷つけようとしている。それを魔法で抑え、渦巻く魔力を抑えるのはフィナントの聖属性の魔法。




「一体、何が……」

「もう1人の大賢者。君には異常はないのか?」

「え。あ、はいっ……。私は別になんともなくて」




 同じ大賢者である咲にも、影響していると考えたフィナントはすぐに確認をする。

 ナタールが心配そうに顔を覗かせると、咲の方も無理はしていないとハッキリと答えた。キールの変化と並行してなのか、フェンリルだけでなくドラゴン達はハッとしたように顔を伏せた。


 ウンディーネも、シルフも苦しそうにしている。

 アウラとディルベルトが気遣う様に見つめる。先に口を開いたのはフェンリルだ。




《今……。お父様が死んだ》

「!!」




 その場に居た者達は息を飲んだ。

 精霊達が言うお父様は2体の精霊に他ならない。原初の大精霊アシュプと天空の大精霊ブルーム。この世界で唯一の虹の魔法を扱える存在。

 そして、創造主により作り出された最強クラスの精霊。


 イーナスはすぐにキールが苦しんだ理由が分かった。

 彼の目は魔力の流れを見る特殊な目をしている。長年、魔力が満ちる国であるラーグルング国。その純度は他の国とは比べ物にもならない程。

 魔法を研究する過程なのか、偶然なのかは分からないが――キールは魔力の流れが見える。

 精霊であれば、その流れる魔力を目で見える。精霊が何かの形で失うと激痛が走るのだと前に聞いた事があった。




(目を、焼かれるような感覚……か)




 それがどんな痛みなのかイーナスには分からない。

 痛みが分かる者でないとキールの気持ちは分からないからだ。今も暴れていないと正気を保てないのだろう。




「っ。うああっ……」

「キール君。キール君、返事をして。今、貴方の中にある魔力を静めたわ。調子は……どう?」

「くっ……。う、うぅ……」




 魔力の流れが読めるエルフだからこその治療方法。

 キールの中で暴れ回る魔力を、体全体へと行き渡らせて穏やかにさせる。エレスがその作業をしている間、フィナントはその隙にキールが契約している精霊を引っ張り出した。


 本来、召喚師が契約した精霊はその術者でないと呼び出しはおろか勝手に出てこれない。

 しかし、キールが精霊との契約がまた特殊だった。精霊自身の判断で、好きに出てもいいというもの。

 キール自身、個人で動く事も多く精霊にもその手伝いをさせる事は少なくない。

 だからこそ、術者の呼び出しだけでなく精霊自身の意思で好きに出てもいいと契約を結び直した。それを知っていたフィナントは、すぐに精霊を具現化しキールの魔力を安定へと導く。




「うぐぅ……」




 暫くして苦し気にしていたキールは落ち着いてきた。

 油断はならないが、暴れ回る心配はないと判断したエレスはすぐに眠りの魔法をかける。その途端、力が抜けた様にキールがそのままぐったりとした。


 眠ったのだと言えば、イーナス達はホッとしたように息を吐いた。

 フィナントはすぐに咲の所へと向かい、影響を受けていないかと確かめる。




「……よし。君の中の魔力は安定している。キールが下手に敏感だったのがいけないな。そうれなければ、君もかなり苦しんでいただろう」

「あの、彼はもう……?」

「平気だ。暴れ回る魔力は静まった。だが、問題は精霊達の方だろ」




 チラリとフィナントは精霊達を見る。

 どの精霊達も顔は沈み、ドラゴン達は悲し気にしていた。それは自分達を生んだ精霊が亡くなった事を意味し、残ったのがブルームだけだという証拠。


 悲しみに暮れる時間も惜しいのか、すぐに離れる為にとドラゴン達は動く。

 まだハルヒだけでなく、麗奈達も城の中に居るのだがそれを彼等は良しとは言わなかった。




「しかしっ、まだハルヒ様が……」

「アウラ。ダメです」

「っ……」




 悔し気に唇を噛むアウラに、ディルベルトは無言で抱き上げ水色のドラゴンの背に乗る。各々、ドラゴン達の背に乗り全員が乗ったのを確認し離れる。


 地を蹴ったと同時、城門前も含めた周囲が崩れ去る。

 地盤が緩かったのか、今までの激しい戦闘での余波なのか。自分達は離れていくのに、未だに形を保っている城は徐々に崩壊へと進む。


 アウラだけでなく、ゆきも咲も必死で祈った。


 時間を稼いでいるハルヒの事。未だに城内に残っているであろう麗奈達の無事を祈りながら、出来る事が少ない自分達に腹が立った。


 力になりたくても、出来る事と難しい事がある。

 そんなゆき達の動向を静かに見ていたサスティスは、彼女達が十分に離れたのを確認すると姿を再び消した。


 彼自身の決着を付ける為。

 自分が手を下したアシュプの欠片を握りながら、彼は更に上空へと目指す。未だに激しい魔力のぶつかり合いを続けているユリウスとランセの元へと向かう。その様子を見ていた創造主デューオは、深く椅子に腰かけた。



 世界の命運を分けるであろう戦いが続く。

 兄と好きな者を取り戻すべく、ユリウスは集中を途切れさせないで睨んだ。眼前には未だ、余裕そうにしているサスクールの姿が映る。


 水晶に閉じ込められていた麗奈は、苦し気に息を吐いた。

 ここに来て抵抗を続けていた麗奈の体は、急速にその力を失っていく。


 深く、深く――意識を塗り潰されていく。そんな中、自分の呼ぶ声が聞こえたような声が……聞こえた様な気がした。



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