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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第199話:兄が大好きな妹


 巨大な魔力が1つに集められていくのを感じ取った。

 ランセは嫌な予感を覚え、攻撃するスピードを速めていった。


 現に最初は対応できていたリグルも、段々とそれが出来なくなっている。


 今は肩で息をし、フードもボロボロな状態。魔力で練っている人形は、最初は5つはあったがランセとの交戦により全てが消し炭になっている。




「はあっ、はあっ……。そんなに気になるの、あの子が」




 そう問うリグルに、ランセは無言で攻撃をした。

 彼女の背後から無音の刃が襲い掛かる。それを悟っていたのか、予測していたのか。


 振り向かずに横に飛び転がる様に受け身を取る。

 そしてすぐにランセと対峙するように位置を取ろうとした瞬間、グラリと視界が斜めになった。




「!!」




 踏ん張ろうとした時、リグルの視界はランセではなく天井が映る。

 痛みもなかった。それに伴う激痛もなく、自分が倒れているという事実だけが分かった。




「何か言い残すことはあるか」




 リグルの瞳にはランセが見えている。

 見下ろす彼の瞳は、赤と青のオッドアイ。無表情に、淡々と。事務をこなす様に彼はただ問うた。


 反撃も許されないよう手足を切り落とした。

 痛覚が殆どない様子なのは、戦ってきたランセには気付いていた事。


 その理由は――。




「リグル。サスクールに頼んだ時に死んでたな?」

「あはっ。ははは……叶わないなぁ、お兄ちゃんには」




 つまらない。

 小さく息を吐きながらも、リグルは砕けた腕を見る。




「……お兄ちゃん。その鎌、なんなの。なんでこうなるのさ」

「死んでいる者に言う気はない」




 ランセが握っている大鎌は、死神であるサスティスから授けられたもの。


 最初は助ける為だった定かではない。創造主デューオの思い通りにさせたくない。その気持ちが、彼を動かすきっかけになった。


 ここに来るまでに、あの大鎌を振るって分かった事がある。


 倒された魔物、魔族は切り裂かれたその瞬間――青白く燃え上がる。

 また別の魔物を切った時には紅く燃え上がった。


 その時に気付いたのだ。

 生きている者と死んでいる者とで、見える色が違うのだと。


 そして、大鎌が吸収したのは青白い炎だけで灰すら残らない。

 だからランセはすぐに分かった。

 妹のリグルは既に死んでいる。死んだ者の共通で青白く、そして、この大鎌に吸収されているのだという事に。




「なんかその武器、反則じみてる」

「それはそうだろう。特別な、大事な、親友から譲りうけた物だから」




 誇らしげに答えたのは、今でもサスティスの事を親友だと思っているからだ。

 既に死んでいる向こうはどう思うのかは、分からないが――きっと同じだと信じている。


 そんな兄の表情を見たリグルは、気分が悪いように体を折り曲げ「うげー」と言い放つ。



======



 妹のリグルは兄が好きだ。

 それが家族だからなのか、異性だからなのか。同じ血を分けた者だからなのか定かではない。


 ただ、ただ好き。

 兄の全ては自分の物だという認識を、妹のリグルは持っている。




「お兄ちゃん、リグルのどこが好き?」

「突然どうしたんだ」




 頭もよく、要領が良いランセ。

 対してリグルは見た目の可愛さもあり、周りからの評価も高い。唯一の欠点と呼べるものは、兄が好き過ぎる事だけだろう。


 兄であるランセの事は何でも知りたい。

 好きな食べ物、好きな色。風景でもいい。とにかく何でも知りたくて、自分だけが知っておきたい。


 彼女はランセと同じ紫色の髪に、薄い紫の瞳。

 少し儚く見えるのは、瞳の薄さ位だろう。魔族の瞳は大体が濃く色が出る事が多く、同時にそれは強さにも直結している。

 ただ、少しだけ色が薄い。

 そうであっても、リグルは十分に強い。次期国王の――魔王となる兄の手伝いが出来る。

 

 彼女にはそれが嬉しいだけだった。




「相変わらず、リグルちゃんはお兄さんが好きだねぇ」

「……」




 そう。邪魔をしてくるサスティスが居なければ――。

 友好関係を結んでいる隣国。そして、ランセよりも早く国の王となった先輩でもあるサスティス。

 

 魔王とは魔族を束ねる者。

 国をまとめ、国民を1つにし道を示していくもの。役割は人間の国王と何ら変わりのない。




「こら、リグル」




 だからサスティスはこうして来ている。

 隣国の魔王だから。ランセの先輩だから、教える為だと言ってはよく邪魔をしてくる。


 リグルはサスティスの事が嫌いだ。

 自分から兄を奪う、この人は――。




「ねぇ、お兄ちゃん」

「なんだ」




 いつものようにサスティスから無理に教えられ、ヘトヘトなランセ。

 そんな兄の姿を見ながら、疲れさせるサスティスを嫌いながらリグルは気遣うように呼んだ。




「……私の事、嫌い?」

「嫌う訳ないだろ、家族なんだから。妹を嫌う理由がどこにある」

「へへっ。……私、お兄ちゃん以外は要らないよ」

「いつもそう言ってるな」

「だって好きだもん」




 そう言って抱き着き、大好きと繰り返す。

 それを困ったように思いつつも、優しく撫で「甘えん坊め」と時間が忘れる位に甘やかした。




「お兄ちゃん?」




 甘やかされるのは好きで、それが心地いいと思った時。

 いつの間にか寝ているランセに、少しだけ不機嫌になった。だから、こっそりと聞いた。


 自分と世界。どちらが好きなのか、と。


 寝ている兄にぶつけた質問。答えなくていい位の気持ちで聞いたが、不覚にもそれは答えられた。




「リグル……」

「!!」




 単に名前を呼んだだけ。

 寝ぼけているだけだと分かっていても、リグルは嬉しさで頬が緩んだ。


 それをきっかけに、リグルはどんどん兄を好きになった。

 だというのに、ランセは忙しく日々を過ぎリグルを構う余裕がなくなって来た。それが募れば、リグルは段々とおかしく、壊れるようになった。


 兄と過ごせないのは、サスティスが構うからだ。

 両親が構い、期待を寄せて来る者達がいるからだ。

 ランセを慕う部下がおり、国民達も同じように慕った。


 自分だけが、自分だけの兄がどんどん遠くなる。

 知らない兄へと変わっていく――。その変化に、とうとうリグルは耐えられなくなった。




「そんなに何を嘆く。何を恐れ、何を抱くんだ」

「え」




 それは突然現れた。

 今日も兄と過ごせず、会話も出来なかった。それが当たり前となっていた時に、リグルの前に見えたのは黒い霧。

 そこから声が発せられ、リグルに問いかけた。




「奪われるのを嫌っているな。お前の深い嘆き、悲しみは全て聞いていた。その憂い俺が払ってやろうか?」

「でき……るの?」

「あぁ、出来るとも。それ相応の代償は伴うぞ。それでも――」

「良いよ。お兄ちゃんに構う奴、全部要らない。妹の私以外は全部要らないもの!!!」




 何を迷う事があるのか。

 遠くなっていく兄を助ける事が出来る。リグルはその一心で全てを明け渡した。


 彼女の願いは確かに果たされた。


 魔王サスクールにより、サスティスは倒れ彼の国は滅んだ。

 そして、自身が育った国も国民も、両親さえも全て殺していった。

 兄である、ランセを除いて。ランセの命令でサスティスの国を調査しに行ったティーラとその部下達を除いて――。


 願いが果たされたと同時に彼女は死んだ。

 それがサスクールの言う相応の対価。そこからは、彼の思うままに動く人形となり果てた。


 そんな中でも彼女は兄を想う気持ちは薄れなかった。

 ただ、ただ前よりも強く刻んでいた。


 死んでいる体と魂。

 それでも彼女は喜んだ。だって、今度は死んだと思っていた自分に会えるのだ。

 その時になって、今度は誰の邪魔も入らずに兄を殺すのだ。


 サスクールはそれを了承し、好きに動いて良いと言ってくれた。

 だから、壊すのだ。今度は兄を好きな自分が、その兄を殺すのだと――。





「それが、壊した理由か。ただそれだけの為に、自分の両親も国民さえも巻き込んで!!!」

「ははっ。やっぱり強いなぁ、お兄ちゃんは」




 死んだ者に有効なのは、死神の力。

 そしてその鎌はランセの手に握られ、妹を狩り取る為に振り下ろされた。


 叫びもなく、抵抗もない。

 既に四肢を壊されたリグルには対抗できる力すら、残されていない。歪な姿は、死んでも兄を求めた結果。

 再び兄に会う為に、どんなに歪な姿であろうとも魂だけはリグルのまま。

 普通なら見た目が違えば分からない。すぐに気付いたのは、兄妹であるからこそなのか。



 ただ、最後にリグルは笑っていた。

 それは兄に会えたからなのか、その兄に倒されるからなのか――。


 その心を知ることが出来るのは、妹のリグルだけだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえずリグルとランセの戦いに、 決着がついたのは良かったですね。 [一言] 立て直したかと思いきや、 まさか再び、麗奈がサスクールの手に落ちるとは、 予想外の展開でした。 ウォームが何…
2021/05/14 20:38 退会済み
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