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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第198話:最悪のシナリオ


 再び麗奈を捕らえたサスクールは、ランセの魔力に変化が起きたのを感じ取る。

 だが興味を失くし、麗奈を連れて移動を開始した。


 儀式の為の魔法陣。

 血で書かれたそれは、ユウトの実験材料。とにかく儀式を行うのに必要だったのは大量の血液だった。


 それは朝霧家が得意とする秘術が血に由来する。

 結びつきを強くするには必要な上、魔方陣が破壊されても別の策を練っていた。




「さて」




 眠らした麗奈を、サスクールは魔法陣によって浮かぶ大きな水晶へと近付く。

 途端に、魔方陣が赤く輝き水晶にも同じように光が灯る。


 空中に浮いていた水晶は、そのままゆっくりと降下していき一瞬だけ強い光を発した。


 その光が止んだ時、麗奈は水晶の中に閉じ込められていた。最初は透明に輝いていた水晶も、魔方陣の光を取り込んだから色が変化していく。

 透明から徐々に、紅く濃く変化していき閉じ込められた麗奈も苦し気にしている。


 これでいい。

 

 


「この城も、もう用はない」




 その言葉通り、儀式の為に作られた場所は城から離れるように砕かれていく。

 魔力によって作られた城は、また魔力によって新しく作られることを意味していた。だから、この城は居住であると同時に儀式を作る為の材料。


 城から完全に離れるのにはまだ時間がかかるが、その間はウォームが上手く妨害してくれる。

 ランセの妹であるリグルも、今頃は兄との戦いに時間を費やす事だろう。




「くっ、くくっ……」




 成功が近付いてきたからか、サスクールは笑う。

 念入りに念入りを重ね、成功させる為にいくつもの体を乗っ取り続けて来た。


 それもこれも――創造主を殺す為。




「待っていろよ、創造主。この器を完全に手中に収めたその暁には、今度こそ殺してくれる!!!」




 全ては奴を殺す為の計画。

 世界を壊し、再生をさせずに無に帰す為。



 破滅へのカウントダウンが、始まろうとしていた――。




======



「ぅ……」

《大丈夫ですか、ユリウス様》

「……っ」




 呼ばれる声にどうにか答えようとした。

 だが、思うように力が入らずにいる。その時、体が急に軽くなり同時に痛みも消え魔力も回復した感覚になる。




「うあ……?」

《おぉ、覚めましたね。ご気分はどうです》

「気分……」




 ぼやけていた視界も、今は段々と見え始め心配そうに見ているドラゴンに目がいく。

 問われた事に答えようにも、すぐには言えずにいた。


 色々な事が、同時に起こり過ぎていて処理が追い付かない。


 体をゆっくりと起き上がらせ、周りを見ると瓦礫の山にいるのだと分かる。




(……俺、は……)




 瓦礫の山に居る理由を思い出そうとしていると、声を掛けて来たドラゴンはすぐに人型へと変わる。

 心配そうに見ており、他に怪我はないのかと聞いてくれる。


 だが、それにもすぐには答えられない。

 

 せめて最後に何があったのかと必死で記憶を探る。

 すぐにハッと気付き、ドラゴンに聞いた。自分を見付けてからどれくらいの時間が経ったのか、と。




《時間は分かりません……。凄い音が聞こえ、駆け付けた時にはこの有り様でして》

「キール!!! アルベルトさん!!!」

《待って下さいっ、すぐに動くのはーー》

「ジグルドさん!!! ノーム!!! 誰でもいい。返事をしてくれ!!!」




 叫ぶ内に思い出してきた。

 

 大精霊・ウォーム。

 本名はアシュプであり、原初の精霊と呼ばれている。本人はその名を嫌い、麗奈が名付けたウォームという名前を気に入っていた。


 そう。凄く、凄く気に入っていた様子。

 呼ばれればテンションを上げ、時にはふざけたりする。それらが嘘だったとは、ユリウスには到底思えない事だ。




(っ、何でだウォームさん。止める側の貴方が、何故……何でっ!!!)

「そう大声を出すな。と言うより、何故お前さんはすぐ、動ける……」

「ジグルドさんっ」




 瓦礫の山をどうにか降りた先に、ジグルドは居た。


 片目を瞑り、ユリウスの姿を確認してかなり驚いていた。それもその筈だ。

 彼の両手、両足はダラリと力なく垂れている。服も所々に破れ、声も掠れている。




《今、治療している最中です。何とか話せるまで回復しましたが》

「御覧の通り、だ。俺が復帰するのは無理だ」

「……。他の皆は」

《私達はこっちだよ、ユリウス君》




 ジグルドを治療している近くで、小さな蕾が現れた。

 ユリウスがそれに目を向けた瞬間、すぐに弾け――ノームが姿を現した。


 アルベルトは彼の肩に乗っており、ユリウスに手を振っている。

 そのノームの隣ではキールが居たが、いつもの笑顔はなく苦し気に唇を噛んでいた。




「お互い、あれで無事だったのが不思議だね」

「そう、だな……」




 参ったと言うように、キールはその場でしゃがみ頭をガシガシと掻く。

 今まで冷静に動いてた彼の、別の一面を見た。そんな風に思ったからか、ユリウスからはなかなか話し出せないでいた。




《結論から言おう。お父様の襲撃にあって、私達は見事に引き離されて下に落とされた。向こうは本気で殺しに掛かった。それが事実》




 現に落下している時に、ユリウス達に放たれた魔法の数々は殺傷能力が高いものばかり。

 それらを防いだのはノームだ。


 彼も防ぐ中でいくらかダメージを貰った。どうにかユリウス達を守り切る事は出来たが、着地にまで気が回らず床に叩きつけられた。それも防いでおきたいが、ウォームの魔法を相殺するので精一杯だったのだという。




《すまない……。結局、麗奈さんはサスクールの手にまた落ちてしまった訳だけど》




 言ってすぐに気付く。失言なのは分かり切っていたが、ハッキリさせないと進路も取れない。

 

 自分達が落ちてから、まだ数分の事。

 今からでも追えば、麗奈が魔王にさせられる儀式を止められる。その可能性を秘めているのは、ユリウスだとノームは思っている。


 彼はキールとアルベルトに、ジグルドの治療を頼むとユリウスだけを呼び出した。




《正直に答えてくれ。君は――いや、君達はあの白いドラゴンが何者か分かっているの?》

「!!」




 そう聞かれたユリウスは目を見開き、すぐには答えられずにいた。

 無言なのは悪いと思いつつ、言葉を探す彼にノームは《やはり》とポツリと言った。




《正直、私が見えたのは落とされるギリギリでの事。もしもの場合に備えて、あのドラゴンを麗奈さんの方へと転移させて正解だった》

「……もしもの、場合?」

《彼女の自我を失う。失い、その体はサスクールに思うがままにされる。……それが、もしもの場合だ》

「っ……」




 最悪の場合――。

 ヘルスのように、麗奈と戦わなければいけない。兄を相手にしている時でも、嫌な気分なのに。

 慣れたくないのに、慣れないといけない。

 サスクールを相手にしているという意味を、ここでヒシヒシと感じた。




《それと、君には言わないといけない事もある》

「えっ」

《私が見聞きしてきた事を、君の脳へと送る。信じられないかもしれないが、これが1つの事実だ》




 そう言ってノームは、ユリウスに情報を送る。

 その中には麗奈と会った時の事も含めて、ある男が関わっている事も分かった。


 黒い髪に黒い瞳。黒を基調とした服装だった。

 黒いズボンに黒い長そで。闇に溶けているかのような服装なのに、何処か存在が曖昧だ。




(あの、男……)




 ユリウスには少しだけ覚えがあった。

 最初は気のせいだと思いたかったが、ダリューセクの時にも感じた違和感。

 初めて会ったような気がしないのに、その時の事が酷く曖昧だった。




《君と会うギリギリまで居たんだけどね。麗奈さんがザジと呼んでいたし、かなり親し気だったよ。彼は――死神だ》

「っ……」

《青龍という人物も容認していた。恐らく麗奈さんと何度か会ってるんだろう。この戦いには彼等も深く関わっている。あの方の意思によるものか、彼等の意思によるものかは分からないが》

「あのドラゴンも、創造主の手によるものか」




 何か知っているかと思いそう聞いたユリウス。だが、ノームは首を振り《知らない》とはっきりと答えた。




《例えそうであっても、あの子はあの子の意思で君達の傍に居たんじゃないのかな。今回、死神の方は敵意も感じられない。どうも麗奈さんの事を、助けようと動いている》

「……」



 

 ノームは現にその目で見ていた。

 アルベルトの父親であるジグルドが、麗奈に手を下そうとしたその時――ザジが阻止していた。

 それらの事から、ノームは彼等自身の意思でこの戦いに参戦していると考えた。


 死神が人を助けたという事実はない。

 精霊達はそれを知っているし、介入してきた死神に対して驚きを隠せない様子だった。




《私はこのままお父様と対峙する。君は、先に麗奈さんの方へと行くんだ》

「でもっ」

《ブルームお父様なら助けられるが、その後でサスクールと戦う気力があると思う? 両方は無理だ。それを見越して仕掛けて来たんだよ、あの魔王は》

「……」

《お父様は既に正気を失っている。誰かが手を下さないといけないのなら――それは私がやる。君は麗奈さんを助ける為に動くべきだ》

「でも、それだと――って、おい!!!」




 会話に割り込んだのは、ジグルドを治療していたドラゴンだ。

 さっきまで人型だったが、ユリウスを掴んだ手には鱗が見えていた。ドラゴンに変化したのだと分かると、彼を連れたまま空高く飛び上がる。




《悪いですが、大精霊様の言う通りです。魔王にする儀式が開始されたのか、巨大な魔力が1つに留まっている。止めるべきです》

「くっ……」




 そう言って目指している場所は遥か上空にあるのだという。

 城から分離しようとしているのか、その全容は分からないがドラゴンは急ぎ感じ取った魔力を目指して向かう。


 一方で、ノームは追って来たウォームと対峙していた。




《正直、お父様と戦うなんて生きて来た人生でなかったよ。親不孝ものだね》

「そうでもないさ。こっちにも、親不孝な精霊は居る訳だし」

「フポ?」




 首を傾げたアルベルトは、キールの肩へと移り何処だと探す。

 ジグルドには既に防御魔法を多重にかけておいた。それを行いつつ、キールは自分の契約した精霊を呼び出す。


 瞬時に現れた大精霊のエミナスとインファルは、ウォームを挟む形で躍り出た。




《お父様――覚悟っ!!!》




 ノームも続けて魔法を発動し、激しい攻防が続く。

 精霊を生み出した父とも呼べる存在であるアシュプと、その子供達である精霊達の壮絶な戦いが行われた――。




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