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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第1章:陰陽師と異世界
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第19話:状況報告

 パキン、と何かが砕ける音が響いた。続けてドサリ、とランセに斬られた魔族がズルズルと地を這いつくばりゼェ、ゼェ、ゼェ、と苦しそうにしながらも無事なの事に安堵した。何も無い部屋と言う空間、ここからは自身はあのラーグルング国へと向かいそして負けた。



「どうした、ラーク。お前にしてはボロボロだな………」

「っ、黙れ、リート………」



 コツコツ、と音を鳴らしながら来るのはリート。ラークと同じシルクハットに黒いコート、紳士服を好む彼はチリチリの髪の毛が唯一の嫌いな所だ、と言う同僚。モノクルを装着し、いつも何かを読んでいる彼だが今日は珍しく本も資料も持たずにやって来た。


 そのリートはやれやれと言わんばかりにラークに向けて魔力を分け与える。与えられた魔力を使い再生し元の服装と体に元に戻れば自分がちゃんと生きているのかとペタペタと体を触る。


 魔族同士の魔力は互いに再生力を高める為、再生が追い付かない程の損傷を与えられた場合、仲間意識のある者は自身の魔力を使って助ける場合がある。



 殆どは自分の手柄の為に仲間意識すら持たない者が居るが、チームワークを徹底する魔王が居る所ではこういった行為は当たり前だ。憎まれ口を叩く間柄でもそのチームワークで苦しんできたのが魔族であり、劣等種こと人間から学んだ事だ。


 皮肉だな、と言いながらもその意味を読み取れないリートは分からない顔をしている。そればかりか、自分が魔力を与えたのがそんな不服かとばかりに嫌な視線を送られる。



「信用ないのか……少なくとも他よりはまともだろ」

「いや、感謝する。………まさかランセが魔王だったなんて、お前知ってたか?」

「は?……ランセって言うと、あの腰抜けがか?」



 紫の瞳しか知らないリートは記憶を巡らす。いつも彼は全身をフードで隠しいつもビクビクと怯えたように自分達を避けている。

 そんな印象しか持たなかったリートは何をバカな事を、と言えばラークはその腰抜けランセに殺されかけたと睨み付けながら言われる。



「おいおい、何かの冗談だろ?」

「冗談であんな状態になるか。……くそっ、あんな地を這うような真似、劣等種の人間だけで充分だ!!!」



 怒りに任せれば壁が壊れ、床は壊れてそのまま下に落ちる。真下には下級の魔族達が集まっていたが落ちたと同時に何体か葬られたのか、塵となって消えており「おぉ、可哀想に……死にたくない奴は逃げろ」と警告なのか分からないゆるりとした口調。


 だが、それだけで状況を把握できたのか慌てて出ていく。辺りが静まり未だに怒りの収まらないでいるラークを観察する。



(……いつも余裕で任務をこなすラークが怒る、ね。興味ある者には劣等種だろうと手を出して印も付けていくのに………それがないからイライラしている訳ではないし)



 理由を聞いても恐らく答えないであろうな、とどうしようかと考える。そう言えば、とラーク以外に下級の魔族をあと2体ほど付けてラーグルングへと向かわせたが戻ってきたのは彼のみ、と言う事は……。



「意外に耐えるね、あの国は……第2の精霊の土地なだけあるよねー」

「………笑いに来たのかグルー」

「はははっ、まさか。ボロボロな君は初めて見たからね~」



 笑いながら入ってきたのは金色の髪をし水色の瞳の少年だ。青いチェック柄の長袖にサスペンダーをし、黒いハーフパンツを履き、高そうな上着を羽織った貴族風の少年。

 


「お帰りグルー。収穫あったのか?」

「あーーーないね。って言うかあの国と関わった所は10年前に滅ぼしたんだし抵抗力なんて無いと思うんだよね~。でもサスクール様何で人間の女なんか連れて来いなんて言うんだろうねぇ」

「さあな。………あの人の考えは我々にも分からないしな。ただ、連れて来いって言われた人間の女………10年前に抵抗してきた女と雰囲気似てるよな」

「………そうなんだ。実際、見た君はどうなのさラーク」

「確かに似てた………首飾りも同じのしていたし。破壊したから当分使えないだろうけど」

「ねっねっ、どんな人なの?名前は?黒髪と黒い瞳以外に特徴は?」

「お、おい…………」



 怒りの収まらない雰囲気を漂わせているのに、それを無視して質問をするグルー。また暴れだしたりしないか心配なリートは止めに入るが、意外にもすんなりと答えたラーク。それに気を良くしたのかグルーはどんどん質問をしていき、どれだけ質問を用意したのか数えるのも止めた頃……。グルーは満足そうにしており鼻歌までやる始末だ。



「でも久々じゃない?抵抗できる人間なんて居ないと思ってたし………エルフは元々折り合い悪いしこっちとは関わらないけど。ドワーフ達は獣人達と下級魔族の働きのお陰で、抵抗なんて出来ないし………ラーグルング国以外で生き残っているのってあと何処?」

「確か機械国家のバールデール、騎士国家のダリューセク、魔法協会本部のラーンデル、神霊の国ニチリ………これ位だったが」

「あーニチリかぁ。この間、下級魔族結構やられたんだよね~、進軍しても見えない壁に阻まれて全然進めないし破るのに僕等みたいな上級が必要とかないよね。上級魔族ってそんなに居ないのにさ………ってなると、ラーグルングも警戒しないといけないなんて………うわ、疲れる」

「第2の精霊の国、ラーグルング………10年前に叩けなかったのが痛いな」

「あの国を叩くのはかなり骨が折れる。魔法を扱う人間が多いだけじゃない、精霊の加護が強すぎる……ただでさえ、防御は魔力で補えるのに殺すのにも苦労するのは疲れる」



 いつもの調子に戻ったラークは服を整えながら答え、グルーは飴を舐めながら「どうする?近く村や町を襲う?」と聞いてくるもラークはもう寝ると言いグルーも深くは聞かずに「そうだね」と言って出て行ってしまう。



「………こっちには聞かないのか」

「リートはこの後、ダリューセクに攻めんだろう。何言ってるんだ」




======

 

「リーナさん!!!!」



 リーグは息を切らして目的の人物が居た事に喜びを表現する間もなく抱き付いた。フリーゲが「おい!!!」と引き剥がそうとするも、体全体でしがみ付くリーグに副団長のリーナは嬉しく思うも息苦しいのは変わらない。



「リーグ君、リーナが苦しそうだから。ねっ、まずは離れて離れて」

「………っ、うん………」

「す、すみません。団長の傍に駆け付けられなくて」

「謝らないでよ、無事なのが嬉しいの!!」



 渋々離れるリーグは今度はゆきにしがみ付く。ヨシヨシ、と頭を撫でながらこれまで以上に感情を素直に出すリーグにリーナは困ったように顔をかく。

 左腕に包帯が巻かれた所以外では引っかき傷や何かに裂かれたように背中にも爪痕がありそれを包帯でグルグル巻きにされていた。

 フリーゲはゆきにこれでも軽いぞ、と言い驚きを隠せないでいた。そして彼はギリギリだったとは言え、ベールと共に魔族を倒したのだ。


 柱と武彦の結界で作り上げたあの大魔法が完成し、国に出現した魔物達は一瞬の内に消滅していった。

 補助を行った魔道隊の面々はその大規模な魔力にバタバタと倒れていき、負担の少なかった武彦はすぐに倒れた者から広い部屋へと運び安静にさせた後、残る霊力を使って清を呼び出して外の様子を見に行くようにと伝えた。



 唯一軽く動けたのは部隊長のレーグのみ。


 彼は体を引きずり、状況を整理しようと伝達用の魔道隊へ報告をするように告げた。ユリウス陛下、麗奈は原因不明の力により意識が戻らない事。

 ヤクル団長、ラウル副団長は大けがを負い回復するまでに相当の時間が掛かる事、キール師団長と宰相のイーナスは魔王と名乗るランセと言う人物と共に残存戦力が居ないかと国中を誠一達と駆け回っていると言う。




「ま、待て………今、魔王と言ったか」

「は、はい。信じられませんが、今は我々と変わらない普通の魔力ですが……少し前に巨大な魔力を感知し魔族が消失。元の魔力量に戻ってからイーナス宰相から告げられたのは魔王と行動を、共にしていると………すみません、自分でも訳が分からず」

「………いや、いい。誰でもそうだろうからな」




 何でそこで魔王?と疑問のレーグ。恐らく告げた方も同じ思いなのだろう、げんなりとした既に疲れ切ったような表情だ。10年前に突然現れた魔王軍が2つ。

 その内の1つとは犠牲を払いながらも8年前に封じる事が出来た。だが、元々封じていない方の魔王軍は積極的に動かず、ただこちらを監視し時々戦局に参加する程度のものだった。


 だからこそ、今襲ってきた魔物達には疑問を感じざる負えない。恐らくは今まで静観していた方の魔王軍なのは分かる。封じた方の魔王は8年前から一向に動きがないのを見ると、まだ封印が強固で解くのに時間が掛かるとみている。



「2つの魔王軍以外の魔王、ね。………一体、どれだけの魔王が居るのやら」



 頭が痛いな、と小声で言うレーグに何も言えない魔道隊の面々。その後、戻って来たキールが指示を下し陛下達をフリーゲに押し付けたイーナスは戻って来た兵士達の報告を聞き、大部分の魔力を取られて動けない魔道隊の人達をキールが無理矢理に叩き起こして見張りの続きをするようにと言われる。



(鬼だ。あの2人、鬼だ…………!!!)



 その場に居た兵士、魔道隊の面々は同じ事を思いながらも口には出せなかった。あの2人を相手に文句を言ったら最後………帰って来れるか分からない。その証拠にレーグが遠くを見て現実逃避をし、フリーゲは不機嫌ながらも仕事をこなす始末だ。



「イーナス君、キール君」



 かすり傷だらけの誠一が2人を呼び止め何かを言おうとしている。そう言えば、2人が唯一意見を聞く人だったなと淡い期待を込めてあとに続く言葉を全員が固唾を飲んで見守る。



「見張りは裕二に任せて来た。何か手伝える事はあるかね?なんなら動けない者達の代わりをする位には出来るぞ」



 ガクリ、と肩を落とす面々に誠一は「なんか変か?」と九尾に聞けば『主人が仕事人間なのを知らないだけだ』と呆れたように言われる。じゃあ、とイーナスは容赦なく指示をする中で誠一はそれをこなそうとするのを見て……周りも負けじと言われた事をこなす。



「……誠一さんが居ると士気があがるね。うん、良い事を思い付いた」

『待て待て。主人達が仕事人間なだけだからな?一緒に数えるなよ……』

 


======



「やっと終わった」



 避難して来た人々の部屋の提供、負傷した兵士や騎士団達の治療を終わらせたフリーゲは一息ついた。城は元々使っていない部屋がある為、麗奈達が使って貰って感謝している所での魔物の襲来。


 ちっ、と舌打ちし現状に落ち着きがないのを誠一達に任している事に悪いと思いつつもイーナスに無理矢理休め、と睨まれてしまった。仕方なく自室兼仕事部屋で椅子に座りどうしようかと考えをまとめる。



「フリーゲさん、お疲れ様です」



 ゆきが笑顔でコーヒーを出し少しでも雰囲気を柔らかくしようとしている。それが分かりバツ悪そうにしたフリーゲは乱暴にゆきの頭を撫で回し彼女が心配している事、気にしている事を告げる。



「リーナはベールが居なかったら危なかっただろうし、陛下と麗奈嬢ちゃんはまだ余裕じゃない。ラウルとヤクルの奴はあと3日すれば起きるだろうよ。ゆき嬢ちゃんももう寝ろ。ずっと俺のサポートと泣きわめく子供の世話、負傷した兵士達や避難してきた者達への食事提供………初めてにしては働き過ぎだってんだ」



 ワザとキツイ事を言い無理にでも寝て貰おうとするもゆきは頭を振り起きていると言われてしまう。まだ目が覚めていない麗奈達の事が心配な上、自分だけが何もしていないと言う事。報告に上がる兵士達の言葉を聞いてショックを受けた。


 麗奈の事を連れ去ろうとしたのは魔物ではなく魔族。しかも、女性達が連れ去られ必死で探していたのは麗奈だったと聞き思わず無事なのかをしつこく聞いてしまった。



(……やっぱり、私達がここから出て行けば良かったのかな)



 誠一達と合流した後、最初に出たのはこの国を出て行くか行かないかと言う事。麗奈に行われた試験は大臣達を黙らせる為のものであり、難癖をつけてでも匿うつもりでいたと言うイーナス。陛下であるユリウスもそのつもりで動こうとしてた辺り麗奈達には好意的なのは分かった。だから、それで甘えていた。だから……



「………ゆき嬢ちゃん、余計な事は考えるな。まずは自分の体を休め。今は平気でもいつ倒れるか分からなくなるぞ」

「そう、なんですけど…………」

「そうと決まれば休め休め」

「「えっ………」」



 パチン、と指を鳴らす音が聞こえたかと思えばゆきはふっと力なく意識を失う。それを支えるのは若い姿のままのウォームだ。フォフォフォ、とフリーゲによっと挨拶するも彼は「誰だ………」と怪しいとばかりに近くにあった竹刀を持って振り下ろそうとする。



「ま、待て待て。ワシじゃワシ。ウォームだよ」

「冗談言うな。召喚士が寝てたら精霊は顕現されない、それは文献で読んでるし常識だ」

「そ、その常識を覆すのも精霊である我々だ」

「んなもん、あってたまるか」

「…………何してるの」



 呆れたような声にフリーゲが目を向ければキールが見知らぬ男と居た。

 その後ろにはベールとセクトも付いており裕二がゆきを抱えて部屋へと運んでいく。ウォームはキールの隣に居る男を見て目を見開き、相手も「あぁ……君」と互いに知っているような雰囲気だ。



「………その姿、久々に見たね。戻れるようになったんだ」

「お陰様でな。あのお嬢さん達のお陰だ………それでお前さんも何の用でまたここに来た魔王ランセ」

「は?」

「はい?」

「なん、だと………!!!」



 セクト、ベール、フリーゲは同時に言い魔王とはっきりと言ったウォームと言われた男を見る。キールは溜息を吐き、手を叩き「後でやって。束になっても叶わない相手だから」と言い、フリーゲに薬の在庫を聞いてきた。



「………」

「フリーゲ?ポカンと固まってないでよ」

「…………」

「フリーゲ!!!」



 バシッ!!と大きな音が部屋に響いた。その音に思わずベールとセクトは反射的に目を瞑った。ウォームは「うぅ、ワシもなんか痛い………」としゃがみ込みランセは(うわ、痛そう……)とキールに叩かれ倒れたフリーゲを見る。



「ってぇ……思い切り殴りやがって」

「当たり前だよ。君はこの国の薬剤師であり、薬の管理者なんだから。君が把握してないのはおかしいでしょ」

「……傷薬と塗り薬はは今ある在庫で最後だ。包帯はそこまで使うような大けがをしているのが居ないから平気だ。そうなる前にセクト兄妹で治して貰ったからから良いし、ヤクル団長の…じゃない。ウリス家の人間から薬草を分けて貰ったから当分は平気だ。

貴族達の家には魔物が向かってなかったようだし。……麗奈嬢ちゃんが狙いなら城下町や村に居る可能性の方が高いからな」

「そう。じゃ、君等も寝てね……。私は見張りをしてるから」

「おいキール。お前も寝ろよ」

「私はイーナスと違って命令下すだけだからね。団長の君等も付いてこないで寝てよ」

「……キールも寝れば?見張りなら私がするし。ウォームも一緒だし」



 そう言ったのはランセだ。痛がったウォームは思わず振り向き、フリーゲ達は揃って「ええっ、それは………」と言った。キールは無言で睨み付け「変な事言わないでよ、気持ち悪い」と言うがランセはウォームを連れ出してそのまま姿を消す。



「なにふざけてんの、あの魔王ーーーー!!!!」



 魔王が出て行った事よりもキールが、大声を上げた事に驚いたフリーゲ達は呆然となり少し経ってから寝るかと、そう思いお言葉に甘えて自室に戻ったのだった。

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