第18話:助っ人
「あの光………」
イーナスは南の柱の方角に上がった黒い柱の力を見た。柱に見えるが、あれは魔力の塊なのを知っている。そしてそれを扱える人物が、この国には1人にしか居ないのを思い当たりつい舌打ちする。
「何てことしてくれたんだ!!!あれだけ無理するなって言い聞かせて来たのに!!………麗奈ちゃんの為か、くそっ」
最近のユリウスは雰囲気が変わったとよく兵士達から聞いていた。
それは彼女達が来てからそうだったなとイーナスは思い当たる。
そして、城に居る者達は全員が共通して陛下の笑顔をよく見るようになった。皆、嬉しそうに言っているのも知っている。
ここの国の特徴なのか感化されやすいかは分からないが、彼女達が来て流れが変わったのは事実だ。
(確かに変わった。それは良い。でもユリウス………命を自分から投げ出していいだなんて一度も言ってない)
厳しくはしても命を粗末に扱うな、と言ってきた。戻ってら思い切り叱りつけて、きっちりと分からせる。自分のした事がどんなに危険で周りを困らせるのかを………。
「死んだから許さないからな、ユリウス!!!」
=======
「はっ、はっ……。はぁ、はぁ。はぁ………くそっ」
「っ、陛下!!」
悔しそうに倒れるユリウスをラウルが受け止める。見ればかなり苦しそうにしており、持っていた双剣はさっきの魔力を乗せた状態での攻撃に耐えきれずに砕け散っている。
「驚いた………まさか人間が闇属性を扱うだなんてね」
服がボロボロになっているが、体に損傷はなく無傷のまま。あの攻撃が届かなかったのか、と愕然となる。それに気を良くしたのは笑みを深くした魔族は知らないか、と一回転すれば服は綺麗なままの恰好に戻る。
「あぁ、安心してよダメージはあるよ。再生するのだってタダじゃないんだ。そんなに何回も再生なんて出来ないよ」
「その、割には……余裕だな」
「君等と違って長生きだからね。配分はちゃんと考えないと」
「ちっ………」
睨むが今のであまり力が入らないユリウスはタイミングを間違えた、と反省する。ん?と少し考えた後で魔族は思い出したように笑った。
「そういう君は王族だね。あぁ………あの呪いの。ふぅん、わざわざ自分から寿命縮めに来た訳だ」
「……ん……。………で。何で…………何でそんな大事な事言ってくれなかったの!!!!」
ラウルの放った剣で球体が割れたが、未だに体に力が入らない麗奈は思わず怒った。それにユリウスは「言えなかった……」と弱々しく言い、ラウルも申し訳なさそうにしていた。
「大事な人なんだ?」
ユリウスとラウルを押しつぶすように重力が重くのしかかる。
その中ではっと気付いたラウルがユリウスと代わるように体を入れ替えたと同時、血が噴き出した。
ラウルが代わらなければ今の攻撃は確実に、ユリウスを殺す為のものでありそれに目を見張った麗奈とユリウスは同時に「ラウル!!」と叫んだ。
「流石、騎士様。主人の為には命すら投げ出すか」
「っ、ぐっ……ごほっ、ごほっ………」
「っ、バカ!!!俺を庇っても」
「流石、魔力の扱いに慣れた奴はなかなか死なないよね。……2人仲良く死んで彼女は貰うよ」
黒い剣を模ったものが5本。それを2人に向けて放たれ麗奈は止めるように叫んだ。その声を聞いても実行した魔族は苦しめ、とばかりに力を放つ。
「まだ死ぬのは早い」
ピタリ、と黒い剣が刺さる手前で止まりそのまま消えていく。
は?と茫然とした魔族を何かが横切れば自分の胴体が切られ傾くのが分かる。起こった事態に飲み込めない麗奈はいつの間にかキールに抱えられたていた。ユリウスとラウルの所に戻っており3人まとめて治療を開始している。
「キール、さん………」
「まったく主ちゃんは……。渡した護り石が全然役に立ってないじゃない。部屋に忘れた?」
「はい………すみ、ません」
「分かった。あとで叱るね」
うっ、となる麗奈にキールは笑って頭を撫でる。そうすれば、自分達が無事だと言うのが嫌でも分かり思わず縋り付きそのまま泣いた。それに困ったように、少しだけ嬉しそうにするキールにジト目で見る男が1人。
紫色の髪に同じ色の瞳を宿した男性。
短髪でふんわりした髪質は、柔らかい雰囲気を与える。その目には戸惑いと驚きとが入り混じっている。
周りに警戒しつつ、現れた人物はキールに言う。
「……君、気持ち悪い。見ない間に何があったのさ」
「言う気はない。あとで覚えておけ」
「何でそうなる」
「くそっ………!!!」
呆れた様に言えば、次に聞こえてきたのは憎々し気に呟く魔族。見られた側は、気にした様子もなく普通にしていた。
「普通、1ヶ月も連絡無いとか……言わなかった?普通、連絡するよね?」
「うん、久々に国に戻ったから忘れてた。悪い悪い」
「あ、そう。……次もやりそうだな」
呆れ果て怒る気が起きないのか、もう会話は終わったとばかりに前を向き黒い力が放たれる。魔族はそれを見て驚きを隠せないのか、距離を取られる。その直後、火の蛇が襲いかかりヤクルが麗奈達の元へと向かう。
「すまない、魔物達の大軍に手間取った。ユリウス、何でここに……キールさん2人は!!」
「慌てない。そうでなくても、私が必ず2人を生かすよ」
「っ………」
その雰囲気にバカな事を言ったな、と後悔したヤクル。治癒力が高くなる光の魔法を扱い2人の体が粒子となって青い光に包まれていく。苦しそうにしていたユリウスも段々と落ち着いたように呼吸が整えられており、ラウルの傷も段々と無くなっていくのが見え安堵する。
応急手当であり、あとはフリーゲの担当になると言い麗奈の治療をしようと首筋に魔力を当てた瞬間に弾き返されその反動で麗奈は気絶しキールがその痛みで顔が歪む。
「今のは……」
「ちっ」
魔族を睨み付けるキールにヤクルはビクリとなった。今にも殺しに掛かりそうな雰囲気、実際に自分達に向かってきた魔物達を一瞬で倒し「やってくれたな」と低く威嚇するような声に自分に向けられてないのに体が言う事を効かない。
「………ホントにあのキールなの?」
「何?文句あるの」
「無いけど変わり過ぎじゃない。………そんなに大事なんだね」
チラリ、とヤクルに預けた少女を見る。その首元には黒い模様が発光し体全体に伸びようと徐々に広がっている。
あれには見覚えがある、と思っていると横から魔法で攻撃していたキール。避ければ後ろに居た魔物に当たり爆散する。どう見ても自分を攻撃してきたようにか見えない、と目で訴えるがキールは知らないとばかりに攻撃を続ける。
「手を出したら君相手でも殺すから」
「話すのも?」
「うん♪」
「それ関わるなって事。え、何しに来たのさ私って」
「知らないよそんなの」
「君が勝手に消えるからだろ………」
そう言って迫る魔物を消し炭にしていく。ヤクルは今、自分が関わってもダメだと思いながらも警戒は緩めない。自分に迫る魔物にもキールとその知り合いが攻撃している為、殆ど何もしないが……魔族は既に再生を終えており談笑しながら魔物を倒していく2人を静かに観察している。
いつ、自分の元に来るかも分からない予想不可能な相手に目を離す訳にはいかない、と剣を握り直したら突然姿が消えた。
「!!」
すぐにユリウスとラウルを見た。2人は治療を受けてから気絶している、ならと自分が抱えている麗奈を離さないようにした。ヤクルにも魔道隊からの連絡が届いている為、狙いが彼女の可能性である事は知っている。なら影かと自分のを見るが変化がない。キールが「違う!!」と叫ぶのと自分がぶっ飛ばされたのは同時だ。
「ぐっ、げほっ!!!ぐっそ………」
「ちっ、今のでも離さないか……なら」
絶対に麗奈を離さなかったヤクルは意識を飛ばさず守る事に専念した。次来たのは自分が岩壁に叩きつけられ、頭を潰しに掛かる魔族の腕だ。引き剥がそうとも力は向こうが強く、抱えていた筈の麗奈が向こうに渡っているのをギリギリで見え再び岩壁に叩きつけられた。
「っ……」
「普通は今ので死ぬんだけど、精霊と柱のお陰か。……普通の奴より防御力が高いから殺すのに苦労する」
ぐったりしている麗奈を抱えヤクルを殺そうと力を込める。意識を失うその手前、倒れているユリウスとラウルと同じように横にさせたのはさっきの男性。ユリウスに死ぬのはまだ早いと言ったその人の顔が近くにあり、自分がどんな状態か把握が出来ない。
(抱え、られている……のか)
「意識は……あるね。特殊な土地柄で良かったよ。でなければ、さっきので危ないから」
気付けば麗奈も隣に横たわらせており自分達が移動させられている事に気付く。意識を保とうとするヤクルに「頑張る子は後から伸びるから」と、子供をあやす様な手付きに何故か安心し眠気が襲ってきた。
「ガロウ、君は彼女達の護衛頼むよ。近付く魔物は全部喰っていいから。……必要なら我の魔力を食っても良い。久々に大暴れしていいしね。あ、誰か人が来たらそれも知らせて間違っても人を襲うなよ?」
≪承知………≫
気絶している麗奈達の傍にはいつの間にか黒いオーラを纏った甲冑の騎士が立っていた。その騎士の周りには同じく黒いオーラを纏った狼が3匹、麗奈達の傍に控えていた。3匹居る内の1匹は既に麗奈の傍を離れる事無く自分が守る、任せて欲しい、と主に訴えている。
「……へぇ、君気に入ったの?」
≪ガウガウ♪≫
今も嬉しそうに尻尾を振っている。この分なら放し飼いしなくても勝手に顕現して彼女の傍に居るだろうな、と思った彼は「無理するなら我の魔力を食ってでも全て防げ、良いな?」と念を押せば肯定とばかりにすぐに行動に移した。
騎士は姿を動かず、麗奈の傍には自分が守ると言った狼が控えており残りの2匹は周囲の魔物を探索しながら安全な場所の確保へと向かった。
「…………さて、キールの奴はちゃんと生きてるよな」
=======
既に麗奈達を移動させた相手に魔族である者は驚きを隠せないでいた。自分よりも早く状況を一変してきた相手、何処かで見た事をあるような顔に靄が掛ったような変な気分にイライラしていた。
キールが周囲に魔力を集め、炎を操り魔族以外の集まる魔物達を一掃していく。この国の、この土地の人間はどれもこれも殺しにくい事にもイライラを募らせている相手に雷と斬撃が襲い掛かった。
「遅いよ、イーナス」
「陛下は何処?」
「……え、私の心配は」
「する意味がない。理由がないだろ」
「信頼ないのかキール」
呆れたように言うのは麗奈達を連れ出した人物。イーナスがキールに誰?と視線で送れば「え、ランセだよ。覚えてない?」と変な事を言っている。しかし、彼を見ても一向に思い出せないイーナスに仕方ないよ、とランセは告げる。
「………君も、ここに居る国の者達も記憶が抜け落ちているんだ。8年前のあの時から」
「あぁ、やっぱり。その所為で皆おかしいんだね」
「何の話だ、それは………」
「ランセ………。何でお前がここに!!!」
名前から思いだしたか空へと舞い重力の魔法を展開。そのままキール達に襲い掛かるもランセが「失せろ」と言った瞬間、押しつぶされるはずの魔法が消える。舌打ちする魔族にランセの雰囲気も一気に変わった。
自身に黒いオーラを纏い周囲の空気が震え、それに魔物達も動きを止める。魔族もランセの目を見て体が動かなくなったようになり、改めて自分が相手にしている者の大きさを知らされる。
「っ、貴様、サクール様を裏切るのか!!!」
「裏切る?………あぁ、そう言えばこの姿では初めてだったか。いつもフードを被ってオドオドしているのがお前達の我に対する印象だったな」
言葉を話すだけで自分にとんでもないプレッシャーが掛かり地面に吸い寄せられるように自分の体が沈んでいく。見ればキールもギリギリの所で耐えているが「こっちに被害来てるんだけど」と、文句を言えばランセは振り向き「すまん、それは耐えろ」と言い放つ。
魔族の方は空に固定されたかのように動けず、魔物達はランセの持つ鎌の一振りにより全て倒されていた。固定された魔族の前に立つランセはニコリ、と笑顔のままだ。開かれた瞳は髪と同じ紫色ではなく赤と蒼い瞳のオッドアイになり冷や汗が流れる。
「サクール様が、黙って、いない、ぞ」
「だから?我は元々アイツの事は殺す気でいるんだ。黙る黙らないの問題ではない」
鎌で真っ二つにされた魔族は再生する事無くガラスが砕けたような音で消えていく。イーナスとキールはフラフラになりながらも体を無理矢理に起き上がる。降りて来るランセは未だにオッドアイのままであり「それ、が魔法の行使する時の目ね」と悔しそうに言えば相手はふっと笑う。
「なんだ、拗ねてるのか。……珍しい事があるんだな」
「君ね!!あの状態になるなら言ってよ!!」
「事前報告なんか出来ないだろ。危ないのが分かってて、行うから用意しろだなんて敵に油断を与えないつもりか?」
「油断する為でも人間には辛いんだってば!!!!!」
「………はいはい。分かった分かった」
溜息を吐きながらオーラを解けば瞳も元の紫色になり、さっきまでのプレッシャーは何処へ行ったのか普通へと戻った。ランセは「これでいいのか?」と鎌を持ち直しながら言えばキールからはずっとそれで居てと言われる。
「………一体、何者なんだ。魔族を一撃で倒すなんて聞いた事ない」
「何者って………彼は魔王だよ」
「………は?」
いやいやいや、と頭を抱え倒れそうになるのをなんとか踏みとどまる。キールの頭がおかしいのは元々だが……と独り言を言うイーナスにランセは「何をしたらあんなに信用ないの」とキールに言えば言われた本人は「知らないよ!!」と半ギレに反論される。
「あーっと、改めて初めましてイーナス。私はキールの言うように魔王だが、元・魔王だからそこは間違えないでね。よろしく♪」
「え、あ、あぁ………」
なんとなくの流れで握手をするが、違うよな?と困惑するイーナスにランセは気にした様子もない。すると、南の柱から光が発せられ魔力の大きな流れが感じられるのを感じ「なんか仕掛け?」とランセが疑問を口にしたのと国全体に広がった四色の光が放たれたのは同時。
キールとイーナスで考え、実行に移したのは陰陽師の武彦、魔道隊の人達で作り上げた大魔法の完成。それが魔物達を一掃しラーグルング国を襲った脅威は一旦の終わりを告げた。




