第17話:影の信頼、氷の意思
ー西の柱ー
迫りくる魔物を自分の影が覆い飲み込む。その隙にリーグが竜巻を起こし魔物達を一掃する。いつものように柱の見回りをしている中で、発生した突然の大軍の襲来。
しかも、柱を無視して街に行く魔物をリーグは一瞬で葬る。すぐに異常に気付いた。柱に引き寄せられる魔物も居るが、いくつか列をなして何かを探すように何回か体をクルリ、クルリ、と旋回し仲間に知らせながら攻撃をする自分達を無視、仲間が目の前でやられているのにも気に止めていない。
(一体、何を探しているんだ………)
自身の影を使い、魔物達を貫き倒していく中リーナは不思議そうに見ていた。団長のリーグは多くの魔物を蹴散らしながら、探し物をする魔物に突撃しようと距離を取る。
リーグの攻撃に察知したのかさらに空へと上がる翼を持ち、丸い体と目が一緒のような魔物は急に降下し「ギャギャギャ!!!」とリーグの後ろに向かって行った。え、とキョトンとするもすぐに女性の悲鳴が聞こえた。
(っ、しまった!!)
その魔物は女性の足を掴みそのまま飛び立とうとしている。見れば、その下には紫色の魔方陣が浮かび上がっておりさらに青ざめる。転送魔法には扱う人間の魔法の色が浮かび上がる、とキールから講義を受けていたリーグはすぐに魔物の動きを制限しようとする。だが、目の前に別の魔物が割込み自分の邪魔をしてくる。
「っ、どけ!!!」
「そこまでです」
焦る自分の声とは裏腹に落ち着いた声が聞こえた時には転送を行おうとした魔物は倒され攫われかけた女性はリーナにより救出されていた。リーナは駆け付けて来た兵士に女性の事を頼み、すぐにリーグの元へと駆け付ける。
「あの女性は平気ですよ、団長。木の実を探しにここまで来てしまったようなので」
「…………」
「団長?もしかして、あの魔物以外に何か怪我を負われたのですか」
「ううん、何でもない」
リーグ自身、自分が団長の器でないのは自覚している。実力もリーナの方が上だし兵士達からの信頼もある。自分が団長として提出する報告書も分からない所があれば見てくれるし、宰相の性格を理解してか先を読んでこう書くべきです、と先生のような感じを受けた。
団長としていられるのは、自分を拾った陛下の推薦であり育ててくれている人が前団長だからだ。なのに、何で彼はここまでしてくれるのか疑問に思った。
「団長、やはり怪我を」
「何でリーナさんは、僕を団長として扱ってくれるの?」
「え………」
リーグの目線と同じになる為、しゃがんだリーナはそんな質問をしてくる事に何回か瞬きをしそして笑った。
「心配でほってはおけないからです。それにあの時咄嗟に動けない私はやはり自分には団長が無理なのだと思いましたよ」
「あの時のって………麗奈お姉ちゃんとゆきお姉ちゃんの事?」
「はい。直感でも、ただの興味だったとしてもあの時に動けないのですから腰抜けです。だからすぐに動けた団長は凄いんですよ」
「でも、さっきは動けなかった………」
むすっとするリーグに「まぁまぁ、団長と副団長は助け合うものですし」と言われる。今だに納得しないリーグだったが2人の脳内に緊急の通達が発せられた。魔道隊の隊長のレーグから柱を無視しての魔物の行動、女性だけが狙われている事から狙いは麗奈とゆきの2人でないかと宰相の考えを伝え、自分達には柱の警備よりも住民の避難を優先するように伝えられた。
「お姉ちゃんが狙われてるって……」
「キール師団長の読み通り、ですね」
〈リーナ副団長、追加報告をします。ゆき様は城に留まる形で無事の確認が取れています。麗奈様はヤクル騎士団長と共に南の柱の防衛に向かわれたと思われます〉
再びリーナに告げられた内容。ゆきの無事は確保できたならあとは麗奈だけになる。ヤクルと共に居るなら安心かと思いリーグに兵士達と共に城下町の方へと向かうように言う。
「団長……ここの魔物達は担当します。ここを片付けたらすぐに向かいますから」
「うん、分かった!!リーナさん、頑張ってね」
「えぇ、団長の為に頑張りますとも」
うん!!と元気よく頷き、安心させる為に頭を撫でればちょっと驚いた表情をし「平気だもん!!!」と元気よく言い兵士達を連れて城下町へと急ぐ。ふぅ、と息を吐きレイピアを掲げ空に居る魔物と自分を囲うようにしている魔物を睨む。自分の影に魔力を集中すれば、地面は黒く染まり空の魔物は黒い腕に貫かれ消滅。地面にレイピアを突き刺せば、その動きとリンクするようにして魔物達が次々と貫かれ倒されていく。
「さて、私の魔法は少々気性が荒い。巻き込まれても文句は言わないでもらおうか……覚悟してもらうぞ魔物達」
新たに来た魔物をレイピアで刺し、後ろからの攻撃を影が守り意思を持つようにして飲み込んでいく。彼女達に触れるならば、と少し考えれば影はリーナの意思を読むようにして魔物達を串刺しにして飲み込んでは新たな獲物を求めるように広がっていく。
「キヒヒヒ、珍しい魔法だな人間」
「魔族ですね……」
空から自分を見下ろす鬼のような顔を持った不気味な者。キールが首を手土産にしてきた魔族の顔と認識し殺気を向ける。それに可笑しそうに笑う魔族は終わりだと言う。
「お前達が全てを守ろうとしても無理だ。成功してもしなくても、この国は既に滅びに向かっている」
「……何を言っている」
リーナの背後に周り爪を引き下げれば影が防ぎ、針状になって魔族を襲う。すぐに空へと逃げる魔族に舌打ちしながらもレイピアを持ち直し魔族の言葉に耳を貸さずそのまま戦闘へと開始した。
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ラウルは住民の避難を終わらせた後、ヤクル団長が居る南の柱に向かってた。魔道隊の人から告げられた内容に嫌なものを感じたからだ。
騎士団に入る条件の1つに魔力があるかを必ず調べている。無い者は城下町、村、町の見張りへと回し、ある者は魔道隊に魔力を分けた。理由は連絡手段の確立の為。柱の警備が仕事内容に組み込まれている以上、魔物との戦闘は必須であり魔道隊の人達も連絡係と戦闘要員とで分けられていた。
ラウルに連絡したのは魔道隊の部隊長でありキールが居ない間、宰相のイーナスと共に支えているレーグ。彼からヤクル団長が南の柱を警備する中、ドス黒い魔力が検知された事。恐らくは反応がある3つの内の1つ、魔族が居る事が告げられ向かう足にさらに力が入る。
(ん?あれは……)
空を見上げれば風魔が魔物達に襲われていた。しかもキメラや大きい鳥、それらが囲うように逃がさないようにジワジワと追い詰められている。傷を負っているのか体中が血に濡れ、ポタリ、ポタリ、と地面を汚していく。
「風魔!!」
大声を上げ自分に魔物が来るように仕向けるも一向に反応を示さない。おかしい、と頭で思うも魔物達は風魔をオモチャのようにして遊んでいる。
「迅雷方陣・魔性」
そこに風魔を護るようにして雷が降ってきた。風魔は球体で出来た青い結界により護られ、それに触れた魔物は塵となって消えていき、また離れていく魔物は球体から発せられた雷により全て落とされていった。
「君の方は無事だな」
「誠一さん、九尾!!」
『よぅ、嬢ちゃんの騎士さん。慌ててる所をみると、魔道隊の連絡を知ったな?』
「は、はい。ですから急がないと」
『待て待て』
バフッと九尾に尻尾に頭を押し付けられた。急に目の前が暗くなった事と、急ごうとしてた事で足が既に踏み出された事でバランスを崩してそのまま倒れる。痛がるラウルに九尾は『クックックッ』と意地悪な笑いをし誠一は呆れたように見ている。
『お前さん、若いからってそんなに突っ走るなよ。見てて危ないし、見ててハラハラする。嬢ちゃんみたいになるなよな』
「麗奈、みたいに?」
『嬢ちゃんも自分から危険に飛び込む感じでなぁ。他人が傷つく位なら自分がって感じで………だから、誰かがちゃんと繋ぎ止めてくれるような奴が居ないとダメな訳さ』
「おー、それは分かる分かる」
「ウォーム様!!」
と、自分達の会話に入る様にして現れた人物。黒い球体が守る様にして現れたのは若い頃のウォーム。九尾は『あれ、もっとじじぃだったろ?』と言えば相手はムフフフ、と笑みを浮かべる。
「悔しいか?悔しいのか?ムフフフ、良いじゃろ良いじゃろ」
『おし、関係ない奴はすっこんでろ。ここら辺の魔物は俺達でどうにかする。風魔、お前何があった』
ヨロヨロと自分達の所に歩いてくる風魔にラウルは駆けよれば、いつの間にか姿が半透明になっていた。その光景に驚くも九尾は視線で話せと脅してくる。
『ぐぅ、ごめん……主、が……危ない………守れな………』
最後まで言い切る事無くそのまま消えていく風魔。ラウルがそれに驚けば誠一は契約者の元に戻っただけだと言われる。聞けば霊獣の姿が保てない場合は、交わした契約者の霊力が尽きた時、自身が重傷を負った時だと。今の風魔の怪我は重傷に当たり傷と力が元に戻るまでは暫くは出てこれないと言う。
「だとしたら、今の麗奈には」
「あぁ、団長の誰かが付いているなら良いかも知れないが1人なら危険だ」
「ヤクル団長が一緒に居ると聞いていますが………」
「その団長なら近くに居るだけで傍には居ないな」
そう言って迫って来た魔物を重力の魔法で押しつぶし消滅させる。見れば自分達の周りに魔物が集まっておりどれも殺気を向けてきている。
「……この先に来るな、と言っている感じだな」
『話が早いな、コイツ等蹴散らしてさっさと嬢ちゃん助けに行くぜ!!』
(っ、近くに水があればすぐに駆け付けられるのに……!!)
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「いや~参った参った。あんな方法があるとはね……女性だと思って侮りました」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」
「ですが……貴方まで退場されるのはダメですからね。強引ですが、精霊の力を上手く遮断で来たようで良かったです」
迫られた選択に麗奈は拒否をした。それでは、と指を鳴らし魔物に攻撃を下した魔族。叫びながら遅い掛かる魔物を結界が阻みそのまま消滅。そのまま首飾りの方へと力を集中し、炎の精霊ナルに城までの転送を頼んだ。
南の柱を警備しに行った時にウォーム同様に契約を交わし名前を授けた。彼は承知し集められた女性達を一気に城へと転送し、契約者の麗奈も一緒に転送しようとした。それはすぐに解除されてしまった。彼女のしていた首飾りは引きちぎられ破壊されたからだ。
「っ………」
その途端に力が抜け麗奈だけはその場に留まる事になり悔しそうに魔族を見る。霊力を一気に使ったような脱力感が襲い意識だけは飛ばないように別の事を考える。
「他に何か力があるのでしょうか?我々が扱う魔力とはまったく違う力……良いですね、面白いですよ貴方」
「………水牙」
自分に近付いたと同時に刃が襲う。水を霊力で加工したもので魔物にも通じたもの。それが魔族に届く前に見えない壁に阻まれそのまま砕け散り、それに驚けば自分の影から現れ動きを封じられる。
「水ね。さっき炎の精霊を出してきたから使うのは炎だけだと思ったけど……うん、ちょっと気に入ったよ。印、付けるね」
ペロリ、と首筋に舌を這わせ牙を突き立てた。え……、と理解出来ないまま自分の血が吸われている事に気付くも体の言う事が効かずされるままだ。足に力が入らなくなり支えられなくなるのを見計らったのか、そのまま抱き留められ意識が朦朧としてくる。
「っ…………こ、のっ………!!」
抵抗とばかりに腕を振り上げて殴ろうとするも簡単に抑え付けられる。悔しそうに睨めば笑みを深くされ面白いとばかりに呟かれる。
「本来、人間の血は飲まないんだけど……君の場合は違う。初めて血が美味しいと感じたよ……極上の味だ」
「っ………」
ゾクリ、と背筋が凍った。今まで怨霊と戦ってきても感じなかった寒気に、知らずの内に体が震えていた。しかしそれも相手にとっては喜ばれる事なのだろう、さらに嬉しそうに麗奈を見ている。ボトリ、と魔族の両腕が落ち麗奈は助け出されていた。
知っている体温に、周りの急激な寒さに思わず涙を零し名前を呼んだ。
「ラウル、さん………」
「これ以上、君を汚される訳にはいかない。……出て行け、魔族」
怒気を含んだ言い方にそれと重なるように魔族に氷柱が向けられて落とされる。すぐに回復薬を首筋にかければ血が止まり段々と皮膚が形成されていく。それに安堵すれば黒い刃がラウル目掛けて飛んできた。
「あ~あ~、邪魔しないでよ。気持ちよく味わってたのに」
「黙れ。彼女が目的なのかは知らないが、勝手に襲い掛かって来たんだ。魔王からの命令か」
「…………へぇ、知ってるんだね」
ビリビリと、自分に向けて来た殺気の視線にラウルも睨み返す。ふっ、と笑い一瞬で詰め寄ったかと思えば傷付けられた自身の体。それに驚く間もなく次の攻撃に備えると、抱き留めていた麗奈が居ない事に気付きはっとなる。
「遅い」
「っ!!」
顔面に蹴りが来るのを剣で受け止めれば、衝撃が全体に響き受け止めているはずの自分の方が地面に沈んでいる。すぐに横殴りの衝撃がラウルを襲い岩壁に叩きつけられる。
「ラウルさん!!!」
麗奈は黒い球体の中に閉じ込められていた。ガンガンと扉を叩くようにしているも球体はビクともせずに反響するだけ。段々と息がしづらくなっている事に焦り、ラウルが危ない目に合っている事に思考が追い付かない。
「止めて下さい!!付いていきますから、だからラウルさんを傷付けないで下さい!!!」
「………だってさ。彼女はああ言っているけど、君退かないんだよね」
「ったり、まえだ!!!」
既に再生している腕にやれやれと言った感じの魔族。ラウルはそれに構う事無く刃に魔力を通せば、剣は水色の光を帯び蛇腹の剣を広げる。そのまま魔族に襲い掛かり黒い球体へと亀裂が走る。
「ちっ………」
自分を襲うものではなくあくまでも捕まっている彼女の為のものだと分かり舌打ちし、殺す為に心臓へと腕を振り下ろす。そこにユリウスが割込み辺りが一面の黒へと変化した。




