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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第5章:虹の契約者
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第176話:精霊との絆


 サスティスが現れた場所は、ザジの居る所。呪いで苦しんでいる麗奈が居て、傍には父親の誠一が治療を受けている。

 その気配を感じ取ったノームは鋭く睨むも、相手が死神だと分かるとすぐに戦闘に戻っていった。




「今、どうなっているの?」

「……見ての通りだ。移動するのを止めて、ここで防衛を続けている。移動すればするほど、印としてつけた呪いが強くなる。……居場所を突き止められ続けるんだ」

「マーキングって事か。忌々しい」




 呪いが発動する度に、自分の居場所を知らせる魔力を発生させる。

 ノームが何度も転移を繰り返すも、魔物と魔族が必ずいる。その度に麗奈が苦し気に息を吐く。

 体の負担を考え、移動を諦めれば次に来るのは襲い掛かる大軍だ。


 アルベルトとジグルドが同時に地面に手を置けば、床が砂に変わり岩を作り出して壁を作る。

 呪いの解除にはどうしても青龍とノームが、同時に処理をしないと出来ない。たが、相手がそれを許してくれるだけの隙を与えるとは思えない。


 今も青龍の結界と、ノームの防御魔法により相手を近付かせないようにするのが精一杯。

 とても麗奈の呪いを解除する作業が出来る状況ではなかった。




「ザジ。彼女の手を握ってて、デューオから多少だけど戻して貰った」

「分かった」




 今まで額に置いていた手をそっと麗奈の手を握っては祈る。

 すると、不思議な事に荒かった呼吸が少しずつ和らいでいく。少なからず役に立てた事に、ザジはほっとしサスティスも安心したように息を吐いた。




「……何でアイツは、俺達の邪魔をしてきた」

「理由を素直に話すと思う? はぐらかされたけど、私達には最高のタイミングで介入して欲しんだって。それがいつなのか相変わらず言わないけどね」

「まぁ、いつもの事か。けど、今は感謝だ。……少しでもちょっとでもいい。負担を少しでも減らせればなんだっていい」




 心の底から安堵したザジに、サスティスは大事な人と言うのは彼女の事だろうと言った。

 また何も答えないだろうと思ったのに、答えは意外にも早くそして簡潔だった。




「そうだ。……俺が何を犠牲にしても守りたい存在だ。それだけは間違いない」

「その事を彼女には言わない気でいるの?」

「はは、無理だ。だって()()()()()。俺は覚えていても、向こうは覚えてないんだ。でもそれでいい。……俺の事なんか忘れて良いんだ」

「そんな事……」

「だから頼む。サスティス……お願いだからこの事は言わないでくれ。俺がいつだって願うのは、コイツの笑顔と幸せだ。そこに俺が入っていたらダメなんだ」

「そう。そこまでの覚悟を、君は持っているんだね」




 ザジから何かをお願いされるとは思わなかった。

 しかも、この事は言わないでくれというもの。そこにどんな覚悟を持っているのか計り知れない。ただ、意思の固さから見るに前々から決めていた。


 そう読み取れる。悲し気に顔を歪めながらも、ザジの願いに了承した。




「悪いな。変な事をお願いして」

「良いよ別に。……君と居るのは楽しいし、何かお返しが出来ないかって思ってたんだ。協力はするよ」




 本当なら言うべきなのだろう。

 忘れたとは言え、きっかけがあれば思い出せる。でも、いつも見せない笑顔を向けられてしまっては……サスティスは応えるしかなくなる。


 相棒として組んできたからこそ分かる。

 こんな気持ちになるのなら、もっと早くにお互いの事を知っておくべきだったと――。



======



「うっ……。ここは」




 意識が浮上し、自分の事を覗いてくるものに見覚えがあった。

 白くてフヨフヨと不自然な動きを見せる8本の足と、熱を測る様にペタペタと触れて来る2本の腕。

そこに《主殿》と呼ぶ声に、やっと寝ぼけていた頭が覚醒していく。





「ポセイ……ドン?」

「起きたか。気分はどんな感じなんだ」




 そこに新たにかかる声。

 視線を向けるとそこに居た人物に思わず「何故?」と疑問を口にしていた。




「自分の体調より、俺が居る方が不思議か。……全く麗奈もだが、もっと自分の事に目を向けろ」




 水色の短髪に少しきつい印象の目。

 いつも麗奈の傍におり、ハルヒが勝手に敵対していた人物――ラウルが溜め息を吐きながらそう答えていた。


 いつも腰に下げていた剣はなく、見ていた服も違っていた。

 頭がズキズキとする中でも、どうにかして起き上がり何処なのかと聞いてみると城の中だと答えた。




「ここは魔王城だろう。俺はその手前しか行けてないが、気付いたら中に入れていた。……正直、今でも信じられない。こうして生きているって事に」

「どういうこと?」




 そう質問をした時に気付いた。

 ラウルの傍には、小さな狼がいた。精霊を連れているのは知っていた。フェンリルの分身とも呼べる存在で、既に独立しラウルの傍に居ると決めた。


 だからだろうか。その見た目が、子供のように見えた。ただ、そんな狼の様子がおかしい事にもすぐに気付く。


 耳をペタリと折り曲げ、心なしかしょんぼりとしている様子。




「ねぇ、君の精霊……元気がないんだけど、原因は分かっているの?」




 すると、ピクリと耳を動かす。段々と顔を上げていくその狼は、ハルヒに気付いたのか目を輝かせた。

 嫌な予感がする。そう思った時には勢いよく突撃され、押し倒されては嬉しそうに匂いを嗅がれる。ポセイドンが止めるように言っても、無視をし続けたその結果。


 自身の腕と足を使って動きを封じ《困っているから止してくれ》と脅した。その迫力にビクリと体を震わし、またもションボリと耳をペタンと折りたたんでしまった。




「……近くに、まだ居るのか」

「えっ」




 驚きを隠せないラウルの言葉に、今度はハルヒが困惑する番だ。

 そこから彼等は何があったのか話し合った。


 ラウルは因縁のある魔族、ラークとの戦いで自分の魔力を相手に喰わせる戦法を取った。

 魔力を吸い取り、麗奈の血を飲んだ事で強力になっている事は分かっていた。だからこそ、その容量を超えるだけの魔力を与え続けた。


 自身の魔力も含め、使っている武器にも大量に注いだ。その結果――。




「あの時、俺は死ぬ覚悟を決めていた。自分の力を使ってでも、アイツは止める……いや、倒すべき敵だ。だから協力していた精霊がまだ居る事に驚きを隠せないでいる」

「……なにその自滅方法」




 その間、子供の狼は悲し気に鳴いてはハルヒの周りをウロウロと回っていた。

 ポセイドンが話しかけ、どうしたんだと優し気に聞く。その態度に、イカと狼だけど元は同じ精霊という部類なら兄弟のようなものかと考える。


 実際、ポセイドンは世話を焼こうと自身の手を動かしマッサージをしながら話を聞いている。

 リラックスした状態なのか、凄く甘えている様子に精霊だからこそ成り立っているんだなと思った。


 呆れながらも、ポセイドンに「弟が出来て嬉しい?」と聞けば彼は頷き《兄として世話をするのは当たり前だ》とドヤ顔すら披露した。




(生まれた順番なら、確かにポセイドンは上……なのか?)




 深く追求するのは止めようと考え、その光景を微笑ましく見ている。

 一方で精霊が見えなくなっているラウルは、その原因が分かっていた。その恩恵は、麗奈が作った魔道具だ。

 魔力を底上げする効果があり、元から力が強いラウルには上乗せとして精霊が見えるまでに成長した。逆に言えばその魔道具がなければ、今のラウルにはその存在を感知できない。


 そう思っていたが、実は密かに見守られている感覚もあった。

 自身に寄り添うような温かい力。だが、自分が起こした行動を思うと信じる事が出来ないでいた。




「悪いが、俺が声を掛けなかったらあのまま死んでた癖に。自分だって似た様なものなんだからお互い様だ」




 ごまかすように話題を変えれば、ハルヒは途端に「げっ」と嫌な顔をした。青ざめ、自分の発言に気付いた。認めたくないと思ったのか、彼は早口で答えていく。




「うわっ。あの時、僕に諦めるなって言ったの君なの!? うわっ、なにそれ。嫌いな奴に手を伸ばしたのかと思うと……うげ、寒気がする」

「そこまで清々しく、嫌われると思うと逆に殴りたくなる!!! いや、殴らせろ!!!」

『待って!!! 主、謝ってよ。彼のお陰で助けられたのは事実なんだから』




 間に割って入った破軍が、ハルヒに謝る様にと何度も言う。しかし、彼はそれを無視しラウルから離れる。意地でも認めない態度に、ラウルは舌打ちし「勝手にしろ」とそっぽを向いた。




『あぁ、もう。素直になればいいものを……。君、本当にれいちゃんとゆきちゃんの前だけは素直なんだから』

「当たり前でしょ。付き合いは長いんだし」

『主の代わりに謝るね。でも、お礼も言わせてね? あの時、手を伸ばしてくれなかったら、声を掛けてくれなかったら……確実に主は死んでた。それは事実だからさ』

「ふんっ。知っている人が死にかけていたら、麗奈に申し訳ないからな。目覚めが悪いし、気まぐれだ」

「なら、謝る必要はないよね」

「そこは謝れよ!!!」




 互いに睨み合い、顔も合わせたくないのかすぐに背けた。

 破軍は呆れた上に『似た者同士……だよね』と余計な一言。それに反応した2人は同時に違うと答え、真似するなとまで同じタイミングで答えた。


 その時、バン!! と激しい音を立てながら誰かが入ってくる。身構えた2人だったが、知っている人物にすぐに警戒を解いた。




「……う、そ。なんで……」

「ラウルッ。本当にラウルなのか!!!」




 驚きの表情でその場に立ち尽くしたのは、ゆきとヤクル。彼等と共に来ていたドラゴンは人型になっており状況を上手く把握できていない。

 ラウルが生きていた事に喜び駆け寄ったヤクル。その後ろからゆきが勢いよく飛び付き、2人分の体重がかかった事で頭を打ち付けた。


 痛がるラウルの様子に、生きている事を実感した2人は同時に泣き出していた。

 それから落ち着くまで時間がかかる中、精霊とドラゴンはお互いに情報のすり合わせをしていたのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ラウルとハルヒの無事が確認できて、 喜ばしい場面なのに、この二人の仲の悪さはもう(笑) とにかく合流できて良かったです。 [一言] 更新お疲れ様です。 大忙しい中での、連続投稿ぶりに、 垢…
2020/12/16 07:05 退会済み
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