第175話:説明のつかない行動
状況の変化は続いていく。
集わなかった4大精霊が1つの場所に集結し、大きな戦いを終わらせる為、1人の異世界人を助ける為に動いた。
表舞台に姿を消していたドーワフの戦士が動いた。
これも1人の異世界人の為に、だ。
「……影響力なのか、あの子の人柄に惹かれてなのか。君達、必死だね」
「うる、さいっ……!!! いい加減に、力を戻せ。デューオ」
創造主を睨んでいるのは、死神のサスティス。彼もまたザジと同じく、急に力を奪われ無力にされた。彼の目の前に映る水晶には、未だ悔しさに顔を歪めたザジの姿がある。
近くに居て、ただ1人を助ける為に感情と全ての記憶を取り戻したザジ。
サスティスはその繋がりを見て、やはり彼も麗奈と同じ異世界人だという結論に至っている。だが、ザジ自身が話す事をしないので無理には聞かない。
お互いに秘密があっても、干渉しない関係でもいい。
サスティスが人を見る目は、魔王の時から養われていた。それは、ランセと同じく国を支える王として自覚と資質。それらの経験から、彼はザジを好いていた。
他と空気が違う。
纏う雰囲気が違うからこそ、自分に干渉しようとは思わない。基本、2人1組で動く死神。サスティスはしょうがないからと選んだが、その結果――彼自身にも確実な変化があった。
その事実に驚き、死神にまでなったのは復讐の為。
サスクールを倒すのは、世界の平和でもなんでもない。ただの自己満足で、八つ当たり。どんなに時間が過ぎようとも、何百年と過ぎようとも死んだ自分には関係のない。
どこまでも追い、確実に殺す。ただ、それだけの筈だった。
「私達の力を封じたのは何故だ!? 彼女に掛けられた呪いを解かれるのが、そんなに都合が悪いのか!!!」
「……」
「死に際に放った呪いでも関係ない。私達はお前の力を貰って行動している。この世界を作った神様なら、どんなものでも通じない。なら――」
「いつから自分の物だって、思ってたの?」
「っ……!!!」
咄嗟に言葉が出てこなかった。
同じ創造主のフィルと共に状況を静観していたデューオは、静かにただ事実だけをサスティスに伝えた。
「自分でもよく分かってるじゃない。君達の力は、本来なら私の物だ。そうだと理解しているのに、いつからその力が自分の物だと勘違いしていたの」
「そん、なの……」
「思えば君も影響を受けていたよね。ザジと仲良くしている彼女が羨ましい? それとも、今まで死者として自覚があったのに、自分達が見えるあの子を大事にしたいと思ったの。見張れとは言ったが必要以上に干渉して良いだなんて……いつから勘違いしていたの?」
思い当たる節があり過ぎて、反論が出来ない。
喉が渇く感覚が起こり、思わず口を抑えた。
いつから、影響を受けていたのか?
そんなの決まっている。初めて麗奈と会ったのは、ディルバーレル国の領土内で起きた泉の精霊を葬った時。
時間がかかり初めて、自分達を正しく認識したのが麗奈だ。あの衝撃を忘れようとしたって出来る筈がない。
(あの子は……私達が死者だと分かっても、変わらずに接してきた。生前と何ら変わらない、普通の対応。そんな当たり前を見せられたら、勘違いしてしまうっ)
死者は触れられない。
それは絶対に変わらないもの。だが、麗奈はザジとサスティスを認識し普通に触れて来た。彼女の傍には必ず青龍と黄龍が居た。
それは死者である自分達が、麗奈に害を及ぼさないように護衛をしていたから。
恐らく彼等にだって注意を受けていた筈だ。
だけど、麗奈は理解しているにも関わらず話しかけた。なんなら、自分達に気を使って人の居ない場所まで来てくれたこともある。
そして、そんな自分達に彼女はお礼としてプレゼントまで渡して来た。
「あの……。何で、これを私達に?」
「え、だって助けてくれたじゃないですか」
「それは結果的に、だよ。私達の仕事なんだから、別に」
「良いんです!! 私がしたいって思ったんですから。思った時に行動をしておかないと、あとで後悔しても遅いんです。だから早め早めです」
ディルバーレル国での死神の介入は例外だ。
この世から魔法が消えれば、いよいよサスクールが暴れ回る状態を整えられてしまう。事前に止められれば止める。
だから、本来の仕事とはかけ離れた事をした。
麗奈とハルヒがユウトによって、攫われたのを助けたのだってただの偶然。
でも、彼女はそれと関係なくお礼をしたいのだと言い切り渡されてしまった。
渡されても掴む事すら叶わない。だが、この時だけはちゃんと触れられた。
ブレスレットを付け、その重みに久々に生を感じた。
「お仕事頑張って下さいね。サスティスさん達を悪く言う人が居ても、私はそんな事を思いません。優しくてカッコよくて、話していて楽しい人達なんです。例え嫌いな仕事でも、ちゃんと目的があって行動しているんでしょ? だったらその信念を曲げるのは良くないですよ」
「あ、えっと……。もういい。そんなに褒めないで!!! 反応に、困るから……」
「お前すげーな。コイツが顔を真っ赤にするのなんて、初めて見たわ。やっぱ、おもしれー」
「ザジも、君も黙ってて!!!」
その後は久々に説教をしてしまった。
麗奈もザジも、お互いに笑いながらもそれを黙って受け入れた。2人には、それがサスティスの照れ隠しだというのが分かっていたから。
そんな変化が分かる位には、彼女と交流を交わしていた。
例え一瞬であろうとも、少しの時間であろうとも。誰かと関わるのが、楽しい事だと言うの感覚。
ちょっとした変化。だけど、確実にその変化はサスティスを変えザジをも変えていった。
これは紛れもない事実。曲げる事は誰にも出来ない。
例えその相手が創造主であろうとも――。
「何が悪い……。あの子を大事にしたいって思うのが、何がいけない!!! 駒だという自覚はある。それは願いを叶える為だ。でも、何を犠牲にしてもいいと思っていた時にあの子に会ってしまった。影響されたさ。彼女は真っすぐで、なのに自分の事になると脆くなるし。危なっかしいし……守りたいって思う事がそんなにいけない事なのか」
こうしている間にも、ザジは何も出来ない無力さに晒されている。それはサスティスだって同じ気持ちだ。
取り返しのつかない事になる前に止める。
麗奈が与えた影響はあまりにも大きすぎる。それぞれが動いている中で、間に合わなかったでは済まされない。いや、済ましたくないのだ。
「ランセに死神の鎌を渡したのが、そんなにいけない事か? それなら静観を貫いてないで、さっさと止めれば良いだろう。そうしなかった判断ミスがここに繋がっている。罰は喜んで受ける。……だからザジだけは元に戻せ!!! 死んでいる存在の私が消えて気が済むならやればいい。その覚悟はいつだって持っている」
さっさとやれと睨む。
そんな行動にフィーは口笛を吹き、デューオの様子を見る。お互いの世界に干渉はしない。世界を作った創造主は、管理し見守るという義務が発生している。だが、状況を見るだけなら別に構わない。
とは言え、フィーはデューオの世界の変化は楽しいと感じる。
それも1人の異世界人にこうも振り回されているのだ。恐らく本人にそんな自覚はなくても、不思議な位に変化は起きている。
助けないけど、楽しく見守るぜと視線で訴えるとデューオが忌々しいとばかりに睨み返した。
「君の存在を消した程度で収まる訳ないだろ。君等には、最高のタイミングで介入して貰うんだ。それまで待機。相手を憎み続けてくれると助かるよ。ザジにもそう言って良いから、自由に何でもやってな」
パリンと水晶の1つが砕けていく。砕けた欠片はサスティスの元へと集まり、瞬時に魔方陣を形成した。
「!!!」
身構えるサスティスとは逆に、デューオは笑顔で手を振った。
「今まで通り、場をかき乱してくれたらいいから。嫌いな奴に妨害するのも良いし、ザジに伝えてから行動するのもありって事で」
「どういう――」
文句を言う前に、サスティスは転送された。
何とも強引なやり方に、フィルは大笑いをし別の人物が会話に入って来た。
「あら、拗ねてた死神を送る事にしたの。部下をコントロール出来ないなんて、上司としてどうなのよ」
「その割にはすっごい楽しそうだね」
金の粒子を纏い姿を見せたのは、冥界の王であるエレキ。彼女は失敗しているデューオを見るのが楽しくてしょうがない。
堂々と観戦に参加するエレキに、デューオはまたも嫌な顔をした。
「居座る気?」
「別に良いでしょ? この戦いで亡くなった魂は、ちゃんと冥界に導かれているし部下達に任しても平気。アンタとは違って教育はちゃんとしてるもの」
「はいはい。サスティスとどんな取引したのか敢えて聞かないけども、好きにして良いよ」
ピクッとエレキの肩が動く。
フィルは見て見ぬフリをしていたのに、と思いながらこういう所がエレキが嫌いな部分だろうと結論づけた。
「やっぱ、アンタなんて大っ嫌い!!!」
その怒りの矛先は、デューオと口を挟まなかったフィルへと向けられた。理不尽な雷に打たれながらも、同期のよしみとして甘んじて受け入れる事にした。
しかし、気絶するまで打ち続けるのは流石に酷いだろう……。そう思わずにはいられなかったが、口は出さないでいた。




