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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第1章:陰陽師と異世界
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第16話:選択

「どういうつもりか説明してくれるよな、宰相」

「……いきなりなんなのかな、フリーゲさん」



 仕事場に乱暴に入るフリーゲ。ウォームに直接城に戻して貰いその足は自然と全部知っているであろう相手に向かっていた。宰相のイーナスはよそ者であり、ユリウスの兄を殺す為に来た暗殺者であるが、キールにより無理矢理宰相にさせられた可哀想な奴でもある。



 だが、今のフリーゲにそんな印象は持っていない。頭の回転も早く先を見る目は持っている上に自分にはない戦闘での経験がある。この8年、弟のユリウスを陛下として育て、キールが居ない間の魔道隊の編成と兵士達の訓練、騎士団同士での連携など残した実績は凄く数え切れない。これでは宰相では軍師と呼ぶべきかもしれないが……。



 そんな彼が、精霊の言う王族にかかる呪いを知らないはずがない。そして自分にも言わなかった事。恐らく自分と同じように知らしていない者達が居るのが確定している。それが異世界から来た麗奈達、同年代の兵士や陛下よりも年下の者達、下手をすれば城で働いている食堂の人達、使用人、警備兵など………極秘のものなのだから、知っている人数は少ないにこしたことはない。だが、とフリーゲは怒りで宰相の胸倉を掴む。



「アンタの実力は知ってる。この国に身を削ってまで守ろうとしてくれてるんだ。俺は気に入らないが、陛下が信用してるから信用したんだ………国が滅ぶのを、陛下が死ぬのを黙って見てろってか」

「……精霊に聞いたのか。確かに彼等は私達よりも知識は豊富だ。………悪いけど、君に言うなって言ったのは前の薬師長だからね。私は言った方が良いと進言したんだよ」

「なん、だと……」



 前の薬師長、それは自分の父親だ。突然、自分にこの仕事を押し付けて何処かに消えた顔も思い出したくない父親。嫌な物を思い出し舌打ちしながら突き放す。



「失礼します、宰相!!緊急事態です、城下町、村や町に魔物が出現しています」

「柱の近くに大量の魔物が出現したと確認されています。それと女性ばかり連れ去られてると言う報告もあがり、騎士団が対応していますが数が足りません!!!」



 乱暴に入って来た兵士達から告げられた報告。魔物が城下町、その周辺の町や村にまで現れた事に驚きを隠せなかった。魔物は柱にしか向かわないはずだ、なのに何で街中で現れた……と疑問が浮かぶも、イーナスは指示を出し身支度をする。



「魔道隊の人達を中心に住民の回収。魔道隊には例の魔法の準備を進めるように言ってきて。それと麗奈ちゃんとゆきちゃんには城に留まる様に言って。狙いは彼女達だろうからね」

「っ、すみません、ユリウス陛下が居ません!!恐らく魔物討伐に行かれたのかと思われます」

「陛下は私が連れ戻す。フリーゲさん、貴方の疑問に答えますがまずは国を守るのが先決だ。………貴方にも働いて貰いますよ?」



 ニコリ、と有無を言わせない笑顔に舌打ちし頭をガシガシとかく。既に兵士達は宰相の指示で動いている為に部屋には居ない……と言うか何で分かるんだよと睨む。その雰囲気の中恐る恐る入るのはフリーゲの部下達だ。指示を待つような、自分達にも何か出来るかと訴えている目だ。



「すぐに回復薬を持ってこい!!避難してきた住民を優先して案内しろ。怪我の具合が重いものから治療を優先して俺の所に連れて来い。子供達が泣いてたらお前達が相手して和ませろ。何か分からない事があれば俺に聞きに来いと全員に伝えろ、急げ!!!」



 は、はい!!!と慌てたように居なくなり一気に静かになる。イーナスは剣を持ち「ここは頼むね」と言い自分は陛下を探しに城を出る。自分の事を怒った相手に軽々しく頼むと言ってきた年下にちっ、と面倒なと思いながらもこの事態を予想していたと思われるイーナスに心の底から恐ろしいと思った。アイツやっぱり宰相より、軍師だろと心の中でツッコんだ。




==========


『主人、次はあれだ』

「九尾は空の奴を叩け、下は私が相手する」

『了解!!』



 誠一はたまたま城下町から離れた村に来ていた。北の森には海が広がっていると聞き、では近くに人は住んでいるのかと思い近くに居た兵士に聞けば海鮮物が多いのは彼等の漁業のお陰であると答えた為に興味があった。


 裕二を無理矢理に連れ出して行き、船はどんなものか、と見ようとして突如空から襲ってきた魔物の攻撃をかわしそのまま倒した。



(魔法か私達の陰陽道で倒せる。的は……まぁ、狙えば良いな)



 麗奈から言われた緑色の正方形。それが魔物の核なのでは?と麗奈に言われて自分も魔物と対峙してみた。娘の言う様に急に見えるようになった魔物の核と思われるもの。 


 裕二にも少しだけ見えているらしく、ゆきに聞いたら見えないと言い武彦にも聞いたら彼にも見えたと言う答えが返ってきた。



(陰陽師にしか見えていないもの、か。型の通りにやるのは得意だ)



 緑色の核を狙う様にして空間を固定。滅と言えばそこから爆散し、そのまま粒子となって消えていく魔物。後ろから風の矢が降り注ぎ動きを止めるようにして隙を作った瞬間に同じように結界で魔物を倒していく。



「援護すまないな、ベール君」

「いえ、こちらも助かります。誠一さんがこちら奮闘していると聞き急いで来ました」

「魔物の相手は出来るが誘導は出来ない。頼めるかね」

「それは妹のフィルに任せて来ましたので大丈夫です」

「きゃああああああ!!!」



 近くで聞こえた女性の悲鳴に九尾が魔物の動きを止め誠一が結界で倒す。鳥の魔物に捕まっていた女性はそのまま下に落下するも九尾に受け止められる。誠一達の所に向かえば恐怖で震えていた体が段々と収まっていく。



「す、すみま、せん……あ、ありが、ありがとう、ございます」

「いえ、今兵士達の案内で城へと案内します。私に寄りかかって下さい」



 ベールの優しい笑みにほっとしたのか女性は「黒い髪……」と誠一の髪を見て驚いてた。聞けばあの魔物は黒髪、黒目と言葉を発しながら自分を何処かに連れて行こうとしていた、とポツリポツリと話してくれた。



「黒髪、黒い目……確かにそう言ったんですね」

「は、はい………」

『主人、すぐに嬢ちゃん達を探すぞ。乗ってくれ!!』

「裕二、ここは任せる。ベール君と協力して防衛だ」

「分かりました、気を付けて下さい!!」



 九尾に乗り雷雲を発生させる。そこに自分の得意な雷の気を流し打ち込めば、ここら一帯に居た魔物達を同時に消滅させていく。怨霊達の大軍も何度か街に来た事もあり、それをやる要領で魔物を倒す誠一に、ベールは唖然とし慣れているのかと聞けば笑顔で慣れてますと言われる。



「麗奈さん達は1人で大軍に向かないといけないので……使える人達がここよりもかなり少ないので負担が凄いのでもう慣れです」

「………そう、だったんですか。多勢には慣れているんですね」



 祐二は城まで転送を行う魔道隊の人達の所まで女性を連れていき、ベールはまた空を埋め尽くす程の魔物を見てやれやれと溜息を混じりに葬っていく。



「ここの防衛は私よりセクトの方が良いのですが……まぁ仕方ない。護ってみせますよ。水の加護が無くてもね」 




===========


「出れないってどう言う事です!?」

「い、いえ、出れないではなく治癒の手伝いをして欲しいのですゆき様」



 魔道隊の人達がせわしなく住民の転送を繰り返していく中、ゆきは自分も城の外に出ると言い慌てたように魔道隊の部隊長であるレーグが説明をした。実際、ゆきと麗奈を狙っている可能性がある、と既に通達は来ていたので嘘をついた。

 

 だが、実際に人手は足りない上、城に留まる理由としてはこれが一番。彼女は料理も出来るし、周りの兵士達との連携も出来る。城に魔物が来ない限りは彼女は安全と判断したレーグは悪いと思いつつも、何とか彼女を城に留まらせる。



「……で、でも、麗奈ちゃんの姿が見えません。絶対、私より麗奈ちゃんを心配すべきです」

「…………」

  


 その通り、とガクリとなる。実際、麗奈も精霊・ウォームの転送で城に戻って来た。彼もそれを確認した、ヤクル団長と共に戻りそしてすぐに消えた。実際は風魔に跨りそのまま空へと消えたのだが……。


 彼女の行動などお見通しかと思うもここで彼女まで城から出す事をしたら、あとで宰相と師団長の2人から何を言われるか……罰を受けるのが確定しているよな感じになり心が先に折れそうだ。



「ゆき嬢ちゃんここに居たなら都合が良い、俺の手伝いしろ」

「え、フリーゲさ……きゃあああ!!!」



 急いでいたのかゆきを乱暴に連れ出すフリーゲに心の中で感謝しつつ住民の転送を優先に動こうとすれば走って来たセクト団長とイール副団長に状況を説明するように求められる。



「はっ、ゆき様は今フリーゲ様により城に固定。麗奈様はヤクル騎士団長と共に南の柱に向かっていると報告を受けましたので恐らく魔物の大軍を相手にする気です。西の柱にはリーグ騎士団長率いる兵士達が防衛と住民の安全確保をしており、北の柱にはベール騎士団長が1人で魔物達を止めています。フィル副団長を中心に全ての人達を回収の確認が出来ています」


「おい、ベールが1人って何でそんな負担の仕方」

「誠一様に頼まれた、とか……。裕二様もサポートしてると」

「あれ、あのおじいちゃんはどうしたんだ?」

「武彦様はここで結界の維持と麗奈様達の探知を担当しています。それによれば、誠一様は九尾様と共に東の柱に向かっていると報告を受けています。陛下は麗奈様と同じ南の柱に向かいながら魔物の討伐、宰相はそれを追いかけています」

「キール師団長は?」


 

 イールは名前の出ていない師団長の事を聞いた。すると、レーグは視線を逸らし「うさ晴らしなのか……1人で」と何故か消えそうな声で言いセクトがもう一度、と報告を促す。



「キール師団長は………我々の魔法の生成が終わるまで、時間稼ぎで一番多く出現している城下町の防衛をしています。確認された魔族の数は3つで……その内の1つの首を撥ねたとか……お、恐ろしいですあの人」

「またか……あの人首切りが得意なのか」

「魔法の生成と言ったね。一体何をする気なんだい?」



 首を撥ねた、をスルーした彼女に女性怖いと内心で思う男性2人。今、自分達が行う魔法は柱の力を利用した大規模な結界生成魔法だと言う。



「武彦様が空間の固定をし、我々が魔力を注ぐ。柱の位置をリンクして魔物達を一掃する魔法を行います。師団長と宰相が考え陰陽師の彼等の協力で発案されたものです」

「……あの2人が考えた時点で怖いんだけど」

「それで城ごと吹っ飛ばされないよな?」

「そんな事言わないで下さい。我々だって命掛けてるんですから!!」



 レーグの訴えに同情しながらも、自分達は城の防衛だなと乗り出すセクトにイールは呆れながらも付き合う。ラウルの動向が気になるが、彼ならきっと上手くやると確信しながらも拭えない不安が彼女を襲った。




=========


「ここで良い麗奈。あとは俺がここを片付ける」

「お願いね、ヤクル」

『主、あっちに嫌な気がある。向かうよね?』

「うん、一番嫌な感じの気。ヤクルも気を付けて」

「麗奈と風魔もだ。俺も片付けたらすぐに向かう!!」



 南の柱に辿り着いた彼等は、その周りで柱を壊そうとする魔物達を確認した。風魔から飛び降りたヤクルはそのまま炎を纏って着地、土煙が上がりながらも周囲の温度が急に上がる。



「ここは俺の領域だ、勝手に来たお前達には出て行ってもらう。消えろ!!」



 剣を横一線に振る。炎がそのまま魔物達を飲み込みながら突き進む。


 蛇のような動きの炎に柱に纏わりついていた魔物達も消し炭にしていく。麗奈は凄いと思いながら自分達が感じた方角へと向ける。ここはもうヤクルに任せても良い、と風魔を急がせて辿り着いたのは崖下の窪地(くぼち)


 そこには連れ去れらたと思われる女性達が寄り添うようにして集められていた。ギョロリ、と顔と体が一体化したような魔物は女性達の周りを飛び逃げられないように旋回している。

 それが全部で5匹、その中心には不思議な男性と思しき人物が居た。女性を見る目は観察するように、何かをブツブツと言いながら何回もその場を往復している。

 着ている紳士服は18世紀のイギリスを思わせるような格好でシルクハットを深く被っているのか表情は分からない。



(あの人……魔物と何か違う感じがする)

『主、一旦離れて誰でも良いから団長に知らせよう』

「……だね、ヤクルが離れた所に居るからすぐに分かると思うけど」



 バチィ!!と何かが弾き自分が引っ張られる感覚に思わず目を瞑る。来た衝撃は地面をめり込み体がある事に疑念が浮かぶ。集められた女性達が悲鳴を上げれば釣られたように魔物達も声を上げる。



(っ、なに、が………)



 頭を打ったような衝撃にクラクラする。ぼやける視線を必死で元に戻そうとし自分の目の前に歩いてきた男性はニヤリとする。そのまま麗奈の首を持ち軽々と体を持ち上げる。苦しそうにする麗奈に「あぁ、貴方だ」とようやく見つけた、と言わんばかりに歓喜に満ちたような声が妙に気持ち悪い。



「黒い髪に黒い瞳、キメラに映ったのは貴方で間違いないですね。……初めまして魔王様から貴方を連れてくるように言われた者です。あの女性達は貴方を見付ける為に集めて来ましたが……まさか自分から来るなんて思わなかったな」

「っ、うぐっ……」

「あ、すみません、つい加減が」



 パっと手を離せば重力に逆らわず下に落とされる。ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ、と呼吸を整えようとするも未だに視線がぼやける麗奈には訳が分からない。だが、聞こえた言葉は理解できた。


 自分を探していた、魔王から自分を連れてくるように言われた……。



(私の、所為……?)



 呼吸を整えようとしながらも、相手の言葉に突き付けられた事態に呑み込みが出来ないのかずっと息苦しい。早く、早く、と言う事を聞かせようとするも体はそれに反してまったく動こうとしない。



「ふふっ、良いですねその顔。訳が分からない、この事態は自分所為、では巻き込んだのは……と迷い苦しむ様は良いです。その表情、私は好きです」

「っ………」

「ではもっと苦しんで下さい。素直にすればあの女性達は助けます。私は何もしない、拒否すれば目の前であの方々達が死ぬ。貴方の所為で、関係のない人が死ぬ……どうします?貴方の選択で女性達の運命が決まります」


ーさぁ、どうします?決めるのは貴方ですー



 耳元で告げられた言葉に頭が真っ白になる。自分にあの人達の運命を決めろ、と言った。

 誰の助けも入らないこの場所で麗奈の出した選択は―――。


 

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