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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第5章:虹の契約者
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第172話:諦めた思い、見てしまった悲劇


 一方、魔族のユウトを倒した土御門 ハルヒのいる地下室では少しずつ崩壊が始まっていた。


 彼は重い体をどうにかして動かし、壁にもたれかかる様にして歩いている。

 土御門家の本家の人間で、異端な陰陽師。土御門 優斗は確かに倒した。その変化により、魔法の一時的な無効と魔族だけに力を与える、鮮血の月と呼ばれる現象を破壊、出来たはずなのだ。


 彼を倒せば、力を封じられていた麗奈を元に戻せる。


 だって、術者を倒せば発動していたものは全てなかったことになる。途中で組み上げられた術の源は、術者の霊力でしか発動しない。その原理が変わらない限り、ハルヒはそこに隙があると思った。

 彼を倒す為に、食らい付き、ポセイドンと破軍の力を借り、最後には彼女の式神である青龍にも助力をして貰った。


 だから、大丈夫なのだと。何度も、何度も自分の心の内に繰り返してきた。




「はあっ……はぁ……くそっ……」




 自分の力だけで倒せる相手ではないのは理解していた。


 向こうは死んでからも、この世界に転生され呪いの開発を続けて来た。一方でハルヒは分家に引き取られてからは、朝霧家に世話になりつつ遠縁の所で身を寄せていた。

 

 その間、霊力を鍛える修行は怠った事はない。

 弓、刀を形成するスピードを速くしたり、式神を素早く作り出す練習もしてきた。


 だが、それでも数百年という時間の壁には追い付けない。人間が生きる寿命はあまりにも短い。そんな差があると分かっていても、倒す理由はある。彼がハルヒの幼馴染である麗奈の力を封じている。


 彼女を自由にする為に。その為にここまで必死にやってきた。そんな思いを抱きながら歩き、グラグラと視界が揺れていく。立つことが叶わない。そう思った時には、プツンと糸が切れた様に倒れた。




《主殿!!!》

『ハルヒ、起きろ!!! 崩壊が始まってるんだ。このままだと死ぬぞ』



 

 倒れた彼に、声を掛けているのは契約を交わした大精霊と式神である、ポセイドンと破軍だ。


 ユウトに見せられていた過去は、ハルヒのトラウマを引き起こした。もう大丈夫だと思ってた所に、安心していた時にとんでもないものを見せられた。それが、すぐに術と魔法によるものだと分かってからは、打ち破った。


 その時に、ハルヒの霊力と魔力の2つを知らない間に削られていたのだ。幻術を見せられている時間が長ければ長いほど、奪われる量は増えていく。




(すぐに、術を連発したのが……ここにきて……)




 体に力が入らないのを悔しく思う一方で、何もかもユウトに踊らされていたのでは、と余計な事まで考えてしまう。打ち破ってすぐ、ハルヒがお守り代わりにしていた勾玉を砕いて強大な霊力を解放した。長年、自分の霊力を勾玉に溜めておくのは陰陽師にとって強い武器になる。


 怨霊に狙われやすい者に渡せば、その怨霊を退治し結界を張る力に。

 陰陽師が使えば、霊力を解放し新たな術式や術の上乗せも可能になる。


 これらは、ユウトが死んだ後に怨霊から身を守る対策として、陰陽師家の者達はそれぞれで霊力を溜める方法を生み出していた。


 その中で、朝霧家と土御門家は勾玉に霊力を封じるという方法をとった。自分自身を守る為のものでもあるし、怨霊によって苦しんでいる人達の助けにもなるようにと作り出した。だから、魔族のユウトは急に力が上がったハルヒを見て驚いていた。


 削った筈の力が、跳ね上がるようにして膨れ上がっていくのを。

 それでも、連発したハルヒの体には負担しかない。そう反省をしながら、どうにか立ち上がるも前を見て歩くのが段々と難しくなる。


 どうしても、弱気になってしまう。




「失敗、した……。全部、僕の勝手な想像で……」

『なにを……。今はそんな事どうでもいい!!! 早く――』

「だって……だって……」




 悔し気に唇を噛み、思い出すのは死にゆくユウトの言葉。

 呪いを放ったことで、解放されるはずの麗奈は更に苦しむことになるのだと。しかも、青龍の力を持っても絶対に解けないと自信をもって言い放たれた。


 最初は、負け惜しみだと思っていた。

 

 でも、もし本当にそうなのだしたら……。

 だとしたら自分がやってきた事は全て無駄になってしまうのか。そんな不安が支配し、進まなければと思う程に力が入らなくなる。




『それを確かめる為に生きろ、諦めるな!!!』

《破軍殿!? 姿が……!!》




 霊力を送ってる事で、この世に具現化を果たしている式神の破軍。

 そんな彼の姿が少しずつ、保てなくなる。そんな自分の姿に、破軍は思わず苛立ちを露わにした。




『くそっ……。ハルヒ、立って歩け!!! アイツの言葉が本当なのか確かめる必要がある。君は、それを確かめるまで死ぬんじゃない!!!』

「……でもっ」




 歩こうと立ち上がろうにも、既に拒絶されたように動かない。

 そして、上へと繋がる階段を見付ける。が、既に崩れた天井の瓦礫が散乱された後。今からポセイドンに頼んでも、間に合わないと判断しズルズルと壁を背にして座り込む。


 


「もう、無理だ……。上にはいけない」

『ポセイドン、君の力でどうにかならないのか』

《さっきからやっている!!! ウンディーネに連絡をとっているが、反応が一切ない。ここにも無効化の術式が仕掛けられているんだ》




 死神であるサスティスによってそれらの術式は破壊したが、呪いと同様に死んでも永続する仕掛けがいくつもある。今から解いても、地下室が保っていられる保証はない。何もかも間に合わないと判断し、彼はふと呟いた。




「……ごめん、れいちゃん」

『おい、何を――』

「悪い、破軍。ポセイドン……ここまで、ありがとう。不出来な主で本当に悪かった」

《主殿……》




 謝罪を口にし、使い手としてちゃんと出来ていなかったと反省する。

 麗奈の名前のあとには、ゆきの名前。朝霧家で世話になった武彦、裕二、誠一の名前を言い凄く満足したように笑った。

 それを見てしまえば、2人は途端に言葉を失くした。ポセイドンはしょんぼりとしたように、体をしぼませ破軍はハルヒを睨んだ。




「狐さんとは最後まで仲が悪かったね」

『生き延びて話せばいい。だから――』

「悪い……アウラ」




 崩壊した瓦礫がハルヒのいる所まで迫ってくる。

 元から逃げる気力もないのだか、そこまで追い詰めなくてもと思い、ハルヒはある事を思い出していた。それはこの世界に来て保護をしてくれた人物で、ハルヒと話したいと言ったアウラだ。




「ハルヒ様……と呼んでも良いですか?」




 そんな彼女は20歳まで生きられないと知り、呪いによって死を覚悟した同い年。そんな彼女に自分は、諦めるのはおかしいと言い放った事がある。


 今の自分の姿を見たら、彼女は一体何て言うのだろう。

 偉そうなことは言えないなと反省し、その機会がないのだと悟る。




「……謝ってばかりだね、ホント」




 それは麗奈にも言った言葉。

 異世界に来た時、彼女はゆきと共に来た。それを今まで、自分の所為だと責めていた彼女にハルヒはそんな事を考えなくて良いのだと言った事がある。

 

 今までの事を思い出していく中、ハルヒはここが自分の墓場なのだと理解していく。出口は1つしかなく、精霊の力を借りても逃げる場所がない。


 


「手を、こっちに伸ばせ!!!」




 そんな時に声が聞こえた。幻聴だと思った彼は、その声に耳を傾けないでいた。

 だが、彼に声をかけている人物はそのまま呼び続けた。目を閉じ、諦めていたハルヒはいよいよ自分がおかしくなったのだと思った。

 

 そんな声を、呼び続けている声を聞いていく内に手を伸ばしていく。

 方向は分からない。ただ、声は頭上から聞こえているような感じがした。頑張って手を伸ばした行動に驚きつつ、どこかで納得もしていた。


 死を覚悟しても、本当は死にたくない。


 伸ばした手は、確かに捕まれた。彼が見上げた先、誰が声を掛けて来たのだろうとぼんやりとした頭をフル回転させて上を見る。その先には――落ちて来る瓦礫が見え、意識がなくなったのは一瞬だった。

 



======



「ハルヒ、様……?」




 一方でアウラ達は、ノームの気配を追って城内を休憩しながら走っていた。

 その間、アウラは状況の把握を務めていた。世界各所、水辺のある所に存在するスライム。


 水の都であるダリューセク、魔法国家のラーグルング国、ディルバーレル国、そしてアウラの住んでいる国のニチリ。


 各国の状況を把握しつつ、ついハルヒを探していた。最後の最後まで、ゆっくり話す事もなくニチリを出て行った。少しでもいいから、無事な姿をと確認したかった。そんな思いが伝わったのか、不意に映ったハルヒの姿。

 

 安堵しつつ、その時のハルヒは戦っていた。それが実況のように、アウラの頭の中へと流れ込んでくる。だが、情報は来ても彼等の声は聞こえない。だから、敵を倒した筈のハルヒは様子がおかしかったことにはすぐに気付いた。


 こういう時に、声も聞こえればと強く思った。とにかくハルヒの居る場所を把握しよう。既に、部屋の崩壊が始まっているのも目に見えてしまったから。


 


「そ、んな……ハルヒ様、ハルヒ様っ……!!!」



 

 出口を失くされ、動きも止めたハルヒ。彼が何かの手を伸ばしたかと思えば、そんな彼に来たのは天井の瓦礫。彼に向かって落ちて来る光景を、自分も体験したかのような錯覚に陥った。


 そこで見ていた映像は途切れ、アウラの頬には涙が伝っていた。

 

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