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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第1章:陰陽師と異世界
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第15話:呪い

 ラーグルング国に来て、試験から既に一か月が経ったある日。朝、陛下であるユリウスは両手に剣を持ち相手に向かって打ち込む。打ち込まれた相手は難なく弾き、受け流すようにして全部自分に返ってきた。



「100回目の死亡」

「っ!!」



 それをなんとか受け切る間もなく剣を落とされ、はっと気付いた時には一回転した後。青い空が見えた……と思うと共にユリウスは宰相イーナスによりぶっ飛ばされた。




「おうおう、またど派手にやられたな陛下。あー、あー………まぁ、あんまり顔に怪我してないな。うん、うん、良かったな」



 そう言ってユリウスの体に塗り薬をするのはこの国の薬師長、フリーゲ・リーケバイン。


 彼の仕事場である研究所に来た2人はいつものように怪我を診て貰っている。剣術の訓練でユリウスが怪我をするのは習慣になっている為、フリーゲもいつものように仕事をこなす。ニヤニヤしながらだが……。


 服はきっちりと着込み髪も普通、清潔に保っているのに1週間もしたら、これがボサボサで服をだらしなくするのだからおかしい……と思うイーナスは静かに溜息を吐いた。



「顔にはやらないよ。国の顔に対して、怪我あんまり作らないようにしたんだし♪」

「…………」

「その割に打ち身多いぞ。体術使うなって、お前は剣術も凄いが体術の方が得意なんだし。当たり前か、暗殺者だもんな」

「その暗殺者に宰相させるアホが居るから困るよ」

「えーそれは私の事なのかな?」



 と、ニヤニヤしたままキールが入って来た。その後ろには麗奈とリーグが来ており、打ち身だらけのユリウスに持っていた荷物を落とし慌てて彼の元に急いだ。



「ユリィ!!どうしたの、その怪我!!!」

「誰がこんな酷い事したの!!!」

「っ、く、来るな!!!」

「すみません、陛下。俺の白衣返して……って聞こえる訳ないか」

「分かってて言う君も君だよね」 



 リーグはイーナスを睨み、キールとフリーゲはニヤニヤしながらこれを見ておりイーナスは笑顔で対応。


 麗奈は白衣を奪い取ろうとしながらもユリウスに拒否され続け、そこに入って来たヤクルとラウルは見なかった事にして、麗奈とリーグが落とした荷物を持ち暫く静かになるまで大人しく廊下で待っていた。



「今日精霊と直接会うんだね」



 麗奈が全員分の紅茶を用意し、ゆきお手製のサンドイッチを食べながら話を進めた。ヤクルとラウル、リーグは既に朝食を食べてきた後の為に断り座らずに話を聞いていた。聞けばフリーゲは元々この土地と精霊について調べたいと思っていた。


 しかし、召喚士で無ければ精霊の声は聞けず姿も見えない。

 この国で唯一の召喚士のキールに散々頼んだが、はぐらかされている内に8年も会わないままとなった。 

   


「あぁ。今まで誰かさんの所為で精霊の事は知ってても会えなかったからな。聞けば召喚士の資質のあるのが2人も居るって話じゃないか。だから麗奈嬢ちゃんに付いて行って精霊に色々と聞きたいんだよ。ゆき嬢ちゃんは魔道隊の人達と訓練中だしな……麗奈嬢ちゃんは精霊に会うって言うから、ついでに付いて行くんだよ」

「あははは、誰かさんで誰かな?」

「今目の前でナイフを振り回したお前だ、キール」

「キール様、ここで刃物を振り回さないで下さい」

「様、いらない。副団長はさん付けなんだから……そんな堅苦しいのいらない。次言ったら容赦しないよ」

「……了解、です。キールさん」

「うん、うん、素直なのは好きだよヤクル」



 身長がラウルと同じ185センチのヤクルが小さく見えるのは気のせいか…?と全員が同じ事を思う。リーグは柱の警備、ユリウスは痛む体を我慢し書類の整理、イーナスは兵士達からの報告書の処理と各々仕事に戻る中でキール達は東の森に行く準備を始める。


森に行くのには馬で行くのが早い。と、確かにそれは思ったのだがヤクル達が着々と準備をする中で麗奈は戦っていた……馬と睨めっこしている。ラウルは部下の兵士達に指示を出し団長のヤクルはキールとフリーゲとで今日一日の予定を確認していた。



「…………」



 互いに睨めっこなのか見つめ合っているのか……。最初に街に行こうと言われそこで初めての乗馬をした。それがその馬なのだが、どうもあれ以来この馬は自分を見るとずっと見つめ動かずにいる。普段は気性が荒く兵士達が抑えようとするも簡単に弾き返され乗り手のラウルが戻らない間はずっと暴れ回っている。


 ラウルが戻ればさっきまで暴れていたのが嘘のように大人しくなる為、彼はこの馬はいつも大人しいと言う印象しか持たず他の兵士達はいつも怪我をしているなと思うもその真実を言えないままだ。


 何度か言おうとしたが、馬が自分達を睨む目が……言ったら容赦しないぞ、と言わんばかりの目で見て来る為怪我もしたくないのでずっと黙っていたのだ。




「きゃっ……」

「行くぞ麗奈」



 ひょい、と麗奈を簡単に持ち上げ馬に乗せ自分も乗る。乗せたラウルは既に兵士達に指示を終えた後でヤクル達も話は終わったのか既に待っていた状態だ。


 高さが急に変わった事で思わず抱き付く麗奈に、ラウルはキョトンとしながらも「あぁ、すまん」と自分の馬が軽く暴れているのを撫で「森に行くぞ」と言えばピタリと収まる。




「………」

「ほら収まったからもう平気だぞ麗奈」

「うぅ………すみません」

「平気だ。麗奈の事が好きでなければこんな事しないさ」

「そ、そそそそうなんですか!?」

「あぁ、俺も初めてだ。この子が俺以外にこんなに懐くのは」

(あれで懐いてるのか……!?)




 どう見てもただの睨み合いなのにラウルから見ればじゃれ付く感じなのだろう。ヤクルはそれに気にした様子もなく2人元に急ぎ森へと進める。フリーゲは後ろに控えている兵士達を見て驚いた。彼等は何と言うか……微笑ましそうに見ている。


 あれ、お前等そんな顔するの?と思いながら見ているとキールは「雰囲気無いよね」と殺気にも似たような雰囲気になりビクリとなる。



「……ラウルもヤクルも天然だよね」

「そうだな………2人共女にはモテてるし対照的に見えるけど意外に仲良いし。あの会話も馬相手に言ってないなら……雰囲気が良いはずなんだけどな」

「……………」

「おいおいおい、怖い怖い怖い。んな殺気込めた目で見るなよ、分かったから分かったから………もう言わねえよ!!!」



 え、と麗奈達の視線を感じしまったとばかりにフリーゲにキールを睨めば既に彼の姿は居ない。代わりにヒラヒラと紙が麗奈の元に落ちて来た。そこには先に言ってるよ~と書かれていると、控えめに言う麗奈にラウルとヤクルは頭を抱えた。



「ふざけんな、バカ師団長めーーーーー!!!!」



 


 

=========


「遅いよ君達」

「遅いじゃねぇよ!!!お前、会話の途中で消えるなよ!!!!!」



 馬で走らせ森に着き、休んでいたキールを思い切り殴るフリーゲ。それ見ていた森の精霊のおじいちゃん、ウォームは笑いながら「おぉ、また騒がしくなるか。嬉しいのぅ」と髭を撫でながら言う。




「いたたっ、本気で殴らないでよ」

「バカ言えお前は本気でやろうがなかろうが、のほほんとする気だろうしな!!!誰かが手綱を引いとかないとダメだろうっての」

「それは陛下と主ちゃんにお願いしたから平気だよ」

「子供が大人の相手が出来る訳ないだろ、逃げんな!!!!」

「あ、あの、ラウルさん何で耳を塞ぐんですか?」

「……いや、君は聞かなくて良い。良いんだ」

「初めましてウォーム殿。自分は」

「おぉ、聞いてるよヤクル騎士団長だろ?副団長のラウルから聞いているし嬢ちゃんにも聞いてるからな。いやいやこの頃は本当に良い日々を過ごしているよ」

「はい、ありがとうございます…………!!」




 ヤクルは感極まってその場を動かずにおり、麗奈はラウルに支えられるようにして馬から降りた。ウォームは馬を木に括り付けたのを確認し、持っていた杖を一回転し世界を変える。


 一瞬にして麗奈が初めて会ったあの湖に降り立つ。一瞬落ちるのでは、と思ったフリーゲだが見えない足場があるのかコンッ、コンッと足で叩けば反響して返ってくる。




(一瞬で自分の領域に招いたり、湖の上に俺達全員を立たせたり………文献で見た通り、だな。魔法を何でもほいほい出してくるな)

「さて、何か大事そうな話だから場所を変えたんだが合ってるかな?」

「フリーゲ。用件言いなよ」

「お、おう、そうだな」



 その後はかなり自由に過ごした。麗奈は動物達と触れ合い、ラウルはそれを微笑ましく見ておりその横でヤクルは剣を素振り。キールはそれを呆れたように見ながらフリーゲとウォームとの会話を訝しげに見守った。



「………成程な。文献にしかないから実際会ってないが他の精霊は貴方と同じように穏やかなのか?」

「フォフォフォ、どうかな。まぁ、ワシは他の者達と違い穏やかかと言われれば穏やかかのぉ………あの試験でも実際に手を出したのはワシだけだし」

「……手を出した?」

「うむ、あの試験の事はお嬢さんのペンダントを通じで全部知っているからな。一応、お嬢さんにも北の森には行くなと警告したんだがのぉ……結果は知っての通り、変なキメラと鳥型の魔物が現れて大変な目に合った、だろ?ワシはちょっとだけ魔物ランクを下げる位しかやっていないがな」



 それを聞いて麗奈を睨めばそれに気付いたのか、ウサギを壁代わりに視線に逃れるようにしている。キールを見れば変わらずニコニコとしている……あれは知ってた顔だな、と確定したフリーゲは後で殴るわとウォームに約束した。



「……ふむ、それも知らないのか。ならこれも知らないな。今の陛下、次に巨大な力を使えば≪呪い≫が発動する。王族を苦しめているものが発動すれば、今度こそこの国は終わりを告げる」

「………は?」



 今、言った意味が分からず思わずウォームを見た。背が小さく今も目の前を浮かんでいる小さな老人、目は真剣さを帯びている為にこれが嘘でないのを物語っている。



「どういう意味だよ、それは!!!!!」



 フワフワとした空気はフリーゲの怒声によりピタリと止まる。素振りをしていたヤクルは目を丸くしキールは静かにため息を吐いた。麗奈は心配してフリーゲに近付く、見ればウォームの体を掴み今にも握りつぶしそうな勢いに思わず止めに入る。



「フリーゲさん!!一体、どうしたんです」

「………いや、何でも、ない………」



 その声にハッと我に返り手を放す。ウォームは苦しむでもなく憤るフリーゲに「すまんな」と一言。それでも睨むフリーゲに麗奈はビクリ、と体を震わせば帰らせろと言いすぐに姿を消す。



「主ちゃん達も、今日はもう帰った方が良いね。ごめん、アイツ結構沸点低いからなんか気に障る事でも言われたんだろう」

「は、はぁ………ごめんね、ウォーム。気分悪くさせたみたいで」

「いやいや、今のは仕方がないよ。またの機会にさせて貰う。ではな、お嬢さん方、特別に城に戻すぞ。馬も一緒に戻してあげる大サービスだ」

「すみません、団長。麗奈と一緒に戻って貰っていいですか。俺は用がありますから」

「分かった。麗奈……ぐふっ」



 突然、ウサギに鳩尾をタックルさせられ蹲るヤクル。ウサギに叱る麗奈姿を見た後でウォームは2人を城へと送る魔方陣を浮かび上がらせ光となって消えていく。動物達もただならない雰囲気を察したのか隅に固まる様に大人しくしている。



「何言ったの、ウォーム」

「お前さん方が隠している事だ。……あのお嬢さんにも言ってないようだったから、勝手に彼に話したよ」

「っ、何でそれを」

「当たり前だよラウル。……私達が生まれるも前にこの土地に根付き、国が栄えるのを見て来た精霊だ。勿論、今までの惨状だって知っているに決まっている………彼等は国が滅びでもしない限り、死なないし転生もしない。文字通りの生き証人なんだから」



 表所を変えるでもなく告げたキール。それをラウルは苦しげに見た。隠している事、彼は自分達の考えなどお見通しのようであり当たり前かと思い知らされた。何百年も生きて来た彼等は、何十年と短い寿命で死ぬ自分達と違い長い間、この土地と共に生きた神にも等しい存在。


 名前も無かった彼に、麗奈が名前を付けると言って名付けた名の〔ウォーム〕。今まで名前が無かったからか彼の喜びようは凄かった。動物達に踏まれようが何をされようが、ずっと嬉しそうに自分の子供を見るような優しい表情なのをしているのを思い出す。



「麗奈が……彼女が貴方に名前を付けたから、ですか?」

「………想い合っている2人が不憫で仕方ない。そうじゃろう?陛下である彼も異世界から来たお嬢さんも、互いを想っているのに……その陛下が余命宣告をされているなどど、悲しい事を言わなければいけない。

お前さんもそれが嫌で、どうしていいのか分からずにずっと彼女を見守っている。違うか?」



 精霊の睨みに、自分の隠している事など全てお見通しだと言わんばかりの雰囲気にラウルは観念した。



「………あの方が笑ってくれたのは彼女達のお陰だ。陛下の両親も、その前も……その呪いで若くして命を落とされた。長くここに住んでいる者は全員周知の事実だ。大臣達も宰相殿もそれを知っている………知らないのは、彼女達と陛下と同い年の若い兵達。姉さんもフィルも恐らくは知らない。兄さん達が言わないままだろうし、俺も国と共に死ぬと思って諦めていた」


「主ちゃんがそれを変えたんだね」

「………諦めて仕事に没頭して。でも、彼女達が……麗奈が現れてからは違った。俺にとっては希望だ。諦めていた俺に、もう一度騎士としての使命を思い出させてくれた。そんな彼女の騎士に、陛下を守りたくて誓いを立てたんだ」

「なら、変えろ。若い騎士よ……若い2人の為、と言うなら隠してきた事を全部言わねばな」

「………そうします、怒られても構いません。嫌われる事をしたのは事実なんですから」

「ふむ、では頑張れよ。………ん、待て、向こうが騒がしい。お前さん達、気を付けよ。魔物の大軍がこっち来てるぞ」

「分かった。送って、ウォーム」



 杖を回転させ、自分達の世界に戻る。戻った途端、帰って来たのを見計らうように魔物達が飛び出してきた。が、ラウルとキールに触れる前に見えない壁に阻まれそのまま塵となる。見れば目の前には白いローブにセミロングの白髪の男性、その周りを直径5センチほどの水晶体が盾変わりに浮かんでいる。



「フォフォ、あの子達のお陰で若く戻れるとはな。いやはや、若者の力は凄いな」



 それは先程の小さな精霊ではなく、声も若く不敵な笑みを浮かべたウォーム。突然の変化に流石のキールも驚きを隠せず「何でもありだな、精霊って」と遠い目をしている。



「ふっふっふっ、褒めろ褒めろ、ワシは褒めて伸びるタイプだからな」

「見た目若いのに口調が年寄りって………元に戻ってくんない?」

「嫌じゃ!!そんな事より、急いで国の防衛に行け!!!ここの魔物どもはワシが引き受ける。大事な物を守りたいならちゃんと守れよ。被害が酷い所から送る。離れても文句言うなよ」

「はい!!!」

「言われなくれも分かってる」



 一瞬の内に城下町へと転送され、すぐに魔物の迎撃を開始する。火の手が上がる家々を一瞬で消しながら魔物達を倒していくラウルは、その近くで泣いていた幼女を抱え安心させるように頭を撫でる。



「っ、うぐっ……こ、こわいよぉぉ」

「安心してくれ、すぐに安全な場所に避難させる。もう少しだけ、我慢しててくれ」

「………う、うん」



 笑顔のラウルに幼女はコクリコクリと頷き大人しくなる。すぐに見回りの兵士が見つかり報告を聞く。聞けば突然、空から現れ瞬く間に街を破壊しているが命までは奪っていない事、何かを探しているのか連れ去れているのは女性のみだと聞く。



「分かった。とにかく、住民達には城へと案内を頼む。俺はこの子を城に送り届けてからすぐに戦場に向かう」

「はっ!!副団長もお気を付けください」

「すまない、君も気を付けるようにな」



 女性のみ連れ去っている、と聞き何故か麗奈とゆきの姿が浮かんだ。確かキールはあの試験に魔王が関わっている可能性があると言っていた。もしかしたら、彼女の事を見られた可能性もあるとも……。自分が駆け付けるまでに無事で居るのを祈りながらラウルは大人しくしている幼女を抱え、自分の責務をこなすために城へと急いだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 麗奈達も異世界に馴染んできましたね! しかし今の所、異世界ファンタジー要素の方が強いですね。 陰陽師要素はもう少し話が進んでから、増える感じですかね? まあ今の雰囲気も好きなんですが、その辺…
[一言] 初登場時はバトルジャンキーな敵キャラか!?と、思っていたのですが、キールが強くて頼もしい存在だった事に密かに安堵!(笑) そんなこんなで家族とも(異世界ではあるけど)無事に合流出来たうえに…
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