第154話:我が眷族
呼び出された場所は、麗奈に誓いをたてたあの場所だ。
そこにはレーグの姿もあり、既に状況は聞いているのだろう。ラウルの事を聞きながらも、自分のやれる事をしようと動くと言った。
頼れる部下の成長。それを嬉しく思い、フリーゲのように乱暴に頭を撫でれば途端に嫌な顔をし「ふざけないで下さい」と叱られる。
「悪い悪い」
「な、なんなんですか、一体……」
憮然とした表情で見るも、キールは変わらずの笑顔。
ふと足元を見れば、花達はこの状況でも負けずに咲き続けている。いつも世話をしているのはヤクル家の現当主でもある父親のお陰だろう。
騎士が主な勤めなのに、それよりも花に興味があると言う変わり者だが。
「ユリウス。フリーゲからのお土産」
「え、あ……」
言い終わったと同時に投げられた物を反射的に受け取る。渡されたのが薬である事と副作用があるだろうから、使うタイミングを考える事も告げる。材料が虹の薔薇である事も聞き、魔力回復に特化した可能性を秘めたもの。
「回復薬が作られなかったのは、個別に合せる為の材料が少ない事と技術が足りなかったからと思うんだ」
虹の魔法は全ての魔法の始まり。
その魔法が使えるのはユリウスだけだからこそ、適応するのも彼だけなのだとキールは話す。
「色々と悪いな」
「主ちゃんの為だからって皆、必死だもん」
《そろそろいいか?》
ユリウスの頭の上で待機していたブルームから声を掛けられる。チラリとその薬を見ると使うのは最終手段だ、とアドバイスを貰い思わずキールとで瞬きを繰り返した。
「最近……優しいよな」
《元からだが?》
「え、それで……?」
あ、と思った時には遅く鋭く睨まれてしまった。
続けて舌打ちが聞こえ、そのまま拗ねた様に顔を合わせないでいる。それに苦笑しながらも、ランセから始めるよとパンパンと手を叩く。
「さて、ありがたい事にブルーム様から」
《様付けなんかするな。魔王》
「……彼がしてくれた魔力回復で、私達は次にと動けるんだけども」
若干、怒ったように言いながら睨むランセ。
微妙な空気になりつつも、彼の提案はここから防衛組と突入組、2つ別れるのだと言った。
動けるのは魔道具を渡された面々だけであり、全員で行くのには不安がある。唯一、道具を貰っていないフィナントはエルフと言う種族の特性もあってか、この状況でも彼だけは動ける。
現に防衛に携わっていたファウスト達も、魔法隊同様に全員ダウンしている状態だと聞いている。
キールが魔族のリートから得た情報を、皆に伝える。エルフを標的に狙う魔王の存在を明かせば、それに反応したのはフィナントだ。
「だとすれば……8年前に、妻が未だに眠らされたのはソイツの仕業か」
「それは恐らくバルディルだと思う。前に姿を見せていないと思ったら、真っ先に貴方方から狙ったようだ」
「そのようだな」
その話を聞きながらゆきは様子を伺った。
ベール達の母親の事は詳しく聞いていないが、前に古代魔法を教えて貰った時に何気なく聞いたのだ。奥さんはどうしているのですか、と。
答えは眠っているだけだと短く返され、そこで話は終わった。その時のフィナントから、これ以上は話す気もないと言う雰囲気を読み取り、慌てて別の話へと切り替えた。
今、思えば無理もない。
自分達は8年前の、麗奈の母親が居た時での魔族同士の戦いを知らない。その時に何が起きたのかを。それらの記憶は、ユリウスの兄の魔法により、長寿として知られているエルフでさえ解くのが不可能。
掛けた術者が解くか、亡くならない限りは永続に続けられる魔法。
彼等にも答えたくても答えられないのだ。その記憶は所々で自信の記憶に蓋をする。
無理に思い出そうとすれば、どんな反動が返ってくるかは不明。
だからこそ、キールも無理に解くという方法はせずにヘルスを見つけ出そうと躍起になっていた。魔王として現れるという、予想外な方法ではあり死にかけはしたのだが。
「宰相。ワガママを言わせてくれ……俺を、突入組に入れて欲しい」
「それは」
真意を読み取り、ベールと妹のフィルへと視線を向ける。
2人は父親の性格を知っている故に、同時に首を横に振った。言い出したら止まらないし、意見を曲げる気なんて無いという意思を込めて。
少しの沈黙だったが、イーナスはそれを了承しランセに託す。そこに控えめに手を上げて来たのはアウラだ。
「あ、あの……。私とディルベルトもお願いしたいのですが」
「理由を聞いても?」
《それは簡単。その城にノームが居るからよ》
すぐに具現化をしたのはアウラと契約をしたウンディーネだ。
彼女はそこで簡潔に告げた。
その城には4大精霊の1つに数えられているノームが居る上に、歴史史上初めての契約者が揃うのだと言う。
《今までの歴史の中で、契約者が……しかも、4大精霊が集うのなんてこの世界に、生まれ落ちた時以外ではなかったからね》
「……ノームと契約してるって、やっぱりドワーフ?」
《えぇ。彼は私達の中で出力をコントロールするのが上手いの。大雑把なイフリートとシルフが居るから私だけだと、制御が上手くいかないから助かってるのよ》
《《どういう意味だ》》
キールが質問すれば当然だと言わんばかりに説明を始めた。すぐに不満そうに声をあげたのは、例に出されたイフリートとシルフ。思わず全員で「ん?」と声を揃えた。
シルフと契約しているディルベルトは知っているが、イフリートとは一体誰が……と。そこで少し照れながら頬をかいたのはヤクルの兄であるフーリエだった。
「す、すみません……。兄弟を持つ上に、兄と言う共通点で契約に成功しました」
「羨ましいですよ、兄様……」
俺は苦労したのに、とちょっとショックを受けているヤクルを労わる様に背中をさするのはゆきとユリウスの2人だ。防衛組にはフーリエとヤクル以外の4騎士とイーナスにレーグ。
突入するのはユリウス達だったが、そこで問題が出て来た。上空に留まっている城に行く為の手段だ。
どんな仕掛けで城が空に留まっているのか分からないが、まずはそこに向かわなければ麗奈を奪還するのも叶わない。だが、そこでブルームは言った。援軍はもうすぐ来るのだと。
(援軍?)
ブルームの上に乗っている白い小さな龍を見て、ユリウスは微妙な表情をした。視線が合ったからなのか《キュウ?》と可愛らしく鳴いている。
ふと、自分達の頭上に大きな影が遮る。全員が空を見上げた瞬間「え……」と全員が同じように声をあげる。
《ブルーム様。遅れてしまい申し訳ありません》
そう口にするのは、茶色の鱗を持つドラゴン。
その姿は1つだけではない。鱗の色が様々ではあったが、ブルームのように黒い鱗でありながらも、薄く纏うような虹の光はない。
赤、青、緑、茶色、黒、黄色。
確認できるドラゴンの数は正確には数えられない。なんせ、上空全てにそのドラゴン達が集まっているからだ。
「ドラゴン……。バカな、滅んだとされている筈では」
《何の話だ?》
フィナントの言葉に反応したのは茶色の鱗を持つ、体長が10メートルはあろうかと言う巨体。怒らせたかと思ったが、ブルームから《寄せ》と号令がかかる。
《小僧の仲間だ。しかも、お前達は実際に姿を消している。滅んだと思われても仕方あるまい?》
《それもそうか。申し訳ありません、ブルーム様》
簡単に退いたが、どのドラゴンも体長は大きく圧倒される。不用意な言葉だったとフィナントが謝罪し、言葉を交わしたドラゴンも悪かったと同じく謝罪をした。
《前に言っただろ? 小僧の元を5日離れると》
「……確かに言ったが」
ふんっ、と驚かせたのが成功したように鼻で笑う。
もっと褒めろと全身から醸し出されるオーラに、ユリウスは戸惑いながらも頭を撫で背を撫でる。すぐさっと小さいドラゴンも間に入り《ウキュウ♪》と嬉しそうにしている。
《これから城に突入する方と、防衛組とで分けて行く。良いかお前達。人間達を死なせるなよ》
《うおおおおおおおおっ!!!》
まさに咆哮と呼べる状況。
ブルームの号令1つで、それぞれが散っていく中でブルームに乗ったユリウスは城を見る。
(麗奈……。今、行くぞ!!!)
助けを待っているであろう人物を救うため。魔王となった兄を、全てを取り戻す為にと彼等は動く。
その合図はブルームが放った長距離魔法であり、上空に浮かぶ城の一部を吹き飛ばしていった。




