幕間:四神の復活
「あぁ~、もう。君等が勝手な事をするから変に勘繰られてるし」
「そう、良かったね」
「うわ~。反省する気ないんだ、ひどー」
睨むディーオをサスティスは無視する態度からは、勝手に言っていろと訴えられている。
隣で見ていたフィーはクスリと笑い、そのディーオの様子に満足気なエレキは何故か誇らしげに胸を張った。
「だったらあの時に止めれば良いでしょ。ディルバーレルの時、好きにして良いって言ったの……誰?」
「うぐっ」
思い当たる節がある為に、言い返せないディーオ。
ユリウスの呪いを解いた時、仮契約をしたブルームは麗奈をディルバーレル国へと誘った。自分を閉じ込めた力は、麗奈達が扱う陰陽術。
その術の破壊を行わせる為にとユリウスと契約をし、彼女を転送したと言うのにその位置がズレて、予定が狂った事がある。
大賢者キールを助ける為にと、治せる薬草を探し泉を管理する精霊と出会い――死神である彼等とも偶然ではあるが接触をした事がある。
その後、麗奈の傍で見守る様にと指示を出したのは、紛れもなくディーオなのだ。
本人はそれをすっかり忘れていた訳だが。
「……」
サスティスは考えた。異世界人でもあり、魔王の器でもある彼女の存在を。
対してディーオは、その考えを読める上に、彼と違って多くを知り多くの現場を見てきた。それは、朝霧家の初代と同じ顔、同じ霊力を有した麗奈は最初の大戦を思わせる予感をさせるのに十分な材料だ。
再び、世界を混乱に導くかも知れない異世界人。
初代と違うのは死神を完全に認識し存在を感知し話せる事。
それが吉と出るか、凶と出るかは……誰にも分からない。
「んで、実際どうなんだよ。お前もたまに名前で呼んでいるし、何仕掛けてるんだ?」
「ふんっ、言う気はないよ」
「ちっ」
フィーが聞くも何も言わないとばかりに口を閉ざす。
代わりにサスティスが舌打ちをし、エレキはそれもクスクスと笑うだけだ。
そして、水晶に再び映されるのはゆき達の話す風景だった。
=====
「死神が見える存在、か。……死者を見る目が条件なら、同じ陰陽師のハルヒ君や誠一さん達にも見えるのかな」
「だとしたら、契約している霊獣達がすぐに分かる筈ですが……そのような事を言っていた記憶はありませんよ」
誠一が契約している九尾。武彦が契約している清。
契約を交わした霊獣は、その主と同じものを見聞きする為に麗奈と契約した風魔も同様にその存在を感知できる筈。
そう考えた裕二は、今までに風魔からそんな話を聞いた事はなかったと言う。
「あとは四神達ですが、彼等からも聞いた事は……あっ」
そこで裕二は考え、ある答えを導き出した。
四神は、当時の朝霧家の従者達が自身の命を持って作った防波堤。
魔物を引き寄せるのは、怨霊を引き寄せる力を持つ血を用いたもの。初代は青龍と共に作り出した魔性の血。
それは龍神の子供である青龍の血をかなり薄くして作り出したものだ。
その血は、怨霊を呼び餌として活用してきた。魔物にも同様に効く可能性があり、柱に集中すれば王都に被害は出さない。
その血は確かに魔物を引き寄せ、国の防衛に役立った。今もその力は衰える事なく彼等の役に立っている。
だが、彼等はラーグルング国の人間ではない。
守るために行ったこの行為は、初代のお願いを聞く為のものであり再び主に仕えると言う使命にも近いものだ。
数百年という長い月日の中、彼等はその事を段々と忘れていき、いつしか防衛としての役割を担うのが自分達の責務だと思っていた。
「責務なのは間違いない筈です。ですが、そこに麗奈さんと言う主が現れた。自分達を使役するに足りる存在の彼女のお願いなら……彼等は疑問を感じる事はありません」
それは主たってのお願いだからだ。
使役できる人間は今後現れるのかも分からず、また長い月日の中で得ることはないのかも知れない。
そう思えば、そう思ったのなら彼等は麗奈のお願いを聞く理由に足りるし何が何でも味方をする。裕二の結論に、皆が黙る中でイーナスは納得していた。
「確かに彼等はこの国に居るのだって、防衛としての役割を与えられているからであって王族に忠誠を誓っている訳ではないもの。そうなると、彼等にも死神が見えていたという可能性があるか」
「……」
この時、ユリウスは迷っていた。
麗奈だけでなく、もしかしたら自分も死神に会っているという可能性がある事を。
「ユリウス。何か知ってる?」
「いや……その、勘違いかも知れないんだが――」
キールから何気なく聞かれ、思わず目を見張った。
言葉を選びながら、ディルバーレル国で死神らしき者と遭遇したかもしれない事を告げる。
麗奈とハルヒが攫われた時の事、見えない力に引っ張られた事がある。
まるで道が分かるようにして、落ち着いた時には麗奈が居た上にハルヒもいつの間にか誰かによって助けられていたという事を。
「……君等の共通点って、何?」
「そんなの俺が知りたいんだが」
キールからの冷たい視線を向けられるも、ユリウス自身が思っている事だった。何で自分と麗奈にはこうなるのか。しかも今も今まで夢とか勘違いかもしれないと思っていたのだ。
まさか死神だなんて誰が思うのだろう。
「はあ。死神の存在は私達だって上手く説明できないし、誰も詳しくないっていうのが答えだね」
彼等の存在を知る事は自身の寿命を減らす危険なのもの。誰が好き好んでそんな危ない橋を藁ろうと思うのだろうか。
それを聞き、ゆきは胸をギュっと抑える。
足りない知識は誰か知っている人に教えてもらおうと思っていたが、逆に麗奈の危機が増えただけだ。
もしかしたら――と。
「あまり思いつめるな。ゆきの所為じゃないし、責めるな」
「ヤクル……」
強く握る拳を和らげるようにして優しく置かれた手。隣に立つヤクルが止めろと言わんばかりに、優しく撫でる。ゆっくりとではあるが少しずつ、少しずつ力が抜けていく。
その場に崩れ落ちるゆきをさっと抱え、落ち着ける場所へと運ぶと言い裕二が寝泊まりしている部屋へと入っていく。
「ゆきちゃんには……悪い事をしたね」
イーナスがポツリと言った言葉だけが、妙に響きユリウス達も心配そうに顔を合わせた。
======
『日菜。おい、日菜』
名前を呼ばれている、気がする。
記憶があやふやで、自分が今どうなっているのかさえ分かっていない。
暗くて底の見えない場所に居る、と言うのは分かる。これは自分達に掛けられた呪いの状態に似ている。
そこで彼はあれと疑問に感じた。
彼等とは何だ?
『おい、日菜!!! 自我を保つんだ――黄龍!!!』
『っ!!!』
揺さぶられて意識もはっきりとしてきた。
目の前には『馬鹿者が』と以前よりも性格が丸くなったと思われる青龍がいる。
『……どう、なって……』
『覚えていないのか。ギリギリまでお前が主の傍に居たというのに』
『主……。主……』
酷い頭痛がする。
この先を思い出すなと言わんばかりに酷くなりながら、1人の女の子が青龍と同じように黄龍と呼ぶ姿が思い出された。初代と同じ顔、同じ声でこの世界の仲間達から親しまれている人物。
『そう、だ。……麗奈は、彼女はあのあとどうなったんだ!!!』
暗い空間だった場所は霧が晴れた様に視界がハッキリとしていた。青龍はその後の麗奈の行動を話す。黄龍達の契約が無理矢理に外された中、青龍だけが残れたのは個人的に契約をかわしたからだ。
これまでの青龍はラーグルング国の守護者として力を貸していたが、それを国ではなく麗奈に力を貸すという形へと移した。ニチリで行った契約は青龍が独自に組んだ術式として、麗奈の中に残り結果として彼だけ外される事は無かった。
『くそっ、そんな事になったなんて……。お前は彼女に力を貸せるんだな』
『当たり前だ。俺は麗奈に恩を返す為に別の契約方法をとったんだ』
『……ドヤ顔で言われてもな』
ふんっ、と得意げになりついでにとばかりに龍の尾を、ユラユラと揺らしている。自信あふれるその態度に安心したように黄龍は息を吐く。ついで、自分達が居ない間のラーグルング国の状況を聞いて青龍にある頼みをする。
『……良いのか、本当に』
『これは君にしか頼めない事だよ。結局の所、私達が麗奈に力を貸せるのは誰かがユウキの事をぶっ倒さないといけない訳だし。まぁ、それは彼に任せるよ』
『はっ、自分が倒したいのによく我慢する』
当たり前だ、と背中を叩き黄龍は――日菜はラーグルング国を守る為に国を守護すると言い切った。麗奈が戻れても、その居場所がないのでは意味がない。
契約を外された黄龍達に出来る事は、帰れる場所を守るという一点だけだ。
『……私達の代わりに、彼女を守ってくれ』
『言われるまでもない』
力強く答えた青龍は黄龍の頭に手を乗せ、力を注ぎ込む。
一時だけだとしても契約を外された彼等の力になる様にと霊力を込めたと同時――ラーグルング国の柱が一斉に輝き出した。
南の赤い光、東の青い光、西からの緑色の光、北の水色の光。
それぞれの方角に設置された柱は強い光を発して国全体に覆う結界となって、彼等を具現化させた。




