表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第5章:虹の契約者
183/433

第148話:巨人…さん?


 場面は変わりニチリでは人手不足が起きていた。

 空が紅くなり、魔力を持たない人達が次々と倒れていく。アウラがいつもいる所でも、見張りの兵が倒れていた。


 最初に見た時、死んでいるのではないかと慌てた。が、ウンディーネから意識を削り取られているだけだと聞きほっとする。

 その後、魔物が見計らったように現れたと聞き、急いでその現場に向かう。知らず知らずの内に、精霊から渡された水晶を握り緊張をほぐす。




(わ、私だって……戦える、筈だ)




 深呼吸をする。

 ディルベルトから常々に言われている事を思い出す。慌てている時には何も浮かばない。慌ててしまったら、まずは深呼吸をして自身の状況をよく見るのだと。




「……ありがとう、ディル」




 落ち着いていく心音。1人ではないことを実感し、覚悟を決めたアウラは走る。ここに至るまでに色んな事がアウラの身に起きた。

 

 初めて四大精霊との契約に成功した。

 そのきっかけをくれたのは、紛れもなく異世界人である麗奈だ。彼女が、クラーケンに喰われたと思っていたハルヒとゆきが生きていると知らせてくれた。

 絶対に助けると言った彼女に、アウラは確かに希望を感じた。




「何もしなければ、2人は助からない」




 そんな時に聞こえた創造主の声。あの時は気が動転していたが、今にして思えば閉じこもっていた自分に対して奮い立たせてくれたのかも知れない。

 そう思うようにした彼女は、現場に向かう途中で倒れている警備隊を人達を避難させようと運び出す。




「う、くぅ……」




 ぐったりと倒れた人を運ぶ事など今まで経験していない。ズシリと掛かる重みに何とか耐えているが、移動となると彼女だけでは難しい。




「っ、ディル!?」




 そんな彼女に駆け寄ってくるのはディルベルトだ。四大精霊の1つであるシルフと契約をかわし、アウラの世話係兼護衛を務めている人物。


 倒れた人達をシルフの風で身を守りつつ、アウラとの合流を果たす様に促された。そうしていく内、合流を果たしたディルベルトは次にリッケルに連絡をしようと魔道具で通信を開始した。




「リッケル宰相。こちらはアウラと合流を果たしました。そちらはどうなっているんだ」

「少し眩暈がするが、なんとか平気だ。だが、ベルスナント王が倒れた。護衛をしていた者達も、同様の被害だ。まずは合流をしたい」




 魔力を持たない人間への影響は、すぐに症状として現れる。

 アウラが「お父様っ」と慌てて言うのも仕方ない。空が紅くなり、夜かも昼かも分からなくなる。状況を整理しようにも、既に魔物達の侵攻により街の建物や広場など含めた場所も荒されている。


 ニチリの国民達は、魔法協会の元で預かる形として非難させている。

 ディルバーレル国では自衛と協会からの魔法師達の協力もあり、ギリギリの所で保たれている。


 魔法師達の数もそう多くない中、ニチリに回せるだけの人数がいないと報せが来るもベルスナントはそれでもいいと言った。自分達には魔道具があり、警備隊の人間なら誰でも扱えるからと。


 自分達の国は自分達でどうにかすると言った。


 リッケルも、ディルベルトも信じて疑わなかった。今までも魔物との戦いで、魔道具の力と合わせて防衛をしてきた事で自信があった。だが、その自信は空が紅く染まったことで一気に覆された。




(魔力の少ない人間は、この状況ですぐに動けなくなった。王も、元からそんなに魔力ない。……っ、私も、いつまで意識を保っていられるか)




 予想外な攻撃に、リッケルは困惑しながらも侵入してきた魔物を倒していた。数が少ないのもシルフとウンディーネの力で、大半の魔物達が倒されている事が大きい。


 ここに上級魔族が来れば、元から少ない人数での防衛。一気に崩されるのは目に見えていた。




《ようやく来たわね》




 そんな中、何かを感じ取ったウンディーネは海水を操りながら魔物達を閉じ込める。そこにシルフの風をぶつける事で消滅させる。例え入り組んだ建物の中であっても、風が通る場所なら離れた場所から攻撃が可能。


 シルフの風は既にニチリ全域へと広がり、陰陽師が扱う結界にも似ていた。




《ようやくって、何が来るんだよ》

《イフリートよ》

《は?》




 掛けられた言葉の意味が分からず、シルフは思わず振り返る。背中合せて戦っていたウンディーネは、その視線に気付き《何?》と返す。




《おい、今……なんて言った?》

《だからイフリートがここに来るのよ》

《何でだ?》

《え、私が疲れてるから手伝うって話になったんだけど》

《いつからだよ!!!》




 水から氷に変化させ、魔物を凍てつかせてから壁を作り氷壁を完成させた。一仕事を終えたウンディーネはシルフの質問に答えるのも、面倒だと感じ無視を決め込む。

 

 厚さは10センチ程だが、高密度に練り上げられた魔力により触れた瞬間に凍り付く。それをたったパチンと指を鳴らしただけで作り出す。魔法師が同じ事をしようものなら、100人いて成立できるかどうか。


 氷を扱える人物自体、希少過ぎるのでもっと少ない人数でした集まらない可能性だってある。




《アイツが来たら、普通に国は終わりだよ!!! 殆ど暴走状態の魔法しか使わないのに》

《サラマンダーがいるからそんな事も無いんじゃない?》




 実際、そうだったしと語るウンディーネにシルフはますます《訳が、分からん》とぼやく。上空で話す精霊達に契約者であるアウラとディルベルトも、心配そうに見ている。


 そんな時、ドスンと何かが落下するような音が近くで聞こえた。

 すぐに武器を取るディルベルトは、アウラを守る様にして立つ。徐々に見えて来たそれは大きな人影だ。




「おー、おー。俺達が来なくても、十分なんじゃないか」

「ほぅ。大精霊様が2体も居るとは……。恩恵があって当然だな」




 2人の巨人がのそのそと歩いてくる。

 1歩踏み出す度に、ドスンドスンと地震が起きた様な音。思わず持っていた武器をディルベルトは離した。


 その大きさは5メートル。

 帽子も含めれば7メートル以上はありそうな、そんな巨体。帽子を深く被っている為に、前が見えているのかが不安は残る。砂の上だろうと気にした様子もなく、こちらに歩いてくる巨人。




「え~っと、ニチリと言う国はここであってるかね?」

「は、はい……!!!」




 アウラは大きな声でそう答えた。

 かなり距離が離れているから聞こえているかは分からないが、幸いにも相手側にははっきりと聞こえており「良かった」と言っている。




「シグルドの奴に言われたのと、アルベルトがしつこいからな。仲間が救出されるまで、人手が居ないであろうこの国に来たんだ」

《珍しいな。ドワーフがここに来るなんて》




 相変わらずデカいなとシルフが気さくに話しかける。

 向こうは《おぉ、シルフ様》とお辞儀をされる。ドワーフと聞いて2人が思ったのはアルベルトの姿だ。


 クポーと可愛らしく鳴く声は、自分達には聞き取れないが麗奈達には言葉として通っている。その認識があったからこそ、普通に話せるドワーフが居て困惑した。


 どっちも、ドワーフ……なのか、と。




「おい、防御するぞ」




 そんな時、別のドワーフが何かに気付きすぐに行動を起こした。

 砂に手を置いたその瞬間、岩が作り出され自分達の大きさにまで出来たもう1つの巨人。ゴーレムを作り出し、それをポンポンと5つも作り出した。


 それが出来上がってすぐ、空がまた紅く染まる。同時に来た熱風にシルフは《げっ》と慌てて防御魔法を強化させる。




《テレノ・ケマル》




 火柱がニチリを包み込もうと動く。

 魔物を探知した途端に空へと上げられ、爆発を起こす。その花火のような音が響き渡り、耳を塞ぐアウラとディルベルト。




《これで良いか、ウンディーネ》

《よしよし。ちゃんとやれば出来るじゃない、イフリート》

《俺だけでは出来ん。サラマンダーが居て初めて出来たようなもんだ》




 大きな音が止み、恐る恐る目を開ける。

 目の前には大トカゲがいた。夢を見ているかのようなその光景に、アウラは気絶しかけた。




「アウラ様!!!」




 そこにゆきからの声がなかったら、危なかった。

 意識をそちらに向けれれば、先程のイフリートと呼ばれる大精霊の肩に手を振る何かが見えた。

 ウンディーネに視力の強化をお願いすれば、間違いなくゆきであると確認できた。直後に「うおっ!!」と砂場に叩き付けられたヤクルとティーラ。




「く、乱暴な転送だな……」

「くそっ、面倒な事になった」




 ガシガシと頭をかくティーラに起こされたヤクル。ふらつく体を無理に起こし、本当にニチリに着いたのかと疑う始末。イフリートの魔法で、ニチリに攻めて来た魔物達は全て燃やし尽くされたのだ。


 魔物だけを狙ったその魔法は、建物も人も燃やすこともなく終わった。それを聞いたアウラは、父親が無事であった事、誰も死なずにいた事実に涙して感謝をする。


 初めての事にイフリートは嬉しそうにしていたのを、弟のサラマンダーは見て微笑んだ。


 サラマンダーのように契約者を得られるのなら、こんな気持ちになるのだろうな、と。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ