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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第5章:虹の契約者
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第139話:サスクールの狙い


 最初に聞いたのは何かが破裂するような音。


 空耳かと思いながらも、その出所が気になったキールは後ろを振り向く。

 続けざまにドンッ、とぶつかるような音が大気を震わし、領域へと衝撃を与えた。




「っ、なんだ……!!」

《これは……!!》




 荒れ果てた大地の風景はエミナスの領域。

 キールが契約した大精霊のエミナスとインファルは共に大地と天の力を持った2つの力を身に宿した精霊。


 それは虹の大精霊であるアシュプとブルーム。この2つが作り出した精霊だからだ。4大精霊は創造主であるディーオとで作り出したもの。


 その違いは世界の駒か、自分達の駒かの違い。

 アシュプとブルームの手足となり動くのがエミナスとインファルの対になる大精霊。


 白と黒。男性と女性。

 そう、対になるようにしたのも虹の大精霊によるもの。だから、エミナスとインファルは気配を感知出来る。

 麗奈の側にはアシュプが、ユリウスの側にはブルームが居る事を誰よりも早く認識していたのだから。




《キール、あれ!!》




 エミナスは自身が展開した領域の一部が壊れていくのを見て契約者に告げる。

 荒れ果てた大地の中に、氷の柱が突き刺さった状態で存在していた。高さも大きさもバラバラなそれは、ラウルの魔力が感知出来ていた、のに。


 それが音を立てて崩れていく。

 そのスピードが、カウントダウンのように知らせてくる。 




(ラウルッ……!!)





 キールはこれを頼りに彼を探そうとした。

 向かおうとした時、低く笑う声が聞こえてくる。対峙している魔族、リートだ。




「ラークが失敗したな」

「……」




 感情を写さない瞳がリートを睨む。

 ディルバーレル国で対峙した相手だが、あの時のキールは万全ではなかった。それはリートも分かっていた事だが……予想を超えていた。


 そう感じながら、自身の死を実感していく。

 自分の体は既に半分もなく、両手を鎖で吊るされた情けない姿を晒していたのだ。




「ははっ。今代の大賢者は怖いな……。おもちゃを取られた子供か」




 ズドンッ、とリートの片腕が切られて落ちる。

 見ればキールが手を振り下ろしたような動きで止まっている。そしてその手には白い光が纏わりつくようにして、光を放っていた。




「子供で結構。と言うより君達魔族側からしたら、私達全員子供に見えるでしょ。長生きなんだから」




 羨ましいよねと言う言葉を言いつつ、更に冷めた目でリートを見る。

 彼との戦闘は実に呆気なかった。


 大精霊の2体と組んで攻撃してくるのだろうと思っていたが、意外にもキールだけで終わらされた。


 ディルバーレルの時に対峙した時よりも、早く魔法を発動し防御の隙を与えないまま連続射撃。魔力を込めたナイフで足を斬られ、動きを封じるように空間を介して鎖が飛び出し吊るされる。


 あとは尋問をしつつ、徐々に体を削いでいかれた。

 そんな作業をしていた矢先に、突如起きた爆発のような音。

 ラウルの事が気がかりなキールは思わず、彼が居たであろう方向を見てしまう。




「仲間が気がかりならいけばいい。どうせ殺していくんだろ」

「当たり前だよ。そっちが仕掛けて来たんだから自衛だよ。主ちゃんを魔王にさせる前に全部終わらせればいいんだ」

「くっ、出来るのか。魔王は()()()()()()()()

「……なに、それ」




 リートからの言葉に思わず動揺してしまい、彼の前まで来てみればずっと笑いが収まらないのか声を押し殺している。




「だったら教えてやる。サスクール以外に、もう1人魔王がいる。女を助けたいならまずはソイツをどうにかするんだな」

「……魔王が魔王に仕えるんだ。変な話」

「ついでに言えばバルディルはエルフから殺す。危険な芽は早めに潰すに限るからな」

「そう。情報ありがとう」




 もういいよ、と言って振り払う動作で光の矢が突き刺さる。

 魔族に有効な魔法である光。

 それを受ければボロボロと体が崩れ去っていく。


 相手が悪すぎたと後悔しても、次はない。

 ぼろ雑巾のようにやられる自分自身に怒りもなく、何故だか納得してしまった。




(最後まで容赦ない攻撃だったな。……最後まで見れないのが、残念か)




 出来る事なら、世界が壊れていく様を見れないのが残念。

 消えゆく中リートが抱いた感情は、先を見る事なく終わった。




======



「ほぅ……やられたか」




 ウィンゼルの城。その王座にサスクールは座り、閉じていた目を開けた。

 今の自分は笑みを浮かべている自覚があった。


 2人がやられたのは予想外だった。しかし、同時にそうでなくては面白くないと別の感情が告げる。




「前回はランセとエルフが1人居たが……。成る程、今回は同盟を組んで向かって来るか。やはり虹の大精霊の力は強大だな」




 意味ありげに目の前にいる人物に聞いた。

 紫色の鉄格子には人が1人分入れるように作られた特別製。そこに男性が入れられていた。


 長髪の白い髪に長い髭、苦し気に呻くのは麗奈が契約した大精霊のアシュプだ。


 彼は黒い首輪を付けられており、麗奈と同様に力が出ない状態にさせられている。




《くうっ……。何故、狙う》

「さっきからそればっかりだな」

《優菜と同じだからか。だからお嬢さんを――》

「殺そうとした奴に言われたくないな。その為に、契約して監視までしていたのに、な」




 そう言われ、返す言葉がなく黙る。

 その様子を見て笑いが止まらないサスクールは、思い出したかのように「あぁ」とワザらしく告げる。




「もう1つ、手が出せないんだったな。この体の持ち主、まだ死んでいないし」

《っ……貴様!!!》



 

 ギリギリと拳を作り、悔しげに睨み付けた。

 麗奈とヘルスを人質に取られ、動きがとれなくなったアシュプ。

 兄を思うユリウスの事がちらつき、手を下すと言う判断が鈍らせる。




「あの女に自分のような人を出すなとでも言われたか? だとしたら律儀だな。今の器は前を思い出す良い安定剤とでもなったか」

《黙れっ、お前にそんな事――ぐっ!!!》




 途端に首輪から黒い光が発せられた。 

 光っている状態は魔力と体力を奪われ続け、反撃をさせない。


 麗奈は力を封じられ、契約したアシュプは奪われる。それらの力はどこに向かっているのか。全て、ユウキの術式へと変換されている。




「同じ陰陽師でこうも違うからな。龍神の力で成り上がった所と同じ家の人間に殺された所。ユウキはその恨みで封じる力を完成させ――魔法をも封じてみせた」

 

  


 ディルバーレルでの実験は上手くいった。

 一時的だろうとその場に居た者達の魔力を奪えた。同時にキメラにはその魔法も通じない処置をしたが、ユウキ自身は改良型を作ると言ってのけた。




「上級魔法の無効化は期待できないな。出来ても中級クラスって所。そもそも上級魔法を使えるのは一握りだろ?」



 

 確認してきたユウキに頷く。

 中級までキメラに効かないのなら助かる。上級魔法を使うのに、どの国でも数人で行うからだ。それだけの繊細な作業と膨大な魔力を使われるのが、上級魔法だ。


 それを覆してしまうのはラーグルング国とディルバーレル国。

 団長、副団長、師団長クラス、もしくは個人であっても持っている魔力は大きい。それこそ上級魔法を何度使っても平気なくらいに。


 この2国は、共に虹の大精霊が住まう土地という特別な守護地。そこに住む人々はそうとは知らず、大きな魔力を持つ子供が生まれやすい。




「大賢者がラーグルング国に生まれたのも誤算だ。コイツはそれを理解しているんだか知らないが、直前で軌道を外させた」




 あの時。

 ニチリでキールが自身に突っ込んでくるのを見て、予想外ではあったが潰れせる機会だと思った。だが――体の持ち主であるセクトはこれを無理に拒んだ。重症にしてもまだ生きている、なんとも忌々しい者だと吐き捨てる。




「……もう、失敗は許されない。次の機会は恐らくない。次こそはお前を殺して見せる――創造主」




 ただの1人ごとの筈だった。

 この場に居るのはアシュプと自分だけなのだから。しかし、それを黙って聞いている人物がいた。


 死神のサスティスだ。




「流石。予想外に場をかき乱してくれるのはこっちとしても助かるよ。……これで満足? だとしたら私はさっさと戻りたいんだけど」




 ザジが気になると言い、自分達の上司でもあり創造主のディーオに告げる。彼が手にしている紫色の水晶は、そのディーオとの通信を可能にしたもの。それを聞き、ディーオは構わないと言いサスティスの自由にさせた。




「今はそうやっていればいい。必ずお前を殺してやるよ――サスクール」




======



 ディーオに居る部屋には大小様々な水晶がバラバラに配置され、リアルタイムで全てを見ている。




「果たしてお前の思う通りに動けると思うかい、サスクール」




 変わらないなと呟く声は呆れを含んだもの。

 彼自身、サスクールの狙いは最初から最後まで変わる事がないのを知った。信念とも言えるべきものか、執念と呼ぶべきものか……。




「君の世界を破壊するは文字通り、私を殺す事。その為に、麗奈ちゃんを使うんだろう? 最初に乗っ取った朝霧 優菜と同じ道に引きずり落とす為に」




 サスクールの行動は変わらない。

 彼が起こすのは世界そのものの破壊。例えこの戦いに全ての種族を消せても意味はない。

 創造主たるディーオが存在している限り、破壊なんて出来ないのだから。



 

「私を殺して、神殺しをなそうとするのかい君は……」




 確かに創造主達との間で、神殺しが起きている事を聞いた。

 世界を破壊するのには創造主を殺すしかない。なんせ、その世界を保たせている支柱。その創造主を殺さない限り、世界の破壊は出来ない。そして、その世界で生きている者達ではどうあがいても彼等の元へは行けない。


 だから――。


 創造主達が選別した者達である、麗奈達のような異世界人でないとその場所にはいけない。それを知ったサスクールは、それ以降創造主を殺す為に画策し続けて来た。


 それが実に3度も起こし、全て失敗に終わっている。

 1度目は精霊達の猛攻で失敗に終わった。 

 2度目はたまたま乗っ取た優菜を使う事が出来た。が、大精霊アシュプが手を下した事で失敗。

 3度目は麗奈の母親である由佳里が、術の代償で乗っ取る前に死を迎えた事でまたも失敗。

 4度目はその娘の麗奈を使って、創造主の元へと向かう為にこの戦いを起こした。




「麗奈ちゃんの味方は多いよ。今までの戦いでは参加しなかった者達が多いんだ」




 障害は多いよ、と自分が殺される側だと言うのにどこか余裕の表情を浮かべるディーオ。

 これは彼自身の賭けでもある。

 自分が死ぬ側か、画策するサスクールを止められる側かのゲーム。


 以前、ランセに向けて言ったサスクールの言葉。ディーオはそのまま、見られている事を知らないサスクールへと向けるのであった。

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