表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第5章:虹の契約者
169/433

幕間:初めての気持ち


 それはティーラからの言葉がきっかけだった。


 サスクールの器だと言われ、城に連れて来られた麗奈。彼女が来てから2日ほど経ったある時。


 ティーラの事は警戒しながらも、ブルトにはある程度の心を許していた。彼自身もそれがなんだか心地よくて、こう言ったものの正体が理解していなかった。  


 ただ、隣に居て楽しいのなら良いのだと。そう、簡単に捉えていた。




「情が湧く前にさっさと殺せ」

「……何故っスか」




 即答ではなく疑問。

 そんな答え方をするブルトにティーラだけでなく、周りに居た魔族達もキョトンと時が止まったように制止した。


 やがてそれが動き出したと思ったら大声で笑ったのだ。バカにするみたいに。




「はっ、だから言っただろ!? 既に情が湧いてるなら殺せるもんも出来ない。……お前、分かってるのか」




 凄みのある言い方。

 それに反射的にビクリとなりつつ、頭の中では自分が言った言葉に疑問すら思っていた。


 何でティーラの言い方にイライラしたのだと。




「俺達はサスクールを殺したい。アイツがあの人の国を襲っただけじゃなく、周辺の村々も街も、ブルトの育った場所も!!! 何も残らないようにと穴を開けさせられた」




 ランセの居た国はサスクールに落とされた。

 最初に落とされたのはランセに様々な知識を教えて来たサスティス。ティーラは彼と面識があるし、なにより何度か戦った仲。


 強いのは分かっていた。

 だが、彼は呆気なく死んだ。ランセもティーラも驚き、自分達の国に行けばそこに見えたのはポッカリと穴が開いていた。


 国を丸ごと飲み込んだような、そんな跡。




「今の奴は体を乗り換えたがなんだか知らんが、少し弱っている。だけど、今は徐々に回復して来てるから乗っ取られた側の抵抗が小さくなったとみている」

「……」

「そこに器ときたもんだ。多分、あれには替えがきかない。だからしつこく狙ってきたんだ。今まで動向を探れだのなんだの、言われてきたがな!!!」




 そう言いながら酒を煽る様にして飲み、ドンと乱暴に酒瓶を置く。




「良いからやれ。俺等には出来ないが、お前には心を許してる」

「いやっス」

「ブルト!!!」 

「何でか知らないけど、嫌なものは嫌なんス!!!」

 



 睨むティーラと譲らないブルト。

 珍しい喧嘩だと周りが思い、1人の魔族が言った。

 

 それは恋ではないのか。


 初めて聞く言葉にブルトは首を傾げ、ティーラは舌打ちした。そういうのがあるから邪魔になるんだと言い放ち、どこでそんな所があったかと考えてる。


  


「浴場で服脱がした時か。……確かにお前には刺激が強すぎたな」

「違うっス!!!」

「本人に言ってないのがせめてもの救いだな」 

「そんな邪な気持ちじゃない!!! そんなのただの変態っス」



 

 真っ赤になって否定すれば、周りからはなんの話だと聞いてくる。ティーラ同様にニヤニヤとしながら……。



=======



「大丈夫? ブルト君」




 名前を呼ばれドキッとした。

 さっきのがぶり返し赤くなる。抑えたいたのに、嬉しくて堪らない。




「あ、ごめん。君っておかしかった?」

「ううん。全然、平気!! 見た目なら麗奈ちゃんとは下だし」

「そう、なの。ランセさんも魔族なんだけど、本人も20歳前後って言ってたから、そんな感じなのかな」

「そうっス。気にしないで……」




 そこでブルトは気付いた。

 自分が彼女の事を「麗奈ちゃん」と言っていた。捕まってから外に出る許可なんて、当然だか降りる訳がない。


 だから、麗奈は自然とブルトと接する時間が増える。例え監視だとしても、彼はそれでも良いと思ってしまった。




(違う……。僕は、恋なんて……)




 では、自分の胸が暖まるようなこの感覚はなんだ?


 麗奈を見て、その反応に一喜一憂する自分は……。一体自分の身に何が起きたのかと、そこで疑問へと変わる。


 でも、時間は待ってくれない。


 痺れを切らせたティーラから短剣を渡される。当然、嫌な顔をして嫌だと言う。しかしティーラも曲げる事はなかった。




「お前の覚悟を見せてみろ。その結果で自由にするなり、俺と殺し合いするなり決めてみろ」

「覚悟って……」




 そんな大げなさものではない。


 ただ、隣にいてくれるのが嬉しい。

 一緒過ごす時間が段々と早くなる。 

 気付いたら、麗奈の事ばかりを気にしている。


 それ等が顔に出ているのだと、呆れた口調で言われ無自覚なのだと分かった。




「はあ……」



 

 その夜。

 気が思いながらも腰に隠し持った短剣を持って、いつものように麗奈の所へと向かう。今から行動に移すとかではなく、彼女から様々な話を聞く為に。


 器として連れて来られた時点で、ブルトはこの世界の人間とはどこか違うと薄々気付いていた。

 



「麗奈ちゃん。遅くにごめんね」




 離れの塔からは城へと繋がる通路があるが、この1本道以外に他の道はない。逃走の可能性を減らす為にと用意されたが、そもそも彼女に反撃するだけの力はない。


 上級魔族のユウキが施した術式の為に、麗奈の力は魔力も霊力も封じられている。


 この事実を知っているのは捕らえた側の面々。

 その中でバルディルだけは不愉快だとばかりに眉をひそめた。器だと言うのならさっさと乗り換えれば良いだけの事。




「悪いがコイツの抵抗力が、彼女を連れてからまた上がった。忌々しいが流石と言うべきか、光の魔法は」




 それらの会話をティーラと共に聞いていたブルトは、話しが終わった後に聞いてみた。光の魔法とはそこまで厄介なのかと。




「まぁ、俺等に有効な手段なのはその魔法とエルフの使う魔法だからな。……だがこれは好機だろ」




 それだけ時間が稼げるのだからと不敵な笑みを浮かべた。

 ブルトからしたらこっちの方が悪役っぽいな、と思ったが口には出さなかった。その後で覚悟を見せろだのなんだのと言われても……と言うのが正直な気持ちだった。




「……寝っちゃった、かな」




 コンコンとノックをするが、反応はない。時間帯的にはまだ夜だが、夜中と言う時間帯でもない。やる事は少ない麗奈には睡眠か、ブルトとの話でしたか外を知らない事になる。


 息がつまる状況。

 次の日にティーラに城内だけでも歩き回れるように聞いてみよう。確か本が好きだと言っていたから、図書館とかなら暇つぶしにも出来る。


 そう思って、それだけでも報告しようとしたが彼女は寝ているようだ。このまま大人しく帰れば良かったが、ふと思ってしまった。


 今、手を下せば良いのでは?




「……」




 フラッと反応がないのを良い事に部屋に入る。

 予想通り麗奈はベットの中で静かに眠っていた。せめてもと自身の魔力でフカフカに、出来るように加工しておいて正解だった。




(凄く気持ち良さそうに寝てる)




 安心したと同時に寝がえりを打たれ幼い寝顔が見える。最初は酷く落ち込んでいたが、ブルトが必死に元気づけた効果もあってか落ち着いている。


 ドクンッ、と自身の心臓の音を確かに聞いた。




「!?」




 ずっと自分に聞こえる悪い声。

 今、手を下せばティーラに褒められる。サスクールを討てる機会を、チャンスを作れるのだとささやかれる。




(違う。……違う!!! 僕は別にそんな事)




 否定すればするほど、震える手で短剣を握られる。鞘を抜き必死で止めたいのに、止められない……。この行動がなんなのかと疑問にしている時に、自分の体は実行していた。

 

 寝ている麗奈に向け降ろされた刃。


 はっとして気付いても遅い。なのに、ふっと麗奈が起き上がって来たのだ。




「えっ」




 間抜けた自分の声。だけど、目が合った時の麗奈は黒ではなく朱色になっていた。息を飲んだ瞬間には元の色の黒い瞳になり、そこにはキョトンとした様子でいる姿があった。




「ん、あれ……ブルト君? あ、ごめんね。先に寝てて」

「……」




 黒のネグリジェを着ていた麗奈はいつもと変わらない様子。だけど、ブルトはどっと嫌な汗が出た。朱色の瞳は死神の証だと聞いた事がある。昔、自分によくしてくれた魔族のおばあちゃんから、その事を詳しく聞かせてくれたのだ。


 自分が愛した魔族が死んだその瞬間に、目が合ったそうなのだ。

 片目が朱色の瞳。その瞳に光が灯り、周りに魂達の淡い光が見えたのだと言った。




「気を付けな。朱色の瞳は死神の証、魅入られるような事はするなよ」




 その言葉を最後に夜に亡くなった事を聞き、ブルトは怖くて堪らなかった。自分に話したが為に亡くなったのではと。そうしたら今度は自分ではないかと、恐ろしくなった。




「麗奈、ちゃん……」




 一瞬、合わされた死神の瞳。

 昔の事を思い出し目の前にいる女の子を見る。魅入られるような事はするなと、言っていたが同時にその人の死が近い事も意味している。




「ブルト君!?」




 驚く麗奈を無視して衝動のまま抱きしめた。

 死が近いのだと理解した途端、彼は泣いていた。息の詰まる状況で不満を言わない麗奈が不思議でしょうがなかった。


 気付いたら彼女を追っている自分自身。

 その気持ちも少なからず分かっていた、かも知れない。


 今はその気持ちに蓋をした。

 目の前で死が確定されているのなら、回避すればいいのだと。

 用は儀式が完成される前に、彼女を送り届ければいいんだと……。

彼女達を助けようと動く人達に託せば良いのだと思い、行動したはずだった。




(もっと単純な話だったんだ。僕は……麗奈ちゃんの笑顔を失いたくない。だってそう思うのは――)



 ()()()()()


 そうだと分かれば簡単な事だった。

 いつも話をするのが楽しくて、時間があっと言う間に過ぎる。もっと話したい、一緒に笑い合いたい。


 もっと濃い時間を彼女と共に過ごしたい。


 その気持ちが強いからこそ、ブルトは躊躇することなく同族を屠る。ティーラから教わった戦い方、相手の潰し方。戦うのが嫌だったのに今はやけに冷静に倒せる。


 武器を手に取るのさえ、震えていたのに。




「ブルト、君……。何で、何で助けてくれるの」




 戸惑った様子の麗奈にブルトはいつものように笑顔で答えた。




「好きな人を守るのに理由なんていらないっス」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ