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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第5章:虹の契約者
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第133話:ザジの変化


 ふと感じた視線に青龍はそっと見る。


 人の気配を感じ取り、誰が来ているかの予想はついていた。



 図書館にあった隠し通路は特殊な魔方陣が幾重にも描かれた厳重なもの。


 それを外したのは死神であるザジ。

 彼が触れた所からボロボロと崩れていく魔法陣。青龍も試しにと手を出したが、霊力を攻撃手段としている為か弾かれる。


 その時点で、魔力にしか反応しないというのが分かる。隠し通路がある位だ。外に繋がる可能性がゼロではない。


 そう思っていたら、ザジが「手、かざせばいいのか?」と気だるげに言った。




「……平気なの?」




 小声でそう告げる麗奈は心配したように見た。

 例え死んだ人物だとしても、麗奈にとっては繋がりを感じている。そして彼はこの世界では忌み嫌われている死神と呼ばれる存在。


 誰に感知される事もなく、死にゆく者を誘う。


 自分が死ぬのだと理解した時に、やっと姿を見ることが出来る者。死者の魂を集めているのは、この世界に悪影響を及ぼさない為だ。


 怨霊を退治してきた麗奈は知っていた。

 恨みを抱いたまま世に留まれば、その負の感情は生きている人間にも影響を及ぼしてしまうのだと。




「皆、ザジ達の事を誤解しているよ。周りがやらない仕事をしているだけなのにね」

「俺もそんなに深く理解してないな」

「なら、何でこの仕事に就いたの?」

「……目的がある」




 静かにだけど決意の込めた言い方に、麗奈は踏み入れてはいけないのだと悟る。だから「そっか」と言い、これ以上の話題はさけようとした。


 でも、その時のザジは麗奈の手を取ってこう告げた。




「大事な……。大事な人を、今度こそ守りたいんだ」

「私に似てるの?」

「あぁ。雰囲気とか色々と、な」

「……」




 咄嗟に返せなかったのはザジが笑ったからだ。

 ここ一番では見せないような、麗奈に誰かを重ねているような感じの力強さに、何故だか気恥ずかしさを覚えた。


 なんとか顔を逸らす行動に移せたが、それをじっと見ていたザジが笑っていた。それも大声をあげてだ。




「あぁもう気にすんな。俺が好きでやってるだけだ。こんなんで良いならなんだってやってやるよ」




 珍しく目に涙を浮かべてそう答え、麗奈と青龍は思わずポカンとした。最初は敵意を剥き出しで、危害を加えようとした相手がこうも変わるのだと実感した瞬間でもあった。


 魔方陣を触れてはパキンとガラスが割れた様な音をし全てを壊す。死神が使う力は創造主から受け取った力の一部。


 魔法とも霊力とも違う特別な力。

 やがて行き止まりになり、ザジは魔方陣が出ていた壁から手を離す。


 そっと壁に手を当てて押せばガコンと何かがはめられる音が聞こえてくる。段々と繋がる様にして音を立て、それ等の音が止んだ時には小さな通路が出来上がっていた。


 屈んで入ればどうにか行ける大きさの通路。

 麗奈はやっとの思いで入り、出口に到達した時には既にザジと青龍が先に居たという状況。それに少なからずガックリと肩を落とした。




「……2人がずるい」

『す、すまない』

「いや、文句言われても」



 

 青龍は実体化はしていない霊体として動いている為に、壁などはすり抜けて行ける。一方のザジは何処でもすり抜けられるからだと、麗奈に説明するもむっとしたまま中を覗く。

 中は薄暗いがザジが代わりに照明を灯した。


 自身の瞳と同じ朱色の炎。それらを適当に広げて配置し、ぼんやりとだが把握が可能になった。


 


「小さな部屋だね。隠れるのには良いかも」




 ベッドに丸いテーブルが3つ。

 一時避難を考えたらちょうど良いスペースだ。小さな本棚には、ボロボロになった本やら資料が多かった。


 中に入った途端に顔をしかめなければ、ここは本当に良い避難場所だ。




『主っ……!!!』

「大丈夫。こうなってる可能性は、あったんだから」




 この隠れ部屋には白骨化したのが3つあった。

 専門家ではない麗奈は、男性か女性かは分からない。ただ、寄り添うようにしているような形から、子供とその母親と言う予想しか出来ない。


 もしかしたら、父親かもと思った。


 異臭は麗奈達が入った事で、さらに増した。一瞬、フラッとなるのをザジが支えて指をパチンと鳴らした。




「えっ……」




 異臭がしなくなった。

 その事実に麗奈は実行したザジを見る。彼の黒と朱色の人は死神の証。 

 首に赤い首輪があるのだって、その証の1つ。その首輪と朱色の瞳に光が宿っていた。


 炎を灯すような、小さな光。




「……女と小さなガキ2人だな。この城の人間だ」

「見えるの?」

「あぁ。だが手遅れだ」




 既に握られた大鎌は、その白骨化した場所へと振り下ろす。黒く淀んだ魂は本来の白い光となって留まった。




「もう、平気?」

「平気だ。害はない……って、おい!!!」




 そうと分かった麗奈は、寄り添うようにしている白骨化した死体へと向かう。しゃがみこんで手を合わせている姿に、黙祷(もくとう)をしているのだと分かった。


 何をしているのか分かった時点で、黙って見守った。

 それと同時にザジにも変化が目に見えていたのだ。


 麗奈が黙祷をしているその横で、静かに立っている女性と子供が居た。ザジの言う様に母親とその子供だろう。女性の方は優しく穏やかな表情で、子供の方も同じような反応だ。




「ありがとうございます」

「「ありがとう、死神さん!!!」」




 そう言って白い光に包まれた3人はスゥと消えていく。

 その声は恨みでもなく初めての感謝。




「……なんで、お礼言うんだよ」

「お待たせ、ザジ」




 呟かれた言葉は誰も聞かれていない。

 だけどザジにとっては衝撃が強かった。今まで魂を狩って来てお礼を言われた事は1度もない。


 ある時は恨み言を言いながら。

 ある時は恨んだ相手を呪おうとして、ザジ達に邪魔された時。


 感謝などなく、自分達の行っている事を作業としてずっとやってきた。その事に衝撃を受けたザジは戸惑うばかりだった。



======


 そういった出来事もあってか麗奈は、部屋を見付けた日からこの部屋を利用していた。ザジのお陰で空気は綺麗になり、少し埃っぽい所を除けばいいだけなのだから。



『主』




 青龍はそっと麗奈に耳打ちをした。

 死神と言う言葉をゆき達に聞かれているのだと。隠れていても、この隠し通路は1本道。部屋の大きさは小さく声が反響するのも仕方ない。


 自分だけだと思ってザジと会話した麗奈の落ち度だ。

 彼女は黙って頷き、さてどうしようかと考えていると「シュポーー」と大きな声が聞こえ――そして顔面へと突撃された。




「う、くぅ」




 ザジが受け止めれば不自然。青龍は元から止められないが為に、見ている事しか出来なかった。どうにか起き上がればフィフィルが誰と話していたと聞いてくる。




「ごめん。独り言だよ」

「シュポーー」

「本当だよ。……死神ってこの世界では悪いんでしょ。不吉な存在かも知れないけど、そこに救われた人もきっと居るよ」

「ポーー」




 独り言とそう言った。

 その時、ゆきには麗奈が無理をしているのだと感じ取れた。麗奈が頑固なのは昔から知っているし、話さないと決めたら絶対に話すことはない。秘密にされるのは嫌だけど、何かしらに巻き込ませない麗奈なりの防衛。


 ゆきはそう感じ取る様になり、諦めにも近い溜め息を吐く。




「麗奈ちゃん。ごめんね、倒れちゃって。もう平気だよ」

「あっ、ゆき。動いて平気なの?」




 そこから他愛のない会話をして、夕方になろうかと言う時だった。

 ブルトが遠慮がちに麗奈を呼び小声で話したのだ。


 サスクールから食事に誘われている、と。




「今日の夜っス。準備もあるから一旦、部屋に戻って着替えるっスよ」

「ブルト君も一緒でしょ?」

「なるべくは一緒に居たいけど……どこまで許してくれるかは、分からないって言うのが正直な話」

「元々、拒否権なんてないんだし早めに準備をしようか」




 麗奈の決断は早くゆきとフィフィルに別れを告げる。ティーラはゆきが使う部屋まで付いていく直前に、麗奈にそっと話した。




「俺も行く。血気盛んな連中がいればぶっ飛ばすから任せろ」

「色々すみません。また後で」




 頼もしい護衛だと思い、ゆきと離れていくのを暫く見ていた。フィフィルはゆきと居るのが多いからか、今も上機嫌で話しているのが見える。

 それを見てほっとしている気持ちもあるし、これからの不安が募るなと思ったら手を握られていた。




「さっ、綺麗に着飾ろうか」




 鼻歌交じりで麗奈を連れて行く。

 サスクールから接触されたのはこれが初めてな上、緊張があるのか知らない間に震えていた。

 そうなると決まってブルトが優しく手を包み込む。




「……うん。お願いね、ブルト君」




 気付いたら震えは止まっていた。

 心の中で大丈夫だと繰り返しながら、歩くブルトの後をついていく。ザジはそれを自分が、出来なくて悔しそうに顔を歪め小さく舌打ちをした。


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