第132話:親友と再会~ゆき視点~
今、隣に居る麗奈ちゃんをそっと見る。
図書館にある本を読んでいるから視線には気付いていない。でも、世話係のブルト君はチラチラと落ち着かない様子で見ているのが目に入る。
「麗奈ちゃん」
思い切っって、呼んでみた。
「ん? どうしたの」
読んでいた本から顔をあげ、私をじっと見た。
髪がショートだったが、今はセミロングまで伸ばしている黒髪。首を傾げながら聞いてくる仕草が、可愛らしいと思い現実逃避だと言うのは分かる。
今までは髪を短くすればいい。
戦う時に邪魔だと常々言っていた麗奈ちゃんが髪を伸ばし始めた。それは陛下――ユリウスの為だ。
髪を伸ばした麗奈ちゃんが見たい、とそう言ったのだ。
それからの麗奈ちゃんの変化は凄かった。本人的にはちょっとした事なのだろうけど……私にしたら大部なんだけどね。
本人がそれに気付いていないから、私も教える気はない。決して慌てるのが可愛いとか、キールさんのように小動物だよねぇと言っていたからとか、そうのではない。……多分。
(本当……。好きな人が出来ると変わるって、こういう事なんだな)
彼女の変化を見てそう感じた。
好きな人の為に、手料理を振る舞おうとイーナスさんに協力して貰った。ヤクルとリーナだけでなく、リーグ君達騎士団の人達にも食べて貰い好みの味になるように、と調整をした。
ラウルさんと一緒に作ることだってある。
それをキールさんが面白がって邪魔をし、それを呆れた様子で回収するのはランセさんとフリーゲさんだ。
そう言った事が楽しくて……ラーグルング国に居る事が自分にとって、当たり前になりつつある時だった。不意に、レーグさんが魔法を教えながらこう言ったんだ。
「ゆき様と麗奈様達が居ない生活には、もう戻れないですね。こんなに楽しいのは久々だ」
そう言ってあとからはっとした様子で慌てていた。
それを見て、周りの人達がおかしそうに笑う。それを見ている内に、麗奈ちゃんのお母さん……由佳里さんもこの世界に来た時にもこんな風に暮らしていたのだろうか、とそう思った。
2年もの間、ラーグルング国で暮らしていたのなら情が湧くのも分かる。
魔王との戦いで由佳里さんは死んでしまって、彼女を元の世界にと送り届けた人が居た。
それがユリウスのお兄さん。
でも、今そのお兄さんは魔王になっていて、ユリウス達は……多分だけど戦いを仕掛ける気でいる。
私と麗奈ちゃん……私達を取り戻そうと、動くんだろう。
「ゆき? どうしたの、顔が真っ青だよ」
駆け寄って慌てる麗奈ちゃんの声が聞こえる。
気付かない内に倒れそうになっていた。それをフィフィルさんが慌てた様に知らせて来る。
「あの、これを飲んで落ち着いて下さい」
「……すみません」
あの後、体調不良で倒れた私が目を覚ますと大きなソファーに寝かされていた。気付いた傍からブルト君が水が入ったコップをくれる。
それを落ち着きながら飲み干して、ほっと息を吐く。思った以上に体に負担がかかっていたのかな……。
それもそうか。
私達、敵の手に落ちてるんだもん。私の場合、戦い好きのティーラさんの餌にされてるんだけど。
ヤクルと戦った時の、精霊との合体。
それを見てもう1度戦いたいが為に私を攫って、ヤクルが来るように仕向ける。
……戦いが好きな人って、色んな意味で貪欲だなとも思った。
まぁ、それで私はこうして生きているんだからある意味では助かったんだろう。
「あ、あの……ティーラさんが無理を言ってすみません。あの人、戦いが好きだとそれに手段とか選んでらんない人で」
「でも、本当だったらあの時に死んでたかも知れないんだし……助かったのだって、あの人のお陰だもの」
謝らないティーラさんの代わりと言わんばかりに、ブルト君が必死で謝っている。彼は魔族だけど愛嬌があるし、なにより不安になってた時に色々と助けてくれた。
私達が着ているこのドレスだって、彼が色んな部屋から持って来て選んでる。食事は捕まってるドワーフさん達と一緒に食べてるし、麗奈ちゃんとも一緒だ。
「……でも。戦いって起きちゃうんだよね」
「そう、っスね」
「麗奈ちゃんはどうしてるの?」
「あ、今は奥まで進んでるみたいで……。前に見付けた隠し通路の書庫にいるんじゃないかな」
「隠し通路?」
私達が居るこの城の殆どは魔力をエネルギーに変えて、様々な仕掛けがしてあるのだと聞いた。城の照明、浴室のお湯とか水とかも魔力がスイッチ代わりにして起動する。
だから、ブルト君が言うにはここの人達は魔力を持っているのが普通でそれで起動出来る場所もあるのだと。隠し通路も魔力を用いて見付けたみたいだったけど、幾つもの魔方陣が複雑に構成されている厳重なもの。
単に魔力を通して起動させるだけでなく、1つ1つの魔法陣を解除するのに魔力の量を変えて行かないと外せない。
その通路を見付けたのだって、ブルト君が苦労しながら行った事。ティーラさんは大雑把だから細かい作業は無理だと自分で言った位だ。
「でも不思議なんスよ。見つけたのはつい3日前だから、解くのにはまだ当分かかる筈なのに気付いたら奥まで解いてたんスから」
「フィフィルさんが手伝ったとか?」
「シュポポ」
ひょこりと顔を覗かせながらソファーによじ登る。
ツルツルとした素材だからか、何度もずり落ちるのが可哀想に見えて思わず両手ですくい上げた。
物凄くションボリした様子なのは……見なかった事にしよう。
会話を聞いてた彼は、自分は手伝っていない事を告げる。その前に、自分達も細かい作業は苦手としているのが多い。それこそ、アルベルトさん位に魔法を使い慣れていないとそこまでは出来ないのだと聞き首を傾げた。
「あ、違うんスね。でも、他に細かい作業出来るのなんて居ないのに」
3人して首を傾げながら私達は疑問に思った。
麗奈ちゃんの他に居るのは青龍さんが居る。式神として主の傍に居るから当たり前なんだけど……風魔君の代わりに守ってるんだよね。
じゃあ、その青龍さん以外に麗奈ちゃんに協力している人が居る?
でも、他に協力してくれる人なんて居るのかな。味方って訳じゃないけど、私達の事を守ってくれるのはランセさんの言う通りにしてるだけだ。どうも脅された? みたいで、その時のティーラさんが真っ青な顔をしていたのを思い出す。
「あの人の言う様にしないと、俺の首なんてすぐに吹っ飛ぶ。だから、俺は死に物狂いでアンタ達を守るんだ」
一体どんないい方をしたのかと思ったが聞かない。
怖いと言いながらガクガクと震えるティーラさんは……本当に戦いが好きなのかと疑問に思った位だ。
話をしている内に随分と気分がよくなった。
ブルト君とフィフィルさんと共に、麗奈ちゃんが居ると思われる隠し通路に向かうと声が聞こえて来た。
「ザジが居るのって守る為? それって上司に怒られない?」
死神なのに大変だね、と言った麗奈ちゃんの言葉が頭から離れられなくなった。
次回更新、30日(水)に行います。




