第131話:城内探検~麗奈視点~
捕まってから早1週間。
色んな事が一気に起こりすぎて処理が出来ないし、またザジに甘えてしまった。
今も急に泣きたくなって、一旦落ち着いたんだけど……その間、ずっと彼に体を預けるように密着している。いや、本当なら抜け出そうとしたんだよ。
なんだけど、何故かザジが放してくれない。
でも、それが心地いいと思う自分も居るから不思議だ。それに……何だか懐かしい感じにも思えたから、これで良いかとも思うのだ。
最初に会った時にも思ったけど、ザジとは初めて会ったという感覚がしない。そう思いながらも泣き顔を見られたくなくて、頭をグリグリと押し付けるという謎な行動に出ている。
「うぅ……」
「気にするだけ無駄だ。俺の時なんかは……」
そこでピタっと言葉を切るザジ。
不思議に思って見上げると乱暴に頭を撫でられる。フリーゲさんみたいに、髪がクシャクシャになる位の強さだ。
何だろうかと見ると、ちょっとだけ顔が赤いザジが見えた。
それに驚いているとまたザジが「見んな!!!」と言って乱暴に頭を撫でて来る。
『主。自己嫌悪中に悪いが、そろそろ来るぞ』
何処か呆れた様な、いや本当に呆れているのだろう。
ジト目でそう告げる青龍。しまいにはザジに向けて離れろと2人して睨み合いだ。
「う、うん」
いけない、いけない、と泣いていたであろう顔をパチンと軽く叩いて普通に戻す。……目尻はもう無理だと諦めようと思っていると、明るい声と共に「クポポ」と言う可愛らしい声が部屋に入ってくる。
「麗奈ちゃん、おっはようーー……」
私の世話係をしている魔族のブルト君。
大きな声で入って来てるのに、最後の方が小さくなっている。理由は分かる。と、言うか泣いていた痕があるからだと分かりすぐに顔を逸らす。
「ど、どうしたんスか!!! 何処かにぶつけた? それとも虫が出たとか!?」
「クポポーー」
大慌てのブルト君は持って来ていた荷物を置いて、ベットの周りを回っている。虫が居ないかと確かめてくれるのだろうが、事実は違うから何とも言えない気分だ。
その間に傍に来ていたフィフィルさんはポム、ポム、と私の事を突く。
「シュポポ?」
首を傾げながら聞くこの動作は大丈夫かと聞いている時のもの。平気だと言えば即座にブルト君のお腹に目掛けて、ロケットのように突撃する。
「ぐほっ……」
バタン、と倒れそれから涙目でフィフィルさんの事を見る。
一方の彼はぴょーん、とフカフカのベットを楽しむんでいる。段々とブルト君の顔が怒りへと変わっていくのが見える。
でも、彼はドワーフの言葉が分からないから言ってもダメだと嘆息する。
「相変わらず、何を言っているか分からないっス」
「シュポ!!!」
「がっ……」
2回目の頭突きが炸裂。
お腹ではなく顔めがけてだから、相当痛い。様子を見てみると、気絶しているのかピクリとも動かない。
「ブルト君……」
「ほっとけ。1度はお前を殺そうとした相手たぞ」
ザジの言葉に思わず小さい声で「そうだけど……」と言い淀む。
そう。彼は1度私の事を殺そうとしていたんだ。サスクールの計画を潰せるのなら、と言う理由で。
(でも思いとどまった。彼はすぐに後悔したんだ)
「僕はっ……君を守りたい。麗奈ちゃんは幸せになるべきだよ……」
ブルト君の言葉を思い出す。
泣きながら何で私がこんな目に合うのかと、代弁してくれる。私が思っていたい事、溜め込んできたものも全て彼が言ってくれた。
だからなのか私はスッキリした気分だ。
それに彼の行動はもっともだとも思う。
いきなり居場所を奪われた元凶が居るのだ。計画をずらすなり邪魔をしたいのなら、私を殺す事自体は正しい考え方だと思う。
すぐに「ダメッ!!!」って全力否定されたけど。
「麗奈ちゃん。また暗く考えてないっスか?」
ずいっ、とブルト君が顔を近付ける。
ついでとばかりに、ぷにっと頬をつねられる。痛くは無いけど、後ろが怖いんだよね。
ブルト君とフィフィルさんには絶対に見えない存在のザジと青龍。その2人はずっと睨んでいるし、ザジは今にも飛び掛かりそうな位の気迫があった。
なんとか、青龍に止めてもらい適当に受け流せと言われているが「嫌だ。消す」と本気で否定してきた。
「……」
『承知した』
今ではお兄さん的な存在の青龍。
私の周りはお兄さんが一杯だなと思い、それがちょっと嬉しいのも事実。
「どうしたんス? ニコニコして」
おっと、顔に出ていたみたい。直さないと……。
何でもないように言ったが、なかなか信じてくれない様子。
コンコン。扉をノックする音でブルト君はすぐに離れて、私を守るような位置に立つ。扉の向こうから声がかかる前に遠慮なく部屋にずかずかと入って来る。
「よぅ、邪魔するぜ」
魔族のティーラさんだ。
聞けばランセさんの部下だったらしく主と主従関係を結んでいる中だ。
時々、青龍から舌打ちが聞こえてくる。
何処かで会ったのだろうか。
そう考えている内に、ティーラさんは扉を閉めて誰も居ない事を確認した。ブルト君は相手がティーラさんだった事で警戒を解いた様子で、フィフィルさんに遊ばれている。
「お前さん、何か隠してるな」
「……青龍」
勘が鋭いとは聞いていた。
ザジの事は信じてくれないだろうから、青龍の事を呼んだ。前から決めていた事。青龍がティーラさんを見て、すぐに言ったのだ。
絶対に隠しきれない、と。
『俺としては2度と会いたくないんだがな』
諦めにも近い声が私のすぐ真横で聞こえてくる。段々と半透明の青龍が現れる。ティーラさんはやっぱりと言う風に見ており、ブルト君は驚きのあまり口をポカンと開けている。
左手から肩まで青い龍の手が伸び、反対側は私達と変わらない人の色。
丈の長い黒いズボン、私達が着るような戦闘服を着た青龍の表情は不機嫌そのもの。
でも、ティーラさんはそれに気にした様子もなく話しかける。
「前に言っていた主ってこの子か。いやぁ、奇遇だな」
『関わるな』
親しそうに話しかけるなと思って見ていると、前に戦った事があるからだと言う。私がディルバーレル国に転送されてすぐの事だと気付き、あの場にティーラさんが居た事実に驚いた。
あの時にも襲われたなと思いつつ、隣でザシがイライラしているのが見える。
「分かってる。我慢、我慢してるから」
必死で自分を押さえつけようと頑張っている。一方のティーラさんは、青龍の事情を聞きつつ、今の姿に納得した様子でいる。
ブルト君の顔がどんどん青くなっていくのを見て、何で私が大丈夫だと言っていたのかと理解した様子でもある。
「……」
ビクビクしているのは仕方ない。
だって青龍とザジは全部見ていたんだから。ブルト君が私を殺そうとした場面も、彼の決意も聞いた。
「ブルト君。ごめんね。私の事情、うまく話せなくて」
「いや、いいよ。……今、死んでないだけマシ」
顔は未だに青いけど、ね。
青龍に睨むのを止めてもらい、ティーラさんがそのやりとりをみて「ははーん」と意地の悪い顔をする。
「失敗するわな。俺も勘だけで言ったが、まさか居るとは思わなかったし」
そう言って「行くぞ」と促される。
フィフィルさんはブルト君の上着ポケットに大人しく入り、ティーラさんを先頭に私達は離れの塔から出る。
ラーグルング国と同盟だったウィンセル国。その城は魔王の拠点であり、私達が捕まっている場所。
「麗奈ちゃん!!!」
その城の図書館に入れば、親友の声が聞こえる。実感する間もなく、ぎゅうぎゅうに抱き締められる。何もない事、怪我を負わされていない事を必ず確認されて戸惑う。
ブルト君の件を除けば平気なのに信じてくれない。
互いに色が少し落ちたドレスを着て、今日も会議をする。
脱走になるものはないかと、図書館だけでなく色んな所を歩いては調べる。不安に駆られた時、私はドーネル王子から貰った緑色のペンダントを握る。
自分は無事である事。
ユリィ達が無事であるようにと、願いを込めて。




