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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
幕間:下準備
164/433

その10:誤解


 咬まれている所からじわじわと体が動かなくなっていく。

 最初は必死で目を開けていた麗奈も、血を急激に失っていくスピードに処理が出来なくなり、気付けば抵抗がなくなっていた。


 叫んだ声も最初だけ。

 目を開けていられる力もなくなり、閉じる時にふと思った。




(死ぬ、のかな……)




 その時、誰かの声が聞こえた。必死で呼び掛ける声。どこか懐かしさを覚えた麗奈だったが、確かめる術はないまま静かに目を閉じていった。





「なにやってんだ、おめぇは」



 

 殺気立つ声にラークがはっと気付く。直後、自分へと雷が落とされベッドがあった周囲は木っ端微塵になる。




「趣味の悪い事、してんじゃねーよ」



 

 ラークから素早く麗奈を取り戻す。部屋は既に半壊していたが、舌打ちしながら割り込んで来た人物を睨み付ける。




「邪魔、しないでよ」

「せっかく見付けた器とやらを、お前の手で壊したら……なんて言うかね。アイツは」 

「!!!」




 ティーラが挑発的な態度でそう言えば、さっと顔色が悪くなる。流石にマズイと思ったらしく、互いに殺気を出していたのも収まっていく。

 その時、ガシャンと陶器が割れるような音が静寂を破った。用意していたご飯も、飲み物も全てがダメになるのも構わずに入っていく。


 2人が見れば青い顔をしたブルトが、ワナワナと体を震わせていた。




「ブルト、すぐに治療しろ!!!」

「……っ」

「おい、聞いてんのか? さっさと手当てしろ!!!」

「は、はいっス……!!!」




 怒鳴り声にはっとさせられたブルトは、血が流れている麗奈を抱えすぐに行動を開始した。それを見届けたティーラが再度、ラークの事を睨む。



 

「勘違いすんな。互いにバルディルの野郎に言われたくないだろ」

「分かってるよ」




 声は不機嫌そのものだが、ラーク自身も分かっていた。バルディルの性格は嫌と言う程に理解し、そして睨まれたくはない。




「あの真面目に知られたら、2度と彼女と接触なんかさせてくれないし」

「俺が部屋を半壊したから、遅かれ早かれ気付かれるぞ」

「……ちっ」




 そう言えばそうだと、さっそくの面倒が来るのを理解した。ラークはそのまま何事も無かったかのように部屋を出て行く。耳を澄ませば怒りに任せて幾つかの部屋が壊される音が聞こえてくる。


 同族をも食い殺す勢いで、痛みを訴える叫び声が聞こえて来た。




(……隠す気ゼロか)




 溜め息を零しながらも、これで動きが制限される事になるかもなと思いつつブルトの後を追った。ふと、自分の手についた血を見る。




「やっぱりマズい……」




 試しにペロッと舐めると嫌な鉄の味がする。

 すぐに苦い顔になり「ぺっ」と吐き捨てた。


 血なんてものを上手いなんて、思う魔族が果たしているのだろうか。

 だがそんな疑問もすぐに止めた。既にそれを実行したのも見たし、その現場も見たのだから。




(何でラークの野郎はこれを狙うんだ?)




 元々、戦闘に関しては天才的だが頭脳となるとティーラの専門外だ。これ以上考えるのは止そうと思い、再度ブルトの後を追う。この疑問も恐らくは襲われた側は理解してるだろうと思った。




「まさかの予想通りですよ。……貧乏くじ引いたかね」




 クックッ、と笑うが押し付けられた感じはない。

 むしろあの人の役に立てるのだと言う幸福感に、心が満たされる。楽しげに言いつつ、その後の事を考えながらブルトの気配を察知して向かう。



=====



 ブルトが麗奈を抱えて向かったのは浴場だ。

 止血をするにもどの程度の傷か分からなければ手当てが出来ない。幸い湯を張っているから、血を流すのにも都合が良い。




「うっ……」




 思わずピタリと止まった。青白くなっている麗奈を、浴場の壁際に横たわらせてから唸った。

 傷の程度を見るのに肩から血を流しているのは分かった。問題はそれがどの程度なのか、だ。




「じ、事故。そう、これは事故なんス!!!」




 そう自分に言い聞かせてから心の中で悪いと思いつつ、麗奈の服を脱がせていく。なるべく見ないようにとしながら、思わず息苦しそうにしてる麗奈の表情が目に入る。




「……」




 それを見てすぐに冷静になる。

 血が流れているのは左肩。少しグッと抑えれば血が流れ、途端に呻き声が聞こえてくる。持って来ていたタオルを水で濡らし、丁寧に傷口を洗う。化膿(かのう)しないようにと自前の塗り薬を幅の広い葉を使って貼る。


 


(あとは……)

「シュポポ」

「えっ!?」




 ぴょーん、と自分の頭の上に何かが乗った。

 確認するまでもなく、この城の中で幽閉されているドワーフだ。その内の1人は、何故だかブルトの後をつけている。

 このまま逃げ出さないのは自分達が返り討ちに合うのを知っているから。魔族の中でも比較的、ドワーフに協力的なブルト達を信じている状態。




「シュポ?」




 そんなドワーフは青白くなっている麗奈を見て、もっと近くで見ようと近付く。途端に「ダメッス!!」と言われ両手で包み込まれるようにして捕獲される。




「怪我人なんスよ。お願いだからそっとして欲しいんス」

「シュポ、シュポポポ」

「だ、だからダメだって。それに抜け出されてるのがバレるとこっちもやり辛いから……」

「おい、ブルト」

「ひえっ!!!」




 声を掛けられてすぐに謝る。

 ドワーフを手に隠しながらなので、地面に頭を擦り付けるようにしていれば上から呆れた声が掛けられる。




「なに、やってんだお前」

「へっ……」




 ガバッと顔を上げると自分を追って来たのかティーラが来ていた。思わず驚かせた事と怖かった事を告げようとして、思い切り遮られる。麗奈に行った治療を見て「これで良いのか」と聞けば、無言で頷く。




「あとは本人の治癒に任せるっス。それに治癒は得意じゃないし、出来てもこの子が闇の魔法を使えるかどうかで全然違うから……」

「ふーん。お前、上半身をさらけ出して治療したのか。……本当に治療をしたのか?」




 思わず「は?」と声を上げた。

 言われた事を理解しようと再度、横たわる彼女の様子を見る。


 傷口を見ようと服を脱がせて、それから……と考えてすぐに顔を赤くした。




「ち、ちがっ!!! はっ、ティーラさん、いつまで見てるんすか。後ろ向いてて下さいっス」

「お前が変な事をしないかと思って、な」

「しないっス!!!」




 着ていた上着を慌てて脱ぎ、肌が見えないようにと包ませる。未だに自分の顔が赤いのを自覚しながらも、後ろに居るであろうティーラを見れば――。




「なんだよ」




 ニヤニヤしながら、そう答えた。

 とても面白がっている顔だと思い、静かにため息を吐くとしっかり止血するように言われ、思わず何でかと質問をした。




「いいから。俺には通じなくても、中にはラークみたいな奴がいるかもしれない。でないとコイツ、サスクールの儀式の前に死ぬぞ」

「この子、が……本当にそうなんスか」

 



 抱き上げた時に異様に軽い事にブルトが一瞬だけ驚く。そして気付けば、ドワーフが麗奈の肩の方でなにやら治療らしきことをしているのを横目で見た。




「シュポポ、ポポポ」




 ポゥとドワーフの小さな手から、さらに小さな光が漏れ出る。

 肩だけでなく顔の方にも同様の事を行っていると、さっきまで青白かった筈なのに変化が起きた。


 苦し気にしていた息も、すぐに穏やかなものへとかわる。その様子に驚いていると、治療をしたと思われるドワーフは自慢げに胸を張った。




「……治療、してくれたんスね」

「シュポ!!!」




 グッと指を立てた事で安心して良いのだと思った。

 気付けば、ほっと安堵している事に気付く。どうしてこんな反応をするのだろうかと、ぼんやりとなる。




「まず間違いなくソイツは器って呼ばれている存在だ。魔王が探し求めた何か。その正体も恐らくは本人も分かってない様子だったしな」

「まずはちゃんと寝かせる準備をするっス」

「世話係にしてやれるように、色々と言ってやる」

「ありがとうっス」




 その後、麗奈が目を覚ましたのは翌朝の事だった。

 気怠くて妙に体が熱いのを感じていると、ブルトがそれに気付いて水枕を用意する。


 寝る用の服を用意しようとして、何故か全裸になっていた麗奈は実行したと思われるブルトを思い切り叩いた。


 まずは誤解を解こう、色々と。


 そう心に誓ったブルトは目を閉じながら必死で理由を話す。そうしている内に、自分が捕まっているのがかつてラーグルン国と同盟を組んでいた城である事を聞いたのだった。




次回更新、10月23日(水)です。

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