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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
幕間:下準備
163/433

その9:些細なきっかけ


 いつも聞こえてくるのはすすり泣く声だ。

 サスクールとユウキが連れてきたのは10代の女の子。気絶しているのかぐったりとした感じに見えた。


 上級魔族のティーラと共に行動して早50年。

 無差別に蹂躙(じゅうりん)していった魔王サスクール。黒い霧に覆われた雲のような存在が、いきなり村の中を通り抜けていった。村に居た者は等しく死んでいった。


 大人も、子供も関係なく。全員、村に居ただけと言う1点だけ。そんな中、森で木の実を採りに行って難を逃れたのは中級魔族のブルト。


 彼はいつも木の実を持って帰るのが日課だった。薬草のような効き目のある実を持って行けば、それを薬にしてお金に出来る。村の助けにでもと頑張っていた。


 その日はいつもよりも大量に採れた。とても自分の量てだけでは収まらないからと一旦、村に戻ろうと考えて着いた時にはその場所は大きく穴が開いていた。




「え……」




 この時のブルトは人間で言う所の10歳頃。

 自分が居なくなった間に、村があった場所はぽっかりと穴が開いており道はない。見えるのは底が見えない真っ暗な闇が広がっているだけだった。


 


「なに、これ……」




 訳が分からなかった。

 でも、この場所に自分の生まれ育った場所があるのは確かだ。記憶が間違っている訳でもない。だから、彼はその穴に飛び込もうとした。


 この中に入れば村の人達が居るだろう。ただ、その一心で行おうとして――あっさりと捕まった。




「!!!」




 ギョッとして掴まれた方向を見る。

 大人の、程よい筋肉がついた腕。村の男達がしているような細い感じではなく、細すぎず太すぎない丁度いい腕の太さ。




「諦めろ」




 ボロボロなフードを被っていたその人物はそう言った。

 冷たく非情にではなく、ただ事実としてブルトに伝えた。死んだ者は戻らないと。このまま飛び込めば、お前も死ぬんだと言われて理解してしまった。


 自分が居ない間に何かがあった。

 そしてその何かは分からないが、自分が居ない間にいとも簡単に村人達を葬り去った事。




「お前は1人。1人だけ生き残ったんだ。……他の所も同じだ」

「あ、あああっ……」




 死んだ。

 自分が生き残って、両親も友達も自分に優しくしてくれた村長もなにもかも。記憶の中で優しくしてくれた人達がいないのだ。




「っ、うああっ。な、んで……なんで!!!!!」




 顔がぐちゃぐちゃになる位に泣き叫んだ。

 生き残ってしまった後悔。平穏な日常を過ごせるからと行ってきた事が何で、あっさりと奪われるのか。

 自分達が何をした。自分が……一体、何をしたんだと言う憤りが彼を渦巻いていた。




「ぐすっ……うぐ。サスクール……?」

「あぁ。魔王サスクールの仕業だ。これは」




 ボロボロなフードを取ったのは男性だ。

 黒い髪に紫色の瞳をした、少し柄の悪い男性。遺体はなくても死んだという事実は変わらないと言った。


 だったらお墓を作りたいと言い、自分1人で作ろうとして手伝ってくれた人。

 名前をティーラと名乗り、ブルトも自分の名を言った。そこからティーラは実行に移したサスクールを殺そうと動いている事を聞いた。彼も、ブルトと同じく住んでいる所を奪われ大事な者を奪われた者同士。




「あの人が戻るまで、俺は死ぬ訳にはいかない。だが、サスクールの野郎を野放しに出来る程、心も広くねぇ」




 その時の目をブルトは忘れない。

 彼の瞳は憎悪を映していた。決して逃がさない、必ず報いを受けさせると言わんばかりの目。




「……」




 この時、既にティーラは上級魔族だった。

 対して自分は片腕が人間の腕、もう片方が赤黒い腕と言う中途半端な中級魔族。

 対して相手は魔王だ。力の差は子供だったブルトでも分かり切っていた。勝てる訳がないし、報いすら受けさせられないのだと。




「おい。俺と来るならお前を上級にしてやるぞ」

「えっ……」




 上級魔族は人間と同じ姿を取る事が多い。

 自らそういった姿になる者と怪物のまま、世界を渡り歩く魔族と様々だ。ティーラ自身は人間の姿になると何かと便利だからと言う理由で保っている。


 上に上がるにはたくさんの戦いの経験を積む必要がある。

 戦いを知って、自分の身に宿す魔力が変化すれば自然と進化が行われる。もう1つ上のランクへと上がるには、力の強い魔族から力を貰う方法。


 魔王が自分の配下にと魔力を分ける。

 分けられた側は、与えられた魔王の為に手足として動く駒になる。 




「……なれる、の?」

「ん? 力が上な奴なら自分の仲間を増やしたりとか出来るだろう。魔王だけの特権だけじゃねぇよ」




 縄張りを守る為、仲間を増やす方法も同様に力の強い者からの魔力を分け与えられれば出来る事。

 ブルトは自分は戦闘が得意でないと話した。

 虫にも怯えて泣く位に、弱虫の自分が上級になんて……と思っているとティーラに乱暴に頭を揺さぶられた。




「んなもん、慣れれば済む!!!」




 行き当たりばったりな発言である。

 思わず自分の目が遠くなるのも仕方がない。だけど、力が欲しいなら確かにティーラの言う事は分かる。


 悩んだ末、ブルトはティーラから魔力を分け与えて貰い上級魔族へと進化した。ティーラと同じように自分も人間のような姿にイメージすれば、中途半端になっていた体の色が肌色になった。


 どこからどう見ても、小さな子供と言う風に見えた。

 これで力があるのかと疑いたくなる位に、ブルトは思わず縋るような目でティーラを見た。




「お前、サスクールを殺したいなら戦いを知れ。でないとあとでキツクなるのはお前だからな。ブルト」

「……うん」




 こうして彼はティーラと行動を起こした。

 人間で言う所の50年の付き合い。それだけの時間を過ごしていても、ブルトは未だに戦闘が好きではない。


 今ではティーラの世話役と言う変な役職的なものまでついている。


 自分がこんな筈ではなかったと思わず嘆きたくなった。そんな彼の転機がすぐ訪れるなんて知らずに……。




「この子が器、か」




 思わずそう呟いてしまった。

 とりあえず言われたように寝かせようと思い行動を移した。気絶しているのかどこかぐったりした様子の女の子。

 



「お腹、減ってるかな……」




 寝かせてすぐにそう思った。ドワーフの食事も作っているブルトは、そんな調子ですぐに厨房へと向かった。

 せめて目が覚めてお腹が減っては何をするにもやる気を失くす。軽い気持ちで離れたのがいけなかった。


 その後であんなことになるだなんて、この時のブルトは知らなかった。



=======



「ん……」




 目を開けてゴロンと転がる。思うように体が動かない事実に、麗奈はどうなったのかと記憶を探る様にして思い出す。




(そう、だ。私……)



 

 4大精霊の1つであるノームが襲われ、自分を狙った人物。黒い髪をして紅い目をした彼をどこかで見た事があるような、不思議な感覚に襲われていた。


 その為にユウキに力を封じさせる隙を生んでしまった事。助けに来たランセが逆に返り討ちにされたのだと1つ1つ思い出していった。




「捕まった、んだね……」

「そうだよ」




 ドクン、と。自分の心臓の嫌な音がやけに耳に響いた。

 恐る恐る顔をあげ、体を起こして見れば麗奈の傍で立っていた人物に自然と体を震わせていた。




「ラーク……」

「名前、言ったかな? まぁ、いいや。改めてラークって言うよ。君の血は美味しいからあれから飲んでないんだよねぇ」




 瞬間的に手元にあった枕を投げる。安易な攻撃だし、魔族相手に通用しないのは分かっていた。当然のように枕は当たる前に砕け散った。


 ボロボロと崩れる様を見ている内に、背後から麗奈を捕らえる黒い腕。気付いた時にはガッチリと固められて身じろぐのも、抗うのも出来なくなっていた。




「あ、いや……こない、で……」




 自分が非力になったと分かるのは早かった。捕まっている間、麗奈はずっと霊力を溜めようと行った。しかし、やる度にその力の塊が飛散する。魔法を扱う魔力の場合も同様だった。


 何度やっても、不発に終わる。

 それはラークが近付いてくる度に、現実へと引き戻される。体の震えが止まらなくて知らない間に涙を流していた。




「いいね。ゾクゾクするよ」




 麗奈の事を見て舌なめずりをするラークに、絶望的になる。近寄るなと思う度にギシッ、ギシッと近付いてくる音が無駄だと言わんばかりに迫る。




「く、るな……」

「睨み返すなんて強いよね。普通なら発狂しててもいいのに、さ。我慢強いんだ」




 それが仇だ。

 ラークの目がそう語っているのが見える。薄暗い部屋の中、ベットの近くにある照明から麗奈はそう読み取れた。




「ご馳走を前に止めるような優しい性格じゃないから。覚悟してて」




 ズブリと、ラークの歯が肩へと食いこんでいく。


 味わいたくもない感覚が麗奈を襲い掛かる。泣きながら叫んだのはユリウスの名前だ。来るわけがないと分かっていてもそうせずにはいられない。


 この苦痛を逃れる為の、麗奈なりの抵抗だった。

申し訳ありません。

次回更新、18日(金)に変更です。

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