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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
幕間:下準備
161/433

その7:それぞれの決意~後編~


 リーグは自分の副団長であるリーナと剣を交える。

 そして、いつも思う。リーナは自分よりも強くて冷静で……やっぱり自分にとっての憧れはこの人なんだと強く思った。




「団長」




 キィンと、金属音がやけに響く。

 自分の握る剣がリーナのレイピアに弾かれ、流れるようにして自分の目の前へと突き出される。




「余裕ですね」




 瞬間。

 リーグはゾクリと寒気を感じ、咄嗟に魔力での防御を全開にした。

 同時に自分の体が後ろへと押し出され、木々を薙ぎ倒しながらぶつかっていく。その勢いが止まったと思うのと気絶したのは同じ。バタンと倒れたリーグをリーナが慌てて駆け寄ったのは言うまでもなかった。

 

 


「………んん?」




 ぼんやりとした視界。頭はまだはっきりとしていないが、薄いオレンジ色の髪が見えリーナだと分かる。




「ったく。普通、木を薙ぎ倒して自分の団長を攻撃するのかよ」

「それが団長の指示でしたから」

「診るのは誰だよ」

「……フリーゲさん、です」




 そうだろ!!! と、大きな声が聞こえるとリーナが乱暴に髪を撫でられる。止めようとしても体は動かない上に、意識がまだはっきりとしていない。だけど、会話は聞こえて来るから正常かなと思った。


 ……半分も理解してないけれど。




「団長。良かった、起きたんですね」




 リーナが顔を覗きかせ、リーグの事を優しく起こす。その手つきも表情も、さっきまで戦っていたとは思えない程の変わりよう。いつもこうなのだ。リーナはオンとオフをはっきりとしており、オフの時はこうして世話を焼く。


 オンの時はさっきのように容赦がなくなる。


 本人の話では武器を握ると変わるらしい。

 ゆきが「2重人格……?」と不思議そうに言っていたのを思い出し、リーナの方を見れば笑顔が固まっていた。

 ただ、引き攣った顔をしていたのを見た。心当たりがあるのだろうと思い、リーグは何も言わなかった。




「うん。……ごめんね、リーナさん。僕から頼んだ事なのに」

「いえ。団長のしたい事を手伝うのが私の務めですから」




 いつもの安心出来る笑顔。

 リーグは心の底から安心して笑い返す。そんなニコニコの2人にフリーゲはげんなりしたように言った。




「お前等。ここは休憩所無いんだが?」

「良いじゃんか。面倒な奴だな」

「あ?」




 後ろから聞こえた声にフリーゲは自然と不機嫌な声を出す。

 彼の父親であるリーファーだ。コーヒーを片手に、のんびりとした声を掛けるもフリーゲはどんどん顔をしかめる。




「ずっと思うんだが、いつまで居るんだよ」

「ユリウス陛下が居て良いって言うんだから居るだけだ」

「……ちっ」




 父親と不仲なのを見たリーグは自然と自分の父親を思い出す。


 母親と過ごしている中で父と会った記憶は数少ない。自分も小さい時の記憶はあまり思い出せない。どうしても自分の母親が死んだ時の事を思い出し、例え父親と過ごしていても薄れていく。


 思い出さないように。


 思い出したらきっと自分は怒りに身を任せてしまう。それを1度起こしているから、どうしても自分の心にセーブを掛ける。魔法協会でゆきを傷付けてしまった時のように……。




「団長」




 ポンッ、とリーナが頭を撫でる。

 優しくて暖かくて、そして自分の沈んでいた気持ちがすっと軽くなる。心地が良いからかと顔を緩ませる。

 

 風魔が麗奈に撫でられる時に、ずっと笑顔になる気持ちが分かるなと思い出すと自然と悲しくなった。




(……お姉ちゃん)




 一目見た時から利用しようと考えていた。


 何事にも無関心を貫いていたユリウスが、突然現した少女2人を見て目を見張ったから。些細な変化。恐らくはリーグが気付けた事。


 自分をこの国に置くと決め、何かと世話を焼いてくれた。そんな優しい瞳をリーグ以外にも向けたのが麗奈とゆきの2人。だから、ヤクルとぶつかりそうな所を助け、何かとイーナスの邪魔をした。


 彼が元暗殺者である事は団長になった時に聞いてたし、彼の事が嫌いだった。今では面倒を見てくれる人として優しくも厳しいお兄さんと言う位置づけだけど、確実にあの時よりは仲が良い方だと自負する。




「僕……助けたい」




 はっきりと、リーナに向けた言葉は願いだったのだろう。

 ユリウスがやろうとしている事に反対して、リーグは抗う覚悟を決めた。だからこそ、この1週間はリーナと切り合いをしながら、魔法を高める事に集中した。


 ゆきを守れなかったヤクルが目を覚ましているのも後から聞いた。

 そして彼はその日の内に姿を消したと言うのを、ユリウスと見付からなかったランセの2人から聞いたのだから。




(ゆきお姉ちゃんを、助けに行ったんだ)




 自然と答えは導き出されていた。


 ヤクルがゆきを見る目は、ユリウスが麗奈を大事に思う時の目と同じなのを知っている。恋人、と言う言葉は分からなくても2人が良い感じなのは薄々気付いている。

 むしろ仲良くなるのに、くっつかせようとしていた位だ。



 ユリウスと麗奈は互いの想いを通じ合わせる事に成功した。だから今度はヤクルとゆきの番だと思っていた。そんな矢先にゆきは魔族に攫われたと聞き、血の気が引いた。


 麗奈に続いて、ゆきまでもが……。


 自分が大事にしてきた人が、自分の元からいなくなる。こんな気持ち、何度も味わいたくない。だから、助ける為に自分の力を高める必要がある。そんな決意のある瞳を受け、リーナは「えぇ。勿論です」と強く、はっきりと言った。



 リーグがそうするのなら、自分は彼の助けになる為に行動を起こすだけだ。


 リーナも同じなのだ。

 ユリウスには麗奈が必要で。ヤクルにはゆきが必要な人なのだと言う事を。そんな2人を失う様な真似は消してしない。例えユリウスが実行しようとしても、だ。




(そうなったら私は……必ず止める)




 そう心に決めたリーナ。リーグと自然に拳を合わせ、自分達に出来る事を編み出そうと日々を過ごしていく。




======



《小僧。ちょっと良いか》




 ふと、目を開ければ目の前には虹の大精霊であるブルームが小さい姿としてユリウスの前に現れた。

 周りは虹に包まれ、立っているのは地面ではなく空。前に出会った空間と似ているのだと思っていると、ブルームが話を切り出してきた。




《こうして我から呼び出すのは2度目だ。……少しの間、小僧の元から離れるが良いな?》

「契約が切れるのか」




 ユリウスには契約を交わした記憶がない。


 いつの間に行ったのかとずっと疑問だった。確かに精霊を行使するのに柱に貯めてきた魔力とで、契約を行った。麗奈のように互いの名前を交換などしていないし、契約の証になる結晶を持っていない。


 ブルームはやや気まずそうに目を逸らし、契約が切れる事はないと言った。それを不思議に思っていると、彼は言った。


 自分の首に何かついているか、と。




「えっ、と……赤い輪っかがついてるよな。いつから付けてたんだ? 全然、気付かなかった」

《な、に……!!》




 驚きのあまり、ユリウスの顔面に張り付き今も見えるのかと聞けば怒りながらも「そうだよ!!!」と、ブルームを引き剥がそうとする。解放された時にはユリウスは疲れたようにしゃがみ込んだ。




「一体、なんなんだ。普通に見えるもんだろ?」

《そうだな。……悪い。気にするな》




 理不尽だと言いながら、ほっと息を吐く。

 今、こうして自分と精霊しかいない空間は良いなと思い、目を伏せる。思い出すのは麗奈とゆきの2人。


 彼女達が来てからの自分の変化。

 

 リーグがユリウスの時よりも懐くのが早かった。無関心だった筈のベールが、麗奈に関心を持ち珍しそうに接した事。キールが戻って来たその日の夜に麗奈を主と定めた事。


 驚きが連続した。

 起きるものはどれも前列がなくて、ワクワクが止まらなかった。そうした気持ちに蓋をし続けて、兄の代わりにと気を張り続けていたのに。


 彼女達はそれを全部、無視し続けていく。何かあると「あぁ、またか」位の認識。


 だから、油断していた。彼女達なら大丈夫だろう、と。




「何処かに行くのか?」

《あぁ。我が小僧と共にいれて良かったからな。……今ならアシュプの言った言葉がよく分かる。だから出来る事を探してくる》

「探して……?」

《少しの間、居ないだけだ。代わりを置いてくから安心しろ》




 ブルームの声が遠ざかっていく。

 反響して聞こえて来る。手を伸ばした時には、いつもの天井が見えた。




「あ、れ……?」




 自室のベッド。よく見る天井に、さっきまで起きた事が夢であったと理解した。




《キュー♪》

「うおっ」




 可愛らしい鳴き声と共に、バサリと翼を広げユリウスの顔面へと飛びつく。張り付かれ暴れもせずにいると、何故だか嬉しそうに鳴いている。




《キュ、キュー♪》




 白い鱗のドラゴン。その子供が、ずっとユリウスに張り付くように寄り添う。ペロペロと顔を舐め、髪を噛んだりしてはベッタリだった。


 ただしその姿は、ユリウスにしか見えていないという状態付きはあるが。


こちらも10月8日、次回更新になります。


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