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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
幕間:下準備
160/433

その6:それぞれの決意~前編~


 森の中を風が吹き抜ける。

 その音を聞き、キールはゆっくりと目を覚ます。




「……。」




 空を見ると真っ暗で、いつから自分は横になっていたのかさえ覚えていない。考えが上手くまとまらないでいると、キールに向けて声を掛けて来る人物が居た。




《やっと起きたか。この寝坊すけ》

「……エミナス?」




 黒にも近い青い髪の美しい女性。


 人という枠組みから外れた様な美しさと色気がある。見るもの全てを魅了するような、そんな見た目。彼女の額には金の角が生えている。


 全身を黒いローブで覆い、その下にも薄くではあるがもう1枚着込んでいる。


 精霊に人間と同じ体温を感じるのかと聞いた事がり、エミナス自身は気分だと言ったのを思い出す。




「どの位、寝ていたの?」

《2時間ちょっとだな。……お前。このまま行けば戦う前に死ぬぞ》

「まだ死ねないよ。主ちゃんを取り戻すまでは」

《あの子を救出して、親友を殺して自分も死ぬか?》

「……」




 思わず「そうだ」と言いかけた。

 それを何故だかぐっと堪える自分が居るし、それに驚いている。その反応に満足気なエミナスは《まず食べろ!!!》とキールを背負って、食事の準備をしているインファルの元へと急ぐ。




(まぁ。精霊だから、女性とみる訳にはいかないしね……)




 ふと、自分が女性に背負われている現状を思いつつどうでも良いかと切り捨てる。用意をしていたインファルは白い髪にエミナスとは対を成す格好をしていた。

 同じなのは額にある角と同じ金の瞳を持っている事だけ。

 それ以外はエミナスとは逆だった。彼女が黒っぽいなら、彼は白い恰好をしている。彼はキールが起きた事に微笑みながら、当然の如く膝の上へと座らせる。




《ほら。インファルのスープだ》

「言い方に語弊がある」

《文句が言える位にはスッキリしてるんだな》

「まだ、眠い……」

《バカもの。寝るな!!!》




 大きな子供と世話を焼きたがっている母親か、とインファルは密かに思いつつ黙って見守っていた。そこにザッ、ザッと近付いてくる足音が聞こえてくる。

 その人物はキールの両親。

 2人共、驚いたように顔を見合わせキールの様子を見て重症だとすぐに悟った。

  



「いくら国内と言っても、ここ5日間も籠りきりなのはダメだよ」

「……食事は精霊と清さんに作って貰ってる」

「いいから風呂入れ!!!」




 指を鳴らした瞬間に勢い良く風呂へと送られる。

 母親の魔法は、キールと同じ空間を使う。一気に屋敷の風呂へと瞬間移動させられ、土だらけの服もいつの間にかなくなって全裸だ。




「背中洗うぞ」




 恐らくは自分と同じように、いきなり風呂に移動させられたティディール。腰にタオルを巻き、息子の分だと言って渡す。妙な気恥ずかしさを覚えつつ、父親の言う事を聞きながら思った。




(初めて、か……)




 魔法協会をまとめていると知ったのは2ヶ月前。

 麗奈とゆきがラーグルング国に居て、魔物の侵攻を止めた後の事。あの時、麗奈が協会にと転送させられラウルとレーグも巻き込まれた。


 思えばあれがなければ、行こうなどとは思わなかった。

 協会用の手紙がキールの元に届く事があったが、無視を続けた。15歳の成人を迎えた時、いきなり居なくなった両親とだなんて。




(結局、主ちゃんが繋いでくれたって事で良いのか)




 彼女を好きな気持ちは変わらない。

 ユリウスと想いが通じているのも知っているし、祝福出来る。麗奈にはっきり断られているから気持ちの整理はついているのだから。




「私が主ちゃんの事、好きなの知ってるよね?」

「あぁ。セルティルが気に入っている子だもの」

「私が言ってるのは恋愛感情での話」

「……は?」




 意味が分からない。

 そう顔に書いてあるのがおかしくて、キールは笑った。一方のイディールはポカンと開いた口。そしてもう一度「は?」と疑問を投げ掛けた。



=======


「ぜぇ、ぜぇ……くっそ。もう動けねぇ。ぶはっ……」




 キールが、両親と過ごしてからの翌朝。

 空を見上げながら悔しそうに言ったセクトに向けて、ベールが容赦なく水を浴びせる。咳き込んだセクトは睨み付けるも、涼しい顔で「もっと男前になりましたね」と嫌味を言う。




「てめー」

「昨日。キールが森から戻ったそうですよ」

「なんだ、引きこもりは終わったのか」

「……雷が来ますね」

「は? っ、おわっ!?」




 息を飲んですぐに回避する。本能で前へと進めば、その直後に雷が落ちる。自然で発生し、何処かに落ちた様な音を何度か聞いた。しかし、それが自分に向けてなど想像もしない。


 


「へぇ~。生意気に避けるんだ」

「避けなきゃ死ぬだろうが!?」




 避けた先にはキールがいつもの笑顔で毒を吐く。

 内心でこういう奴だよな、と思いつつ元に戻ったようなキールに一応の安心をした。だからといっていきなり攻撃するのかと睨むも、彼はずっと笑顔のまま右手で炎を作り出して構えていた。




「はいはい。立ちますよ、立てば良いんだろう!?」




 その後、自分の父親達と訓練と言うあの実戦をし更に疲れ果てた面々。ベールも流石に予想外だと言わんばかりに、白旗を上げた。驚いた事にセクトの父親であるガーブルが戻って来た事に、息子達以上に驚いたのはイーナスだ。


 その彼からは「戻って来て早々で本当に、悪いんですが報告書後でお願いしますね」と剣を突き立てて言った。戻ったガーブルも素直に言う事を聞いた。




「ってか、親父が戻って来てたなんて聞いてねぇよ。今ままで何処に行ってたんだ」

「私も思ったな。死んでると思ったし」




 そう言って来たのはヤクルの父親、ワームだ。

 フィナントは怪我を治しつつ「お前も同じ位フラッと居なくなる癖に」と零す。




「フラッと出て行ったから戻ってくると何故、思わんのだ。ガーブルが可哀想だろ」

「ファウストさん。それ、一番傷付く言い方ですから止めて上げて下さい」

「良い親友を持った」

「おい、バカ親父。良い話にして終わらせるなよ」 




 セクトとラウルと同じ水色の髪。

 ファウストと同じく剣を扱い、息子のセクトと同じように治癒を扱える2人目の騎士。


 話は今後の事について。

 ユリウスが創造主に出会ってからの今までの事を聞いていたガーブルはふと思った。何で彼だけが会えたのかと。




「そりゃあ、虹の大精霊のブルーム様が居たからだろ?」

「聞けばもう1人も同じく虹の精霊と契約をしていた子が居るんだろ」




 途端に空気が悪くなり、ガーブルは(あれ?)と不思議そうに思っているとファウストから「お前、もう黙れ。ややこしくなる」と言って、諸々の事情を話すからと縛り上げていく。




「ガーブルの疑問ももっともだな。彼女も陛下と同じ条件の筈だ。なのに、会ったという話も聞いていないんだろ?」

「嬢ちゃん、隠し事出来るような子じゃないしな。素直だし」




 ファウストの質問に答えるセクトだったが、キールとベールは押し黙った。麗奈は確かに素直ではあるが、何か自分達に言えなことがあるのは気付いていた。

 もしくは言いたくても言えない事情があるのかも知れない、と。




(……死神が関連してる? いや、まさか)




 キールは1つの答えをある意味では導いていた。

 死神の存在は精霊側からも聞いてるし、彼等は精霊を相手にしても勝てるだけの力を持っている。実際、精霊の数が一時的に減った時に直接手を下したのは大精霊達ではなく死神だと聞いていた。




「麗奈さんは死んだ者の魂が見えると前に聞いた事があります。キールの魔力を見る目も珍しいですが、ここでは死んだ者の魂を見ることが出来るなんて聞いた事ないですから。……話しても理解されないかもと思ったら、戸惑うんじゃないですか」

「あぁ……うん。嬢ちゃん、そう言うの敏感に感じる方だしそうかもな」

「ラウルの方はどうなの? あれから姿が見えないんだけど」

「……嬢ちゃんを守れなかった自分を責めてはいるが、多分平気だ。自暴自棄になるような様子じゃないし、逆に目的を持って自分の力を高めたけどな」

「何処かの大賢者よりは大人だな」

「喧嘩買いますよ。フィナントさん」




 不穏なオーラを感じた面々は退避を開始するのと、互いの魔法が炸裂するのは同時だった。


 風を操るフィナントと、様々な属性を同時に操るキール。東の森が焦土と化すのは早く、報告として聞いたイーナスは頭を抱えた。




(あの人達、私を休めせる気はゼロか……)




 怒りのままイーナスがセクト達を怒鳴りつけての説教はすぐに始まった。それを他所に祐樹と武彦は今日も、ラーグルング国の柱の様子を見に行く。麗奈とゆきが攫われてから1週間が経とうとしていた。




緊張感はあまりない感じですが、大人はあんな感じです。

次は後編、若者組からの思いと決意。

次回更新10月4日に行います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 裏があるのかないのか、創造主のうさん臭さは、 ラスボス臭がしていて、良い具合に、 悪役になっていますね。 麗奈が攫われた後の、それぞれの考え、 思い。これからどうなっていくのか、 今まで以…
2020/08/23 07:59 退会済み
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