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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第1章:陰陽師と異世界
16/433

第12話:師団長、キール・レグネス

 北の森。最初の印象と変わらず暗くもなく明るいとも言えない森。だが、他と違い海が広がっているので、崖が多いと言う説明をリーナから聞かされていたので言われた事を確認するように確かめるようにして、北の柱がある場所まで進んでいく。


 と、ポコン、と式神が麗奈の足を止めるようにしてしがみつき必死で何かを伝えて来る。付いていけば大きな卵が3つもある。……鶏のような白い卵ではなく黒い卵だ。何の巣?と、式神と共に首を傾げれば、ガアアア!!と威嚇するようにして自分達に突っ込む巨大な何かを結界で弾き返す。



「ま、魔物!!ちょっ、それは知らせなくて良いから!!!!」



 慌ててしゃがみ込み、卵を守るようにして現れたのは鳥だ。しかし、見た目が自分達の知っている鳥ではなく、色が紫のギョロリとした大きな目。鋭い足には血がこびり付ている事から、獲物を捕らえるのと同時に殺すものだと認識し出来る。翼も同じ紫だが、綺麗に整えられておらず所々に穴が開いており不気味さを引き立たせている。

 ガクガクと震える式神に、だから呼ぶなと思うもぐしゃりと式神を潰された。ゆっくりと鳥の目と合い同じように潰す動作に、急いで立て直し左にずれる。数秒後、踏まれた足はズシリと重い音を立てて地面が数センチ程へこんでいるのが分かる。



(喰らうとダメって事ね!!)



 すぐに黒い雷で対応し相手を痺れさす。それに声を上げて叫び散らす様子に怯んだと感じた麗奈はすぐに森の中へと姿を消す。幸い、追って来るような事が無いのを見ると卵に害をなす者とみなされ全て殺す対象なのだなと背筋が凍った。



(普通の動物とは明らかに違う見た目と姿。………あれが魔物、実際に会うのは今のが初めてだな。夜にしか出ないって言ってなかった?)



 ラウルから受けた説明では麗奈があの時に触れた柱の影響で魔物は夜にしか現れず、騎士である自分達も今が体を休められると安心したように言っていたのを思い出し疑問に感じた。何で夜にしか来ない魔物が今居るのか?まだ、昼前の筈で……と考えていると式神達が何かを見付けたのかまたバタバタと知らせて来る。



「………なに、これ」



 思わず呟かずにはいられなかった。それほど見付けた物に衝撃を受けたからだ。先程の鳥の足も十分に大きいとは思ったが、4つ足の何かが通った後なのが分かる。大きな足跡と木々をなぎ倒すようにして続いており、それが真っすぐ柱のある方向に向かっているのが分かる。なんせ、このまま付いていけば麗奈も感じている力の気が同じ方向であり魔物は柱に引き寄せられている、と説明を受けていたのを思い出した。



(あの精霊……これを感知してたから危険を知らせてくれたんだ。だとしたらホントに不味い、イーナスさんに言えば良かった)


 

 泣きそうになるが自分から言わないで置いたのだから自業自得だな。と後悔するも今は大きな何かが通った魔物、それと接触するのは不味いなと考えて迂回するようにして柱のある方向に進む。一番まずいのはその魔物と自分がばったりと合う状況だ。

 ……さっきの鳥の魔物の行動から察するに、見付けたら殺すスタイルにこの世界も危ないと改めて認識させられる。それを年下のリーグは難なくこなしている、と思うと騎士団の人達の凄さを思い知らされる。



「麗奈ちゃん、右!!そこは右に曲がらないと!!」

「危ない、そこは崖!!危ないから!!!」

「君達、少し静かにしないと……」



 水晶に移る彼女の状況は、陛下を含めた全員が見ていた。そして、ヤクルはそれを見て改めて出来る奴だったな、と自分の勘が鋭かったのを認識できた。隣を見れば、ラウルがさっきから不安そうな目で見ているのが分かる。リーナも同じように不安を拭い切れない表情に、自分も感じていた疑問が間違いでないのを悟る。



(魔物が何で居る。しかも中級クラスの魔物ばかり……昨日、見回りをした時には何もなかったのに)



 試験の前日。ヤクルの騎士団が見回りを行った時には魔物はなく、柱までの道のりも平和なものだ。だが現状、魔物は存在し下級の魔物ではなく気性の荒い魔物が目に入ってきた。



「陛下、俺ここ抜けて北の森に行っても良いですかね」

「構わない。その勘は必要だからな」

「どうもです、イールはここに残ってて。一応、な」

「はいはい。怪我させたら承知しないよ」

「分かってるよ」



 同じ水色の髪に瞳を持つ美しい女性。ラウルの姉のイール・ラーベルは兄のセクトの補助を務める副団長だ。

彼女はラウルが最近構う女の子2人に対して興味があり何回か隠れながら見ていた。そして、彼女は麗奈とゆきに心を奪われた。妹にしたい!!!と強く燃えた気持ちに、サティ達は危険を察知してラウルに救援を行うも時すでに遅く。既に姉に見つかり戸惑いながらも服を着せ替えて来るイールの行動の速さに、麗奈は目を回しゆきは楽しそうにしているのを見て、別に意味で頭を抱えてしまガクリと大きく肩を落とす彼に兄のセクトは笑いながら諦めろ、と言っていたのは良い思い出だ。


 睨むイールに内心(女こえー)と思うのは内緒だ。と、自分に付いていく人物に目を見開き思わず声をあげた。



「なっ、何でお前が!!!」

「陛下から許可は貰ったよ。君の疑問には私も感じていたんだ。急ぐよ」



 陛下の隣に居たはずの宰相のイーナス。彼は既に剣を持ち戦闘態勢だ。いやいやいや、と拒否するセクトに睨みで黙らせて森へと急ぐ。感じていた疑問、日夜問わず来ていた魔物の動向から約2週間。

 柱の効力が切れてきた、と直感で判断したセクトとイーナスは現場に向かう。中級の魔物が居るなら、上級クラスの魔物も居るに違いないと確信しているからだ。



(陛下もそれが分かったからあの時点で許可を出したんだ。麗奈ちゃん、無事でいてよ)





 その頃、キールは笑顔で獲物の首をギルドに渡し報酬の金を受け取る。さっき倒した魔物は危険度ある魔物。価値が希少なら報酬も高くつき戦闘が得意な人達が必ずリストが存在している。それに載っている魔物を倒せばさらに報酬が上乗せされてかなり潤う、と言う方式だ。



「おいおい嬢ちゃん。何1人でそんなに金を持つのかね」

「俺達にも分けてくれないかな~」

「…………鬱陶しい。どいてよ」



 見れば自分よりも体格のいい男達に囲まれている。周りを見れば同じような反応をしている男共が多く包帯を巻いている者達が多い。それもそのはず、彼等はキールが先程気絶させた男達、誠一達が降り立った所で全員倒れていたその人達だからだ。



「いきなり現れて俺達の狩場を荒らしてくれたなぁ」

「それは知らなかった。もう来ないから安心してよ」

「そうなのかい、じゃあその報酬の金置いて行ってくれよ。君にやられた所為でこれだと生活も出来ないんだが」

「それはおかしいな。雷で気絶させたんだから、骨折なんて大きな怪我はさせてないよ?あの魔物だって人の居ない所に吹き飛ばして殺したんだし………貴方達にとって不利になるような事はしてないよね?」



 キールは頑なにお金を渡そうとせず、相手もそれに引き下がる様子もない。全員もう一度気絶させようか、と考えたキールを遮るように「ぐあっ!!」、「な、何だてめっ!!」、と何やら乱闘にも似た事は発生していた。



『よし、そこだ誠一!!もっと強く蹴れ馬鹿者!!』

「何で応援なんです!!止めましょうよ!!!」

『無駄だ、あれは主人に手を出したアイツらの自業自得。地獄にまっしぐらだ』

「……軽く、で頼むな誠一。骨折させたら生活が出来ない。と言うようだし」

「了解です、武彦さん。邪魔だどかんか!!!」



 自分よりも大きな体を誇る男達が、ポンポンとボールのごとく飛んでいき積まれていく様にキールは思わず笑みを零した。何事かと構える男達に、誠一は体を滑り込ませそのまま背負う投げをお見舞いし、キールと男達の間に立てば男達に睨みを利かす。



「キール君。要件はは済んだのだろう?先を急ぐのでは無いのか?」

「すみません。この人達が邪魔で邪魔で……」



 周りがヒンヤリとするような冷たい目を向け、ギルドを出ていく。お金に換算する前に誠一達の服を黒いローブで包み、魔法で違う服に認識をしたと言うキールのお陰で、周りの者達からの反応を見ても怪しまれていない。本当に万能だな、と感心すればさっきの体術凄いですねと褒められた。



「不良と不出来な弟子を叩くのは得意でね。娘にはあまり習わせていないから、少しだけ後悔もあるんだが」

「へぇ、娘さんが居るんですね。可愛い方なのですか?」

『当たり前だぜ!!嬢ちゃんは可愛いし綺麗だし何より』

『黙れ、バカ狐!!!』



 赤毛の九尾は怪しまれないように、ここでは人間の姿としている為周りからは騒ぐ人達だなと言う認識があり避けられている。裕二は一緒に歩きたくない、と思うも武彦は笑顔で付いていく上に清はさっきから九尾を叩き倒している。



(まさか、自分達が異世界に来るなんて……しかも魔法って。以前、ゆきちゃんに勧められて読んだ本と同じ感じだな)



 頭を抱えたいが、現実に起きている上に何度も頬をつねりこれが夢でないと認識する。キールはその様子を面白そうに見ており、裕二は何でしょうと思わず声を掛けた。



「いえ、楽しそうにしてるな……と。私にも同じように楽しい時期がありましたからね。貴方達を見ていると思い出します。昔の仲間を」

「今は……どうしているんです?」

「そうですね。多分ですが、国の復興とか色々と大変なんだと思いますよ。手伝いたいのですが……拒否されているのか国には入れなくて」

「拒否……何を怒らせたんですか?」

「仲間の死と友人の願いを叶えた結果……その所為で国には入れなくてここ8年野宿を繰り返しています。生まれた国に帰れないのはなんとも……心苦しくて」



 笑顔でそう答える彼に裕二は何も言わずただ見ていた。仲間の死、さっきの魔物と呼ばれる存在が居るのだ。死が身近にあるのは、自分達と変わらず下手をすれば彼は自分達よりも悲しい現実を多く見ているのでは?とそう思わずにはいられなかった。



「ん?………あれ、おかしいな、柱の反応が急に不安定になった」

(柱……?)



 ギルドを出て町を出てすぐキールは立ち止まり空を見る。空は快晴とは言えず、暗い雲が覆いこれから雨が降るのだろうかと予想出来る。しかしキールは空を見た後に遠くを見つめるようにして「行ける、か」と呟く。



「あ。あの、行くって何処に」

「すみません。誠一さん、武彦さん。私の育った国に来て下さい、今から転送をするので」

「「は………?」」

「ど、何処に転送するんです!!」

「ラーグルング国です。5つの柱に守られた森林に包まれた国。自然が多くて良い国ですよ。きっと貴方方も気に入ると思います」

「待って‼話が見えな-」



 問答無用で転送を行うキールに、裕二の質問は無視される。強い光に包まれた先で見たのは忘れるはずもない彼女の姿だった。走っていたのか思い切りぶつかり倒れ込むと言う最悪の出会いだったが……。



「っ、え………裕二さん?」

「麗奈さん、麗奈さんですね!!!」

『嬢ちゃん!!!』

『麗奈ちゃん!!!』



 裕二の姿を確認したら今度は九尾と清に抱きしめられ混乱する。え、夢?と実感が湧かないでいると「麗奈!!!」と裕二達を払い除け強く抱きしめられる。あ、と気付いたら涙が出ていた。忘れるはずもない、自分の父親だ。いつも厳しくて涙なんか見せないのに、今で娘の無事を実感するように強く抱きしめられており苦しい、と訴えるもなかなか話してくれない。



「誠一。麗奈が苦しそうだぞ」

「っ、すみ、ません……」

「武彦おじいちゃん!!!」

「ん、無事でなによりだ。キール君に転送とやらで来たんだが……ここは一体」

「あ、すみません。ここは危ないので城に案内しますね」

「え、あの!!」



 パチン、と指を鳴らせば麗奈を除いた誠一達は一気にゆきの居る城の中へと移動させられた。体が揺らされたような感覚に、慣れずに倒れ込めば今度はゆきが泣きながら誠一達の所に飛び込んできた。



「ゆきちゃん……」

「裕二さん、清さん、九尾ちゃん、誠一さん、武彦さん………良かった、良かったよ。忘れてなんかないもん、私達全然忘れてないもん!!!」

『ゆきちゃん……!!』



 嬉しくて清が愛しむように抱きしめれば、ピシりと温度が冷えたのは気のせいではない。イールが清を睨むようにしており、同時に清も勝ち誇ったようにして見て入り互いに敵だな、と認識を改めた。



「遅くなってすみませんでした、陛下。あとで報告はしますが、今は北の森に行ってきます」

「久しぶりだな、キール」

「はい、ホント………。8年ぶりなので色々と変わってますよね。じゃ、師団長キール、ここラーグルング国に帰還と同時にあの子の援護をしてきますね」



 笑顔で一礼をしたキールは音もなく姿を消し北の森へと急ぐ。事情は知らないがまずは彼女から話を聞こうと考え、森に降り立てば目的の人物は既に戦闘を行っていた。 

 だが相手はかなりの大型の魔物。ライオンのような大きな体は背中に黒い翼を持ち尾は蛇の形をしている。ここでも見るのはないキメラ、と呼ばれる中級クラスの魔物。だが、その禍々しい力の流れにキールは疑問を示す。



(キメラ自体は中級クラス。でもあれは……まさか)



 その疑問が確信に変わり巨大な力が彼女に降り注ぐその力がぶつかる前に、青く薄い壁がそれを阻む。弾き返した隙に横をすり抜けるようにして進む目的はキメラの背後の柱だ。キメラが麗奈に向けて爪を振り下ろすのを、雷の魔法で動きを止める。突然の雄叫びにビクリ、となった麗奈は思わず振り向いた。



「気にしないで、進んで!!」

「は、はい!!」



 何とか攻撃を掻い潜り柱の所まで辿り着き手に触れる。街の中心同様に、今度は青い光を発し辺りを包んだ。この反応が起きたと同時に、他の柱も同様に光を放ち麗奈が付けている首飾りに向けて一気に放たれた。



(首飾りに光が集まって……)

―主、呼んで………僕の名を―

(え、名前………)



風魔(ふうま)と紡がれた言葉。それをゆっくりと間違えないように言葉を言う。光が止んだと同時に空に浮いたような浮遊感、それに意識が持って行かれる。次に触った肌触りがフワフワと九尾を触ったような毛先に不思議そうにしていれば、『主♪僕の主!!』と嬉しそうな声が聞こえて来た。え?と白い毛並みの彼を見る。

 大きな犬。2メートルはあろうかと言う程の狼にも似た犬が嬉しそうに空をんでいた。この状況に戸惑うとキールは「へぇ、これが霊獣って言うのね」と同じように空中に逃げていた。



「えっと……」

「私はキール。君には感謝しないと……拒否されていた国に、光を与えてくれたんだから」

「え………それは、どういう」

「話をしたいのは山々だけど、まずはあのキメラを倒すよ。進化するんだよ魔物って」

「えっ!!」



 慌てて下を見る。そのキメラはさらに体を大きくし黒い翼が大きく広げ、敵を滅ぼそうと睨まれる。柱には触ったが、ここからは生きるか死ぬかの状況だ。

 無事に城に戻る。そしてあのキメラは完全に自分達を敵とみなし、攻撃態勢だ。どう動きを封じようかと考えていると、大きな影が自分達を包んだ。振り向けば、さっき卵を守っていた大型の鳥だ。それ自分達を餌としているのか、足を使って自分達を捉えようと動くそれに避けるようしていれば、キメラからの突撃に晒され結界で弾き返すもすぐに旋回して襲い掛かる。



「あはははっ、まさかこんな大型の魔物がこんなに飛び掛かるなんてね。君、魔物に好かれるの?」

「う、嬉しそうに聞かないで下さい!!!」

『主、逃げればいい?』

「ご、ごめん!!まずは安全な所に、と言うか落ち着きたい!!!」

「安全ねぇ。難しいよ」

「言わないで下さい!!!!」



 泣きそうになるもまずは落ち着きたい。その気持ちが一杯の為、まずは風魔に安全そうな場所に移動するようにお願いする。キールは進化した魔物を倒そうかと思案する中、周辺のマナに変化が起きた。



「急いで離れて、あの魔物……遠距離の魔法を放つよ」

「風魔!!!」

『了解!!』



 大気が震えるように、周りに満ちるマナが魔物達に吸われていきキールは防御魔法の展開を始める。2体の同時に放たれた光線に何もかもが飲み込まれるようにして大地を無くす。


 一瞬で焼け野原になった地点で、急いで馬を走らせて辿り着いたイーナスとセクトは轟音と凄まじいまでの魔力の密度に何があったのかと不安に駆られ、馬を城に返し自分達も柱のある方へと向かう。


 彼女の無事を信じて………。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 朝霧一族が合流できて良かったです。 [一言] 柱の謎や、いろいろな思惑の錯綜など、 なかなか複雑な展開ですね。 ここからの異世界での陰陽師の活躍が 楽しみです。
2020/03/28 20:18 退会済み
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