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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
幕間:下準備
159/433

その5:旅立ち


「ありがとうございました、フィナントさん。ハーフエルフの扱いは私だけで、判断する訳にはいかなかったので助かります」

「いい。ワクナリの事を任せるように言ったのは事実だ。彼女もルーベンも無事だ。戻ってきた時に改めて言えば良い」




 ハルヒ達と話を終えたフィナントはその足で、ラーグルング国へと戻りイーナスに報告をした。誠一は戦士ドワーフと行動を共にすると聞き、ラーグルング国へと戻れそうかと聞いたが――。




「ドワーフの条件は彼と行動を共にするだけであって、私達とはコンタクトを取らない。人間嫌いのドワーフが、異世界人と行動するだけでもかなりの進歩だと思うぞ」

「……ははっ、麗奈ちゃんと同じで色んなものを巻き込みますね」




 そう受け答えする中で、誠一達との連絡をこれきりにしようと考えフィナントにもそう伝えるとあっさりと頷いた。




「彼等はこのまま陽動もしくは潜入をして貰う。誠一にはそう伝えているから平気だ」

「既に許可を取ってるんですね……」

「適材適所だ。我等は感知出来ないまま。向こうも感知する術を持っているから、向こうに任せただけだ。君も、これで少しは休めるだろ」

「ありがとうございます」




 そう言ったイーナスの笑顔はいつもと違い覇気がない。

 フィナントはちゃんと休めているのかと聞くと、あれから寝れていないという返答をした。




「よくフリーゲが怒らなかったな」

「いえ。毎日、怒られていますよ。今度は親子揃って言われるので、反省はしてるんですが……」

「休まないと持たないぞ」



 

 押し黙るイーナスは息を吐き、やっとの思いで答えた言葉は「そうですね」のみ。それに今度はフィナントが「やれやれ」と言っていると、執務室にノック音が聞こえた。


 入っても平気だと告げると、武彦がイーナスにと緑茶を持ってきた。


 激務をこなすイーナスの分と、報告しているフィナントの分にと用意していた。緑茶を作るきっかけは、自分達の世界で似たような緑茶になるチャノキの葉に似たものを見付けたからだ。


 もしかして……と思い炒ったり乾燥させたりと色々と加工をする。


 偶然とはいえ、自分達の世界で飲んでいる緑茶と同じ物が出来た時は麗奈達と共に喜んだ。和菓子も作るようになった清がイーナスにとセットで持って行く。


 イーナスが気に入るのも早く、何かと緑茶を飲むのが日課になっていたが、眠気が誘われにくいと言う部分が悪く働いてしまい更に仕事をするようになったのは内緒だ。




「ふぅ。落ち着く……」

「若いものは働くのが仕事のようなものだ。だけど、無理をしろと言っていない」

「……はい」




 フィナントの分も渡し、自分の分の緑茶を飲みながら言う。その端々に心配と棘のある言い方に、即座にイーナスは白旗を上げた。このまま言う事を聞かなければ、とんでもない事になると本能が告げるからだ。


 報告をする中で、誠一がユリウスの代わりに麗奈と刺し違える覚悟を持っている。そう聞き苦い顔をしたイーナスは「そう……」と答えるしかなかった。武彦は逆にその答えに納得したような顔をし、相変わらず不器用だなとこぼす。




「彼はやると決めたらやる男だ。……娘相手にそれが出来るとは思えないがね。ハルヒ君がそれを許すとは思わないから心配はしていない。私としてはイーナス君達の方が心配だよ」




 戦を仕掛けると決めてからのイーナスは、ディルバーレル国と密に連絡を取り合う事が増えニチリとも連絡を取る日々を送っていた。ベール達もその時の為の備えとして、魔族の倒した方を再度確認している。


 キールはあれから寝ずに魔力を高め、魔法を極めるようにして森の籠り切り。リーグ達は自分の長所を伸ばしつつ、弱点をフィナント達先代の騎士団長達が面倒を見ている。


 それは最低でも、魔族を1人で倒せるだけの力を身に付けさせる為に。


 サスクールの元に集まっている数は不明。そのどれもが上級クラスの魔族だろうと予測し今も力を高める為にとそれぞれ励んでいる。




「君もきちんと休むんだ。指揮をするのはユリウス君だとしても、支えるのは君の役目なのだろう?」

「……それはそうですが」

「1日位、休んでも誰も文句は言わない。むしろ働きすぎて倒れられる方が困る」

「フィナントさんに言われると、かなりきついですね」




 苦し紛れの笑顔をし、自分よりも大人である2人に休むよう言われてしまう。イーナスはその言葉通り、自室で休む事に決めた。


 しかし、今の今までゆっくりする概念が無かった。

 その殆どはキールの騒ぎの沈静化、書類の整理が主な仕事だったから。気付けば、外は既に夜になっていた。久々のベットだと言うのに、彼は眠る事すら出来なくなっていた。


 ヘルス・アクルス。

 ユリウスの兄であり、自分をこの国に置いた王族の1人。そして……イーナスが会った中での一番の変わり者。




(何でなんだ……)




 生きていた事は嬉しいと思う。

 だが、何故……自分達の敵として現れるのか。魔王が体を乗っ取っていると言う事だが、その中で彼の意識はあるのだろうかと色んな事を考えてしまう。




「……ダメだな、これだと……」




 自分でも驚く位の情けない声。

 こんな時、ヘルスなら……と考えたくもないのにどうしても考えてしまう。思い出すのは彼と過ごしてきた時間。




「……」




 あまりにも長い時間、互いに競いながら傍に置いたなと思う。

 キールの行動に頭を悩ませ、どうにかして捕まえられないかと考える日々。それが、懐かしく思うようになった事で自分は年を取ったなと変な実感を覚える。




「……本当にやるのか。ユリウス」




 自分の兄か愛する者か。もしくはそのどちらも失うかも知れないと言うのに……。まだ18歳と若い彼に、そんな十字架を背負わせて良いのかと自問する。


 不意に自分の手首に付けた、金のブレスレットが目についた。ディルバーレルから戻ってすぐ麗奈が慌ててイーナスにと渡した物。




「長い事待たせてしまったのと連絡が遅くてごめんなさい。あと、無茶も色々としてごめんなさい。それから……」




 その後、謝りながら自分の失敗を全部述べていく麗奈にイーナスは微笑む。自分はただ無事な姿見れればそれでいいのだと。そんなにかしこまならくて良いと言ったのを。




「え、でも、イーナスさん怒ると怖いって言うから……」

「誰から聞いたの?」

「キールさん、です」




 彼女もマズいと思いつつも、正直に告げた。

 密かにイーナスの機嫌が下がっていくのが分かったから。その時の無表情で凍てつくような目でいたのを気付いていなかった。




「キール」

「あ、バレた?」

「へっ」




 麗奈の背後。ソロリと顔をのぞかせたキールに驚く麗奈。彼はニヤニヤと顔を緩ませ、イーナス自身それに怒っていた。自分とのやり取りを聞き、またあとでいじる気でいたのを分かったからだ。




「君って本当に、毎度毎度困らせて」

「主ちゃんからのプレゼントが嬉しい癖に。あんなに優しい」




 その後の言葉は目の前に振り下ろされた剣により中断させられる。

 「ひえっ」と短い悲鳴を上げた麗奈に、すぐさま黄龍と青龍が姿を見せて庇いながら距離をとった。




『えっと、手伝う?』

「平気です。……直接、終わらせる」

「うわぁ」




 その言葉を最後に追いかけっこが始まり、巻き込まれたフリーゲに怒られる。その思い出に、思わず笑ってしまい少しだけ気が抜けたのも事実。




「……やらせる訳には、いかない」




 だって自分は元暗殺者。人を殺すのに躊躇はしないし、感情を消せる。

 天井に向けてぐっと拳を作る。決意を表わすように彼は決めた。




「私がやらないと。親友として、麗奈ちゃんの保護者として……」




 自分ならそのどちらも殺せるのだろう。

 彼はそのまま意識を失う様にして眠った。


 久々の睡眠は気分が悪かった。清が様子を見に来て『酷い顔だな』と心配させる位には。



======



 翌日、村長はハーフエルフ達に村を捨てると話した。 


 魔王と戦えば被害は甚大なのは歴史が物語っている。

 父親なり母親がエルフだった子供はその事を聞いてた。現に集まった者達から驚きもなく受け入れ次はどうするのかと、村長に聞いていた。

 

 一方のワクナリはこのまま彼等といるか、誠一達といるのかと考えていた。ルーベンには既に両親はいない。帝国から逃げて来たから元から居場所はないとしワクナリのしたい事に付いてきた。

 

 それが彼女の故郷を探す、というもの。


 今は魔物達に蹂躙されていったが。

 各地ではこれがまだ続いている。魔王が動き、自身の手に入れたいものはいれた。あとは世界を壊すだけ。


 示されるように魔物達は周辺を襲い、魔族も介入してきた。

 人間がまだ少なかった頃の戦いよりも、今度は明らかに大きいのを実感していく。




(私は友達を、助けたい……)




 自分の見た目が嫌いだった。

 両親と離れてから牢に捕まり見せ物にされ、消えない傷を作った。思い出すだけでも吐き気がするような事を。


 だが、ルーベンは「綺麗なのに台無しだな」とそっと声をかけた。労るように頭を撫で、上官とおぼしき人からは名前を呼ばれそのまま離れた。


 たった1度の出会い。かけられた言葉に彼女は救われた。魔法の適性が高かったワクナリは精霊と契約するまでに至り、枷付きでだが外に出られた。ルーベンの傍に居たいと思ったのは今、思うとこの時からだったように思う。




(麗奈ちゃん、ゆきちゃん)




 彼女達と会って、友達になれた。

 それが嬉しくてルーベンに言えば良かったなと、大きな手で頭を撫でてくれた。好きな人に誉められるとこんなに嬉しいのだと実感し、彼女達に言えば2人も自分の事のように嬉しがった。




「共に行かせて下さい」

「君はルーベンと共に、村の人達といなさい。傍に」

「嫌です」

「……」




 ドワーフ達と出る誠一達を見付ければ、当然のように追い返される。だが退かない。ワクナリの決意に誠一は「勝手にしてくれ」と言ってアルベルトの家へと向かう。


 絶対に、助ける。

 

 そう胸に誓った彼女にもう迷いはなかった。

次回更新、28日(土)に行います。

もう1つの作品と合わせてよろしくお願いします。

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