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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
幕間:下準備
157/433

その3:陰陽術と魔法


「は? 今、何と言ったんだ?」




 まだ、九尾や誠一が異世界に飛ばされるかなり前の話。

 誠一は聞かされた内容に思わず目をパチパチと瞬きをし、そう聞き返した。それを九尾はいつものように足を組み、欠伸をしながらもう1度言った。




『だ、か、ら!!! 本当の俺はもっと大きいんだよ。巨大なの』

「……そう、言われてもな」

『あ、信じてねーな。酷い!!!』




 ふんっ、と拗ねた様に体を丸くする九尾にどう反応を返して良いのか分からない。が、チラリと誠一を見るので構って欲しいのか聞いて欲しいのか……と迷った挙句に聞くことにした。




「はぁ。なんだいきなり……」

『俺等、霊獣が土御門の連中に封じ込められたのは聞いたな?』




 誠一は聞いていると言いながら、その時の九尾が密かに苦手だ。彼はその土御門の当主に封印されたらしく機嫌が悪い。バチバチと電を散らしてくる上に、雲行きが怪しくなっていくのだから。


 こう言う場合、大雨は確実なのは実体験で分かっている。




「もういい、その話は面倒だ」

『おっ、さっすが主人!! 分かってるなぁ~~』




 密かに脅して置きながら……と思わずにはいられない誠一だが、これも口に出す気は無かった。  

 そんな様子を見て満足気にしていた九尾は言った。




『俺が主人も嬢ちゃんも守ってやるからよ!!!』




======


 九尾が自信満々に言っていた言葉が唐突に思い出す。

 これが現実逃避だと言うのは分かっていた。だが、今目の前で起きている事が信じられないでいた。




『ガアアアアアッ!!!!!』




 大きな咆哮。

 それは自分と契約を交わした九尾のもの。ついさっきまで行動を共にしていた。


 いつもは普通の狐の姿で自分達の周りを飛び回り、麗奈にちょっかいを出した落ち着きのない赤毛の狐。憎たらしくもあるが何処か愛嬌のある自分の……相棒。


 目の前にいるのは九尾で間違いない。

 だが全長5メートル程の大きな狐は果たしてこの世界に居るのだろうか。今も、迫りくる魔物を引き裂き時には雷で空中に迫っていた魔物を倒していった。


 魔物を標的に倒している。

 この事実は変わらないが、果たしてこれがこのまま続くのか。魔物が終われば今度は自分達に、その力が向けられるのではないのか。そんな不安げな視線を誠一は向けられているのを感じ取る。




(あの話は本当の様だな……)




 九尾が冗談交じりに言っている。

 その程度の認識しかしていなかった自分。それは九尾もお見通しの筈だったが、この村に向かうまでに聞いていた。

 

 ——もしもの場合は俺が道を開く。


 その為に自分の力のリミッターを外すように言った。そんな事にはならないと思いながらも、念の為にと九尾に本来の力を戻した。その結果が今、目の前で大暴れしている九尾だ。




「……っ」




 こんな時、妻である由佳里ならどうするのか、娘の麗奈ならどう動くのかと考えを巡らせた。あの2人は無鉄砲で、自分の事なんかお構いなく動く上に人の言う事を聞かない。


 ……とんでもない所だけ受け継いでいる。

 部下でありまた自分達にとっては家族に近い、裕二が可哀想に思えてならない。



(……そうか。そう、だったな)




 唐突に思い出した。

 霊獣と繋がれるのは、彼等を制御できるだけの霊力を持った者。その殆どは、当主の息子なり娘だったりする。霊力の高さは遺伝に由来されたりするし、突発的に出てきたりする場合もある。


 分家のハルヒがその例に当たる。

 彼の夫は同じ土御門家でも分家の中では力が弱く、また彼が妻にと選んだのは外国の女性だ。だから分家も本家もハルヒが強い霊力を持って生まれたのは、予想外のなにものでもない。


 霊獣と陰陽師は、パートナーであり共に苦難を乗り越えて来た確かな絆がある。だからこそ……それを正すのが自分だと誠一は思った。




「このっ、馬鹿者!!!」



 

 気付けば既に行動に移していた。

 魔物を蹴散らす九尾に、特大の雷をお見舞いし彼の手足を霊力を込めた札で封じる。それでも動きを抑えられるのは数秒だけだ。




『ウ、ガアアアアアッ!!!』

「がっ……」




 九尾の尾の1本が誠一へと直撃し、簡単に吹き飛ばされる。

 暴れ回るのは予想していていたが、ここまで早いとは思わず受け身も霊力を込める間もなく地面へと叩きつけられる、その寸前――。




「クポーーー!!!」




 アルベルトが叫び、地面を砂へと変える。いくらかクッションにはなったが、それでも衝撃を和らげるのは難しかった。地面全てを砂には変えられない。その範囲もアルベルトが広げられる魔方陣に限られる。


 


「っ、ぐぅ……わ、るい。アルベルト」

「クポ。クポポ!!」




 気にするなと言い、こちらに気を配りながらも魔物を蹴散らしていく。本当なら止めようとするのだが、誠一の行動を黙って見ていた辺りアルベルトも理理解してきたのだ。




『グゥウウウ』




 唸る九尾は雷を当てて来た誠一をギロリと睨み返す。

 敵認定をされたのは嫌でも伝わる。この村に向かう前にアルベルトの父親に殴られたのもあるのだろう。今頃になってガンガンと頭に響く音、少しフラフラとなりながらも九尾の居る所へと向かう。


 反射というのは恐ろしい。

 こんな時でさえ、向かって来る魔物を相手に体は勝手に動く。怨霊を相手にするようにして、札をばら撒き結界を張りながら自身の血を用いての攻撃で串刺しにしていく。




「あんだけ偉そうに言っておいて……いざ、戻ればこれか」




 九尾の力が強いのは分かっていた。自分と同じ雷を使うから相性が良いと思い、初めて怨霊と戦った時にその凄まじさは今でも覚えている。コツン、と握りこぶしで九尾の額を叩く。


 何度も何度も叩き、バカだのなんだのと色々と文句を言った。そうしている内に、九尾の方が声を上げて笑っていた。




『ってえっ!!! いてーよ、主人!!!』




 2、3本の尾で自身の顔をさすり頬をさすり、そして傷付いた誠一を労わる様にフワリと撫でる。その動作で安心したのか、彼は九尾へと体を預けるようにして倒れる。




「遅いぞ……バカ狐」

『主人に言われたら終わりだな。……そんでもって悪い。さっきまで正気で無くなってたのは事実だ。傷付けて悪かった』




 自身の尻尾で主人と慕う誠一を優しく撫でながら、アルベルトにも悪いと伝える。さっきまで気が荒くしていた九尾は今も落ち着きを取り戻した。そう安堵していた時に爆発音が聞こえた。




『なんだっ……!!』

「水……?」




 爆発に似た何かは、大量の水が柱という形をもって生み出されたもの。新手かと思った誠一達は次に聞こえた声に警戒心を解いた。




『良かったぁ~~。狐さんの気が荒ぶるから何か起きたのかと思ったよ』

『げっ、何でてめぇがここに!!!』




 その水を生み出したと思われる人物はこの世界の服とは異なったものを着ていた。白装束と水色の狩衣。ニチリの服装にも似たそれを知っている者はこの世界には少ない。

 なんせそのニチリと言う国も閉鎖に近い形で、周りとは遮断していた。つい、この間やっとの思いで水の都、騎士国家とも呼ばれているダリューセクとも交流をしてきたばかり。


 それらの事は世に広がるのはまだ先な上、魔王サスクールが本格的に動き出したのもまだ広まっていない状態。


 現れた人物にハーフエルの者達は自然と警戒していた。




『うわっ酷いなぁ~~。助けてあげようかと思ったのにぃ』




 バサリとその人物が持っている者が扇を広げ、パタパタと仰ぎながら誠一と九尾の元へと降りていく。九尾の雷を直撃に受けるという手ひどい歓迎を受けて。




『来るな!!! 寄るな!!!』

『いや、だから酷いって。確かに君を倒したのは私だけど……。あ、この場合は俺って言った方が良い?』

『今すぐその口を閉じろ!!! 邪魔なんだよ!!!』




 正気に戻る前のように唸り、誠一を自身の尾で守りながらもパチパチと周囲に電気を発生させている。既に警戒心ではなく敵意にも似た感じに睨まれるがそれを気にした様子の無い破軍。




『うぅ、酷いなぁ。主もそう思わない?』

「自業自得でしょ、何言ってんの」 




 呆れた様に破軍を助けないのはハルヒだ。誠一は思わず目を見張り無事な姿に安堵した。

 一方でハルヒの方も話しをしようとして、九尾に阻まれる。思わず「狐さん?」とニコリと目が笑っていない笑顔で聞く。




『俺からすれば分家のお前も同様だ!!!』

『ふはははっ、主も一緒だって!!!』

「……ポセイドン。領域をお願い」

《承知した、主殿》




 ポゥとハルヒが身に付けていた魔道具が光りだす。淡い水色の光となって現れ、一滴の光がハルヒから離れた瞬間にこの場が変わった。


 彼を中心として、この村全体に大きなシャボン玉の中にいた。この場に居た魔物はその領域の影響で全てが弾き返され、またはそのまま消滅をした。加えて中に居た人達全員に同じ淡い光に包まれた。


 驚いている内に、怪我をしていたであろう傷口がみるみる無くなっていく。治癒を施したのだと理解するのは早く思わず、全員がハルヒを見た。

 正しくは彼の頭の上に乗っているイカのポセイドンではあるが……。




「すまない。助かったよ」

「いえ。意外に世間は狭いですね。別々に出て行ったのにこうして会うだなんて」

「クポポ!!!」

「あぁ、アルベルト。君が誠一さんを守ってたんだね。偉い偉い」




 しゃがんでドワーフである彼を手の平に乗せる。そうお礼を言えば、アルベルトは嬉しそうに体をくねらせた。嬉しさを表現していると教えてくれたのは、麗奈であり彼女とアルベルトが短くも確かな絆を生んでいるのを実感した。


 思わず泣きそうになるのをぐっと堪え、破軍に向き直る。




「破軍。魔物ってまだ居るの?」

『んーー。ポセイドンのお陰で全部片づけられたよ。ついで消火もしてくれたから被害もあんまり大きくはないね』

《勝手な事をしてマズかったのか》




 シュンとなったポセイドン。ペタッ、と足を延ばしだらけるとハルヒは慌てて平気と伝える。途端に元気になり《次はどうする?》とワクワクしたように聞くので心の中で子犬か、とツッコんだ。


 意図せずハーフエルフの村に助けに来た誠一は、偶然か必然かは分からないが同じ異世界人のハルヒと再会を果たした。そして、その様子を見ていたのは人間嫌いのドワーフ達。


 彼等が驚いたのは異世界人が他にも居たという事。

 重い腰を上げて見れば、世界はあまりにも広く自分達が取り残されたのだと実感させれた。


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