その2:引き寄せられる運
『はあ? なんだそりゃあ!!! じゃあ主人はとばっちりを受けたのか!!』
「クポーー」
『よしっ、あとで父親殴らせろ。良いな、アルベルト』
「クポポ!!」
『うっし、許可貰った!!! あとでぶん殴る』
「止めんか!!!!!」
九尾の背に乗る誠一からの怒声。
しかし、アルベルトから聞かされた話に九尾は怒りに燃えていた。
誠一からすれば眠そうになっていたのを起こして貰った、という感覚だったがすぐに『主人の感覚ズレすぎ!?』と言われてしまう。
アルベルトからもダメだと言われてしまったのだ。
(……村が1つ、か)
頭をすぐに切り替える。
ズキン、と痛むのを少し我慢し式神達に包帯で巻くようにと命令を下す。
すぐに誠一の頭の周りに式神達が器用に乗り、自分の体を切り包帯に出来るようにとチョキチョキと切り頭に巻いて止血していく。
「クポ、クポポ?」
「ん? あぁ、麗奈も式神を出すのは皆同じデザインだ。大きさは人それぞれだし、私は怪我をしているから代わりに巻いて貰っている」
「……ポポ」
いや、そうではなくて……と思うアルベルトだったが、その言葉を飲み込む。
もはや前が見えていないのではと思う程に、式神達が多く巻きながら自分の体を切っていくと言う光景に言葉が出なくなった。
痛覚はないと言うが、見ている方からすれば……自分も痛くなるとつられてしまう。
『あれだ。ちっ、既に黒煙がちらほらと……』
「ん…。待て九尾。襲われている!!!」
誠一が指を指す方向に魔物の数が異様に多いのが見えた。
九尾が急行し、雷を魔物にだけに定めて一気に消滅させる。すると、追われていた側の人達は突然の雷とそれを助けたと思われる九尾を見てポカンと口を開けていた。
『……主人。こっからだと主人達は見えないと思うが……耳が尖がった奴、見た目は普通だけど、目の色と髪の色が騎士兄妹のと被るぞ』
「なに……?」
騎士兄妹と言われて思い出すのは、ベールとフィル。セクトとイール、ラウルの事だと思うがすぐにフィナントの兄妹の事を指しているのだと思った。
セクト達の髪の色は水色か青に近い色。
ベールとフィンは元は金髪に深緑の瞳を持つと聞いていた。だから、ピンと来た。エルフの事だと。
(見た目が同じ、もしくは一部がエルフと被る……。ハーフエルフの村が襲われているのか)
人間嫌いなドワーフに、人間とエルフに虐げられた存在のハーフエルフ。そのどちらも人里からかなり離れており、深い森の中だと言う共通点から重なってしまったのだろうと九尾とアルベルトに話す。
『ならどうする。人間嫌いって言うんなら俺達が介入するのは快く思わないだろ』
「種族は関係ない。襲われているのなら助けるだけだ」
『……また殴られるぞ』
「したい奴はそうすればいい。悪いが見捨てると言う選択は元からない」
「クポポ」
ポム、と誠一の肩を叩き自分も助けたいと告げるアルベルトに「付き合わせて悪いな」とハイタッチをする。その時、九尾の耳がピクピクと動く。
『……なあ、主人』
「なんだ」
『こっちに来てくれって……言われてるんだけど』
そう言われたのならと誠一は迷うことなく下に降りるように、と九尾に頼む彼は渋々と言った感じで降りて行った。
助けたのはやはりと言うべきか、ハーフエルフ達だった。
男女の子供が5人、青年が3人、最後に見た目40代位の夫婦の軽10人での集団だった。
降りた途端、九尾に寄って来たのは子供達だ。
物珍しいのかペタペタと触られ、悪寒にも似たムズムズ感に思わず尻尾で遠ざける。しかし、その行動がさらに子供達への行動の力となってしまい――
『はーなーれーろー!!!!!』
「うわっ、凄い。話せるの!?」
「フワフワだぁ~~」
「ね、ねぇ。何でこんなに尻尾が多いの?」
『ギャアギャア騒ぐな。耳元で言うんじゃない!?』
そう騒ぐも本気で振り払おうとはしない九尾。
彼は麗奈が赤ん坊の時から共にいて、育ってきた事もあり子供の突拍子もない行動には慣れているからだ。人数が多ければその行動が色んな方向へと行くのは分かる。
が、今は状況が状況な為に彼等に時間をかける訳にはいかない。
だから九尾は尾の数分の札を宙へと掲げ、自身の霊力を札へと流し込んだ。
途端にポン、ポン、ポン。と音を立てて生み出されたのは狐の子供。九尾の分身とも言える存在で、彼等は互いにコンタクトを取りながら本体の九尾へと状況を知らせたり出来る万能な式神だ。
『ほら、コイツ等でも抱えてろ。触ってよし、一緒に寝て良しの狐だ。触り心地良いから我慢しろ』
コンコン。キュキュ!!! と声を上げて可愛く鳴く狐に驚いたように微動だにしない子供達。しかし、すぐに目を輝かせて「わーい!!!」と喜んだ様子に飛び付き思い思いに抱きしめたりする。
その様子に満足気な表情の九尾に、誠一も安心したように笑みを浮かべた。今まで沈黙を守っていた夫婦へと視線を向ける。すると、2人は恐る恐る誠一の元へと近付きお礼を述べた。
「そうですか……。襲撃を受けている連絡を受けて、戻る途中に魔物に襲われていた、と」
「はい。あいにく私や子供達は魔法を扱えても、防御系統だけで攻撃魔法を扱えていません。殆どの者は弓を扱うのが多く、接近されれば立て直しは出来ませんから……」
弓、という言葉に反応した誠一はチラリとアルベルトを見た。
彼はコクリ、コクリと頷き予想通りハーフエルフの村が襲われているのだと言う確信を得た。
『だったら急ぐぞ。主人、乗れ!!!』
「あ、あの……!!!」
再び九尾の背に乗った誠一は呼び止められ振り返る。
声を掛けてきたのは先程まで話しをしていた男性だ。なんだと短く答え、聞かされた質問に思わず目が点になった。
何故、助けたのか……。
「……私達は人を護る職業ですから。危ない命があるのを見捨てるなんて出来ません」
『話は後だ!!! 生きてたらまた会おうな』
慌ただしくと飛び立つ九尾はそのまま黒煙が見える所まで向かう。言われた方は呆然とそれを見ていたが、すぐに子供達と妻を連れで自分達の村へと向かうのだった。
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「はあっ……はあ……。っ、くぅ。数が多い……」
肩で息をし、何とか踏みとどまったのはルーベンだった。
一方でこの村にはルーベンとワクナリが来ていた。と、言うのもここは彼女の知る村だったからだ。
人から遠ざかり、尚且つ簡単には踏み込めないような深い森の中。そして、ここには魔物を倒してくれる不思議な何かが居るのだと言う事も聞いていた。
「多分だが、大地の精霊様が守ってくれているんだと思う」
「精霊、様……?」
幼いワクナリは不思議に思いながらも、父からその話を聞いていた。自分達も魔物を倒すが、巨大な体を持ったものに対しては魔法での攻撃が効く。しかし、ハーフエルフで魔法を扱える者はごく少数だ。
そんな時、見たものが居るのだと聞いた。
巨大な魔物に対して、同じく巨大な何かが戦っていたのを。激しくぶつかり合う中、地面に手を置いたその人物は魔法を発動させ魔物を倒した。
以降、自分達は魔物を相手にしつつも危ない時には見えない助っ人のような人物に助けて貰う事が多かった。感謝したいが、姿はすぐに見えなくなり別れすら言えない。
そこで考え出されたのが、村の出入り口に作られた精霊を祀る様にして作った祠だ。立派なものではなく、木の板で作った子供達の手作り。日々の感謝としてその日に取れた食材を置くようになった。
「そこから精霊様と私達の会話が始まったんだ。精霊様と話せるのは召喚士となる者だ。もし見えるようになるのなら代わりに感謝を伝えて欲しい」
そんな幼い約束。
彼女も元気よく頷き「必ずやる!!!」と意気込んだ。家族3人で出かけたのはその数日後。
人間に見つかって捕まり、被害を増やさない為か父が咄嗟に村の場所とは別の方向に逃げた。
帝国の代わりに、今度は魔物が村を襲っているという惨状。
戻ってみれば村は魔物に襲われ既に火の手が上がっていた。ルーベンが不慣れながらも、火を囲うようにして土を覆う。崩れそうな家があればまずはそれを支え、中に人が居ないかと呼びかけた。
そしてどうにか村人達が、全員集まった時にルーベンはまとめで土の壁で覆い防壁を作り上げた。土でカモフラージュしようとした矢先、空から来た魔物の処理に追われた。
奇声を発したが為に、仲間に居場所を知られた今はルーベンとワクナリが守る様にして戦っていた。ワクナリの契約した精霊は、アルベルトと同じような小人の姿。
(精霊の力が強くとも、数ではこっちが不利。しかも、すぐには移動が出来ないからか制限がつくな)
思わず舌打ちしたくなった。
一つにまとめたが為に自分達の動きが封じられるという失態を侵し、自分達も魔力が最後まで持つかと弱気になってしまう。
そこを、キン!! と青い四角色のものが魔物を1つずつ閉じめ込めていく。
「滅!!!」
そのような言葉を合図に、閉じ込められていた魔物達は一気に消滅していった。続けざまにキン!! と金属音のような音が聞こえたかと思えば同じような光景が飛び込んでくる。
「無事ですか!? って、君達は……!!!」
「せ、誠一……さん?」
「なんで、貴方がここに」
互いに驚くものの、状況の為にと一旦切り捨て魔物退治へと移行する。すると、誠一の隣に姿を現した九尾が『やんぞ、主人』と確認を取るような聞き方をする。
一瞬、考えた誠一は止む負えないと思いつつ頼む。とお願いをした。その答えに満足した九尾は己の力を開放する。
普通の赤毛に尾が9本の彼は、次の瞬間には巨大な大狐となって魔物だけに雷を落としていった。




