第129話:親友
「ユリウス!!」
サラマンダーとの契約を果たしたヤクルは、リーグとリーナの2人がいる所にずんずんと進んでいく。火傷を負って苦しんでいた筈のヤクルの回復に驚く3人。
ニチリに着いてからのフリーゲの報告を思い出す。
「一応、霊薬でこれ以上の熱は抑えられる筈だ。精霊が原因なら魔法の方が効くかも知れないがものは試してみるものだな。……とは言え、あと数日は目が覚めないから見張っといてくれると助かる」
数日と言っていたが、実際は倒れて5日程で目を覚ましただけでなく何故だか普通に歩いてくる。掴みかかるかと思ったユリウスだが、ヤクルの魔力の変化を感じ取り「そう言う事か……」と納得した様子。
それについていけないリーグとリーナは成り行きをそのまま見守る。少し離れた所でいつ喧嘩になっても良い様に、と身構えながらも話に耳を傾ける。
「倒れたと聞いて驚いた。フリーゲさんからは数日だと言っていたんだが、どういう事だ」
「サラマンダーと契約をしたんだ」
心の中でやっぱりと思い、ヤクルの流れる魔力を見る。
ユリウスもキールと同じように、魔力の流れを見る事が出来るようになってきた。出来るようになったのは麗奈が攫われてすぐの事。自分の中にある黒い魔力が見えたかと思ったら、それが急に虹へと変わった。
自分の見えるものが変わったと思えば、周りの見え方がいつもと違った。
魔法を扱う者は、自分に見合う魔力を纏っているのが見え自分だけが可笑しくなったのかと思った。
すぐに起きて来たキールに相談すれば、自分と同じような状態だと言い「慣れだよ」と当然の様に言われこの状態に付き合う事になったのだ。
そして精霊と契約が出来ている者には、纏う魔力の中にキラキラとした粒子が交じった見え方をする。
(ヤクルの魔力は前は赤だった。でも、今はオレンジ色の中に赤い粒子が交じった魔力。……炎の精霊か)
《それだけではないぞ、小僧》
突然の声。ブルームの声はヤクルにも聞こえ、2人で周りを見渡せばバサリと翼を羽ばたくような音が聞こえてくる。
「あっ……へ、平気?」
リーグが慌てて手を広げてキャッチしたのは小さなドラゴン。色は黒い鱗なのに時々、虹色に変わる不思議なドラゴン。飛んでいるのが疲れたのかそのままリーグの手を受け皿代わりにとユリウスへと顔を向けた。
《ちっ。いつもよりも力を抑えての具現化………面倒な》
《お久しぶりです、お父様》
ふっ、とヤクルの隣に現れた炎を纏ったトカゲ。
リーグと違いその姿はヤクルが見ていた時よりもかなり小さくなっている。そして、何故だか半透明な姿でこの場に具現化をしている。不思議な事にリーグとリーナにもその姿ははっきりと見えている。
「ブルーム、だよな」
《それ以外の何に見えるんだ。……小僧の見えている通りだし、疑問に答えてやる。サラマンダーはイフリートと違って治癒に優れた精霊だ。力を振るうイフリートは攻撃。サラマンダーは治癒と炎を同時に行う。……契約したからと、お前さんの怪我と火傷を完全に無くしたんだろう》
ぶっきらぼうな言い方をするが、ヤクルに無理はするなと言えば答える前にサラマンダーが《ありがとうございます》と答える。よく見れば尻尾が嬉しそうの振っている事から、褒められたいのだと思い何も言わずにそのまま見送る。
リーグの手から離れて、バサバサと翼を頑張って振りユリウスの頭の上に乗り《それで、だ》と話を続ける。
《サラマンダーが暴れた場所は既に焦土と化していたが、シルフとウンディーネの力で芽が出始めようとしている。緑を元に戻るなら森の精霊に頼むしかないが、そこは自分で燃やしたんだから責任を持て》
《はっ。それは失礼しました。……あとでシルフとウンディーネにお礼を良いに行きます》
《小僧。魔力の流れが見えるようになったのなら、あの女の事も何も分からないのか? アシュプとあれ以降、姿を見せないのだが》
「……分かるならとっくに向かっている」
《………そうか。それは悪かったな》
麗奈と契約を交わしたはずのアシュプの魔力が少しでも辿れれば、とブルームは思った。魔力の流れが突然見えるようになった原因をブルームは知っている。
創造主のディーオに会った時。
恐らくは彼との邂逅を果たした事で出来るようになった。もしくはディーオがユリウスにその力を渡したとも考えられるが、今度はその意図はなんだと考える。
「ユリウス。俺はこのままゆきを探しに行く」
「……居場所が分かるのか?」
「あぁ……。それに俺はやっぱりユリウスのやり方を許せないんだって思った」
「………」
心の中でそうだろうなと思いつつ、ユリウスはヤクルの言葉を聞いていた。隣に居るサラマンダーにも目を向けると、彼? はこちらに気付き《そう言う事だ》と止める気は無いのが分かる。
聞けばゆきを探す手がかりはあるが、それがどういったものかは言わない。リーナは軽く睨んでいたが怯む事もなく「こればかりは無理だ」と、ヤクルは強い口調で言い返す。
(その方法はあっても言う気がない、か)
聞いたら恐らくは反対するのが分かる。そんな方法をヤクルは取ろうとし自分にはそれを止める資格はないと感じていた。
自分も同じ事をして、反対されている最中だ。
しかし、他に方法はない。
誰かがやらないと行けないのなら、自分がやるべきだとそう思っていたらヤクルから声を掛けれる。
「ユリウス。俺はゆきの事が好きらしい」
「……らしい、のか」
「そっちみたいに告白が国中に知れ渡ってないからな。正直、微妙だと思っていた。でも、ゆきが攫われて……大事な人だって気付かされた。ユリウスは違うのか?」
ズキリと心が痛みを訴えるのが分かり、ユリウスははぐらかした。さあなと答えれば、リーグが掴み掛かるのをリーナに止められる。
その場面を視界の端で見ながらもヤクルと向き合うようにして立つ。そして言った。
だから、なんなのだと。
「大事な人だから助けたい。ゆきを助けて麗奈も助ける。そんでもって、お前に証明するんだ。……大事な人を犠牲にしなくて良いってな」
思わずヤクルを凝視した。犠牲にしなくてもいい方法を取ろうとしている。ハルヒも誠一もドワーフのアルベルトも、その方法を探し当てようとし離れて行った。
「大丈夫だ。俺はゆきを探して見付ける。ユリウスの場合、一番に行きたくても行けないだろ。ほら……お前の場合は指揮をしないとだろ」
麗奈が攫われユリウスの話を聞いた者達は、魔王サスクールの次の行動は何かと予想をしていた。その中でユリウス達の居るラーグルング国が狙いではないかと言う意見が多くなった。
理由としてアシュプが居た事で変異をした守護地。精霊が多く存在し、その国に居る者達は少なからず多くの魔力を秘めている。
ヤクルやラウルのように上位属性を扱う人も歴代として多く存在している事で魔族にとっても危険度が高い国。
次に狙われるのならばラーグルング国だと思い、宰相のイーナスは早々に対策を練りに国へと戻っていった。
ラーグルング国と同じ立ち位置でもあるディルバーレル国のドーネルもすぐに戻り対策を立ててくると言った。
「ユリウス。君の覚悟は相当のものだ……。ヘルスの事も含めて、麗奈ちゃんの事も含めて本当にそれで良いのか。よく考えてね」
別れ際、彼は怒るでもなくユリウスの頭に手を置く。
兄がやるような優しい手つきに自分の拳を強く握りながらも、どうにか平常心を保ってドーネルと別れを告げた。
セクトと妹のイール、ベールとその妹のフィルはイーナスと共にラーグルング国に戻り防衛準備をしている。ダリューセクに所属している咲もギリギリまで居たが、セレーネに説得されて国に戻る事となった。
それが、ヤクルが目を覚ます少し前。
アウラは彼等の話をひっそりと聞いている。ユリウスはブルームからウンディーネが居るとこっそりと教えていた為に、彼女は居ないと言う形に振る舞った。
ヤクルもサラマンダーからひそかに教えられていたので、アウラの存在には気付いておりそれ等も含めて言い放った。
「ゆき達を見付けるまで、ユリウスは国を守ってくれ。無論、手が空いたら来くてれていいんだけどな」
「……なんだよ、その言い方は」
「戻れる場所が無くなるのは勘弁だ。そうなったら俺達、全員無職になるんだからな。しっかりやれよ、陛下」
「うわっ、それいやだ」
「こ、こら、団長……」
もがもがとリーグが何か言おうとしているのを、2人は無視して久々に笑った。体がすっと軽くなったような感じにユリウスはヤクルに向けて拳を突き出す。
ヤクルも同じようにコツンと拳を合わせる。それが昔の2人を思わせるような懐かしい感じにリーナはほっとした。リーグは密かにその反応を見ており、自分も同じように安心したのだ。
これなら喧嘩はないな、と。
「証明するって言ったんだからやれよな」
「もちろんだ。言ったからには実行するのが俺だ」
道を示したその矢先、ニチリの灯台の方から巨大な黒い魔力が感じ取れた。突然、膨れ上がったその魔力はまるで魔王と似た巨大なもの。警戒を強くした2人は感じ取った場所まで自然と動いていた。
ニチリに再び緊張が走った。




