表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第4章:魔王軍VS同盟国
150/433

第126話:炎の騎士


 自分に向けられた。

 そう認識する間もなく、既に来ている刃。だがすぐにポヨヨンとスライムが壁になる。




「うっ……」




 呻き声を出したが、思った以上の衝撃は来なかった。

 自分がスライムに包まれてそのまま風船のように飛んでいたからだ。




≪貴方、水の精霊と契約していたわね。じゃ、この子あげるわよ≫




 アウラが契約したウンディーネから受け取ったスライムは、ゆきにペコリと頭を下げていた。麗奈とハルヒが目を覚ますまでの間に行われ、理由を聞いたら水属性の精霊を契約している人にはこうしているのだと言った。




≪離れた場所に居てもそれぞれが感知できるようにしたの。それに、このスライムは優秀よ? 物理攻撃は効かないから防御にも適してる。ただ――≫




 魔法での攻撃には注意が必要だと言われた事を思い出し、ゆきは即座に逃げると言う選択をとった。




「待て待て!!!」




 目の前に黒い雷が落ち、尻もちをつく。

 あと数ミリ、ゆきが動くが早かった場合。直撃を受けていた。その事実がゆきの動きをさらに鈍らせる。




「お前は人間なのに、何で古代魔法を使えるんだ? その辺の謎、俺に聞かせろ」

「な、なんの……」

「とぼけるな。協会に襲撃した魔族が古代魔法でやられて、危うかったのは聞いている。その後、同族に殺されたのも知っているがどうでもいい。……エルフにしか使えないものを人間のお前が使う」




 その時点で危険だ、と睨んできた魔族にゾクリと背筋が凍った。

 自分が狙われたのは異世界人と言うだけでなく、扱った魔法の特殊性で狙って来たと思い周囲を見渡す。




(他に、仲間は……居ない?)




 魔王であるランセからは魔族が扱う力は自分も含めて闇の属性だと言う説明を受けていた。


 初めゆきは魔王と聞いて恐ろしい人かと思った。


 麗奈と違って彼女は、学校で読む図書館や友達と話すライトノベルでの話でもファンタジー系を読んでいた。


 物語で魔王は大体悪い位置付けであり、勇者や冒険者に倒される。そう言った先入観もあり、最初は怖かったが麗奈がすぐに話しかけていた事で、普段と変わりなく接している所に凄いなと思った。


 話しかけてみるとランセは笑顔で親切に教えてくれるし、危ない事には率先して行く。極めつけはディルバーレル国でのランセと共に行動をした時だ。




「ゆきさん、魔族の索敵方法を教えるよ。協会で襲われて大変だったでしょ? 事前に知っておいて損はないよ」




 魔法協会でゆきが死にかけた時に危なかった所を助けて貰ったのはランセだ。その時からゆきの中でランセに対する印象は変わったのだ。


 魔王が優しくても良いのかも知れない……。


 言葉を聞いたら悪く聞こえるだけで、会ってみれば優しい人なのだ。でも、それはやっぱりランセと言う特殊な立ち位置だからなのかも知れないと思った。




(この人以外には居ない? ……何で1人で来たの)




 今までぶつかった事のある魔族は大体がペアで組んでいたりしていた。

 だから、魔族が1人で来ている事に疑問を感じた。それだけの実力者なのかと言う考えに至った時に、ゆきの事を守っていたスライムが吹き飛ばされる。




「っ、スライムさん……!!!」




 ダメージはなくとも魔法での攻撃は通る。

 ウンディーネから預かったからだと思う。咄嗟に手を突き出して防御をした。今まで魔物での戦闘に慣れてきたが、しっかりしないといけないと思った。


 今、自分が狙われている。一瞬の判断が危ういのだと……。




「はっ、ようやく集中したか!!! よそ見してると、死んじまうぜ!!!!」

「リヒト・ケッテ」




 ジャラと腕に巻き付いた鎖が、動きを封じた事で真っすぐに振り下ろされた矛は軌道を変えて薙ぐように流れを変える。




「うぐっ……!!!」




 自分の身体がビリビリと痺れて来る。

 体を動かす度に意識を持って行かれるような痺れに、思わず顔をしかめる。その隙をつくようにして男の蹴りが鳩尾に叩き込まれる。




「っ、がはっ、ごほっ、ごほっ……」




 単純に振り上げただけの拳。

 咄嗟に自分自身に防御の魔法をかけていなければ、恐らくは肋骨を折れていたかも知れないと言う衝撃。


 意識が、既に朦朧(もうろう)としておりぼやけてくる中でゆきの中では危険だと言う警鐘が頭の中で鳴り響く。




「うぅ……くうっ………」

「ゆき!!!」




 炎がゆきと魔族との間に割り込む。  

 すぐに知っている人物の声に落ちかけていた意識を取り戻す。




「ゆき!!! しっかりしろ」

「ヤ……クル」




 抱き抱えられて、既に移動をしている。

 思わず何処かな、とぼおっとした頭で考える。一方で抱えて走っているヤクルは大木にゆきを置き無事であった事にふっと笑みを浮かべる。




「すまない、遅くなった。少しだけ、待っていてくれ」




 それだけ言ったヤクルはすぐに移動を開始した。

 感じ取れる闇の力の大きさから魔族の中でも上級クラスなのは彼には分っていた。




(1度、ラーグルング国に来たのより濃く感じる)




 麗奈を連れ去ろうとしてた魔族と似ている感じ。

 気を抜かない様に注意しながらヤクルはその魔族の元へと急いだ。



======= 


 一方のティーラはのんびりとしたまま相手が来るのを待った。自分の間を割り込むようにして発した炎。下された命令は古代魔法を使う人間の始末であったが、ティーラ的にはどうでも良かった。




(人間に使えるのはおかしな事だ。だか、異世界人ならそれもありか……)



 

 異世界人。

 今、居る自分の世界とは全く異なる世界から来た人間の呼称。


 聞かされた報告では、1人は魔王サスクールの器として捕らえたと言う事。そして、ゆきと呼ばれた者を思い出す。




(ゆき、って言ったな。……古代魔法を使う危険人物、ね)




 ティーラでなければ、確実に生き残ってはいない。

 彼は出された命令には、程々に従いつつ無気力だ。いつだって彼を従えて、命令を下して良いのは1人だけであり、サスクールなどではない。




「人間の体を乗っ取る魔王ってのも、珍しいよな」

 



 つまりは自分達のような体がない。魂だけの存在となり、世の中にフヨフヨと浮いた存在。




(そう言う奴は、死神に狩られるんじゃなかったか?)




 魔族側での死神の認識は人間のと違う。

 人間の場合は、悪い神様のような言い方をしている。悪い事をすれば死神に狩られるのだと。

 そして魔族側の場合、死ぬ前に姿が見えるのは人間と同じ。魂だけの者から順番に狩っていき地獄に墜ちる。


 だからこの世界に生き返えると言う術はない。


 魔族やエルフ、ドワーフが長生きだが必ず死が訪れる。

 病気もする。体の弱い魔族もいる。人間と同じように暮らす魔族の国もあると聞いた事がある。




(死神に狩られない対策として、人間の中に入った……か)




 なら、その基準は?

 何かサスクールは意図しているのか。うーん、と普段は使わない頭をフルに使う。元々、難しい事を考えるのは苦手だ。そう言った事は全て主であるランセに任せてきた。


 そしてランセ自身、ティーラのそうした性格も理解しているからか頼まれる前に全て終わらしてきた。仕事が出来る主を持って良かった。


 本当にあの時代は良かった。




「本当に……良かった、なぁ!!!」

「っ!!」




 あの頃の事を思いながらも、体は反射的に繰り出された攻撃を防いでいた。

 炎を纏った剣筋がティーラの持つ矛とぶつかる。通常の武器なら魔力が纏った強度には勝てずに折れる。それが起きていないと言う事は相手も同じく、武器に魔力を纏った状態であると言う事。



(ちっ!! ぼんやりしているからと思ったが、考えが甘かったか)




 魔族のティーラを見付けて暫くは観察を続けていたヤクル。

 急にぼんやりと、考えるような感じに思わずこのまま退いてくれと心の中で祈った。


 だが、やはり甘かった。何故だかゆきを狙って来たあの魔族。魔法協会で行った古代魔法が原因かと、一瞬頭の中を過ぎった。


 エルフにしか扱えない、魔法。

 あの時は凄いとしか思えなかった。やっぱり自分達と住む世界が違う者達は、何処か自分達とは一線を引いた存在。


 まざまざと見せ付けられた。

 自分では到達しない場所に。だから考えが及ばなかった。逆に目を付けられる事態になるなど。




(麗奈がやった試験で、キールさんが言っていたのに……!! 魔王に狙われる可能性があるって、言われてたのに!!!)




 注意はしていたが、心の何処かで思っていた。いや、思ってしまったのだ。奇跡を起こすのでは、と。




(だったら俺達が、俺達全員のミスじゃないか!!ユリウスが下した決断に、俺が偉そうに言える訳がないじゃないか……)




 自分達に伝えるのだって辛いはずだ。

 兄が魔王に乗っ取られ、好きな人が次の器だったなんて。

  

 麗奈にサスクールが乗っ取られたら、今度は世界が滅ぶだなんて。そんな重みにユリウスは耐えていたのだろうか。誰に相談するでもなく、下さなければいけないのは彼が王族としての責任があるからか。




「お、前は……ここで、倒す!!!」

「はっ、やってみろよ!!!」




 その時、ヤクルの持っていた剣が輝く。

 深紅の炎のそれは、今まで自分が使ってきた炎とは明らかに違っていた。

 魔族の持っていた矛を蛇のように絡みつき、一気に燃やし尽くす。その異常性を察知したのかティーラは、既に後退し燃やされた武器を前にしながらニヤリとしていた。




「ははっ。なんだお前。そんな隠し球があるなら最初からやれよ!! 楽しめねぇだろうが!!!」




 自身の武器を破壊されたのにも関わらず、楽しそうにしている。新たに生成したのか、元々持っていたのか次は槍を構えて突進してくる。




「初めて見たぞ。()()()()()()()なんて、ここ何百年と見てねぇしな!!!」




 黒い雷と炎と光を合わせた力がぶつかる。

 その力の衝撃で、周囲にあった木々が吹き飛ぶ中。ある程度の体力が回復したゆきはヤクルの元へと向かう。


 自分の中に渦巻く嫌な予感。それが現実にならないのを祈りながら、少しでも先へ先へと進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ