表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第4章:魔王軍VS同盟国
149/433

第125話:狙われる者


「俺に……麗奈と兄様を討てと、アンタはそう言いたいのか……」




 絞り出した言葉は、自分でも酷い事を言っているのだと思う。ディーオはその答えに「そう選ぶかは君次第だよ」とはぐらかす。




「選択の幅を広げようと言うだけの事。どうするかは君が決めれば良いんだよ。私の言ったようにアシュプの代わりに行うのか……あぁ、このまま世界を崩壊するのを見ると言うのもありかもね」




 ピクリ、と肩が動く。

 何を言っているのかとユリウスは想い、そして睨み付けた。

 こんなふざけた言動をする相手に時間をとられているのだと、そう思えば怒りが沸々と沸き上がる。




「創造主と言う割に……随分と軽く見るんだな」




 舌打ちしたい気持ちを押し殺して、代わりに吐いた言葉。本来、ディーオはその時のユリウスの気持ちは伝わってたが敢えて無視をした。

 自分のいる空間に呼んだ時点で、ユリウスの気持ちは全て筒抜けの状態だ。


 彼の怒り、悔しさ、絶望。


 誰でも抱くであろう負の感情を、ディーオは読み取りどのような答えを導き出すのかを見る。




「軽くは見てないよ。ただ……世界が壊れようとも、私がいればいつだって再生が出来る」

「なに……」

「天変地異が起きようとも、魔族に人間の住処が無くなろうとも……私が死ななければ世界は無事だ」




 だって私はこの世界を作った張本人なんだから、とそう語った彼に対してユリウスが思ったのは怒りだ。




「ふざ……けるな!!!!!」




 もう一度魔力を込めて剣を振るう。

 また同じことを……と、ディーオは思い静かにため息を吐いた。が、すぐに顔色を変えて本気で防御した。


 バチィ!!!と、今までは消されていた筈の力がここに来て初めての衝撃を生んだ。

 そして、ディーオはユリウスを見てニヤリと分かりやすく口角をあげる。 




「まさかとは思ったけど……ふふっ、君が初めてだよ」




 ピシ、と亀裂が入る音が聞こえディーオの顔に傷がつく。

 横一線に引かれた短いもの。つぅ、と伝うのはユリウスと同じ赤い血。




(あぁ……これなら平気かな)




 指を鳴らせば風景が変えられる。

 ユリウスは空へと投げ出され、周囲を確認する間もなくブルームに運び出される。




≪行くぞ!!!≫

「あ、あぁ……」




 ブルームとしては抜け出せたから全力で向かうのだが、ユリウスは未だに空中で足を止めたディーオを見つめるだけだった。




(あれ……)




 その時、ディーオに近付く人影を見た。

 エメラルドグリーンの髪には見覚えがあった。体を包むようにしているローブも、初めてにしては見覚えがありすぎるのだ。




(ディルバーレル、で……見たのか)




 既に遠くまで離され確認出来ないままだったが、気のせいかと思いつつ急いで彼女の元へと向かった。



======



「ハルヒと誠一さん、アルベルトさんにはその話をしたんだ。……俺は、俺の選択は兄様を討つ。その場合、麗奈が憑依されるんだろう。……だから」




 俺は2人を討つと感情を読ませない瞳で告げて来る。

 

 誰もが息を飲んだ。

 特にセクトとベールはヘルスとは仲が良い上に、弟のユリウスの事も含めて頼まれごとをされた仲だ。


 全員が処理に追いつていない。

 ユリウスの兄が魔王に乗っ取られていた事。次の器として麗奈が選ばれていた事。




「待て……何で、何でそうなる!!!!!」




 ユリウスの事を掴みかかったのはヤクルだ。

 その瞳には怒りと悔しさが見えていた。最初に掴みかかるのも、文句を言うのも誰なのかはユリウスに分かっていた。


 彼とヤクルは幼い時からずっと一緒に居た。

 家族ぐるみでの付き合いで、兄であるヘルスの事も知っているしやんちゃな時期も知っている。

 そして、そのユリウスが初めて自分から告白して麗奈と通じ合えたとのも一番に喜んだのはヤクルだ。




「そんな……そんな選択しかないのか!!! どっちも犠牲にして……それじゃあ、お前は……どうなるんだ」

「考えて決めた事だ。……2人の命と、世界の崩壊。俺は……この世界を壊したくない」

「嘘を言うな!!!!!」




 怒鳴り声が響く。

 ユリウスの耳にも痛い位に、ビリビリとした痛みが伝わってくる。ヤクルはそれ以上に苦しそうにしており、そんな選択をしたユリウスに向けて思い切り殴った。




「つぅ……」

「お前は……お前は!!!!! 本音を言わないし、自分だけ抱え込んでいるバカだけど……ここまでバカだとは思わなかった。見損なったぞ、ユリウス!!!!!」




 ハルヒと誠一、アルベルトが怒るのも分かる。

 こんな選択をしてしまったら、誰も幸せになんかならない。実現してしまったら、それこそユリウスは簡単に壊れる。


 それが分かっていて、何でそんな選択をするのかとヤクルは本気で分からないと初めて思った。




「………創造主だが知らないが……いきなり出て来た奴の言葉を鵜呑みにして……。愛嬌のあるバカだと思っていたが、これじゃあ麗奈が可哀想だ。……こんな選択しかしない奴が、麗奈が好きな奴だなんて……」

「………」




 ギリッ、と奥歯を噛みヤクルを睨んだのはユリウスの方だ。

 勢いよく起き上がったと思えば、そのまま掴みかかる様にしてヤクルを殴り付けた。




「っ、ヤクルに……ヤクルに何が分かる!!! 居場所も分からないこんな状況で、何をどうするのが良いのかなんか、分かる訳ないだろ!!!!!」

「そうやって……被害者ずらするな。こんの、腰抜け!!!!」

「なんだと……!!!!!」


「……め、て。止めてよ!!!!!」




 殴り合いの応酬を始めようとしたその時。ゆきの泣きそうな声に思わずピタリと止まる。

 見れば既にポロポロと涙を流しており、すぐに気まずそうに顔を逸らす。近付いてくる気配を感じユリウスが顔を上げた時に、パアン!! と頬に感じた痛みと音が響く。




「バカ……陛下のバカ!!!!」





 ゆきはそれだけ言うと全速力で謁見の間を出て行く。

 ヤクルが慌てて追いかけていき、リーナとリーグも同様に出て行く。しかし、リーグは出口の手前で止まりユリウスの方へと体を向ける。




「……ゆきお姉ちゃんが怒るのも無理ないよ……。僕、僕も……そんなの嫌だから」




 それだけ言ったらすぐに後を追うようにして出て行った。

 ヒリヒリと痛みがあるが、ユリウスは構わずに「認めて貰おうだなんて、思ってない……」と吐き捨てるようにして行った。


 残された者はそれぞれ、どう答えを出すのか分からないままだったがベルスナントが各自に部屋を戻る様にと言った。




「色んな事が起きすぎて追い付かないからな。リッケル、この事はここに居る者だけで収めておけ。ダリューセクには私から告げる」

「……はい。分かり、ました」




 あまりの衝撃にいつもの冷静さを失っていたリッケルは、ベルスナントに言われた事ではっとなる。

 その後、キールがフラリと倒れその場は騒然となった。しかし、伝令の者から告げられた内容にまたも緊張が走った。

 



「巨大な魔力が、このニチリに来ています!!! ベルスナント王、指示をお願いします」




 次から次へと問題が来るなと思いつつ、ベルスナントはすぐに迎撃体制に入れと指示を送った。



========



(嘘……嘘だ!!!)




 ゆきは無我夢中で走っていた。

 ユリウスからの言葉はあまりにも信じられない事だった。


 麗奈が、自分の親友が魔王の器として選ばれていて……このまま行けば、彼女は自分達の敵になってしまうと言う事。




(っ、何で……何でなの!!!!!)




 何で親友が好きな人とそんな事をしないといけないのか。

 殺し合いをしろと言われているような不気味な感じ。だからか、とハルヒと誠一の行動の意味を考える。




(3人はそれを止めたくて……だから、だから別の方法を取ろうと……)




 誰も悲しまない方法をとろうとしている。

 ユリウスが背負わなくて良い様に、麗奈や好きな人の兄が助かるような……そんな夢みたいな方法を探そうとしているのだ。


 ゆきも、好きな人同士が戦うなどと言う惨劇を見たくはない。

 他に選択があるなら、とあるか分からないものを探すようなものでもゆきは走り抜けていく。




「!!!」




 それは、咄嗟だった。

 ゆきの前にポヨンとスライムが飛び出してきた。同時に爆発が起き、吹き飛ばされるのを何処か遠く関係がない様に見ていた。




(あっ、スライムさん!!!)




 地面に叩きつけられる事もなく、またポヨヨンとスライムがゆきを包み込むようにしていた。何が起きたのかと周りを見渡す。


 自分がいる場所はニチリのどの部分なのか……。そうだ、と思い出す。ここは警備隊が訓練をする為の海に繋がる森林の中だったと気付く。




「ほう……直撃の筈だったが、生きてるな」

「誰!?」




 自分に近付いてくる足音が聞こえる。

 身構えるゆきの前に現れたのは長い矛を持った男。黒い髪に紫色の瞳の体格のいい男性だが、纏う魔力の感じからゆきは魔族であると直感した。




「いきなりで悪いが……嬢ちゃん、死んでくれや!!!!!」




 言うと同時に実行された殺しの執行。

 すぐに動けなかったゆきに雷の刃が襲い掛かった。


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ