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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第4章:魔王軍VS同盟国
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第119話:変化


 ニチリの王、ベルスナントは報告される書類の内容を読み終え処理を行っていた。宰相のリッケルは「お疲れ様です」と言いつつ、緑茶の入った湯呑を持ってくる。

 一息入れて欲しい、と言う無言の意味に彼は反対する理由も無く肩を鳴らしながら用意されたお茶を飲む。




「……ん、これは……」

「ラーグルング国からのお土産になります。名前は緑茶(りょくちゃ)と呼ばれる異世界での飲み物だそうです」

「うむ。この渋み……クセになりそうだな」

「気に入られたのなら、今後ラーグルング国との貿易での話を進めても良いですね。彼等が保護をしている人の中で、こういったものを作るのが得意な方がいるそうなのです」




 ほぅ、と感心しながら思い出されるのはつい5日前の戦闘での事。異世界人のハルヒと麗奈が魔物と化した海の大精霊・クラーケンを元に戻したのだ。


 人間でも精霊でも呪いを受ければ消滅は免れない。今までそれらを解除できる者はいなかった。光の魔法を扱う者も聖の魔法を扱う者の可能ではなかったのだ。




「名前を変えたのだったな」

「はい。新たな名前はポセイドンと。何でもハルヒ様達の世界では海の王の名前だとか」

「王の名か………」




 元々、クラーケンは海と言う特殊な領域を有している。水の大精霊ウンディーネの力を削ぐという方法も、大きな支配力を持つクラーケンの魔物化が原因だ。




「アウラ様の話によれば、魔物化した影響で眷族であるスライムもウンディーネも、魔物化していたと言う可能性を秘めていました」

「それらの不安も拭えた、か」

「はっ。そのように考えてよろしいかと」




 ウンディーネも魔物化していたら、シルフだけでは抑えきれないのが目に見えている。ここ数年で大聖霊を扱える神子は居ても呼びかけには答えてはくれなかった。

 それらを変えたのは間違いないなく、ラーグルング国と関わりハルヒが呪いを解いた事に他ならないと確信が持てたのだ。




「……リッケル。ハルヒともう1人の異世界人を呼んでくれ。話をしたい」

「はい」




 静かに礼をしたリッケルはそのまま退出し、ハルヒと麗奈を呼びに各方面から呼びかけを始める。数分後にはハルヒと麗奈、その隣に誠一が到着していた。

 麗奈は誠一の服の裾を掴み、不安げに見つめており巻き込まれた側の彼も緊張した面持ちでニチリの王であるベルスナントと対面を果たしていた。



========



「えっ、どうやって呪いを解いたか……ですか?」




 ベルスナントから問いかけられた質問に麗奈は思わず聞き返した。彼の執務室にはリッケルとディルベルトもおり見守っている。ハルヒは王の質問に関しては同じだと思い麗奈を見つめる。


 彼は麗奈が契約をしたツヴァイに言われてクラーケンとの契約を行った。彼女は言った。自分達のような異世界人は、自然と召喚士としての資格を得られているのだと。




「えっと………」

「陰陽師は呪いに関しての研究が、進んでいると彼から聞いている」




 彼、と言われて思わずハルヒの方を見る。彼はニコッと「来た時に色々と言ったんだよ」と平然と言っていた。別に陰陽師の事を秘密にしていた訳でもない。


 護りの力に特化し見えない存在との戦いに優れた者達。


 霊を見聞きしているから、怨霊の執念での呪いに関してなら確かに詳しいのかも知れない。精霊の呪いもそれと同様なのかと言われると正直に言って答えずらい。


 そして麗奈が答えに言いよどむのはもう1つある。




(ザジ達の事は……言えない)




 彼女だけが感知して見聞きできる死んだ者──死神。

 魂を回収している事を仕事としており、クラーケンに飲み込まれた魂も無事に回収したとサスティスから聞いている。その為に、呪いの力が弱まったのも彼等のお陰とも言える。




『俺がクラーケンの呪いを一手に引き受けたんだ。主はそれを虹の魔法で完全に浄化したに過ぎん』




 突然、響く声。感じた事もないような気配がすると思った時、その存在は麗奈の傍で浮いていた。


片腕は龍の腕を持ち、長い蒼い髪の蒼い瞳の凛々しい男性。造形のような美しい顔に思わずベルスナント達は息を飲んだ。




「青龍……」

『すまない、主。俺の為に話さずにいたのだろう?』




 コクリと頷く。彼は麗奈が話せないでいる訳を知っている。話も合わせやすいだろうと思っての行動だと、麗奈に囁いたのは黄龍だ。

 姿は見えない事から、ハルヒと誠一に気付かれないギリギリのラインで消しているのだと分かり悟られないように青龍へと視線を合わせる。


 ストン、と完全に地に足をつけ自らクラーケンの状況を話しだした。呪いを解くのは一筋縄ではいかないが、龍神の力を使って外したと話せば今度は龍神とはと言う質問を受ける。




『俺は龍神と呼ばれる神の子供だ。本来、生まれた地での管理が目的だが俺は自ら進んで朝霧家に陰陽師としての力を与えたんだ。広く世界を見ている分、陰陽師の仕事も知っているし対処する怨霊についても知っている』




 その時のベルスナントは険しい顔立ちでいながらも話を聞き、誠一も青龍の説明で自身の家が龍神と深い関係である事の理由に納得を示していた。




『この世界の人間で呪いを壊すなら、それこそ力が強くないと無理だ。精霊が相手なら、主や陛下が扱う虹の魔法での対処しかない』

「虹……。アシュプ様とブルーム様の事だな」

『だがクラーケンが本来の力を取り戻した事で、ニチリに広がる海の影響もかなり変わっている。……そうだな?』




 お見通しとばかりに青龍はリッケルに視線を向ければ、彼は参ったと言い説明を始めた。

 ポセイドンとして名を与えられてすぐ海の管理を行ったという。それまでクラーケンの影響により、海に存在している全ての精霊の力は奪われ人間を助ける事が出来ないまでに弱体化をしていた。


 ウンディーネの眷族でもあるスライムが、人を襲い始めたのもありその影響を風の大精霊のシルフにも変化が現れたのだと。




「今まで風の障壁で魔物の侵入を防いでいた力が急に強まったんだ。呪いを解いてからと言うもの、ずっとニチリの防衛を行っている状態になります」

「……今後の事もある。出来るなら、呪いの対処に為に協力をして欲しいのだ」

『人でも呪いを受ける。魔物も魔族も、精霊も例外ではない。気休め程度の対策で良いなら俺から提示する』

「ちょっ……青龍……」




 思わず咎める言い方をした。青龍の態度は王に対して無礼ではないか、と思っているからだ。

 リッケルが静かに睨んでいるのを感じた麗奈は、青龍の服を引っ張っり謝るように視線で訴える。




『無理だな。俺が仕えるのは生涯で貴方だけだ、麗奈。俺が動くのは貴方の為を思っての事。それに陰陽師より、長らく生きている俺の方が説得力はある』

『そりゃあ、君は神様だもの。私達……いや、俺達が生まれる前から長い年月、見てんだから知っていて当然だろ』




 反論にも似た言い方で出てきたのは破軍だ。彼はハルヒに軽く睨まれながらも、青龍が協力してくれるのは良いことだと言って来た。そして彼はチラリと、別の方向――ちょうど麗奈の頭上辺りに見える白い霧。


 以前にも似た気配を感じ取った時、その霧のようなものは害を感じるような気配もなく、かと言って怨霊のような邪悪な気配でもない。どちらかと言えば中間のような……微妙とも言える気配。




『(青龍が反応しない、と言うよりは彼は知っているな。……と、なると)』




 バサッ、と扇を広げて口元を隠す。しかし、視線は一瞬だけその頭上に対し軽く睨んでおくと言う行動をしていおく。麗奈が一瞬、言葉に迷う素振りを見せた。王に対しての萎縮と言うよりは、単にどう説明をして良いのか分からないと言った感じの……言いたいけど、言えない理由があるのだろうと思い黄龍に視線を向ける。


 ギリギリのラインで姿を消しているが、同じ式神として自身の魂と体を定着させる為に術を行使した者同士。通じる所はある。破軍の言いたいことは、恐らくは黄龍に伝わっている。

 姿はないが、溜め息を吐いているような感じになっていると結論づけた。




『この国の柱に特殊な術式を組んでおいた。土御門家の人間の手によるものだったから、解析しながら新たなに術を構成し直した。魔物以外に……例えば怨霊の様な目に見えない存在の悪意は打ち消すように施した』




 勝手にやって悪かったな、と一応謝罪をする青龍に思わず麗奈は「い、いつの間に……」と知らない様子でその言葉を聞いていた。そこからラーグルング国の柱と合わせて魔力供給を出来るように施した事から、いずれこの国にも魔力が満ちる事になると言えば……ベルスナントとリッケルは驚いたように目を見開いた。




『大賢者が言っていたからな。この国と言うよりは……この地は魔力との相性が問題で魔法を扱える人数が圧倒的に少ない。魔道具に頼っていると、全て壊れた時に何も出来なくなると不安を口にしていた』

「そ、れは……」




 思わずリッケルは苦い表情をした。

 この国が魔道具に頼る形なったのは魔法を扱える者が少ないからだ。確認できるだけでも、神子としの家系であるアウラとリッケルの様な突発的に使える者と言うかなり限定的なもの。

 だからなのか、この土地は魔道具を生活の一部として使っている部分も含まれている。使えば消費していく道具なのだから、いずれは無くなるのが目に見えてくる。対策として使う者をニチリの警備隊達にと限定にしている始末だった。




『大賢者は魔法に精通する者の中でも最高峰の者の事を指すのだろう。誰よりも魔法に詳しい彼の言葉だ。信用できない、とは言えんだろう』

「………っ。では、貴方はその術でこの地に魔力を満ちるように仕掛けをしたと言いたいのですか」

『そうだ。全て満ちるのにそう時間は掛からない。なんせ、主が契約している大精霊はこの世界の2柱の1つであり、ラーグルング国の土地そのものはその精霊にとっての家のようなもの』




 原初の大精霊――アシュプ。

 彼はラーグルング国を守護地とした巨大な力を有する存在。全ての精霊が彼にとっては孫のような子供のような存在であり、彼等もアシュプの事は父親と言う認識を持っている。




『疑うなら部下達に聞いてみるといい。既に変化は起きているからな』

「……変化?」




 今、確認出来ている範囲でもニチリの警備隊に変化があるぞとふっと笑った青龍。リッケルはベルスナントに耳打ちし、そのまま部屋を退出し青龍の言った事の確認をしに向かった。

 その後、色々と質問をして答えると言う簡単な事をしている内に既に夜になった。ハルヒと麗奈はそのまま4人で夕食をとると言う不思議な空間に戸惑う形になっていった。




「……何て言うか、れいちゃんのお父さんとアウラのお父さんが思った以上に会話が弾んでたね」




 疲れたように言うハルヒに麗奈も「そうだね」と言い、今でも思い出すのは別れる直前まで話していた父の姿だ。あんなに楽しそうに話す誠一の姿を久々に見た麗奈は思った。

 思えば、母親が死んでから自分も誠一も気持ちを抑え込んでいた部分がある。父と2人だけで出かける事もするようになり、笑顔は増えた方だが……あんなに楽しそうにしているのは、ドワーフのアルベルトと出会って以来かも知れないと、麗奈は密かに思っていた。




「………1人娘で、お父さんが育てたって言う部分が一緒だったから、会話が弾んだんじゃないかな」

「そういうもの、か」

「ハルヒ様!!!」




 長い廊下を歩いていると、走ってくるアウラの姿が見え思わずハルヒは「げっ」と言ったのを麗奈は聞いた。すぅ、と彼から離れた時に「見付けた」と耳元で言われた言葉にギクリと体が固まった。




「………ユ、ユリィ」

「まーた居なくなってたな。前にも言ったけど、誰かに伝言を頼むか連絡入れてくれ……心臓に悪いって」

「ごめん、なさい」




 何故だか身動きが取れない事に不思議に思っていると、しっかりと抱き込まれている。そして、その間にアウラはハルヒに抱き着いており「何処に行ってたんですか?」と聞いており、その疑問にハルヒと麗奈が答えていく。

 その内容にアウラは段々と笑顔になっていき、とても嬉しそうに聞いていた。




「では、ハルヒ様はお父様に認められたんですね♪」

(何でそうなる………)




 思わずジト目になるのも仕方がない。何でそんな斜め上の様な発想に思い至るのか不思議でしょうがないが、そんな様子のハルヒを楽し気に見ている破軍にイラつく。

 ユリウスは柱の様子を見に行ったのに、いつまでも帰って来ない麗奈を心配して探していたのだと言う。その途中にアウラと会い、彼女もハルヒを探していると言う事からここまで探し回っていたと聞きますます申し訳なさが募ってくる。




「……いつの間にラーグルングの柱と同調していたんだ」

「青龍がやってたから、てっきりユリィに許可を貰ったのかと……」

「いや、初めて聞いたんだけど」




 ラーグルング国にある柱はニチリのと同じである事から同調はやりやすい、と特に言う必要もなかったと言う青龍。思わずユリウスは彼を睨むと「イーナスに怒られるのは俺なんだが……」と言えばそんなものは知らんと返される。




「はぁ……ディルバーレル国ともリンクしたばっかりなのに、また別の国なんて」

『負担するのはいつも通り我々だ。安心しろ、今度は破軍も加わる』

『は?』




 思わずなんだそれ、と言いたげな破軍に青龍は説明をしていく。

 柱を保たせているのは、四神に模した自分達であるのだから管理するのも自分達だ、と。ラーグルン国の柱の数は全部5つ。その数は四神と黄龍の数と当てはまる……と言うよりはそうなるように、作ったとの事。




『今まで言っていなかったが、柱は我々の持つ霊力とこの世界で扱われる魔力と組み合わされて作ったものだ。あれが破壊される事はそのまま俺達の死を意味する。この国の場合、疑似的に作っただけに過ぎないから効力もラーグルング国よりは低い。お前、この世界に来た時に急に自分の力が上がった感じがあるだろ』




 まるで見てきたような様子で言う青龍に、嫌な感じを受けた破軍は『確かに……』と思い当たる節があると答える。ハルヒを主として認め活動していたが、どうも向こうでは自分を保てる時間がかなり短かった。

 しかし、この世界に来てからとはそれが嘘のように長くなった。ハルヒから呼ばれなくても、自身の意思で勝手に具現化が出来るようになった事に不思議には思っていた。





『それはこの国の柱がきちんと力を発揮できなかった、と言うべきだろうな。なんせ元になっている破軍の力が別世界に居たんだから』

『…………』

「それって、僕と彼がれいちゃん達の世界に居たのが原因で?」

『半分ほど、自分の力を置いて扱える者を探していたんだろう。だから、土御門のお前がこっちに呼ばれてから急に力が上がったように思うんだろうが違うからな。いつも通り、全盛期で振るっていた力が扱えるだけの事だ』

「……って事はもうニチリの柱の管理は、破軍さんがやるも同然って事?」

『えぇ~~~~!!!』




 理解した瞬間、破軍は分かりやすくうな垂れた。

 つまり、ラーグルング国で黄龍達が行っている柱の管理を自分もやれと言っているのだ。面倒事が苦手な彼にとっては苦行である事は間違いなく、ハルヒはニヤニヤとバカにしたように笑っている。




『うぐっ、主が意地悪だ………。そうだ!!! 主と同じようにれいちゃんって呼ぶね』

「へ?」

「何でそうなる!?」




 キョトンとなる麗奈とは反対にハルヒはすぐに反対をした。自分だけの呼び方を、何で破軍にも呼ばれないといけないのかと言う憤りが強い。ある意味では特別だと言う思いも、こうして破軍に奪われるなど予想だにしない事。思わずきっかけを作った青龍を睨むが、彼は別段気にしないと言った様子で見ている。




「断る!!! れいちゃんって呼ぶのは僕だけの呼び方なの。君には呼んで欲しくないよ」

『そういうのはダメだよ!!! よし、決めた。れいちゃん呼びする!!!』

『諦めろ、ハルヒ。破軍はこう言ったら聞かない』

「幼い頃からの知り合いなら止めろよ!!!」




 ぎゃーぎゃーと急に騒ぎ始めたハルヒ達に、アウラは楽し気にしておりユリウスは「じゃ、俺は麗奈を連れ帰るぞ」と言ってさっさと離れていく。

 そんな彼等の様子を楽し気に見ているのは、創造主ディーオでありその目は楽しそうにしていた。




「楽しそうだね。……そうしている時間は少ないから、たまには良いよ」




 それは誰に向けた言葉なのか……。

 不穏な発言を聞いたサスティスとザジは、ディーオの事を睨み付け決意する。そんな事にはさせない、と思う2人の考えは当然のことながら目の前にいるディーオには分かり切っている事。


 だからふと笑みを零す。

 叶うのなら……こうした平和が続くように、と。例えそれがもうすぐ叶わなくなるものだとしてもと思いながら、彼女達の様子を見守るのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハルヒと破軍の掛け合いは、 面白いですね。 普段からかい側のハルヒをいじれるのは、 破軍しかいないでしょうね(笑) せっかくの平和な日常に、影を差すような、 ディーオの不穏な言葉は、 ザジ…
2020/08/08 15:59 退会済み
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