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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第4章:魔王軍VS同盟国
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第114話:召喚士と精霊

 クラーケンが青龍に呪いを移したその直後の事だった。


 霊力と違う力の流れを探れと言われたが、破軍はその前に何かに焦った様子のハルヒが気になっていた。前に進んでいるが、周りは真っ暗だから進んでいるのか後退しているのかも分からない状態だ。

 ただ、浮遊した感覚もなく走っているという感覚は失っていないから少し安心した。




『破軍?……何してんの』

『そっちこそ』




 破軍はそこで知り合いと出会う。生前でも共に行動した黄龍――朝霧 日菜(ひな)がいた。麗奈と同じ黒い髪に黒い瞳であり、破軍と同じように陰陽師として戦いに赴く格好をしている。

 彼は破軍と違い刀を所持せず、代わりに扇子をいつも持っておりバカにするのも普通でいる時でも離さない。彼は接近するよりも結界での足止めが得意だ。


 そして、破軍は黄龍の隣に白い靄が掛かったような不思議な状態で見える現象。それには見覚えがあるから、つい破軍に聞いてしまった。




『そこの彼? かな。また一緒に居るの?』

『え、見えるの?』




 不思議そうに聞かれたが、破軍は面倒だと思いながら説明をした。以前、ザジが内緒で麗奈に会った時に破軍は遭遇していたのを。主であるハルヒには内緒で少しの間だけ麗奈を1人で行動させていた所まで説明し、思い当たる事があるのは『あぁ……』と何処か納得していた。




『そう。関わったけどはっきりとは見えないんだね』

『そっちは見えるんだ』

『うん。主がハッキリと彼等を見えるから』




 主である麗奈がザジとサスティスの存在を感知し、また視覚的にも見えるだけでなく触れる事も出来るからなのか、黄龍達も影響されて麗奈と同じように死神が見えるのだ。

 破軍もここに居る経緯を話せば、白い靄に掛かった方へと視線を向けて『どういう事?』と聞いてくる。




「……クラーケンの呪いの流れが変えられたのか。ねぇ、君達は精霊とは言いづらい存在なんだよね?」




 ザジは麗奈と共にいるから、黄龍と居るのは死神のサスティスと言う風になる。彼はすぐにクラーケンに施された呪いの流れが別のものに移動しているのを感知した。同時に彼の隣に居た魂達はザワリと騒がしくなる。




『まぁ……そうなるのかな。正規でも精霊ではないし、私達を扱えるのは朝霧として繋がりがある当主に限定されるからね。破軍もそうもんだろう』

『そうだね。え、精霊に正規とかあんの?』

『あるんじゃないかな。………そこは創造主様の意向でどうにでもなるでしょ』




 そう話しつつチラリとサスティスの方へと視線を合わす。無言でいるので、黄龍の話もあながち間違っていると言う訳ではないのだろう。破軍は不思議そうに思いながらも、ハルヒの言う魔力をどう探れば良いのかを黄龍から聞くのだった。



======



 麗奈はザジと共に青龍の後を追っていた。

 突然、自分の元から去った青龍。彼は黄龍達と違い、龍神の子供のであり式神と言う囲いに自らの力を封じた正真正銘の神の子供だ。体は成長して成人男性での見た目ではあるが、言動や行動は黄龍の言う様に子供のような行動そのものだ。

 



「青龍……何で1人で背負って行ったの」




 不安げに言う麗奈の言葉に、ザジは答える事は出来ない。彼は青龍と彼女の繋がりを知らない。主と慕われた従者と言う認識であり、その経緯を知らないからだ。

 ザジが麗奈を抱えながら、魔力とは違う力の方向へと跳躍する。上下左右に壁と言うものはなく、暗闇の空間だが夜目が効いているからか真っすぐに向かっていると言う感覚は願う。




「青龍!!!」




 やがて走っている中でキラリと輝く物が見えた。

 大きな鏡の中に、麗奈が探している青龍が見えた。そしてその鏡の前で佇むのは白い体を持ち、10本の吸盤の足を持つ大精霊であるクラーケンだと確信した。

 イカの姿をしており海の支配者とまで言われていた存在。 

 その大きさは小さな子供のように、とても小さく誰かが支えなければそのまま潰れてしまいそうな位の存在。麗奈は声を掛けながら、落とさない様に両手でしっかりとすくい上げる。




《あ、なた………は………》




 のろのろと麗奈とザジの方へと体を向き直り、その大きなつぶらな眼が2人を捉える。そして麗奈の名前を呼ぶハルヒもそこに到着していた。後ろから破軍と黄龍が見え、ザジは小さく舌打ちをした。

 サスティスが笑顔で手を振るのを無視している間に、ハルヒは麗奈からクラーケンの姿を見せる。




「…………イカ、だよね」

「うん。あれ、ハルちゃん精霊が見えるの?」

「え、見える人って限られているの?」

「「………。」」




 少しの沈黙の後、ツヴァイが呆れた様子でハルヒに教える。精霊を見る事が出来る人間は限られおり、召喚士の素質がハルヒにはあるのではと説明された。




「召喚士……。ファンタジー要素強いね」

《なによ、ファンタジーって》

「君達みたいに、不思議な存在の事を全部引っくるめてそう呼んでる」




 不思議そうな表情のツヴァイをハルヒは、頭を撫でて誤魔化す。次に視線を向けたのはクラーケンだ。




「それで君は呪いから解放された訳だ。精霊が呪いに侵されるとどうなるの」

《最初は自分を分かってる。でも段々、自我を保てなくて人と精霊の境が分からなくなる。………いずれは死神に狩られる》

「死神……?」




 ツヴァイは1度自我を失って人間を襲った事がある。

 その中で麗奈と死神、そして創造主であるディーオと巡り会った。自分がこうして前世の記憶を持ちながらも、何もされないのはこの状況を見ているディーオが何もしないからだ。


 彼は基本的に傍観者だ。

 観察し、変化を見るだけ。自分の思い通りにいかないからと操り、良いように作り替えると言った行動はしない。思い通りにいかないと言うのも、ささやかな変化として受け止め逆にどのように作用するのかを、楽しみにしているのだからタチが悪い。


 まだ、操られ自分の思い通りに動かす暴君の方がまだマシだと言える。


 しかし、それでも死神の事を深くは説明出来ない。

 したくても()()()()と言った方がいい。




《魂の管理者みたいなものよ。……貴方達、魂を黄泉に送ったりしているのでしょ? 似たようなものよ》

「いや、僕達はただ魂を留まらせないようにしているだけで……」

《役割は似ているのよ。だからいいの!!! 私も呪いでやられたからクラーケンの気持ち……分かる部分もあるし》





 驚いたように目を見張るクラーケン。自分の意思とは関係なく人を襲い同じ精霊を取り込み続けた結果、膨大な魔力を有した。代わりに体の崩壊を留めるのには、質の高い魔力が必要となり体を保ち続けるのにまた精霊を襲い続けた。

 海に存在する精霊の殆どを喰らっても、自身の崩壊を留める結果にはならない。純度の高い魔力を喰らえばそれ以上のものをと求めてしまう。ニチリの大精霊も契約者なしではまともに戦えないのを知っていたクラーケンは先に封じていた。

 水の大精霊であるウンディーネは、眷族であるスライムの所為で力の殆どを失っている。クラーケンが周囲の精霊を喰らった事で、コントロールを奪われ人に牙を向くように仕向けられた。


 これはクラーケンの意思に反した事。しかし、結果として多くの者達を喰らったのも事実だ。意思に反して純度の魔力を有した人間を襲う様になり、ついには異世界人であるゆきとハルヒを狙うにまで至った。




《……このまま、呪いに潰されても良いと……思った》




 麗奈の手から離れ、フヨフヨと浮かび落ち込んだように言ったクラーケン。




「………ざ……けるな……」




 自虐的なクラーケンにハルヒは体を震わした。彼はそのままクラーケンを睨みながら言葉を発する。




「自分勝手だな!!! 巻き込まれた側は……そんな事を思う時間すらなくて、お前に全部飲み込まれたんだぞ。それを……自分の身体が消えても良い? 呪いに潰されても良かった、だと……!!!」




 ゆきから聞いていた事を思い出す。

 召喚士は精霊と契約するのに必要な事が2つあるのだと。

 1つは魔力。もう1つは精霊を入れておける器が必要なのだと。

 器は何でもいい。剣、弓矢、槍などの武器でも指輪や首飾りのようなアクセサリーでもいい。とにかく精霊の家となるものを、契約者が身に付けている事が大事なのだと聞いた。




「お前は今まで奪ってきた命がある。人でも精霊でも、生きているのなら責任をとれ!!! 取りたくても取れないって言うんなら…………ボクが契約して消滅なんてものを失くす」





 そう言って取り出したのは麗奈から受け取った腕輪。

 魔道具の核となる虹色の小さな玉。それには魔力が宿っており、身に付けているだけで多少なりとも魔法を扱える優れもの。




「ボクがどの魔法に適しているかは分からないけど、陰陽術では水が得意だ。多分、クラーケンの扱う力とは相性が良い筈だ。契約方法を教えて欲しい。このまま契約に移行する。このまま消えるなんてボクは許さない……」




「青龍!!!」




 クラーケンと話をしている一方で、麗奈はザジと共に鏡の中に居る青龍の後を追っていた。

 呪いの元は魔族の命を持ってクラーケンに刻み込んだ物。この鏡にはその負の力が満ち足りており、青龍の身体が徐々に黒く染め上げられているのが分かる。




「なんで……1人で行こうとしたの!!!」

『言った、はずだ……神力が、残り僅かだと……』

『もしかして私達とは違う方法で世に留まったと言う事か』




 麗奈の隣に立つ黄龍からの疑問。思わず説明を求める麗奈に、彼は頷きながら答えを示す。

 話によれば自分達は、体と魂を異世界に留まらせる為に生贄となり半永久的にラーグルング国の守護を担っているのだと言う。青龍はその中で言うのなら、不思議な立ち位置だとも言っている。




『私達と違ってアイツは元が神だ。子供とは言え力は龍神の力そのものだし、この世界での魔族や魔物に対して耐性があるし、力も上なのは認める。が、神様で力を使うって言うのは私達の様な霊力じゃない。……神力。つまりは……今までこの世界に存在し続けているのも、自分の力を削って来た結果だと言う事だ』

「……黄龍達と違って、自分の力を削り続けていた………?」

『呪いに耐性があると言っても、その分力を削り続けて来たのなら限界も来る。主……青龍が君と行動してからと言うもの、かなり力を使った印象はあったと思うんだけど、どう?』

「そ、れは………」




 思い返す。青龍が麗奈と行動を共にしたのは、ディルバーレル国に転送されてから。魔族との戦いも含めて彼は、かなり大きな力を発していた気がする……。青龍自身の言う様に、既に自分の身体を保つのに必要な神力も底を尽き始めて来たと言う事になる。




『私達は主の霊力でなく、自分の力と柱からの魔力供給があるから例えここで消滅しても柱の再生が可能だ。……だが、恐らく青龍には同じ神力でないと治らないのかも知れない』

「…………」




 神力を扱うのなら同じ力での回復は適切だ。

 しかし、この世界で神力を扱っているのは青龍だけだ。大精霊も魔力を消費しながらも、回復をするのには同じ魔力が必要だ。このまま………青龍は体が朽ちるしか方法がないのかと体が震えた。




「どう……にも、ならない? なにも、出来ないの………」

「…………っ」




 思わずザジは青龍の方へと躍り出る。体は既に黒く染まり、こちらを認識する前に雷を放つ。




「無駄だ」




 ザジに当たる手前で吸い込まれる雷。姿が変わろうとした時、大鎌を振り抜いていた彼はそのまま当てる。




「まっ―――!!!」




 思わず目を瞑った。精霊フォンテールでの時は見ていたが、青龍は自分に協力してくれる仲間だと言う意識が強く、首をはねる瞬間を見たくない気持ちが強く出た。

 知らない間に体は震え、救えなかった青龍を思って涙する麗奈。そのまま崩れる様にして座れば「ほらよ」と目の前に出されたものに思わずザジを見る。




「俺が斬ったのは呪いの元だ。魔族も体を形成しようと乗っ取りを考えていたが、青龍の野郎が抑え込んで逆に自分が危ういんだ。………2度も辛い目を合わすかよ」




 麗奈に渡されたのは蒼い玉だ。直径10センチ程の大きな玉。その周りには淡い光が灯っており、中に入っていたのは青龍だ。彼も驚いているのか、キョロキョロと周りを見ており状況を把握しようとしている。




『へぇ、可愛い姿だね~』

「クラーケンの呪いは魔族のものだ。青龍が取り込んで自分もまとめて消滅するのを阻止した。これでっ……!!!」




 面倒だと言った態度のザジに構わず、麗奈は抱きしめた。殆ど体当たりに近い形の為に、勢いに負けたザジは尻もちをつく。痛がっていると、麗奈は大事そうに玉を抱えながら擦り寄った。




「……りが……あ、りがとう………ザジ……!!!」




 取り返せないものを取り返し、無事に自分の手元に戻った青龍。嬉しい気持ちが強い麗奈は笑顔とお礼を言い、ザジにそのまま体を預けた。




「………気にすんな。俺の方が……お前に……」




 その先は言わないまま口を閉ざす。ガリガリと頭をかき、ニヤニヤと見ているサスティスと黄龍に対して睨み付ける。ちょっとした事でも、自分が彼女に対して恩返しを出来た。


 誰にも認識されず、誰の目にも触れられずにいた死神としての自分。しかし、麗奈だけは違い自分の存在も知ってもらえると言う気持ちがここまで嬉しいとは思わず……思わず優し気に微笑む。

 驚いたように目を見開いたのは、玉の中から見ていた青龍とサスティス、黄龍のみであり麗奈は涙を拭いていた為にその瞬間を見ていない。



 ザジが呪いを切り捨てたと同時に、ゆきとベールは外へと放り出されていた。暴れていた筈のクラーケンは、青龍が無造作に放たれた雷の中でツヴァイが動きを封じる様にして魔方陣を展開していく。

 ハルヒはツヴァイから言われたのは、クラーケンを新たに契約するのなら作り替えろと言う無茶な事。1度でも呪いに体を蝕まられた精霊は、死神に狩られる。そうなれば再びこの世界に放たれるのに、時間はかかり自分と同じように前に記憶を保持したままなのかは運だと。




《死神に狩られる前に、自分の精霊として契約するのなら新たに契約をし直しなさい!!!》

「し直すって……絶対に、難しいだろ!!!」

《簡単よ!! 今の名前じゃないものにしなさい。クラーケンと言う名前を捨てて新たな名前を与えて、契約すればいいの!!!》

「名前って………」




 すぐに浮かぶものではないのだとハルヒは思う。

 しかも、外に放り出される前に怨霊と魔物が再び襲い掛かった為に使いたくもない力を使う羽目になり、既にイライラが増していた。




「ハルちゃん!!!」




 そこに風魔に乗った麗奈がハルヒを助ける。真下から来た突然の浮遊感に驚いて目を見張ると、白虎が『あ、驚かしてごめん……』とシュンとした声で言われ思わず大丈夫だと答える。




『こっちの用は終わったから平気だよ。土御門』

「その言い方よして。ハルヒで良いから」

『ん、了解だよ。ハルヒ』




 麗奈の方も魔物の相手をしていたからか、少し疲れていた様子にも思える。クラーケンとの契約を考えていると麗奈から手を握られ「大丈夫」と、安心させるように伝えて来る。




「青龍も助けられた。だから、あとはクラーケンだけ。………助けよう。あの大精霊を」

「………分かった」




 不思議な気持ちになる。さっきまで不安だった気持ちがすぅと無くなる。ツヴァイに言われていた事も、契約の手順も色々と言われて来たのに……麗奈に大丈夫だと言われて本当にそう感じるのだから不思議だと思わされる。




(決めた……。クラーケンじゃない、別の名前……)




 そうしてハルヒは覚悟を決め名を授けた。

 海の支配者としてクラーケンが場を治めたと言うのなら、海の神の名前を持つポセイドンと言う名を与えた。契約が成功をしたのを証明するように、腕輪の中に吸収される大精霊。


 それを最後まで見届け、成功したのだと実感した。それでほっとして体の力が抜けたのを最後に2人はそのまま気絶した。そこから5日間、今までの疲れが出たかのように2人は眠り続けた。


 

 


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