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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第4章:魔王軍VS同盟国
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第109話:ニチリの変化⑥~友の助け~

「いや~。普通、恋人が普段と違う顔したら喜ぶのが普通じゃね?……なのに、クククッ、嬢ちゃんの場合は逃げるって……あぁ~、俺その時の現場観たかったわ」

「迷惑を被ったのは俺なんですけどね」

「私達はもう壁役に徹するしか方法がないですよ」





 セクトの楽しそうな声に思わずヤクルがげんなりしたように言い、ラウルとベールは互いに微笑した。リーナの言葉にヤクルが同意したように頷き「あれは酷いだろ……」と自分達の目の前を歩くユリウスに向けて視線を送った。




「あれはお前が悪い」

「麗奈に泣きつかれただけなのに……」

「それがダメなんですよ」

「じゃあ、どうしろと言うんだ!?」




 こう叫びたくなるのには理由があった。


 ニチリに転送されてすぐイールは負傷者の治療に取り掛かった。彼女の扱う魔法はセクトと同じ水の魔法であるが、攻撃に転じる事が出来ない補助や異常状態などを治せる後方支援でのエキスパート。魔道隊の中で特別に防御魔法、治癒魔法を扱う部隊のリーダーを任されている。

 


 キールから状況を聞いていた時、ヤクルとリーナはリーグとフィルが寝ていた部屋へ到着した。その時にクラーケンの攻撃を受けたのにダメージが無かった事。その代わりに体の至る所に赤い斑点が出ており、体の言う事が全く効かなかった事を話したのだ。




「お姉ちゃんが来て、フィルお姉さんみたいに治癒を施したら……綺麗さっぱり斑点が無くなったんだ」

「私や兄さんの聖魔法でも、反応を示さなかったのにね。麗奈が忙しそうに駆け回りながら治して行ったの」




 お陰でお礼が言えないままよ、と少し不機嫌なフィル。リーグは嬉しそうに「虹の光ってあんなに綺麗なんだね♪」と、テンションが上がっているのか動き回ったりジャンプしたりとはしゃいでいた。




「ヤクル……リーナ!!!」

「うわ!!!」

「うお!!!」




 2人に抱き付いたのは話題にでた麗奈だ。

 振り向いた2人は何故か涙目になり、服をぎゅっと掴む麗奈に困惑と戸惑いと疑問が入り交じったような表情をする。




「お願い、助け──」

「麗奈!!!」




 そこにユリウスが入り、ギクリと体を震わしながらリーナとヤクルを盾にしてさっと後ろに隠れた。




「まだ怒ってるのか……だから、あれは」

「充電なんて理由じゃ納得しないからね!!! あ、あんなに、長く……キールさんに見られながらなんて……!!! ユリィは何の目的で……キ、キキキキスなんてしたの!!!」




 顔を真っ赤にしながらも、キツく睨む麗奈にユリウスは溜息を吐く。ジト目でありながら睨んでいるのはフィルであり、ヤクルとリーナは困ったように息を吐いた。リーグは「お姉ちゃんが好きだからでしょ?」と麗奈に抱き着く始末。




「だ、だだだ、だとしても!!! いきなり見た事もない笑顔とか、表情とかされたら困るんだもん。いつもの距離感の方が好きなのに」

(溺愛していると思うんだけど………)




 麗奈の発言にリーグ以外がそっぽを向き、心の中で溜め息と皆は同じ事を思った。ユリウスの方は分かりやすく不機嫌な態度のまま「俺の表現が間違っているのか……」と意見を求めるような発言。

 視線がヤクルと合い、彼は途端に嫌な表情をした。




「俺に聞くな……ってか、ちゃんと言葉にしているのか」

「言葉と行動を起こして、逃げられてるんだけど」

「「あぁ……」」




 チラリと麗奈を見るリーナとヤクル。その視線にビクリと体を震わしてリーグを抱きしめる。




「普段見せない表情をしたら喜ぶはずなのに……貴方って子は」

「え、え、何で……何で責められるような視線を送るんですフィルさん!!!」





 その視線に耐えられなくなった麗奈はウォームにお願いして別の場所へと転送された。その後、ヤクルはユリウスに理不尽に怒りの眼差しを向けられ助けろとリーナに求めても……彼は普通に団長であるリーグと談笑を始めてしまった。




「卑怯だーーーーー!!!!!」




 その後、セクトとベールが彼等を見付けるまでヤクルはずっとユリウスに愚痴を聞く羽目になった。



 ヤクルは話し終えたと同時に溜め息を吐き、ベールは肩に手を置き「お疲れ様です」と笑いを堪えながら言って来たので腹に一発叩き込んだ。悶絶する彼を放って置けば、キールが「招集だよ」と呆れた表情をしながらヤクル達を呼んだ。




======


 ニチリの宰相であるリッケルは、ラーグルング国の4騎士と副団長達に国の東西南北を守る様にお願いを申し出た。

 既に誠一がニチリの柱に施された結界を術を解析しつつ強化を行っている。

 娘の麗奈が席を外しているのも、父親である誠一の手伝いと同時に龍脈を使っての強化を手伝っていたからでもある。




「まずはクラーケンを表に引っ張り出さないとな」

「ですが、直接触れるのもまずいですよ。私達のように赤い痣が出てきて体力も、魔力も奪われますから」

「かと言って魔法で攻撃しても弾かれるし……現状、有効なのって主ちゃんとユリウスのしか無理か」




 相手は精霊であり魔物へと堕ちた存在。

 魔法を通しての攻撃は精霊に効くが、物理攻撃は一切効かないとなると手段が限られた。同じ精霊での攻撃も有効だが、その精霊を扱うのに四方へと分かれるのには負担が大きすぎる。





「あ、あの……」




 意見がまとまらない中で、麗奈がおずおずと手を上げてる。ユリウスが結界の調子は良いのかと聞かれ、誠一が取り仕切るから追い出されたと言えば皆微妙な表情をして納得したように頷いた。




(娘思いだな……)




 誠一は言葉に出して行動を起こす事はあまりしない。背中で語るから読み取れと言う感覚で行う為に、麗奈も必死でその意味を読み取ろうとする。この頃は親子の仲もそれなりに上手く行っている様子な為、ゆきも安心しているのは知っている。


 そして、誠一は周り気付かれないようにと、麗奈とゆきに対してかなり甘くなっている。

 ユリウス達はそれを微笑ましく見ているが、本人は隠し通せていると思っているらしく「このまま見守っておくれ」と言う武彦の優しい視線に皆同意した。


 麗奈をここに寄越したのも、負担を減らす為であり追い出されたと言う麗奈だが、実際は疲れを少しでもとれと言う意思表示でもあるが……娘の麗奈はそう取らなかったのだ。




(不器用な父親だよな)




 セクトはそう思うも、言ったら本人から拳骨が来るのが分かるのであえて、危険に飛び込むことはしない。

 当然の事ながら自然と注目を浴びる上に、リッケルの鋭い視線によりビクリと体を震わす。肩に乗っていたアルベルトが「フポポ」と麗奈の顔をペチペチと叩き、大丈夫だからと応援しているので意を決して――意見を述べてみる。





========



「クポーーー!!!」




 アルベルトが高くジャンプし再び砂浜にダイブする。ボフッ、と音がしながらも泳ぐようにして突き進むので何処にアルベルトが居るのかが一目で分かる。灯台付近にはドワーフのアルベルト、麗奈、ベール、セクト、ヤクル、キールが配置された。

 灯台とは反対側のニチリの城がある場所には宰相のリッケル、ディルベルト、ユリウス、イールとニチリの警備隊。

 東側の方にはラウル、レーグ、ランセ。西側にはリーグ、フィル、リーナを配置し麗奈とユリウスの方には数を偏らせたのには理由がある。


 麗奈は1度、精霊に襲われた事がある。フォンテールが彼女を求めたのも高い魔力を狙ってのもの。ただし純度が高くて質が良い魔力はそう簡単には見つからない。クラーケンが呪いから逃れる為に暴れる回るのには自身の魔力が必要になってくる。


 精霊に物理攻撃は効かないがクラーケンが通った後には残骸しか残らない事から、精霊自身が攻撃に転じても被害はない。クラーケンが起こした津波がそのまま都市をニチリ以外の国を飲み込んだ事だと言う見解をした。



 麗奈とユリウスには共通して虹の魔法を扱える大精霊との契約を果たしている。クラーケンが力を使い回復を望むのなら、虹の力を扱える2人の存在は無視できない。




「大精霊と契約している者を囮にする……か」




 麗奈はアルベルトと何やら話し込んでいるが、セクトが悲し気に言ったのをベールはヤクルは黙って聞いていた。他国からの要望に応えるが、それを騎士ではなく異世界の人間に任せてしまう辺り……自分達の不甲斐なさを痛感せざる負えない。

 セクトはそう思いながら、この作戦を言った麗奈に驚きを隠せないでいた。どうも彼女は自分を囮にして事を進める節があるなと思っていると、キールから「それも含めてこっちが多いんでしょ?」と軽く頭を叩かれる。




「——来ますよ」




 ベールが魔物の気配を感知しすぐに戦闘態勢に入る。海から這い上がるようにして現れたのは、緑色の身体を持つゴブリン達。それぞれ武器を持ち、既にこちらを敵と認識して一斉に襲い掛かってくる。




「フポーーー!!!」




 砂浜に金槌を叩き付け魔法を発動させる。


 アルベルトが作った防壁の魔法である3メートル程の岩の防波堤。砂浜で準備をしていたものであり、彼が地面に金槌を打ち付けた瞬間から発動するもの。

 壁を壊すか乗り越えなくてはいけなくなり、やっと乗り越え又は突き破った先から炎を纏った斬撃が襲い掛かる。ヤクルの炎は一気に火の海へと化し、岩にも伝わり熱を発する。


 急激に熱くなる岩に触れられなくなり、海なのにまるで沸騰したお湯に足をつけているようなそんな感覚。急激な変化にゴブリン達が戸惑い、逃げようとするが、アルベルトが岩で囲いを作り出す。檻のようなその形状に、即座にキールとセクトの魔法が合わさり彼等を消し去っていく。


 ヤクルとアルベルトは互いに拳を合わせ、破られた穴を修復し再び炎を纏わせていく。ベールが弓を射る様な動作をすれば、何もない所から光の弓矢が出現し、同時に純度の高い魔力が彼により放出されていく。




「グランツ・オグル」




 狙うのは進撃してくるゴブリン達ではなく空。そこに矢を模った光が放たれ、空から飛来してきた魔物とゴブリン達へと力が放たれる。閃光のようなそれは軽く触れただけでも、体を焼かれ塵となって次々と消えていく。

 キールが聖属性の魔法を扱えるが、彼のような魔力を操りながらの範囲となると出来ないと即座に判断できる。エルフと人間の差を改めて知るのと同時に、やる気のない彼が味方でいるのがどうしようもなく心強い。




「助かるよ、ベール」

「えぇ、麗奈さんの為、ですからね」

「あっ、そう……」




 自分も人の事は言えないが、彼も基準を麗奈とユリウスに当ててきた。我ながら彼女が関わると様々な事を巻き込むのだなと思う。その時、魔物の感じる気配よりも大きく禍々しい力を感知したキールは全員に注意を促す。




「皆、大きいのが来る!!」




 キールの呼びかけと同時に海が盛り上がる。波から這い上がるのはイカの足を思わせる白いもの。体長は30メートルの巨体を有したそれは、起き上がるだけで津波となり防波堤を壊し襲い掛かる。付近にいた魔物も含め、見境なく波が遅いそのままクラーケンへと飲み込まれていく。


 津波と思われたのも最初のみで、すぐに水は吸い上げられクラーケンの目が下へと見下ろされる。その目が麗奈を捕らえている事に気付いたベールはすぐに引き寄せる。

 

 直後に襲い掛かる水柱。


 目を開けていられない麗奈はそのままベールに身を任せるしかなかった。周りの声が聞こえるもすぐに聞こえなくなり、自分がずぶ濡れになっているとか海に追いやられたと言う思考すら掻き消すように襲い掛かる。

 




「っ、ごほっ、ごほっ……う、うぅ……」

「良かった……麗奈さん、無事でしたね」




 水圧が襲い掛かったからなのか麗奈は自分が気絶していた事に気付く。自分の目の前では金の髪に深緑の瞳のベール。顔には彼の手が添えられ、ゆっくりと抱き起される。

 思考が鈍るのか何が合ったのかを思い出そうとする。ベールから人工呼吸した上に、魔力も吸われている事での倦怠感があるからと抱きかかえられる。




「……私……」

「すみません、同意を得る前に勝手にしてしまい……少し待って下さい。あと少しで休める所があると言う話ですから」




 ボーっとなる頭でもベールが気遣っているのが申し訳なくて、麗奈はそのまま彼に体を預ける。アルベルト達の事も心配であり、あの後どうなったのかを知りたかった。




≪来たわね。麗奈!!!≫




 そんな彼女に明るい声が響く。洞窟の様な場所なのか、と周りをみて思っていたら麗奈の目の前に颯爽と現れた小さな女の子。淡く光る水色の髪に、水色のワンピース、そして彼女はアルベルトと同等の小人の様なサイズでペチペチと麗奈の頬を叩く。




≪災難ね。クラーケンに襲われるなんて……まっ、召喚士になったんだから精霊に好かれるんだろうけど……魔物になった精霊にまで好かれるなんてね。……災難以外のなにものでもないわ≫

「……ツヴァイ……?」




 ウンウンと1人で納得し、麗奈を心配するのはディルバーレル国で別れた大精霊のフォンテール・ツヴァイ。そんな彼女は戸惑う麗奈を無視してこう切り出した。




≪安心しなさい!!! 私が来たからにはクラーケンなんて、負けないんだから。同じ大精霊で同じ水の使い手同士……親友に手を出した罰はキッチリするわ。まっかせなさい!!!≫




 だから安心してね♪


 ウィンクする彼女はすぐに領域を展開し、まずは麗奈を休ませる為にと休憩場所を提供する。ベールは苦笑しながらも小さな大精霊に任せようと麗奈を強く抱きしめる。


 その後、それに怒ったツヴァイから離すように言われるもそれを彼が聞くことはなく無視を続けた。


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