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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第4章:魔王軍VS同盟国
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第108話:ニチリの変化⑤~小さい喧嘩~

 死神のサスティスから聞かされた内容。魔物と評されるクラーケンは、実は大精霊と言う力の持ち主であり呪いによりその身を侵され続けていると言う。




「呪いの厄介な所は、実行した人物が死んでから発動するもの。大抵の魔法はその魔力を辿り、相手を潰せばそれで発動出来なくなるが、呪いの中には自身が死んでからの方が強力な呪いを発動できるものがあるんだ」




 大精霊に呪いを残したのは、自身の味わった痛みをジワジワと与え来るませるのが目的だ。クラーケンは大精霊で力が強いが故に、その苦しみは想像を絶し海に居た精霊達を飲み込みながら、魔物を生み出す巨大な生産機と言う装置になってしまった。


 生産にはエネルギーが必要だ。


 数を多くすればするほどに、そのエネルギーが必要になる量も比例して大きくなる。そして、呪いにより体を侵され続けると言う事はとてつもない苦しみを伴う。呪いは闇の力であり、殆どんどの精霊は闇に対する抵抗力は皆無だ。


 痛みを和らげる為にまたエネルギーを補充する為に、魔力を欲し生き物を奪い、また人間を襲ってその苦しみから逃れようともがき続ける。




「本来、この海にはニチリ以外に沢山の島国があったと言う記録だったし……クラーケンが襲われても生きに残っているのは、大精霊が居たこのニチリだけ。それ以外は海の中に消えたし、津波となって全てを飲み込んだようだし……その被害は計り知れない」 




 呪いにより苦しみながらもこの世に残ってしまったクラーケン。恐らくすぐにでも呪いから開放されようと行動を起こしたのだろう。

 自分を消滅しようと起こしたものが、全て逆の行動へと変換され周りに影響を及ぼした。実際にその記録を見たとサスティスは言った。


 


「魂を狩ったりしているから当然それ等に関する歴史と言うか記憶って言うのかな……何で死んだか、みたいものが映像として向こうに記録として残されるんだよ」

「記録、ですか……」

「以前、ツヴァイから聞いたとは思うけれどこの世界を管理しているのは創造主たる奴であり私達死神は奴の力の一部を与えられた死者って言うのは……理解している?」

「……なんとなく、ですけれど」




 神様の使いのような存在ですよね?、と言えば途端に嫌な表情をするサスティス。言葉を間違えただろうかと内心で困っていると「うーん」と唸り出す。




「使いっていう表現は……な。奴にいいように利用されているだけの駒だしなぁ。……そんな感じに受け取ってくれていいかな」

「サスティスさんは……死神になったきっかけみたいなの、あるんですか?」

「うん、あるね」




 すぐに答えたのでドキリとした。

 そんなにすぐ返答が返されるとは思わず、驚いているのが表情として出ていたのだろう。クスクスと笑うサスティスは「ごめんごめん、そんなに怯えないで」と笑顔でウインクをしてくる。




「ま、あんまり言うとうるさいからその質問には答えられないね。……ごめんね」

「い、いえ。私も聞きたくない事、聞いたようなので……ごめんなさい」

『それで? 大精霊とか僕達の事を準精霊って言ったのは何なの?』




 話を切り替える為に白虎がブツ切りにする。

 内心で感謝しつつ、サスティスは説明をしてくれた。



 大精霊と精霊との違いは単純に力の大きさだけではないと言う。大精霊は巨大な魔力量を有し、それらを展開する領域の範囲も大きい。精霊自身も領域を扱えるが、大精霊と比べると範囲は小さく持続時間も短い。その大きい領域で、精霊を自分の範囲に収め敵となっている魔物や魔族の身を護る役割もになっているとの説明をした。




「精霊を守るのも大精霊である彼等の仕事みたいなものだ。だから、逆にその大精霊が何かしらの理由で居なくなる、もしくは私達みたいな死神が駆らなければならない事態になったら……その影響力は計り知れない」




 まずは精霊を守れなくなる。妖精よりも力が強くとも魔族や上級クラスの魔物相手に精霊が太刀打ち出来る事は難しくなると言う。大精霊と名の付く彼等は、魔族や魔物の脅威の防波堤にもなり、その壁役がなくなるからだ。


 精霊の多くが召喚士と契約できるのも、大精霊よりも力を扱い易く魔力のコントロールも行いやすい。純度の高い魔力は精霊の扱えるものだが、あまりに純度の高い魔力には酔いやすく力を引き出すのにも不自由を強いられると言う。




「大精霊の魔力は純度が高いものだからね。精霊自身で自分の扱い易い様に変換し、人間にも変換機としての役割を行えば互いに力を均等に扱えるんだよ。精霊も召喚士と居る方が何かと都合が良いからね。でも、時が進むにつれて召喚士自体の数も少なくなっている。

 ラーグルング国に3人も居るのも異常だけど、大国に1人召喚士が居ると言うだけでもかなり優遇されるんだよ」

「そ、そう……だったんですね」




 キールやイーナスから自分やゆきが所属を名乗る時に、魔法師とし名乗る方が良いと言う理由を改めて再認識させられた麗奈は納得したようにサスティスの説明に相槌をした。




「……でも、召喚士は精霊とでしか魔法を扱えないんですよね?」

「精霊が見えるのは同じ召喚士か賢者、大賢者しかいないから心配ないよ。そもそも、魔法師が精霊を見える訳ないんだよ。魔法を扱う人達の総称なんだから。君の周りに精霊を多く見えるのも異常だからね?」




 その説明に、麗奈は改めてラーグルング国が凄い国だと言う事を認識した。その反応にサスティスは「どれだけ特殊な国に居たか分かったようだね?」と、まるで先生のような反応に思わず無言で頷いた。




「ん、私も教え子を教えているみたいで気分が良いな。……っと、話がそれで悪いね。準精霊って言うのは精霊と大精霊のちょうど間位の力関係かな。白虎と呼ばれる君達は、特殊な条件付きでこの世に具現化を可能にしているものが物がある……はずだよね?」




 ニチリと同じものだよ、と言い麗奈と白虎が顔を合わせ(もしかして……)と答えを導き、サスティスがニコニコと答えを待っている。




『……柱がその役割だって事?』

「そうだよ。ニチリとラーグルング国が、異世界から来た人達の手による土台造りの国なのは知っているからね。異世界の技術とこの世界の魔力の力を、上手く組み合わせて出来た変換機が柱だ」



 ニチリは誰でも見える仕様なのは理由があるけど、と言った。本来ならラーグルング国と、同じように見えないようにされている、だと。

 

 


「見えないように加工されていると言ったその技術は、恐らくは君の力だと思うんだよね」

「陰陽道……」




 偉い偉いと頭を撫でれば、白虎からはギロリと睨まれる。サスティスはその視線に気付きながらも、止めようとは思わずに撫で続けた。



『……じゃあ、柱が召喚士の役割を担っているんだね。主のように僕等を扱えるだけの力を持った人がいればさらに力が通りやすい、と。』

「そうそう。例え扱える人物が居なくても、柱が壊されない限りは君達はこの世に具現化を許される。……柱を壊されれば居場所を失うから、死神である私達が狩ると言う形になるね」




 そう言えば白虎は『主がいるからそんな事にはなんないよ!!!』と今にもサスティスに、飛び掛かりそうな気迫に思わず麗奈は待つようにと指示を出す。




『何で? コイツ脅してきたのに』

「脅したと言うより注意でしょ? 無茶をしたら狩るよって言う」

『………絶対にそれだけじゃないもん、コイツは』

「白虎?」




 めっ、と軽く頭を叩けば拗ねたように耳をションボリとしそのままそっぽを向かれる。その行為を見ていたサスティスは「飼い主と飼い猫みたいだね」と、楽しそうに呟いた。




『……ぶっ飛ばしたい』

「ダメ。絶対にめっ、だよ」

『む~~~~~』




 サスティスを威嚇しながらも、飛び掛からないのは主たる麗奈がいるからであり怒られるのを分かったから。サスティスはその関係性を見てふと、ある事を思い出す。




(あぁ……ザジと彼女も、なんか似た様な関係性に見えるんだな)




======


「では、動ける者は全体の1割程……と、言う事か?」

「申し訳ありません、王」




 宰相のリッケルの報告からベルスナントは頭に手を置き、零したくもない溜め息は無意識のもの。クラーケンの襲撃に耐えきったキール達とは別に、リッケルの担当していた範囲では魔物が大量に襲い掛かって来た。


 襲ってきたのはスライム。

 水の中から鉄砲の如く飛び掛かり、人に絡みついて来た。最初、スライムをただの水だと思っていた警備隊の者達はすぐにその異変に気付いた。突然、腕が上がらなくなり思考が鈍くなったのだ。




「すぐに魔道具での排除に取り掛かりましたが、絡みついたと言えば良いのか……ある一定以上の時間を経って消えてから、発狂したり急にやる気を削がれたように空を見上げる警備隊。……私が全てのスライムを追い払った後には、生気を奪われたような者達が倒れていた」




 これでは、防衛の役割がないと判断したリッケルはすぐでにも医療スペースへと運ばせた。クラーケンがその場を退いたのと同時に、そのスライム達もいつの間にか姿を消したと言う。




「姫がウンディーネ様との契約に成功し、ディルスナントがシルフ様との契約に成功した。立て続けに大精霊の契約が成功したのは……本当に喜ばしい事です」




 しかし、それでも防衛するには圧倒的に少なすぎる。

 だから同盟を組んだラーグルング国にすぐ出にも救援要請をした。宰相のイーナスから送られて来たのは4騎士と言う特別魔力が強く、少しの事ではへこたれない団長。


 通信でのやりとりでイーナスからは「好きなようにコキ使って構いません」と言う許可を得たのでどうしてもそちらにしか負担がいかないが……、と内心で申し訳なく思った。




「……未だ昏睡している者達の原因も分からないまま。昏睡されてしまえば、薬湯を飲まる事も敵わない。ラーグルング国から派遣された魔法師達の治療に、望みをかけるしかない……か」

「王。ディルスナントからの報告によれば、魔物クラーケンは実は精霊である事……その精霊は魔物に変化し、いつニチリに牙を向くか分からないと。しかし、時間ですればそう長くはないかと」




 神子もアウラがウンディーネとの契約に成功し、彼女も戦いに赴きたいと言う事をベルスナントに言ったが、彼はすぐに棄却した。しかし、彼女も父がそう切り出すのを分かっていたから食い下がった。

 一向に進まない話し合いの時に、リッケルからの報告がありすぐにアウラを追い出した。やらなければならない事が多いな、と内心で思い頭を抱えた。





======



「クポーーー」




 ピョンピョンと砂浜を飛び跳ねアルベルトは土の感触を覚えている真っ最中だ。サスティスからの情報を麗奈はすぐにユリウス達に伝えた。クラーケンの事はブルームが上手く話を合わせて貰い、それを黙って見ていたサスティスは笑いを堪える様にしていたのを思い出し思わず笑みが零れてしまった。




(お父さんはニチリの結界の調子を見てくれるって言うし、ウォームさんからルネシーさんの力は未だに健在だから2人は無事だって事だし。……あんまり遅くならない内に迎えに行くよ)

「クポ、クポポ!!!」




 元気よく砂浜に金槌を何回か打ち付けていく。茶色い魔方陣が一瞬で浮かび上がっては消えていく。これらを数回繰り返していく内に、アルベルトは一定の距離を歩き同じ作業を繰り返していく。




「ウォームさん。ちょっと、相談したいんですけど」

≪何かな?≫




 麗奈の相談とは、クラーケンを元の精霊に戻せないかと言うもの。

 呪いにより変異させられたのなら、ユリウスのように元を正せば精霊も戻せるのではと思い聞いた。




≪……難しいな。自身を犠牲にしての呪いの発動はな。年月が経てば経つ程……その力は増していくんだ。陛下の呪いもそうだっただろう? 四神達の呪いの進行があと一歩遅ければ彼は生きてはいなかっただろう≫




 あのまま行けば四神ともども命を亡くす。

 それ程までに呪いには恐ろしい力があるもの。一度、魔物に変異した大精霊を元に戻すと言うのは不可能だと言われた。




「………もし、戻せても死神に狩られますか?」

≪っ、お嬢さん、何故それをっ……!?≫




 その時になってウォームは気付いた。麗奈の傍にはサスティスがおり、ウォームに対して笑顔で手を振っていた。




「初めましてですね」

≪っ、お前!!! いや、何故居る≫

「嫌だなぁ~……仕事ですよ。し・ご・と」

≪だとしても!!! お嬢さんに近付くなんて事……≫

「逆らえますか?……貴方でも」

≪う、ぐむむむ≫




 ウォームも思わず手を出そうとしてすぐに止めた。

 死神相手では彼も太刀打ちは出来ない。それが分かりながらも、睨む気迫の彼にサスティスは「流石です」と変わらずの笑みを向けていた。




「あの、サスティスさん……。仕事は」

「ん? まだ君と話してたいんだけど……ダメ?」

「あ、いえ……ダメでは無いですけど」

「なら良いよね。もう少し、君と居たいから……ザジが悔しがるのは面白いらかね」

「……へっ?」




 後半の部分が聞こえなくなり、麗奈は思わず聞き返した。しかし、サスティスが笑顔でスルーし「保護者が怖いから、仕事に戻るね」と、手を振ってそのまま姿を消した。

 手を振り返した麗奈はすぐにウォームにより説教を受ける事となった。自分が居ない間に接触をしていた事、今の今まで黙っていた事を怒りながらも泣きながら危険な事はしないでくれと懇願される。




「クポ?」




 防御魔法の設置を終えたアルベルトが麗奈の元に戻った時には、麗奈に説教をするウォームの姿があり「すみません、でした……」と謝る光景に思わず首を傾げてしまった。

 しかし、このままにはしておけないと思ったアルベルトは助走を付けれる距離まで離れてウォームに向けて体当たりを実行。




≪ぐほっ≫




 アルベルトは体も小さくウォームのお腹付近に頭突きを繰り出し、麗奈の膝の上でピースをしながら着地する。呆気にとられた麗奈だが「ウォームさん!?」と慌てて駆け込んだ。




≪ぐっ、ごのっ……馬鹿力め≫

「フポポ♪」

「アルベルトさん、私が悪くて……あの、ごめんなさい。アルベルトさんにはあとで言い聞かせて見ますから、ウォームさんも怒らないで下さい。……ねっ?」




 ぎこちなく笑顔を向ける麗奈に、ウォームは呆れたように息を吐く。

 結局、自分は彼女にはとても甘くそして危険をしないで欲しいと言う願いも敵わないのだと思い知らされる。

 麗奈を引っ張り出そうとするアルベルトを懲らしめそうと、ポキポキと腕を鳴らしウォームにしては珍しく飛び掛かった。



 この喧嘩を止めた時には既に日が落ちており、ディルベルトが迎えに来るまで小人の麗奈を巡る喧嘩は続くのであった。


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