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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第1章:陰陽師と異世界
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第9話:精霊

 

 東の森は通称、迷いの森と呼ばれている。


 それは誰が言ったのかは分からない。

 だが実際、霧が勝手に発生しており視界を覆いつくして方向感覚を狂わせる。いつからか、そう呼ばれるのがラーグルング国の中で普通になっていく。




「いいか、ゆき。東の森には1人で行くないこと。もし、行くなら4騎士の人達に頼むんだ」




 ゆきは今日も、ラウルの屋敷にお邪魔しターニャに色々と聞いていた。


 あれから1週間が経った。ゆきは城内の食堂で手伝うようになった。きっかけはリーグが、麗奈の手作りのクッキーを食べた事から始まる。


 厨房を快く貸してくれた食堂のおばさんは、麗奈の作るお菓子をずっと食い入るようにして見ていた。焼き立てのクッキーの香りが充満する中で、ゆきは隣でおにぎりを作っていた。お腹が空いていたリーグは、おにぎりも食べ焼き立てのクッキーも物凄い勢いで食べた。


 本当なら、食堂のおばさんが食べようとしていた。が、それよりも空腹のリーグの方が早すぎたのだ。それこそリーナが団長のリーグを見付けるまで勢いは止まらない程に。

 その後も、麗奈は何度か柱の見回りに同行している間、ゆきは何か手伝える事をと思い食堂で働けないかと相談した。


 無理だとは分かっていた。だが、意外にもイーナスからの許可は下りた。あっさりし過ぎてて少し怖いなと思いながらも、働ける場所を提供してくれたので良いと思うようにした。



 そうしている内に、麗奈の世話係としているターニャ達にも自然と交流している。時々、屋敷に泊まったりもするしそれに関して兄のセクトはうるさく言わない。


 姉のイールも含め、かなり好意的に接して貰えた。だからターニャに話を聞いている。ラーグルング国の事、4つの柱についても何か聞けないかとこうして疑問に思った事を質問し、答えて貰っているのだ。




「危ない森、なんだね」

「でも騎士様達が巡回しているし、私達は勝手には入らないから平気だよ」

「……麗奈ちゃん、大丈夫かな」

「平気だよ。麗奈1人なら心配するのも分かるけど、ラウル様が居るんだから大丈夫だって」

「それもそう……かな」




 心配ではあるが、ゆきは麗奈のように力が使える訳でもない。行っても足手まといになるからと、ぐっと我慢をする。


 聞けば聞くほど、貴族という感じには思えない不思議さがあった。 

 彼等は気さくで人当たりも良い。もっと威圧的で下に見下すのだと思っていたので、ゆき自身も驚いた。

 城から出て行け、と言われるのではと思った位だ。ヤクルのように、自分達の事を警戒しているのだろうとも思っていただけに少し拍子抜けだった。


 陛下と呼ばれた人は1度しか目が合わなかったが、威圧感は凄く近寄りがたい。彼の目は何故だが、自分達を心配している。それでいて、優しい目をしているように感じた。




(リーグ君は、何で助けたんだろう)




 怪我をしていた麗奈に、混乱状態のゆき。

 陛下もリーグも、正体も分からない自分達を城に置き、厄介事が起きるとは思わなかったのか。

 大臣達の言うように、国の評価を気にしたりはしないのだろうか?


 そんな疑問は突然崩れ去った。この世界に来て5日目の事。食堂で使う食材を整理していたゆきは倉庫から出れば、休憩していた騎士達の話し声が聞こえてきた。




「柱に反応を示した黒髪の子。宰相が言うには2週間の内に結果を出すってさ。その結果次第では、自分が処理するって話みたい」

「えっ!? だって、彼女達は陛下が手を出すなって」

「2人の騎士団長が気にかけてる、麗奈って言ったか。彼女が、柱に触ったら違う反応が示したんだと。その辺の変化も含めて結果を出したいんだって話みたいだ」





 盗み聞くつもりはなかった。だが、聞いた内容が内容なだけにどうしても耳に残る。

 2週間という短い中で、自分達は見定まれている。


 しかも、自分よりも麗奈の方に疑惑がかかっているのだ。

 そこに、リーグも含まれているのだと分かると悪い方向へと考えてしまう。




「どうしました、ゆき」

「えっ!?」




 ビックリして顔を上げると、心配そうに見ているリーナがいた。

 何度も声を掛けて来たのに反応がなかった。

 顔色が悪いからと言われ、ゆきは思わずさっき聞いてしまった話を聞き返した。


 自分達は見定められているのか、と。


 そう聞かれてリーナは一瞬だけ、迷う仕草をした。が、真剣に聞いて来たゆきに正直に話す事にした。彼はゆきを別室に連れて行き、彼女の質問に答えていく。




「ラウル副団長は、謹慎処分を受けている為に、もう少し後で知らされるでしょう。私も騎士団長も、貴方達を見捨てるような事はしません」

「っ、でも。……麗奈ちゃん、きっと知ってる。多分、私にそれを知られたくなくて自分だけで、解決しようとしてる」

「確かに見張っていると言葉が悪いですが、ね。セクト騎士団長は見張ると言うより、かなり構っています。姉のイール様も妹が出来たみたいで嬉しいと仰っていました」




 それだけでなく、ベール騎士団長も何かと構っている。

 決定を下すのは陛下だが、その彼は2人に対して悪い印象はないのだろう。




「ゆき。信じてくれるかは分かりませんが、それでも言わせて下さい。私達の事を信じて欲しい。柱に影響を与えた麗奈は、立場が苦しいのかも知れない。でも、この変化には意味があると思うんです」

「変化?」

「良い変化なんだと、私は思います。不安にさせた事は謝ります」

「それは……。ううん、教えてくれる事は少ないのかもって、思ってたし」




 その後、リーナは約束をしてくれた。

 麗奈が不利にならないように動くのだと。その為に、リーグも出来うる限りの事をしている。


 だから、その間ゆきは麗奈に変わらずの態度で接して欲しい。

 



「2人は親友なのでしょ? ゆきが不安に思ってたら、きっと彼女にもそれが伝わります」

「そう、だね。……その試験内容って、私には内緒なの?」

「私達にも詳細は分からないんです。申し訳ありません」

「そっか」




 申し訳ないと謝るリーナの顔が今でも思い出せる。全ては麗奈の行動にかかっているが、不思議と不安はなかった。

 

 親友だからこそ分かる。いい結果を残してくれるのだと――。



=====



 一方のラウルは森の中を走り回っていた。

 ベールに手を握って貰っていた筈の麗奈が姿を消した。


 何の前触れもなく、忽然と姿を消したのだ。




(傍に居たのに、気を付けていたのにっ。俺は……俺は……)

「待ちなさい」

「ぐあっ……」




 走っていたラウルは、ベールの風によって吹き飛ばされる。犯人は自分と共に居るベール騎士団長。ラウルの慌てように驚きつつ、落ち着かせるようにゆっくりと話していく。




「貴方らしくないですよ、ラウル」

「っ。しかし、いきなり……」

「この現象を私は知っています」




 その言葉に思わずラウルは「えっ」と呆けた返事をした。

 この感じは精霊に招待された証拠。その証拠に、さっきまで霧で覆われた場所が今は晴れている。




「麗奈さんは、この国で2人目の召喚士になれる可能性を秘めている。そういう事でしょう」

「召喚士……」

「唯一、精霊との対話を許された特別な者達の称号。場所によっては奇跡を起こす神や女神とも、土地や場所によって様々ですがね」

「2人目……。1人目って確か」

「魔法を極めた変人が私達の国には1人居たじゃないですか。彼も召喚士で魔法師ですしね」




 そう断言したベールは、ラウルと共に柱へと向かう。


 恐らく精霊が居るとすれば、柱の近くだろう。さっきまで焦っていたラウルだが、ベールの言葉には安心感がある。

 それにホッとしつつも、歩くスピードは自然と早まる。



=====



 その頃の麗奈は突然の歓迎に頭の整理が追い付ていない。


 湖に落ちた麗奈は緑色のローブに、切り替わったと同時に服が乾いていた。乾いている事に驚いていると、いつの間にか湖の中央にある大樹の麓に移動させられていた。



 目の前のおじいちゃんは《宴!!》とテンションを上げている。大樹に住んでいると思われる小さな妖精、小動物達が彼女の前に現れ歌や音楽を披露してくれている。


 そんな歓迎ムードに、麗奈は気まずいと思いつつ正直に話した。

 恐らく自分の事を誰かと勘違いしているのではないのか、と。




《そうか。違うのか……んん? 言われてみれば違うよな。雰囲気は似ていても、あの時の少女が変わらずに居るのもおかしな話だったな》

「すみません……」

《なに、謝るでない。我々、精霊は土地が死ねば死ぬ定め。人間と同じ寿命がくれば死ぬ存在だ。ワシも会ったのは若い時だし。今はこんなだが、本当は背がもっと大きんだぞ》




 小さい体を頑張って、こんなに大きいと表現してくれている。

 だが、元が小さい上に妖精と変わらない身長だ。反応に困っていると、精霊はショックを受けた様に沈んでいく。


 下がり続けて、つうには地面にまで到達した。だが、それでは終わらない。走っていた鹿に踏まれ、次にウサギに踏まれ鳥に突撃された。


 森の精霊に対して良いのかと思うが、やられた本人は平気な様子だ。

 助けようか迷っていると、別の声が割り込んで来る。




「精霊に物理攻撃は利きませんよ。攻撃するには同じマナで宿った力でやらないと、精霊には傷もつきません」

「え……」




 目の前にとても小さな女の子が浮いていた。

 半透明な羽は、蝶々のように見え麗奈に微笑みかけてくれる。女の子の妖精がそう説明してくれた。

 



《んふふふ、もっと褒めてくれ。妖精達はちーっとも褒めてくれない。貴方は優しい人だ!!》

「面倒なので適当な所で叩き落として下さい」

「え、いや……それは」




 妖精達は扱いに慣れているのか、もっと褒めろと言う精霊を無視して歓迎会を続けている。

 そうする中、妖精は麗奈に話を続ける。

 



「確かに私達妖精や動物達を守ってはくれるけど、少しだけつまらない。私達と意思の疎通が出来る人が居たのに、その人はもう居ないの。……貴方で2人目よ。だから歓迎会をするの」

「2人目……?」

「そう。精霊との意思の疎通が出来る人、それを召喚士と呼んでいるの」

「召喚士」

「私達、妖精は力が弱いの。だから、彼に守って貰ってて……。魔物は人間も、私達も容赦なく攻撃するし」




 だけど、この数日はかなり穏やかだ。

 魔物は夜にしか現れない。こんなにのんびり出来るのも久しぶり。嬉しそうに話す妖精に、少しだけ嬉しくなる。


 恐らくその変化は自分が柱に触れた影響だろう。

 そう話す麗奈に、妖精は瞬きを繰り返した。まるで救世主が現れたような、嬉しそうに目を輝かせている。




「じゃあ、貴方のお陰なのね。ゆっくり出来るのも、魔物に毎日怯えなくていいのは」

「え」

「だったら、やっぱり歓迎会よ!! 私達に平和をくれた貴方は、救世主だもの♪」




 そう思うと、やはり歓迎会は間違っていない。

 行う事に乗る気な妖精達。話が進んでいく中、まだ状況が読めない麗奈はキョトンとなる。




「い、良いのかな。この感じ」

《良いんじゃよ。柱に影響を与えたのなら……我々にとっては救世主も変わりない。お嬢さん名前を伺っても?》

「あ、はい。朝霧、麗奈です」

《むっ? あさぎり……と言ったか》

「はい」




 そう答えれば、唸る様に考え込むおじいちゃん精霊。

 しかも《だから雰囲気が似ているのか、成程》とブツブツと言っている。




《アサギリ……確かユウナと名乗ったかな。お嬢さんと同じ年齢で我々と楽しく話をしたよ。そうそうあともう一人。お嬢さんと同じ朝霧を名乗った女性が居たな。ユカリと言っていたな》

「え……」

 



 その名前に、今度は麗奈が目を見開いた。

 何故なら、ユカリとは……もしかして自分の母親の由佳里ではないのかと思ったから。


 母親が自分と同じようにこの世界に来ていたのなら、いつからなのか。

 何でそんな事が起きたのか? と疑問が次々と浮かんでくる。




《お嬢さんと同じその首飾りをしていたよ》




 そう指摘されて気付いた。

 何の反応も無かった首飾りが急に光りだした。赤、緑、白、黒の小さな宝石がそれぞれ光っており、特に強い光を発していたのは緑の光だ。


 緑の光は精霊に導かれるようにして吸い込まれていく。彼の周りに光が纏うようにして現れ、すぐに消え去る。


 これには妖精達も麗奈も目を何回も瞬きをし、何が起きたのかと互いの顔を見た。しかし、今の現象を知っているのか精霊だけは頷きを繰り返している。




《そうかそうか。ユウナはずっとワシ等の盟約を守り、ずっと守ってきたのだな。助かった、お陰で大きな恩がお嬢さんには出来てしまったな》

「あ、あの!!」




 疑問を口にする前に、場面がまた変わる。

 見れば宝石と同じ光を発する柱が目の前にある。




「あ、あれ……?」




 それに驚いていると、自分の名前を呼ぶベールとラウルの声が聞こえて来た。


 そして気付いた時には、ラウルに抱きしめられた。

 慌てる麗奈にベールが「必死で貴方を探したんです」と、説明をされ心配をかけてしまったと思いされるがまま。




「ご、ごめんなさい」

「いや無事なら良いんだ。ん? 麗奈……それは」




 ラウルに言われて、麗奈は自分の手にある物を指摘される。

 見れば彼女の手には柱と同じ色を発している物があった。

 手のひらサイズの小さな丸い水晶。



 

「精霊から歓迎会をされました」




 その水晶は、精霊に纏った光と同じ。なんだか不思議な感覚になりながらも、麗奈はそうラウルに答えるのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  御作、拝読させていただきました。  まだまだ序盤の見せ場に差し掛かったあたりではありますが、ひとまず、読み始めての感想を書かせていただこうと思った次第です。  まず、表題に惹かれまして…
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