表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第4章:魔王軍VS同盟国
125/433

第103話:次なる場所へ

ーラウル視点ー


 


 自分に対して全面に好意を向けてくるのは動物の性格なのか、犬のような見た目だからかなと思う。今も仕事はないかとウロウロしながらも時々ジッと見つめてくる子供の狼。




(参ったな……魔物も魔族もいないのも確認済みだと聞いたし。これといった仕事はないんだがな)




 自分の住んでいる国での事なら、壊れた家や負傷者を運ぶなどの事が出来るが、他国でそれらが許されても良いという連絡はない。勝手にやればユリウスに迷惑を掛ける事になるのは必然だ。


 今も、正式にダリューセクに頼まれた事なのか。という確認をして貰っている最中であり、大人しく用意された部屋に待機中だ。



 最初は麗奈達も揃って待っていたんだ。



 しかし騎士の怪我を治した時、負傷していた貴族達の治癒をダリューセクの魔道隊が駆け付ける前に終わらせてしまったのだ。


 魔力の扱いが上手いか下手で魔法の発動速度に差が生まれる。と、キールさんは常々の言っている。魔道隊の全員だけでなく、騎士団にも要求してきたのだ。




「とりあえず、身を守るならこれくらいやらないとねー」




 のんびり言いながらいつもの笑みを騎士団の、4騎士に向けられる。


 右手に風を作り、左手に雷を作り出しながら、さらには頭上に水を作り俺達の周りに火の玉が逃がさないように囲んでいる様は……火の檻だ。

 

 ジリジリとくる熱気なのか、キールさんの雰囲気からそう感じるのか分からない。こんな恐ろしい説明をされるとは思わなかった、と言うのが騎士団での認識になった。



 同時に魔道隊がいつもキールさんの事を鬼、悪魔と言っているのも……なんだが納得した。



 普段、麗奈を「主ちゃん」と甘えたような声を出すが、魔法に関してはスパルタでありそれは麗奈でも例外なくしごかれた様子。ゆきも同じようにスパルタにこなされ、魔道隊の面々は毎日血反吐を吐いた様子だったな、と思い出す。




《ガウ、ガウ?》

「平気だ。迷惑なんて思ってない」




 そう言って優しく撫でれば気持ちよいのか、甘えてきた。麗奈と居る時が多くなり動物によく遊ばれたり遊んだりしているからか、俺も扱いが上手くなったかなと思う。

 

 ユリウスは宰相と話があるのか、いつの間にか居なくなっていた。俺は初めて扱った目の前にいる精霊。精霊の力は強いとレーグから聞いていたが、思った以上に魔力を減らされたようだった。



 今まで張り詰めていたから、ふと眠気が襲ってきてちょっとだけ寝てしまった。

 恐らくはその間に行動を起こしたのだろう。置き手紙には少し抜けるが休んでていいぞ。お疲れ様、と書かれていた。




(レーグに怒られるし、陛下に気を使わせてしまった……)


 


 ユリウスは元から優しい性格だ。麗奈とゆきに会ってからはとことん甘くなった。俺自身がそう自覚しているのだから本人も分かっているはずだ。




《ガゥー?》

「心配するな。ただ……自分が情けなくてな」




 心配したような鳴き声にそう答えれば、嬉しそうに頷きスリスリと頬を寄せてくる。安心して、と言っているような気がする。


 そこに別の気配を感じ取った。

 子供の狼よりも巨大な体を有し溢れ出す魔力が全て冷気と化し、一瞬で銀世界へと変えられたような錯覚を覚える。


 大精霊フェンリルであり、ダリューセクの精剣としてこの国の守護を担った。人間の味方であり俺にも力を貸してくれた存在だ。




《上手く適応出来たようで良かった》




 嬉しそうな声に俺はお礼を言った。

 フェンリルは不思議そうに首を傾げ《礼を言われる事はあったか?》と聞いてくる。夢での事、力を貸してくれた事を言えばやはりコテンと不思議な顔をする。

 子供の狼も同じような反応しなくていい。どんだけ構って欲しいんだ……。




《困っていたから助けた。ただそれだけだ》




 フェンリル自身は特別な事は何もしていない。だからお礼を言われる意味もよく分からない、と説明してくれるが俺はそうは思わなかった。


 正直に言って、魔族を空間に閉じ込め一対一での戦闘に持ち込めたのも彼のお陰だと思っている。魔族は上級であろうと下級であろうと倒すのに苦労する。

 相手が出来るのはキールさん曰く聖騎士と呼ばれる特別な力を持った者達だとか。あとは大賢者や賢者と言った膨大な魔力を持っている人達に限定され、今回の様な俺が倒せたのだって、フェンリルの力を扱えたからに過ぎない。




「俺は貴方のお陰で助かったんだ。……困っていたから助けると言うのは意外に難しいものなんだ」

≪……そう、か。まぁ、力の一部とはいえ彼はすっかり気に入られているな≫




 今も隣で肩叩きのように手足をばたつかせてこちらの気を引こうとしている狼。思わずひょいと持ち上げ手元に収めれば途端に大人しくなった。今度は、尻尾を振っているので足が痛くなるな……と思うのは止めておくことにした。




「お蔭様でな。……しかし、この子はいずれフェンリルの中に戻るだろう? こうも懐かれると後が辛いと思うんだが」

《彼はラウルに懐かれる時点で、離れる気は全くないからな》

「え……」




 当然のように言うフェンリルに思わず目を丸くする。しかも、パタパタと尻尾を振っていた子供は《離れない!!》と言う意思表示の為にいきなりお腹にしがみついてきた。……駄々をこねた、と瞬時に理解した。




「邪魔……かな」




 そこに親友のレーグが入って来る。居てくれと言えば分かったように頷く。半透明の大きな体の狼と、俺から離れない子供の狼を交互に見て微笑する。




「麗奈様と同じように精霊に好かれたのか?」




 少し驚きながらも聞いてくる事はそれか。

 麗奈と同じにされてもな………あそこまで精霊達に好かれてないだろうに。




「彼女程、数は多くない。あ、こら、服を引っ張るな!! 分かった、2度別れろなんて言わないから!!! 俺と居たいなら好きなだけいろ!!!」




 嫉妬なのか知らないが、いきなり暴れ出す。フェンリルはそれを≪あまり迷惑はかけるなよ?≫と注意なのか自由にして良いと言うサインにもとれる。それは違うと言いたいが、下から見上げてくる視線に……思わず目を逸らす。


 なんだ、その甘えたような表情は!!!




《ガウーン♪》

「うわっ……!!」



 それがいけなかったのだろう。居ても良いと言う言葉は彼にとっては凄く喜ばしいものであり、そのまま押し倒された。スリスリと頬を摩り逃がさないとばかりに乗り掛かられる。

 

 待て、レーグ。微笑ましく見てないで助けろ!!!





「……大精霊の力の一部を他人に譲渡する事が出来るなんて、知らなかったな」




 無視か!!! これを無視なのか、お前は!!!




《属性の相性と使い手が現れなければ、このような事は出来ない。今まで大精霊を扱える者は大賢者だけだ。昔の召喚士は大精霊をも喚ぶ事は出来ても、そこで終わる》


 


 ちょっ、フェンリルも話を始めないでくれ!!!



 そんな俺の意思も空しく、彼は話を始めてしまった。

 喚ばれた先で喚んだ者が亡くなる。

 力を振るおうとも制御する者は居なくなり、大精霊が喚ばれる度にまた1人、また1人と召喚士は亡くなっていく。


 今の俺や麗奈、ゆきのようにじゃれ合うというのは絶対に出来ない事と言った。それを聞いて離れろと言えなくなった……見れば悲しそうに鳴かれるし……あぁ、もう、どうにでもなれ。




《俺達を喚んでも亡くならない。存在を認知出来る者が居る。……俺にとってそれは嬉しくて叶わないものだと諦めていた……人と触れ合えると言うのが、こんなに嬉しい事だとは知らなかったな≫




 小さく呟いた独り言。


 反応に困るが、構わず俺に擦り寄り思いのまま寄せて来る君も君だな。

 それを傍で聞いていたレーグは反応を示さず、代わり俺達を見てクスリと笑って来る。

 よし、あとで叩く!!!




「麗奈様の作った魔道具で魔力が底上げされたからか、私にも精霊が見えるのか。もしくは――」




 レーグはいつもの癖で、小さくブツブツと何かを言っている。そして、そのまま退出していった。イーナスさんに何かを伝えるのだろうか?

 そう思っていたら、麗奈とユリウスが入れ替わりに入って来た。




「あ、へ、陛下……麗奈。あの、これは」

「麗奈みたくなってるな、ラウル」

「えっ!? 私ってあんな感じに見られてるの!?」




 待て、恥ずかしそうにするな。いつもこんなだろ、と言いたいが構えと言うように≪ガウガウ!!≫と鳴かれては構うしかない。

 頭を撫でで大人しくさせる。

 くっ、君はワザとだな!!!




「よく風魔達に押し倒されてるからな。懐かれてるとあんな感じだぞ。あと騎士団の人達も周知されてるからな」

「嘘っ!?」

「魔道隊の人達もだし、薬師の人達にも癒されるって聞くし。間違って報告書にも書かれる位に皆知ってるぞ?」

「は、恥ずかしい………」




 ペタン、とその場に座り手で顔を覆う麗奈にフェンリルが傍に寄り≪名を呼んでも良いだろうか≫と半透明から水色の体からはっきりと見えるようになる。体の大きさも一気に縮まり、通常サイズの狼となって歩み寄っている。




「いきなり……どうしたんです、フェンリルさん」




 恥ずかしさから逃れる様にフェンリルのフサフサの毛並みに埋もれる麗奈。少しだけくすぐったい感じに嬉しさを覚えているのだろう。尻尾がこの子同様に振っている。

 麗奈の頭に乗るアシュプ様を見れば……何処かむっとしたような表情になっているように思う。

   



≪……ツヴァイが名を呼んでいるのが羨ましくなっているだけだ≫

「えっ」

≪それに俺の名を呼んでくれるのに、そちらの事を呼ばないのは失礼だと思ってな≫




 確か泉の精霊で俺は直接見てないけれど、麗奈と何かあったんだよな。俺が上で黄龍と共に魔物の相手をしている間の事を……彼女は何があったのか、フェンリルも言っていない。


 ……何か言えない事が起きていたのだろうか?




「えっと……別に呼んでも平気ですよ」

≪そうか。助かるよ≫




 狼を背負って部屋を出ればユリウスが「精霊を抱えるのは大変じゃないか?」と笑いを堪え、レーグが驚いてポカンと口を開けている。


 なんせ俺は子供の狼を抱え、麗奈はフェンリルと楽しく談笑しておりそれを何処か恨めしそうに見ているウォームと不満げに見上げる白虎。風魔は分かり切っているからか『こんなだよ、レーグ』と報告しに来てくれる。


 なんだよ、その微笑ましい笑顔は……。そんなに和む事か?




「今、宰相から連絡を受けました。準備が出来たらニチリに向かって欲しいとの事です」

「ニチリ?」

「ハルちゃんを保護した国に?」




 キョトンとするユリウスと麗奈。俺もその国の名前は不思議そうに思い、ニチリの名前に反応を示したらしいフェンリルはチラリとウォームを見る。そこに「クポーーー!!!」とピョンピョンしながら即座に麗奈の肩にダイブするのはドワーフのアルベルト。




「君も随分とやる気だね」

「クポポ!!!」

≪むっ……君≫




 フェンリルがアルベルトの方へと視線を向けた瞬間数歩下がった。その行動に麗奈とアルベルトは首を傾げ、ユリウスとレーグも不思議そうな表情になる。

 俺も不思議そうに目を向けていたが、背負った狼がカタカタと体を震わした事に疑問を覚える。同じ大精霊でもいるのだろうか、とフェンリルに視線を向けた後、麗奈の頭上で佇むウォームさんを見る。




「どうしましたか、フェンリルさん」

≪いや、すまない。……勘違いだ。ドワーフの君も、申し訳ないな……このような態度をとって≫

「フポポポ」

「気にしてないって言ってますよ」

≪そう、だな≫




======



 そのアルベルトの傍で半透明の茶色の帽子を被った人物がフェンリルを睨んでいた。その睨みで何も言うなと言うように、翡翠色の瞳を細め口元に人差し指を突き立て微笑んだ。




≪(……分かっている)≫

「フェンリルさん平気ですか? 顔色が良くないように見えますけど」




 頬を撫でる麗奈に思わずビクリとなるも、睨まれたような微笑みをする相手に正直居心地が悪い。ふと、視線の感じたのかアルベルトの方へと目を向ける。彼女はそこで半透明の茶色のローブ、黒のトンガリ帽子をした中世的な顔の男性とも女性とも見てる風貌に思わずじっと見つめた。




≪ふっ、君の前だとダメだな。お父様と契約してるから、私の姿は見えてしまうんだから。………この事は内緒だよ?≫




 フワリと近付いたかと思ったら、耳元で囁かれる。その声が脅しているようにも取れ、思わず体が硬直していると≪意地悪は感心しないぞ≫と小声で言うも微笑みを向けるウォーム。



≪これは失礼、お父様。しかし、内緒にしてくれないと私は困るので……ね。じゃ、彼の事をよろしく頼むね≫

(えっ)




 ふっ、と姿が完全に見えなくなり思わず周りを見渡す。心配そうに声を掛けるアルベルトとユリウスに戸惑いながらも大丈夫だと告げる。




(……精霊、だよね)




 フェンリルの様子から仲が悪いのかとも思い、自分に内緒にするように頼んできた人物。アルベルトの傍に立っていた事から彼が契約してる精霊なのかとも思ったが、本人からそのような話を聞いた事はない。


 深く聞いたらいけない、と言った雰囲気で思わずウォームは≪時が来たら、だな≫と困ったように髭を触る。

 フェンリルの方を見れば気まずそうにしながらも《無理を言ってすまない、麗奈》と謝ってきた。




「大丈夫です。フェンリルさんもあんまり気にしないで下さい」

「フポフポ」




 アルベルトがフェンリルに歩み寄り、ポンポンと頭を撫でる。が、体格差があり過ぎる為に頭の上に自分が座る形になる。レーグがユリウスに通信機能の付属したダイヤ型のイヤリングを渡せばそこから声が聞こえてくる。

 




「すま、ない……ユリウス君。ゆきちゃんとハルヒ君は」




 えっ、と麗奈の視線が思考が揺れる。

 声の主は父親であり、その報告内容とニチリの状況を聞き麗奈はウォームに頼む。すぐにニチリに飛んで欲しい、と。




≪先に行っとくぞ、陛下達≫




 麗奈のお願いはすぐにでも叶えるウォーム。それに素早くアルベルトが反応し、肩に乗ったと同時にニチリへと転送魔法を使う。


 親友のゆきとハルヒを助ける為。

 ダリューセクからニチリへと場所を変え、新たな戦いが幕を開けた瞬間でもあった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ラウルと戯れるフェンリルの分身の子狼が、 可愛いですね、あとドワーフのアルベルトさんも、 なんだか可愛らしくて、ほっこりします。 [一言] 指摘されて初めていつも精霊に もみくちゃにされて…
2020/07/26 08:07 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ