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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第4章:魔王軍VS同盟国
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第98話:ダリューセク防衛戦線⑤~主と騎士~

 場所はダリューセク城内、ダンスホール。


 避難してきた人々を入れ周りを城内を警備する騎士達に任せ、貴族達は別の大広間、別のダンスホールへと分散され避難をしていた。その度に騎士達が動きながらも、東西南北への門の防衛と大臣達の保護を考えても人数を十分には捌けなかった。


 こうしている間にも、次々と避難しに来る国民が押し寄せ混乱を招く。押し寄せて来た国民の沈静化、避難してきた人々の対応、貴族達の不安の声。


 大きな混乱はなくとも、少しずつ、少しずつ溢れてくる不安と恐怖。それが守る立場の騎士達に伝染し、国民に伝染していく中で起きた突然の悲鳴。




「う、うわあああっ!!!」




 ダンスホールの中心に突如として現れた緑色の体を持った巨体。その影に気付いた男性は悲鳴じみた声を上げる。5メートル程はあろうかと言う大きさでも驚くのに、その足元からワラワラと現れる新たなゴブリン達。

 1メートル前後の大きさでも、既に尻もちをつき恐怖で動けなくなる。体を動かそうともその思考さえ、置いてけぼりになる。




「ま、魔物!? 魔物が入って来た!!!」

「う、あああっ……」

「お母さん、お母さん!!!」

「きゃああっ!!!」




 戦々恐々としたホール内。

 配置されていた騎士達も、ゴブリン達が現れたと同時に動き出す。が、パニック状態で我先にへと逃げようとする圧力がそれらを妨げ思うように行かない。


 


「グガカ!! ガアアア!!!」




 巨体から発せられた号令とも取れる雄叫び。

 その声に圧倒され、失神する者、怯える者、泣き叫ぶ者。巨体のゴブリンはそれが心地良いのか大きな棍棒を振り上げる。




「ひっ!?」




 振り下ろされる。

 あの巨体からあんな物が振り下ろされれば人間はひとたまりも無い。いや、死ぬのは誰が見ても明らかだ。


 しかし、それは振り下ろされる事はなかった。



 パキ、パキン、パキン……。



 小さく聞こえた何かが当たる音。それが振り下ろされようとしていた腕を一瞬で凍らせ、一気に纏わり付く。




「グガッ!?」




 驚き思わず腕を振り払う。

 しかし、ボロボロと崩れるのは武器を持っていた腕。支えが無くなり棍棒が自分の足に思い切り当たる。痛みで雄叫びを上げ、これを行った人物を殺すように再び上がる咆哮。

 周りにいたゴブリン達にその正体を探れと命令を下され、即座に動く。近くに敵がいると注意を呼び掛け殺すように言う。 




「人に迷惑をかけるな」




 聞こえた低い声。ギロリ、とゴブリン達が声がした方へと視線を集中させる。いつの間に居たのか自分の目の前には赤いマントを翻した青い騎士服の男が立っていた。右手に剣を抜いた状態で静かに対峙し、魔物のゴブリン達を睨み付ける。




「ガガガ!!!」

「ギャギャ!!!」

「ギャウギャウ!!!」




 コイツだ!!、コイツがリーダーを傷付けたんだ!!


 そう言わんばかりにだみ声が、怒りを表わすように部屋中を響き渡る。その声に不快だと言わんばかりに剣をブン!!、と大きく振る。

 その音が合図かのようにゴブリン達は一斉に突っ込んで行く。逃げる素振りも、剣を振り抜く様子のない人物に誰もが――終わったと感じた。



 ヒュン、と何かの唸るような音が聞こえた。

 立て続けに聞こえてきたパキッ、パキン!!と言う音。


 突っ込んで行ったゴブリンも、続けて追い打ちを掛けようとしていたゴブリン達が次々に凍り漬けにされていく。




「!?」



 ズシン、ズシン、と思わず後退りをしたのは巨体のゴブリンの方。

 棍棒を振り下ろそうとした腕先は凍らされており、反対側の腕で攻撃に転じようとしてパキッ、パキッと嫌な音が聞こえてきた。




「終わりだ」




 その一言で、凄まじいスピードで氷付けに晒されていく。声を上げる事も、反撃に転じるのも許さないとばかりに、氷が出来上がり檻が形成されていく。逃げ場を失った巨体のゴブリンは、力任せに檻を壊そうとするがその檻はビクともしない。




「ファン・シュット」




 凛とした声。

 それは巨体の頭の上に手を置いていた黒いローブに、羽の刺繍がされた人物。その人の手が離れたその瞬間、巨体のゴブリンは風化するようにボロボロと崩れ去り、凍り漬けにされて動けない他のゴブリンもろとも消え去っていく。




「レーグ。やり過ぎな気がするんだが……」

「ラウルもでしょ? こっちにばかり押し付けないでよ」




 フワリ、とその黒いローブの人物は剣を持った者の横に降り立った。剣をしまった男性の髪は氷を思わせるような淡い水色の短髪、キラリと左耳に光るピアスが印象的。

 同色の瞳を持ち、身長が高い事から体格がガッシリとしているのが服の上からでも分かる。放たれた氷のように冷たい瞳は、一見すると冷たく近寄り難い印象を抱かせる。


 ラウルと呼んだ人物は、黒い髪の短髪に茶色の瞳、落ち着きのある雰囲気を漂わせいたレーグと呼ばれた者。彼は周囲を見渡し、パン、パンと手を叩き呆然としていた者達をはっと正気に戻させた。




「すみません。ここはダリューセクの城内で合ってますよね?」

「あ、貴方達は……一体……」




 魔物を一瞬の内に葬り去る力を有した騎士と思われる人物。援護するように現れた人物も瞬時に魔物を消し去った事から相当の使い手だと分かる。レーグはニコリと自分でも珍しい位の笑顔でその質問で答えた。




「申し遅れました。我々はラーグルング国の者です。今、起きている魔物の沈静化のお手伝いをさせていただきます」




========


 

 魔族の気配を感知した麗奈がすぐにテレポートを使い、その場所へと飛んだ。開けた空間が広がり豪華な飾り物がされ、天井が広く天窓からは日光が指し部屋をさらに明るくさせる。


 その中央に居たのは蒼い髪に白い法衣を来た者とその隣で横たわる者。その人の周囲は赤い液体が広がっており、傍に居た者は泣き叫んでいた。




「ナタール!! お願い……!!! 目を、目を開けて!!!」




 怪我をしてる!!!と理解した麗奈は白虎に駆け寄るように言い、アルベルトが地面に手を置く。瞬間、周りを土の壁が覆い守りを固めていく。




「ごめんなさい、少し失礼します」

「っ、貴方は……」




 麗奈の声にはっとなり姫殿下としていなければ、と思った咲だが自分を庇ったナタールの事が気になりそれどころではない。いつもなら魔法を発動させ、炎を、水を、風を操る操る事が出来る。

 治癒だって出来る。守りも固められる。なのに、今はその全てが上手くいかない。いつも出来ていた事が急に出来なくなる。


 当たり前が、当たり前でなくなる。



 たったそれだけの事で……こうも力を、魔法の発動させるのも出来ないのかと悔やんだ。




「うぅ……うっ……うぅ……」

「クポポポー」

「……え」




 素の咲になり泣いてしまった。どうしようもなく、涙が溢れてきた。しかし、その涙を拭う者が居た。


 小さな小人。

 大丈夫、大丈夫と繰り返し、流れた涙を懸命にその小さな体で止めようと何度も拭う。




「うん。アルベルトさんの言う通りだよ。……願いは強いの。助けたい気持ちを思いを込めるの」




 手を合わせ血が流れ出ている腹に近付ける。麗奈の手からは虹の光が、咲の手からは白い光が発せられた。




(虹の、魔法……!!!)




 フェンリルから告げられた。アシュプと契約を結んだ者が居ると。虹の魔法を扱い精霊の頂点に居る二柱の一つ、大地を作りし大精霊と呼ばれ巨大な存在。




「貴方、が……アシュプ様の、契約者……なのですか?」




 さっきまで魔法が使えなくなり、発動の仕方も分からなかったものが急に使えた。思わず咲がそう質問したが、麗奈は首を振る。




「確かにアシュプさんと契約したけれど……私はお手伝いしただけだよ。貴方が救いたいって、そう強く願った結果だよ」

「強く、願った……結果」




 ピクリ、とナタールの瞼が動く。

 うっすらと目を開け視線を彷徨う。涙ながら自分の事を治療するセレーネを、咲を見て小さく呟く。




「すみ、ません……さ……き……」

「っ、ナタール!!!」




 手を握り意識が戻った事に安堵した。安堵したその瞬間、また涙が溢れてくる。それではいけないと分かっている。


 でも……。

 安心したからこそ。止めたくても止められない。

 自分に指導し、王としての振る舞い方を教わった。ナタールから見たセレーネの癖、仕草、口調、口癖などを教わり完璧に真似られるようにと夜遅くまで一緒に居た。




「ナタールが、傍に居てくれたから……私は、私は頑張れた。ここまで頑張れたの」

「光栄……です」




 ふっと力が抜けていく。

 気を失うナタールに、咲は死んだのかと慌てる。麗奈が「大丈夫。安心しただけですよ」と、安心させるように、ニコリと笑って告げる。




「っ……よかった……よかった」




 ナタールの手を握る。反応するように弱々しくも握り返され、思わずニコリと笑みが零れる。アルベルトも麗奈も続けて笑みを零すと『主!!!』と白虎の焦るような声が聞こえてくる。




「貴方は、ここから絶対に出たらダメだよ。アルベルトさん、彼女達の事をお願いします」

「クポポ!!!」




 任せて!!!と元気よく返事をし、防壁の一部をくり抜いたように穴が開けられる。駆けだした麗奈と同時に再び閉じられ、アルベルトは魔力で土の強度を上げていく。




「ごめん、白虎。魔族は!?」

「下るんだ!!!」




 ファンネルの声の意味が最初は分からなかった。しかし、はっと気付かされる。空間を使う魔族は麗奈が出たその瞬間、襲い掛かれるようにと魔物を配置されていた。

 既に獲物として飛び掛かっている。狼の姿をし、その牙が麗奈に襲い掛かろうと喉元へと向かっている。





「っ!?」

「麗奈!!!」




 瞬間。

 冷気が辺りを包み込む。一気に銀世界へと変えたその力に、ファンネルの足が思わず止まる。麗奈に襲い掛かろうとしていた魔物も、一瞬で氷漬けにされており動けなくなる。


 シュン、シュンと空気が唸る音と共に魔物を切り裂き、ガシャ、ガシャ、ガシャンと蛇腹状の刃が剣へと戻る。




「怪我はないか!?」




 引き寄せられ確認をされる。

 見上げればラウルに顔や肩など触られ血が流れていないかと、まさぐられる。白虎が子猫位の大きさになり、『止めろ!!!』とラウルに頭突きをする。




『怪我してたら呼ばないよ!!! 何考えてんのさ、主に触るな!!!』

「ぐぅ……」

「ラウル。人目があるのに大胆だな……」

「あとで殴る」

「麗奈様を盾にする」

『まとめて吹っ飛ばすぞ』




 子猫から虎へと変化しラウルとレーグをギロリと睨み付ける。

 ブウン、と空間が裂けそこから別の魔物が現れる。ラウルは現れた先から魔物達を次々と凍らす、レーグが頭上から来た魔物を床へと一斉に叩き付けていき斬撃が飛んでくる。




「冗談はこの位にして、遅れた分は取り戻します。麗奈様、一定距離を保ちつつ追い詰めます、援護を」

「はい!!!」

「グラセ・ヴァイン」




 ラウルを中心に蔓が飛び出し、部屋全体へと張り巡らせる。途端に静寂へと包まれ、ファンネルは宰相や数名の貴族達の護衛へと後ろに下がりレーグがアルベルトが作った防壁まで下がる。


 パキ、パキッ……。




(そこか!!!)




 氷で出来た蔓が踏まれる音。それが微かであろうとも、耳を澄ませていたラウルはすぐに斬りかかる。魔力を剣に通し一気に突き出す。

 距離は離れているもののラウルの蛇腹剣は関係なく、空間ごと貫き中からうめき声が聞こえてくる。




「ぐぅ、あの男といい……貴様等の武器は厄介な」





 思わず空間から出て来たのはユリウスに攻撃を喰らった魔族。

 黒いフードに身を隠していたが、ラウルの攻撃によりフードが完全に意味をなさなくなり脱ぎ捨てる。


 トカゲの体を有しながらも、腕の部分は肌色であり包帯を巻いている所からはポタポタと血が流れている。黄色の瞳は憎々し気にラウルを睨むとその姿を消した。




「!!!」




 驚く間もなく蹴りを喰らい、勢いよく吹き飛ばされる。レーグが警戒を強めた時には頭を地面へと叩きつけられ、ラウルが飛ばされた方へと投げ飛ばす。




「ラウルさん!!! レーグさん!!!」




 いきなり2人も吹き飛び、視線を彷徨わせた麗奈はすぐに向かおうと動く。が、その行動は読まれていたのか眼前に姿を現す。気付いた時には首を絞められ持ち上げられた事で息苦しくなる。




「っ、うぐぅ……こ、のっ………」

「お前は殺すなと言う命令が下っている。抵抗すれば腕の一本や二本は折るぞ」



 

 キッと睨む麗奈に思わず舌なめずりをし、試しに腕を折ろうと右手を掴む。ズバッと自分の腕が切れ、目の前に居たはずの麗奈が姿を消す。見れば先に蹴りを浴びせたラウルが麗奈を抱え、剣を握り返していた。





「げほっ、げほっ、げほっ………はぁ、はぁ、ラ、ウル……さん……」




 息苦しさから解放され、ゆっくりと言葉を言う。ぼやける視線だが、優しく頭を撫で「安心しろ、麗奈」と抱きかかえる。剣に再び魔力を宿らせる。


 淡い水色の光が剣を包む。

 それと同時に解き放たれる、巨大な魔力の奔流。





「騎士の俺は君を守る。……この力で!!!」





 フェンリルが言っていた。使い手としては君が一番良いと。


 相性の問題なのか、または召喚士の麗奈と短い間だけ行動を共にしていた事での気まぐれなのかは分からない。その大きな力は麗奈とラウルの傍に、周りを包むようにして現れた。


 その姿は氷のような毛並みの子供の狼。青い瞳を宿したそれは、魔族を睨み≪ウウゥ………グルルル≫と唸る。




≪ワオオオオオン!!!!!≫




 上がる咆哮。

 氷の息吹を思わせるそれはすぐに魔族の足を凍らせ、空間を歪め世界を変える。



 フェンリルがその力の片鱗を感じ取り、防御に力を注ぐ中でニヤリと笑みを零す。




≪ふっ、流石はラーグルング国。強い魔力を持った者達がいる国だな≫




 アシュプが居続けた土地が国となり栄えたのがラーグルング国。

 通称、魔法国家、第二の精霊の国とも呼ばれている。


 様々な精霊が入り乱れながらも、力の調和が保たれそこで暮らす人々は知らずの内に様々な加護を与えられ魔法が発現する確率を上げ、力を使える人数も他の国と比べても格段に多い。



 それはディルバーレル国も同様であり、この2国は魔物を多く引き寄せ魔族を倒せる力を秘めた恐るべき場所。


 この国が8年越しに魔族に牙を向く。


 魔王打破の為、異世界から来た麗奈とゆきの協力を得て、大賢者たるキールが魔王ランセがサスクール打破の為にと力を合わせる。



 人間が魔族に反撃する。この瞬間、こんな事が起ころうと誰が予想出来ようか。



 氷の騎士、ラウルはフェンリルから借り受けた力を使い魔族に対抗する。精霊の姿が見えない筈のラウルは、しかし……この時だけははっきりと見えた。


 夢でフェンリルと語ったあの時のように、姿と力の存在がハッキリと分かる。剣を握り締め、対峙する魔族と再び刃を交える。



 魔王に狙われている主を守る為、剣を振るう。

 初めて精霊の領域を人間が扱う。



 空間を御しする魔族と精霊の領域を扱う人間。互いの力がぶつかり、周囲に広がる地平線の銀世界が衝撃波となって周りを巻き込んだ。


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