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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第4章:魔王軍VS同盟国
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第97話:ダリューセク防衛戦線④~聖騎士~

 ダリューセクの東門。

 小物店、装飾品の店が並びそのどれもが高価なものばかりであり、貴族の居住区とされている。既に魔物から襲撃を受けたと分かった彼等の行動は早く、必要最低限の荷物を持ちすぐに城へと足を進めていた。その際、護衛として騎士団が幾つか付いた為に東門の警備は手薄な状態となる。


 フェンリルの魔法の為に既に外からの侵入を許してはいない。見張りをしていた騎士も、氷に阻まれようとも警戒を強めていた。

 そんな時――。



「ぐ、がああっ……!!!」




 突然のうめき声。何が起きたのかと誰もが思ったがその思考が、何もない所から飛び出してきたゴブリンの攻撃に晒される。振るう棍棒により腹を、腕を、頭に直撃を受け失神する。

 失神を免れようとも、次々と振るわれる暴力の数と圧力に次々と倒れていく。

 しかし、誰が何もない所から魔物が現れると予想出来ようか。

 そして、疑問に感じる。ゴブリンは水辺のある所は現れない。何故なら――彼等は水を嫌うからだ。




「はあああっ!!!!」




 雷の様な速度で放たれた一線。

 殴り付けていたゴブリン達はその攻撃により、吹き飛ばされたと同時に雷に打たれたようにボロボロと崩れ去る。




「おかしい……!!!連中は水のある所に現れる事もない。……なのに、何故だ!!!」




 そんな疑問が頭を占める彼はケルダン・ウィグリス。

 ファンネル団長と同期であり、また聖騎士の1人でもある。


 聖騎士。

 ダリューセクの騎士国家と呼ばれる所以。水の魔法に特化されたこの国は、騎士になる者も水の魔法を多く取得ていた。そして、治癒と防御が得意とする中で攻撃にも特化し始めた者達が出て来た。

 魔法が発展され、様々な属性が明らかになる中。その攻撃に特化した者の中で、聖属性を扱える者が増えてきたのだ。治癒、防御を一切行う事が出来ない代わりに魔族、魔物を消滅させている力を有している。


 それは精剣を初めて所有した恩恵なのか。その全容ははっきりしていない。魔族の対抗手段として生まれた聖騎士の者達は、全てが一定に生まれる訳ではない。魔法が発現されるのがランダムであるように……聖騎士もまたランダムで生まれる。



 今、このダリューセクに居る聖騎士は全員で5名となった。

 ケルダン・ウィグリス。

 ファンネル・イグダート。

 イクネル・フランダル。

 フラート・フィルネス。

 そして、この国の姫殿下のセレーネ・ウィル・ダリューセク。





「ケルダン団長!!!」

「ウリス。警備を強めろ!!!」




 駆け寄ったウリスは思わずしゃがみ込んだ。




「ガアアアアッ!!!!!」




 キメラの尾がウリスが立っていたと思われる位置を貫く。ケルダンが再び剣を構え直そうとすると、ズズズッとキメラが空間へと引き込まれるようにして消える。




「ぐっ!!!」




 直後、ケルダンは吹き飛ばされる。ウリスを襲った尾は標的を変えてケルダンへと攻撃を加える。キメラの蛇は毒を用いている事が多く、蛇の牙に掠っただけでも危険であり解毒に特化した薬草、光属性、聖属性でなければ完全には抜けきれず、薬では対処が出来ない。


 その蛇の牙を、ケルダンは肩に受けてしまった。




「っ、ぐうぅ……」

「団長!!!」




 血相を変えたウリスはすぐに治癒を開始しようと魔法師に指示を飛ばす。しかし、後ろを振り向いた時には一緒に付いてきたはずの魔法師はゴブリンに殴られ気絶させられている状態だ。




「っ、空間を操る魔族が居るのか……!!!」




 氷で侵入を阻んでいるのは外側だけ。中から空間を用いている場合、対処は出来ない。例えフェンリルが感知していたとしても、止める手段も防ぐ手段も持ち合わせてはいない。




「ソンブル・レイヨン!!!」

≪ヒール!!!≫

 



 その時、黒い光が魔物を消滅させ七色の光が辺周囲を包み込んだ。ゴブリンに傷付けられた者も、毒で体が動かなかったケルダンも含めて全ての傷が治っていた。




「逃がすか!!!」




 何もない所を斬ったユリウスの双剣は見えない壁に弾かれる。そこにウォームがすかさず氷を落とす。




「チッ……」




 一瞬だけ見えた魔族の姿に聞こえてきた舌打ち。

 すぐに魔物に切り替えられキメラが飛び出してくるも、既に剣に黒い雷を纏わせていたユリウスはそのまま斬り落とす。




(逃げられた……!!!)




 その時、近くで爆発が起きた。

 何だ、と思いその地点を見る。青い屋根が印象的な洋館が建ち、門構えが立派である事から貴族の家だと分かる。その洋館の一番奥側だと思われる所から黒煙が上がりアリエルが悲鳴を上げる。

 



「っ、お父様!!!」




 風魔の背から彼女の悲鳴とも取れる声が聞こえユリウスは剣を構え直す。ウリスはケルダンの傍に寄るが、毒で体が思う様に動けないのかフラフラな状態で立ち上がる。




「コイツを死なせたくないなら、武器を収めろ人間」

「ぐうぅ……」




 その洋館の門構えの上から現れた者はフードを全身に羽織り身体特徴は分かりずらい。声色からして男なのは分かり、首を絞められ苦しそうにしている男性を見る。

 40代前半と思しき水色の髪を有した男性。黒のフロックコート、水色のベスト、シャツ、黒いズボンを着ていたと思われるが所々から血が垂れているのが分かる。


 さっきの爆発で襲われたと同時に人質に取られたのだと理解するのは早い。アリエルは今も駆けだそうとするも、風魔に遠ざけられていながらずっと泣いている。




「おい、そこのお前。……聞こえないのか、武器を捨てろと言ったんだが?」

「……」




 魔物を退け傷を治しても、すぐには起き上がれず皆キメラの毒の影響で動きが遅い。唯一、攻撃を受けていないのはユリウスと離れて団長の元へと駆け寄っているウリスのみだった。




「……くそっ」




 小さく呟き、双剣を投げ捨てるユリウス。それは魔族の足元へと投げ出され周りが見る中で突然、その姿を消した。




「!!!」




 目の前に現れたのは髭の長い小さな老人。視界を一瞬で埋め尽くしたかと思うのと、両腕を斬り落とされたのが同時に起きていた。




「ぐっ……!!!」




 一瞬で距離を取り、自分の腕を斬り落とした男を見る。黒髪に紅い瞳の少年は既に人質としていた男性を抱えており、娘のアリエルの所へと連れて行かれていた。




「お、お父様……お父様、お父様……!!!」

「アリ、エル……か」

「い、今、治癒を施します………!!!」




 肩から血を流し、他にも爆発の影響なのかガラスの破片が散らばっていた。アリエルの手の平から白い光がポゥと光り輝く。破片に光が当てれば、引き寄せられるようにしてガラスが浮かび少しずつ集まっていく。

 ウォームの治癒で傷が治り少しだけ体が動かせるようになった魔法師も同様の方法で、ガラスの破片を取り除く作業を行う。破片を取り除く作業が終わったら、今度は肩や至る所で流れている血を止める作業があり、まだ完全に治癒を完了させるのには時間が掛かる。


 それを見てそう判断したユリウスは駆け寄って来たウリスに引き渡し、すぐに魔族へと向きを変え突進する。




「!!!」




 眼前には既に双剣を手に引き寄せており横一線に振り抜いた。雷が通った後のようになった斬撃はギリギリの所で、空間へと逃げ込まれる魔族には当たらない。





(なっ、に……!!!)




 驚愕したのは空間に逃げた魔族の方だった。魔物と自身の位置を切り替え、自分は瞬時に別の所へと移動する。だというのに、あの斬撃は空間ごと巻き込み魔族のみに当ててきた。

 現に再生した両腕が再び斬り落とされかけ、片腕を犠牲にしてきた所だ。




(あの男……空間ごと斬ってくるか。くそっ、相性が悪すぎる!!!)




 あの場に残れば空間ごと切り刻まれるのは確定であり、場所を変える為に城へと移動する。何度も再生を繰り返せばそれだけ保有している魔力が減り、最悪魔物達から魔力を供給しなければならない。


 それでは内部からダリューセクを崩す事が出来ないと判断した魔族は、そのまま貴族達が、国民達が避難している城へと向かった。





=======



≪陛下、今の魔族……上手く逃げられたぞ≫

「……悪い。絶好の機会だったのに」




 気配が遠ざかるのを感じたウォームはユリウスの傍に立ちそう報告した。肩を落とさないながらも、声色から少しだけ落ち込んでいる様子なのが分かる。すると、突然後ろから『バカ~~』と風魔に押し出され、鉄格子にぶつかる。



 


「ぐっ!!!」

『あとで魔族は追えるだろう!? 今はアリエルのお父さんの事を心配しろ!!!』

「わ、分かってる……!!!」




 顔を擦りながら駆け足で向かえば、丁度治療が終えた後だったのか血止め様にと包帯が巻かれていた。ユリウスの姿を見たアリエルは勢いよく抱き付きお礼を述べた。

 反応が遅れたからか、尻もちをつきそのままの勢いで倒れ込んでしまう。




「ありがとう、ございます……お父様の、事を……助けて頂いて……」

「っ、わ、分かった。……良かったな、無事で」

「はい……!!!」




 眩しい位のアリエルの笑顔。それに安心したユリウスは家族が離れ離れにならずに済んだ事、その事が彼の中で一番安堵した瞬間でもあった。





======



「クポポポ♪クポポポ♪クポーー」




 アルベルトは意気揚々と中を突き進んでいく。カン、カン、と釘抜きを地面に打ち付ける。その度にズズズズッ、と打ち付けた所から土が盛り上がり徐々に大きな腕を形成していく。




「クポポポ♪」




 丁寧に一つずつ土を払い、崩れないように土を固めていき麗奈が屈んで突き進めるように道を作る。麗奈の首元から小さくなった白虎が『凄いねぇ~』と言いながら顔を覗かせた。




「………城を正面から入る訳にはいかないから仕方ないものね」

『今、その正門が避難してきた人達で溢れて来てるから難しいもんね。……僕が壁を壊して行く訳にもいかないし』




 「しなくて良いから」とぐっと胸元に押し込み、アルベルトが作った特製のトンネルに入る。と、そこから麗奈を包むようにして土の手の平が包み込んでそのまま安全に下へと下へと移動されていく。




「フポポポ~」

「ありがとうございます、アルベルトさん」

「クポクポ~」




 麗奈が正座をしてもまだ余裕のある空間。そこに優しく包み込まれ、地面に置かれるまで丁寧に置かれた後で土で作られた腕は消えていく。少しの間だけ目を閉じえていた麗奈は、目の前にVサインしているアルベルトが見えお礼を言う。





「クポポ、クポ」

「城の真下……ですか?」

「クポ!!!」

『前に来た事あるの?』




 ひょこりと顔を覗かせて、素早くアルベルトの横に着地した白虎は質問をする。それにコクリを頷き、来た事がありまだトンネルがバレていない事と自分がゆったりする為の空間を作ったのが役立てられて良かったと言っている。




「……不法、侵入になるよね」

「クポ?」

『でも、今回は事情が事情だし………仕方ないんだと思うんだけど』




 人命を優先しての行動なら許してくれるのでは?と白虎は言葉を続けた。本来なら、この国の姫殿下であるセレーネの許可が必要だ。しかし、今は魔物の侵攻を防いでいるフェンリルの代わりに城の様子を見に行くと言ってしまった。


 こうしている間にも東門の様子を見に行ったユリウスに何かあったのでは、と心配になる。するとそれが表情に出ていたのか白虎が『その為にあのおじいちゃん、置いて来たんでしょ?』と言われてしまった。




『ここのお姫様、気のせいなら良いけど………何だか主と同じような匂いしたんだよね」

「え?」

「クポポ、クポクポ」

『あ、そうなの? 君の言葉も何だか分かったような雰囲気があったんだ』

「クポクポ」

『頭の上に乗る? 視野が高くなって良い発見が出来るかもだよ』




 そう言えば嬉しそうに白虎の頭の上に乗るアルベルト。麗奈は白虎の言葉とアルベルトの言葉を整理して「……同じ匂い。私達と同じような所から来た、とか?」と一つの可能性を言う。




『かも知れないね。はっきりは分からないし、勘違いかもだけど』

「クポポ、クポォ」

「主。この上を貫いて行けば城の中に繋がるんだって。アルベルトがよく通る道だから間違いないってさ」




 アルベルトの指は頭上を指示していた。話している間にいつの間にか、そんな地点まで移動していたのかと驚く。アルベルトが真上に向けて軽く釘抜きを叩く。

 すると、土が盛り上がるのと同時に打ち付けた部分。その土が意思を持つ様にして避けるようにして周りの土と合体していき徐々に道を作っていく。




「アルベルトさん、少しまっ――」

「フポポ!!!」




 麗奈の声を無視してアルベルトがそのまま釘抜きを真上に投げ飛ばし、カラン、カランと床に当たったような音が聞こえた。途端、ジェットコースターのようなスピードで上へと上がり放り出されてしまう。




「っ!!!!」




 思わず息を止め、その衝撃に耐えた麗奈だが床に当たる前に土で作り出された腕が受け止める。その間に、白虎が大きさを2メートル程の巨体へと変化させて着地し周りを見渡す。




「うっ、うぅ」




 一方の麗奈は突然のアトラクションの様な体験に目を回し、床に横たわらせた後でアルベルトが傍で見守る。そのまま15分、麗奈が起き上がるまで待つ事となる。

 壁を伝いながら起き上がり、改めて中を見渡す。白虎からは魔物の気配も魔族の気配もないからと言われて、コクリと頷く。アルベルトはその15分もの間に出て来た所を土で固め、見た目では分からないように一から作り直していた。




「……地下室、なのかな」




 少しだけヒンヤリとした空間。冷気が流れているような錯覚は感じ取れた魔力から違うと判断し、すぐにその場へと向かう。と、アルベルトが何かに気付いたのか足早に先へ先へと突き進んでいく。




「アルベルトさん!!!」




 「クポーー!!」と大声で麗奈を呼ぶ声に走る足が速くなる。ピョンピョンと大きくジャンプするアルベルトを追って行けば、そこには蒼い髪の自分と同じような年齢の女の子が横たわっていた。




「あ、れ………」




 その髪は同盟を組むと決めた時のセレーネ殿下を思い出させた。と、言うよりも瓜二つの様な顔付きに(双子……?)と首を捻らす。しかし、白虎が『ううん、匂いが違う』ときっぱりと言い切った。




「違うって………」

『双子じゃないんだよ。……多分、身代わり? をしてるんじゃないのかな』

「身代わり………」




 静かに横たわり眠る様にそのままピクリとも動かない様子。周りに強力な守りの力を感知し、大事に保護されているのだと分かり思わず額に手を当てた。虹の魔法を扱うからか守りの力で保護されている筈なのに、それをすり抜けるようにして触れた額。




(……目、覚まして欲しいな)




 そう思った。身代わりと言うのなら何故、その必要があるのか。白い法衣を着た可愛らしい寝顔なのに、何だが違うような感じだと麗奈は感じ取れた。その時、ドス黒い魔力を感じ上を見上げる。




「魔族が、ここに入り込んできた……!!!」

『この子の事も気になるけど、急いだ方が良いよね。避難してきた人達に危害を加えられたら、騎士が守ってても全てを守り切れるか分からないし』

「クポクポ!!!」

「うん。アルベルトさんも手伝ってくれるのは嬉しいけど……無理は禁物だよ?」




 分かったと言うように頷き、麗奈の肩にしがみつく。白虎に号令をかけ、すぐに向かう為にテレポートを発動させて移動する。



 その時、ピクリ……と横たわる少女の指が、動いた。ゆっくり、ゆっくりと意識を合わせて動く感覚を慣らすように……静かにその瞼が開かれようとしていた。



 




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