第93話:波乱の同盟
裕二は麗奈の無事な姿を見て、思わず駆け寄りそのまま謝り続けた。本人は驚くも「裕二さんの所為じゃないですから」とお礼を言った。
「しかし、私は何も出来なかった」
「ユリィから聞いてますよ。裕二さんが抑えつけなかったたらもっと被害は出てたって」
『私を抑えてたんだから封印系統の術式は強いよねぇ~』
「………居たんですね」
『私達は四神を模して死んだ魂がこの地の魔力とを結びつき、姿を成した精霊に近い存在だ。仕えるなら朝霧家に決まっているだろう?』
ドヤ顔の黄龍に裕二はただ睨んだ。君には手酷くやられたんだけど、と愚痴を零せば『あぁ、あれは悪かったね』と言う言葉で済まされガクリとなる。その足元で子犬化した風魔がグリグリと頭を押し付け『主~~~』と言い、反対側でアリサが「ママ~~~」と同じように行動を起こしていた。
「子持ちとは知らなかったぜ」
「ホントホント」
「リーファーさん、ハルちゃん………」
戻って来てから2人からいじられる回数が多くなった気がする。思わずジト目で睨めば何でもないように2人からは受け流される。
「ママのお友達?」
「うん。そうだよ」
子供に慣れているのはハルヒはアリサと話をし始めた。風魔から『もうここには騎士団と魔道隊しかいないよ』と麗奈とリーファーに事情を説明をした。
魔物の大量発生が各地で発生し、どの国もそれ等の対処に掛かりきりだと言う。現に幾つかの村も街も襲われて、土地を失うと言う事態に追われていると。ラーグルング国でもその対策の為に、魔法協会へと協力を促し住民達を避難させたと言うのだ。
「そっか……じゃあ、ここはもう私達しか居ないんだね」
「違うよ!!!」
「わっ、ターニャ!?」
後ろから来た抱き付きに思わず倒れそうになるも、裕二が支えた事でそれは事なきを負える。ターニャだけでなくサティ、ウルティエもここに残ると言い思わず「危険だよ!!!」と反論した。
「それは分かってる。でも、麗奈。貴方もゆきも危険に飛び込もうとしているのに、私達だけ安全な所に居るって言うはね」
「そうだよ!!私達、友達だろ!!!」
「それとこれとは話が違うよ」
「だとしても麗奈とゆきだけで、あれだけの人数をまかなえるとでも?」
「………それは」
「多分、麗奈さんもゆきちゃんも戦いに参加せざる負えない気が」
(詰んでんな、それ)
そんな事を密かに思ったリーファーは、助けを求める麗奈の視線をやり過ごしながらそう思った。
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現在、ワクナリはベール、妹のフィル、父親のファナントと言う居心地の悪さに顔面を蒼白させていた。
「兄様、よく無事でしたね」
「えぇ、酷い目に合いましたよ。麗奈さんに撃退用の魔法を仕込んでおくだなんて……酷い妹ですね」
「何をしてるんだお前達は………」
「私は諦めませんよ!! 麗奈さんから兄様呼びされるその日まで!!」
「ベール、お前フリーゲ薬師長に診て貰え病気だ」
「え、ご冗談を。至って健康ですよ?」
「どう見ても不良品です。心の中が」
「あー酷い言い方。そう思いませんワクナリ」
「ひっ、うあ、は、はい!!」
「………避けられました」
ガクリ、と肩を落としショックだと涙目になるベールに「気持ち悪い」と同時に言い放つフィルとフィナント。ワクナリはダラダラと冷や汗を流し出されたお菓子や紅茶を飲んでも食べても、味が全然分からなかった。
「別に君を糾弾したり殺そうと言う気は無い。私達はただ話がしたいだけだ」
ビクリ、となるワクナリ。ベールもフィルも父親の言葉を待つのか静観を貫いていた。
その後、ハーフエルフはどのように暮らしているのか、亜人同士の争いに巻き込まれていないかなど出てくる話は心配を含んだものばかり。フィナントはエルフの里の中でも力を持った王族そのものだと言う。
しかし、自分は兄に嵌められた挙句にそのまま里を追放された事。拾われた先がこのラーグルング国である事、この国が昔は亜人達とも交流をしてきており、その名残が今でも残っている事。
ワクナリにとってはどれも初めて聞くものばかりで、そしてエルフがハーフエルフに対しての偏見も含めてファナントは謝った。本来であれば同じエルフであり、その前にこの世界で暮らす同じ種族だと言うのも含めて差別をするべきでないと言う事を話した。
「…………」
今までそんな話をされた事もなかった。
この世界にハーフエルフに対して偏見を持たない所が、国があるのかと目を向けて来なかったのは自分自身だ。
帝国に居た時は既に売られた後だった。両親がどうなっていたのかもよく覚えていない。ただ、自分が居たのは暗くて何もなく世界を知る手段はなかった。
ワクナリを買ったのは帝国貴族の中でも力のあるグリフ家。魔法を使おうともそれを封じる枷がある所為で、逃げる気力もそれを考える余力すら与えられなかった。言われた事をただこなすだけの毎日。
機械的に、事務的に作業をするワクナリをつまらなそうに見ていたからなのか興味を示さなくなり、やがて廃棄処分の意味合いも含めてとルーベンの元へと連れて行かれたのだ。
「私、私は………」
ポタリ、ポタリ、と涙が零れていた。
フィルがハンカチで流れ落ちたワクナリの涙を拭いたりしているが、それでも零れる涙の量は多く拭いきれない。ベールは軽く睨み、それにフィナントはバツ悪そうに顔を逸らす。
「まぁ、あれだ……宰相にも話は進めてあるんだ。君達を受け入れる体制も整えたら、共に暮らしていけたらと思っているんだ。仲間を探して受け入れるのも構わないと、陛下からお墨付きを貰ったんだ。言い出したのは私なのだしな」
ワザとらしい咳払いの中で告げられた内容はワクナリを驚かせるものばかりだった。
仲間を見つけ、里や村があるのならそれを丸ごと国で面倒を見る。そう言われ、ワクナリは嬉しさから涙が流れ続けた。
「さらに泣かせましたか」
「……堅物だと思ったんですが、意外ですね」
「お前達は黙れ!!!!!」
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「レーグさん!!!」
「おかえりなさい、麗奈様。………助けますか?」
「いえ、平気です!!!!」
魔道隊の人達が多く行きかう中、麗奈はレーグを見付けて声を掛けた。最初は喜んでいた彼も、アリサをおんぶで右足には風魔がガシリと掴んで離さないでいた。
そして頭の上ではアルベルトが「クポー!!」と辺りをキョロキョロと見渡すと言う異形ない出立ちに思わず、助けようかと声を掛けてしまったのだ。
「アリサ様は良い子にしていましたよ。魔力コントロールも上手くて、教える事が数える位にしかないので少々驚いています」
「1カ月も居ないんだもん。寂しいよ~~~」
『僕も僕も♪』
「クポポ!!!」
「アルベルトさんは違うでしょ?」
「クポ!!!」
大きく頷かれてしまい、何で反応したのかと思う麗奈。
レーグはイーナスから聞かれていた事を思い出し、本当に自分達以外で言葉を完全に理解出来るのは異世界から来た麗奈達だけなのだと思わされた。
(クポ以外の鳴き声しか聞こえませんが……麗奈様達は全てを理解している。どうにか彼女達以外の方法で翻訳できる方法を探す必要がありますね)
「レーグさんにプレゼントです」
「えっ」
勢いのまま包装された物を受け取り、中身を覗いてみる。
緑色の羽が同色の宝石を囲うような装飾であり、首飾りとして丁度いい大きさだ。目を丸くしたレーグは「これは……」と零した。
「ラーグルング国でお世話になって随分と経ったので、皆さんにお礼をと思いまして」
「………そう、ですか。ありがとうございます」
ラウルが珍しく装飾品をしていたな、と思っていたレーグは麗奈の行動を聞いて成程と納得した。恐らくキールは喜んだのだろうな、と予想が付き自分に火の粉が掛からない事を切に願った。
「麗奈様、先ほどイーナス宰相から謁見の間に来るようにと伝言を受けました。私も行きますのでご一緒にどうでしょうか?」
「え、私………?」
「アリサも!!!」
「ダメです。風魔様、アリサ様の事お願いします」
『はーい』
少年の姿に早変わりし、アリサを抱えてて行かれてしまう。その鮮やか過ぎる動きに麗奈はポカンと見てしまい、レーグが手を取りそのまま謁見の間まで転移を行う。
「すみません、機嫌を直して下さい麗奈様」
「酷いですよレーグさん」
「何したの」
キッと睨むキールにレーグは無視を決め込み、麗奈はレーグの後ろから出て来る気配がない。謁見の間にはユリウス、イーナス、キール、ランセ。
ニチリの国からはアウラ、ディルベルト、現王のベルスナントが控えており、さらに騎士国家ダリューセクから女王陛下のセレーネ、護衛騎士のナタール、近衛騎士のフィンネルが揃っていた。
(聞いてないよ、同盟を結んでくれる国々の会議だなんて!!)
「クポーーー!!!」
ぴょーん、と麗奈の頭に待機していたアルベルトがウサギジャンプのようにユリウスの傍まで来て「クポポポ!!!」と手をピシッと上へと掲げている。
「アルベルトさんも………同盟に?」
「クポ!!」
「……仲間を探すって言うのは」
「クポポッ!!ポポポ!!」
「そ、それはダメだと思うよ!!」
「ポポポポ!!」
必死で止める麗奈を無視してアルベルトはずっと「クポーーー!!」と、何やら声を大きく上げている。
同盟書には各国の王族の名が刻まれており、それ以外での有志参加となるには自身の魔力を記憶させる必要がある。
「ポポポ!!」
アルベルトがこともあろうことか、同盟書のど真ん中に自分の魔力で注ぎ込み新たに茶色の光が灯る。
「あっーーー!!」
「クポーー、クポポポ♪」
同盟書の上でVサインを作り、アルベルトは満足げに胸を張る。その場に崩れた麗奈は頭を抱えて「嘘でしょーー!!」と珍しく叫んでいた。
「主ちゃん、もしかしてドワーフの彼………暫く協力する気でいるの?」
キールが崩れた麗奈に駆け寄り今の会話の流れから予測を立てて、麗奈に確認をするようにして聞けばコクリコクリと頷かれる。
(あちゃ~)と内心で予想外な事をしたなと、アルベルトを見ればこちらにピースして来る始末だ。
「君、これがなんなのか分かってるの?」
「クポポ!!」
「魔王と戦うって事なんだけどね。この同盟、その魔王討伐が済むまでは解除されないよ?良いの?」
「クーポ!!」
「…………全部、分かって参加してるんだね?」
「クポポポポポ!!」
再びVサインをし、全て了承しているぞと胸を張って答えて来るアルベルトにチラッとキールはユリウスを見る。レーグも含めてユリウスとイーナスは笑いを堪えるのに必死であり、アウラは「よろしくお願いしますね?」とニコニコとしながらアルベルトの頬を突いている。
一方のフィンネルは唖然となり、ナタールも表情には出さないまでも驚いている。セレーネだけが「よ、よろしくお願いします!!」とアウラと同様に挨拶を始めてしまった。
ふむ、と考え込むベルスナントは「ドワーフと言うのは君か」と独り言ちのように言いディルベルトは押された魔力の色を見ていた。
(色が茶色と言う事は、扱う属性は地。……人と関りを持たなかったドワーフが、同盟にまで関わってくる、か)
レーグに立たされる麗奈をチラリと見る。
そして、「クポーー!!」とまたピョンピョンと跳ねるように飛び麗奈の肩に着地し、すり寄る様は謝っているようにも見えた。
(人と彼等がまた共に歩む………か)
ニチリでは決して学べなかった事。
ドワーフ、エルフ、獣人。自分が知らない世界はまだまだ多くあり、学ぶべき事が多くあるのだと思わされた瞬間でもあり、ディルナントは密かに笑みを浮かべていた。
それを横目で見ていたアウラも嬉しそうに微笑んでいたのを、彼は知らないでいる。
「コホン。まさかドワーフが参加してくるとは思わなかったけど、戦力が多く集まるのなら良い傾向だね。これで、同盟国であり連合軍としてドワーフの契約が完了した事になる。あとからディルバーレル国も参加してくるから、また幅が広がるけど今はこのままでも平気だと思うよ。契約書はどの国を持つかな?」
「無論、ラーグルング国であろう宰相よ」
「なら、私もその同盟に改めて加わるよ。これなら裏切りなんて事は出来ないし、枷としては十分でしょう」
「え、ちょっ!!」
イーナスが止める間もなく、アルベルトと同様に自身の魔力を注ぐランセ。その魔力に思わず腰に下げていた剣を手に取ったのは、ダリューセクのフィンネルとナタール、ニチリではディルナント。
「っ、何者だお前」
「君等が倒そうとしている魔王と同じだ。私は魔王のランセ。サスクールとは因縁ある相手でね、ラーグルング国とは協力関係だよ」
「ディル、剣を収めて下さい」
「お二人も収めて下さい」
アウラとセレーネの言葉に一瞬固まる3人。ベルスナントは「魔王が魔王を滅ぼす、か」と面白そうに目を細め「面白い」と言い放ち、周りはそれをギョとした反応を示した。
「この同盟は魔王を倒す為のもの。魔王が盟約を守るとは」
「それは彼も言っていたであろう?枷としては十分だと」
ベルナントのは「若者は凄いなぁ」と答えるもランセから「私は既に超えてますよ」と見当違いな会話を始めている。
諦めたように双方は剣を収め、緊迫した状況が少しだけ穏やかになり思わず息を吐くのにも気を使った。
「し、失礼します!!!!今、ダリューセクから緊急の信号を受け取りました。感知した力は闇の力であり、以前国を襲った波長と同じものであり魔族の襲来だと思われます!!!!」
「!!!」
謁見の間に入った緊急連絡。
魔道隊の伝令役の者が入り、告げられた内容に驚きを隠せなかったのはセレーネ達だ。
同盟を結んで間もないこの時に、タイミングよく入って来た報告にランセは目を細め(仕掛けて来たな、サスクール)と大戦を知らせる最初の攻撃が始まった。




