第89話:ディーオと愉快な仲間?
私の名はディーオ。
世界を作った神の1人だ。……そう自分で言っているとマズイ、かな?
でも、仕方ない。うん、だって神様なんだから!!!
「おい、また覗きかよ」
そうやって君はすぐに殺気立つ。はぁ、と溜め息を吐きながらザジを見る。彼の後ろではサスティスが、いつも通りに「殴る?斬る?手伝うよ♪」と物騒な事を言いながら既に鎌を振り回している。
「………ここ最近の君等のコンビネーション嫌だわ~」
「うっせぇよ、覗き魔」
「同意。ホント嫌」
どうしよう、部下2人の反抗的な態度が嫌だなぁ~、とそんな事を思っていると自分が見ていた水晶が光り出す。泉の精霊フォンテールを転生と言う道で再び精霊として生きた彼女。
精霊が死ぬ時は転生を行い、世の中を循環させる為の処置。彼女の場合、自分が死んだ時の記憶を有したままもう一度あの世界で生きたいと願いを言って来た。その理由が……
「ツヴァイ、そんなに泣かなくても」
≪うっ、うぅ、だって、だってぇ~~~~!!!!≫
その水晶には泣きじゃくる小さな女の子が居た。その子は数センチしかない身長であるが、見た目を小さくしただけの精霊としての力は大精霊として昇格させている。
(まぁ、この位のご褒美位良いよね~)
あの精霊を呼んだのは自分だ。
ただの興味で、恨みを持ったまま死神のザジにやられた時。どんな感情を、どんな事を思ったまま死んだのかと興味をそそられた。だから、冥界へと導かれる前に勝手に連れてきた。そしたら、フォンテールは意外な事を口にした。
≪なら、私は……彼女に謝りたい。正気を失ってた私に……そんな私の事を救おうと動いてくれた。そんな彼女に感謝を伝えたいの≫
正直に言って驚いた。自分の興味本位で連れてきた精霊からの答え。神とは言え、何も感情が無いと言う訳では無い。感情が要らないなら最初から作らなければ良いし、そもそも無意味だ。
だが、実際に私以外に神は居るしそんな彼等にも自分と同じように作り上げた世界があり、それを監視している。監視であって覗きではない。ザジが会う度に覗きだ、覗きだと言われているが仕事なんだ。し・ご・と・だ!!!!!
コホン、話がそれたね。
そんな彼女が感謝を示しているのが異世界人の少女だ。肩までの黒髪、黒い瞳を宿しこの世界に来て早3カ月ちょっと。最初の頃よりも馴染んだからか今は水色のズボンに茶色のポンチョを着ていた。うんうん、馴染んだのは良かった。泣かれたらどうしたよかな?とか思ってたりしたり………しないか。
彼女の名前は朝霧麗奈。
大精霊アシュプが危機を脱する為に、危うく命を絶たれそうだった彼女達をこの世界へと呼んだ。そう、彼女達と言ったからには他にも来ている子が居る。
まずは親友の朝霧……あ、苗字が前の両親から取ってるんだっけ?だったら、井上ゆきと言う少女。麗奈の父親の朝霧誠一、祖父の朝霧武彦、向こうの世界での部下、高橋裕二。そして、家柄は違うが陰陽師と言うこの世界の魔法とは異なる力を有した1人でもある土御門ハルヒ。
確認できる範囲で5人だ。
過去、それだけの人数の人を呼んだ事例は何回かあった。しかし、今も水晶に映る彼女ほど精霊達から好意的に接する事はかなり稀。
過去、ドワーフは人間と対等に接し、同盟まで結んだ程の固い絆で結ばれていた。しかし、魔王の襲撃により進化を遂げたは良いが、逆に人からは嫌悪され化け物呼ばわりもされてきた。そんなドワーフの彼も、異世界人の麗奈の前ではかなりデレデレとしており今も左肩側を死守し、「クポー!!」と主張をしている。
ツヴァイは右肩側でわんわんと泣いており、反対側ではドワーフの彼はそれに構わず頬をモミモミしていた。
(凄い、カオスだな………)
現にアシュプはそれをぐぬぬぬ、と悔しがって見ており周りも止める気がないのが分かる。麗奈の傍で腰を降ろしていたフェンリルは≪ツヴァイ、そんなに泣くな。服が汚れるぞ≫と見当違いな事を注意していた。
(注意する所そこなのね………)
怒っている様子のザジも、サスティスも彼女の顔を見て安心しきっている辺り相当気に入っているのが分かる。
私はずっと見て来たから分かるが、フォンテールとフェンリルはこのディルバーレル国で同時に生まれ、共に暮らしていた仲だ。だからこそショックだっただろう。自分は精剣の精霊として、この土地を離れるもフォンテールが居るから何があっても大丈夫だと思っていた。
その事が既に間違いだと、フェンリルは気付かなかった。
(だが、彼女のお陰でそれは回避出来ただろう)
精霊は人を支える為、世を回す為の部品でしかない。しかし、感情がない部品など見ていてもつまらない。だから感情を有した大精霊を生み出した。
その結果はどうだ?
面白い位に世の中は回り始めた。人が自分達だけの国を作り、それらが広がっていき様々な国々が出来上がった。今度は近隣周辺に戦争をし同盟をしたりとなかなか忙しい日々を送っている。
変化があることが私の好きな事だ。
ちょっとの変化でも良い。それらが波紋となって大きく広がるのも、また楽しみだ。だから小さな波紋になりうる麗奈を監視する。彼女の通った後には道が出来、栄えるきっかけがある。それを拾うか拾わないかは、周りの判断次第。
「ふふっ、ふふふふっ」
思わず笑ってしまった。
人を嫌っていたドワーフ。同じ魔王に仲間を奪われ復讐を誓った魔王、大賢者、大精霊達、関りを持たなかったブルームが人間に関わった事。上げたらキリがない。だと言うのに、その変化が嬉しくてワクワクしたのだ。あまりやり過ぎると最近記憶を思い出したザジが、鋭く斬りこみかねない。実際に斬られたけど、ダメージはない。
ダメージはなくても、斬られた感覚や記憶はあるから厄介だ。だって彼等、その事を知ってから何度もやるんだよ……流石に心折れかけたわ。
(初めに会った時にも随分酷いことしてきたしね、彼)
「なんだよ」
「別に」
彼が彷徨っていた時の事を思い出してい見ていると、途端にザジの表情が一気に鋭くなり威嚇を始めた。だから事実を言ったのに頭を殴られた………酷い。
「あっ、会議だから行くね」
砂時計をひっくり返せば、姿を消した私。ポツンと残されたザジとサスティスは同時に疑問に思った事を口にしていた。
「会議なんてあんのかよ」
「覗き以外にちゃんと仕事してるんだね………」
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「よう、ディーオ。相変わらず不思議な目だな」
砂時計をひっくり返した事で開くのは神達の交流場でもあり、定時報告をする為の異空間。広がる風景は毎度変わる。
それは、報告をまとめる議長役の神の気分だそうだ。見上げれば青空と夜空が混ざり合ったもの。大体はその風景で誰が会議をまとめるかが分かる。
今回はと考えていた先で声を掛けられる。私と同じ白のフードに白のズボン。首元に光る宝石をぶら下げたチャラ男、もとい同僚?と言っていい存在。
「そっちもね」
神である自分が行う仕事は、自身の作った世界の監視と定時報告。世界の入り交じりを防ぐ為の、互いに気を付けましょうね?位のゆるいものだ。
んで、今、挨拶交わしたのも同じ神で異世界の管理人だ。紅い髪の短髪に緑と青、紅の3色が絶えず変化している目を持った男、フィーだ。
「やっぱディーオの目はいつ見ても綺麗だよな」
「うるさい。近寄るな、話し掛けるな」
ニカッ、と眩しい笑顔をこちらに向けながら手を振る。そういうの要らないからと言っても合う度にこれだ。
……まだザジに蹴られた方が良いと一瞬でも思ってしまった。いやいや、ドSとかドMとかそういうの要らないから。要らない、要らない!!!
(しつこい神は嫌われるぞ)
「お前はしつこい位しないと、無反応だろ」
「………」
違うとも言えないでいると「そういう所、そういう所」と肩をポンポン叩きながら言われた。だから、力加減!!!お前は無駄に力が強すぎるの!!!
「っと、すまんすまん」
ヘラヘラと何でも無いようにしてるのがムカツク。互いに心の中に何を思っているかは分かるから、やり辛い。隠し事をさせない為のものとか言われてもねぇー
あ、そうそう。私もコイツも衣装は同じ。とにかく自分で作ったのだから、責任持ちましょうね?と言う無言のプレッシャーを掛けてくる母なる神、イグプレスからのお願いと言う名の命令だ。
綺麗な人の無言って怖いよね?………怖くない?
「お前、エレキに何かしただろ?」
と、別の事を考えている時にフィーからそんな事を言われた。何だろう?って思っていると「バカーーーー!!!!」と怒声が聞こえた瞬間には、私は――――吹っ飛んだ。
「アンタね、勝手に死者を連れて行かないでよね!!!手続き大変なの、分かる!?分かる訳ないか、バカだもんね!!!!」
そう言って私はまたハリセンにより吹っ飛ばされゴロゴロと派手に転がる。途中で止まったのは何かにぶつかったからであり「ぐへっ……」とヨロヨロと、その何かを掴みながら起き上がる。
ん?なんか、柔らかい??
「………っ…………ぐぅ、うぅ……………」
「ひ、久しぶりだねぇ~、ふべっ!!!!」
ごまかしたのがいけなかった。柔らかいのは当然であり、相手は当たり前の反応をしたに過ぎない。
その正体は女性の体だ。しかも、棒か何かかと思っていた私は思い切り掴んでいた。胸やら肩やら、足とか………そう、色々と。だから、相手がそれに対して声を上げなかったのも、反射的に殴ったのは仕方ない。仕方ないんだ。
「よく吹っ飛ぶな、ディーオ」
「うっ、うるさい………」
今日はよく殴られるな、と別の事を考えているとフィーからはよく分からないフォローをされた。そして、一歩一歩こちらに近付いてくる女性は未だに涙目になりながらも、姉に挨拶を交わした。
「ご、ごめんなさい、お姉様………遅れてしまって」
「良いわよ。それにこのド変態に罰を下そうと考えてたの。妹に手を出した罰をさせないとね。………ここで殺しても平気よね」
睨むのは冥界の管理者たるエレキ。そして、私が体を触ってしまったのは妹のエルナ。まぁ、自分で言うのもなんだけど神様は皆美形ぞろいだ。人の信仰心とやらで、誰も見てないけれど綺麗な容姿の者達が集まる。
見た目が大事、なんだってさ。
異世界全ての魂の拠り所、罪を犯した者達の檻を作り管理するのは女帝とも言われているエレキ。
彼女は金髪をツインテールにし、瞳は金と銀が入り混じった瞳を有した美人だ。そして、冥界とを行き来するからか彼女の周りには常に銀の粒子がキラキラと髪を輝かせている。なんとも神秘的な風貌の女性だ。その手にハリセンなどを持たなければ、なお良いのに………。
そして妹のエルナは淡い蒼い色の髪を姉と同じくツインテールにし、モジモジと体をくねらせている。姉と同じ金と銀の入り交じった瞳、姉と違い金の粒子が髪を、彼女の周囲をキラキラと輝かせている。
2人共、会議に参加するのだから私と同じ白い衣装に身を包んでいる。姉のエレキがキッと睨み付け、妹のエルナは大人しそうに身を縮めようとしている。
(対照的な姉妹だよな)
「アンタ!!!罪を犯した精霊を勝手に自分の世界に引き込まないでよね。あの後の処理が大変なの知らないでしょ!?」
ヒステリックに叫び、それを適当に相槌を打ちながら返答しているとまたバシリ!!とハリセンで叩かれた。……何故分かる。心の声など出さなかったのに、だ。
「イライラするのよ!!!」
何それ理不尽だな。……ザジにも言われたから、そんなイライラさせるような顔をしているのだろうか?
「た、多分、無表情……が、多いから、だと……思います」
既に涙目なエルナははっきりと言った。が、さっき私が体中を色々と触ったからだよね?明らかに距離が遠い。姉のエレキの後ろに隠れるようにしているが……全然隠れていない、主に体が。
なんせこの姉妹、性格も体つきも真逆。
エレキはスレンダーでそこそこ胸もある。長身も私よりも大きい168センチと女の神の中では珍しく、モデル体型とでも言えば良いのかな。
そして、妹のエルナは身長165センチ。そして彼女の特徴を現すなら姉とは違う大きい胸。白い衣装からでも分かる位の大きな胸はそれだけで男達を魅了してしまう程、主張の激しいもの。
姉と違い自己主張をあまりしないからか、保護欲を男女の神達から思わせる程。しかし、時々グサリと来る言葉を言うのだから姉妹だと納得。
そんでもってフィーはこの中で身長が一番多く175センチ。私は……160センチと3人と比べてかなり小さい。
だから近寄るなって言ってるんだ、惨めになるから。
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「はぁー、終わった終わった」
「お、お疲れ様、です……」
「さっきも言ったけどちゃんと手続きしなさいよね。次回やったら直接乗り込むわよ」
「えー。君が乗り込んだら、あとが大変だよ」
うるさい!!とエレキからハリセンでスパンッ!!といい音を響かせる。……君等、長身なんだから力加減をしろっての。
「まぁ、俺等が作った世界はまだ平和らしいぜ?余所だと神が殺されるんだって」
「あぁ、この頃多いわね。神殺しの武器とか色々と出てるって問題視されてる。しかも、その武器、他の異世界から流用されたりしてるみたいだし」
「そ、そんな………私達って、悪なの?」
エルナの疑問に誰も答えられない。
神が悪かどうかなんて、それこそ住んでいる人々によって反応が違う。まぁ、勝手に異世界を作って管理してるんだから、あまりいい気はしないよね。
「それは誰にも答えられないだろ。俺達は神と名乗ってはいるが、所詮は作り物。いつ壊されるか分からん存在だ」
「あぅ、それはそうだけど……で、でも、私達が居なくなったら作った世界はどうなっちゃうの」
「いずれ朽ち果てるのよ」
エレキの答えにエルナは息を飲んだ。
フィーも表情には出さないだけで、心の声が慌ててるからめっちゃ笑えるけど。チラッと私を見たエレキは不機嫌な表情をし、自分の言った答えに反応し無いのを見てイラついてるなぁ~、と思っていたら速攻で叩かれた。
「ディーオは気付いてたわね。ってか当たり前でしょ?世界を作って維持してるのはディーオ達。その源が壊されるんだから、崩壊するのは当然」
「……でも、私、私の世界が好き。皆、ホワホワしててモフモフが一杯なの」
「エルナの世界って何が居るの?」
「えーっと、羊と雲と空と鳥さんと……モフモフした生き物♪」
「人間居ないんだね、エルナの世界って」
「そういうディーオはどうなんだよ」
「私は………」
フィーに小突かれ渋々、自分の世界の事を話す。
争いはあるけど、それでも変化していく様は面白いし、見ていて飽きない。エルナが言うモフモフも多分居るよ、と言うと途端に目を輝かせた。
「えー、触りたい。可愛がりたい♪」
「……えっと」
「エルナの要求を飲んでくれたら、今回の事をなかった、なんて出来るわよ?」
ニヤニヤと意地悪めいた表情をし、どうするのかと迫って来た。そしてむぎゅ、と私を後ろから抱き締めるエルナは「ねぇ、ねぇ、どんなモフモフ?どんな子なの?」と聞く度にテンションが上がっている。
「おーおー、良かったな。無表情に近いお前が慌ててのなんか珍しいもんな」
「このサンドイッチ要らない!!!エレキ、楽しんでるだろ!?」
「良いじゃない。姉妹に攻められるなんて、貴重な体験じゃない。嬉しくないの?」
「モフモフ、モフモフ、早く触りたい♪」
「精霊しか連れて行けないけど良いの?」
「モフモフ」
「じゃあ、彼等はどうかな?」
「人の話、聞きなさいよ!!!」
後ろでモフモフしか言わなくなったエルナ。
また怒鳴るエレキ。面白そうに私を見るフィー。アイツには一発どころか、何発も蹴りを入れる必要があるな。
さて、誰をエルナの犠牲になって貰うかな?
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「どうしたましたか?フェンリルさん、ガロウ」
≪いや………≫
≪なんか寒気が………≫
身震いをした狼はすぐに麗奈の傍に寄って来た。まるでこの後に起こる自分達の不幸を直感してしまったからか………ガシリ、と彼女の事を掴んで離さないでいた。




