第86話:ドーネルとデート!?②
財布を忘れた事を伝え、城に戻りたいと言うもドーネルは断ると言われてしまう。理由はキールを動けなくしたのに、意味がないと言う事だった。
(本当に、いつから黄龍と仲良くなったの)
キールがドーネルの行動を止めるのは分かっていた。だから、麗奈を連れ出す時に黄龍にアイコンタクトを送れば彼は『はいはい』と言ってキールを結界に閉じ込めた。
驚く麗奈を他所に、ドーネルは連れ出して行った。
その時、麗奈はまだ服しか着ておらず前にユリウスとデートした時に使ったバッグをまだ持っていなかった。そこにお金とかハンカチとか入っているのに、取りに行く間もなく馬車に乗せられ今に至る。
「ほ、本当にダメですか?」
「ダメダメ。今頃、キールは怒り狂って黄龍に攻撃してるだろうし」
それが面白いのか楽しそうにしている。
それで緊張が解けたのか、麗奈は勇気を振り絞り出店も含めて色々な雑貨店を見て回った。買う物はと考えるも、財布が無い事に気付き全て諦めた。
『主、これだろ』
「青龍!!!」
思わず口を抑え小声で名前を呼ぶ。肩掛けバックを渡したラ、すぐに霊体化して周りからは見えなくなる。ドーネルはそのバックを見て「これ、どうしたの?」と聞けば事情を話す麗奈。
「でも、前はバック無かったよね?」
「はい。イーナスさんが持って来てくれて………ユリィとデートした時の物で」
あ、と気付く。そう言えばあの時もバックを忘れていたなと……考えれば、ドーネルは「じゃ、丁度よかった」と言って差し出してきたのは手提げの袋だ。
何だろう?と思い受け取りながら、包装されたものを丁寧に広げていけば淡い緑色のカバン。カバンのボタン止めがひし形であり、四隅には花の刺繍があしらわれたものだ。
「えっと………」
「中身を入れ替えて、今日はそのカバンで居て欲しいな。相手はユリウスじゃなくて、俺だよ?」
俺、と言う部分が強調され思わず「うっ」と顔が赤くなる。青龍が持ってきたのはユリウス用にしろと言われているようで、目が少し怖い。慌てて中身を入れ替えて、青龍に渡し「お、お願い!!!」と言えば『分かった。宰相に返してくる』と言ってすぐに姿を消した。
(し、心臓に悪すぎ………)
「よーし、行こう!!!」
一連の行動がワザとなのが分かるも、それを止めようとする前に逃げ場を無くされる。キールとやり方が似ており、黙ってそのまま従わないと痛い目を見ると思った。
既に最初からドキドキが止まらないので、痛い目にはあっているだろうと思うが口には出さない。大人怖すぎ、と思っている麗奈にドーネルは気にした様子もなく手を絡めていく。
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「ぐひひひ、ようやった。ようやったな」
一方で、ユリウス達が魔物の巣を潰し回っている森のさらに奥。もうすぐ夕方になるが、森の奥では光は届かないのか暗い空間が広がる。そこに、ブウゥン、と羽を鳴らす虫がピタリと主人の前に止まる。
「さて、これでターゲットの確保は近くなるか。まぁ、本人でなくても近しい者なら良いか」
ゆきの血を吸ったのは蚊だ。しかしその蚊は黒い体をしているのは同じでも、目の部分が淡い紫色の瞳を宿していた。人間の血を糧に生きる小型の魔物であり、被害を与えるようなものは血を吸われる事だけだ。
しかし、この蚊は老人の姿をした魔族によって意図的に人の血を抜いている。目的は魔王サスクールの言う黒髪の黒い瞳を宿した人間の確保をしろと言う事。しかも生きて捕らえ怪我をさせるなと言う難易度が、かなり高い部類の命令だ。
「さてさて、この血を使って上手く操れば」
ザシュ、とその先を魔族は言う事は無かった。音は聞こえた、と思うも視界が反転しゴロゴロと転がっていく。
「がっ、ぐあああああああっ!!!!!」
遅れてきた強烈な痛みと苦しみ。何が起きたのかを理解出来ず、こちらに歩み寄ってくる人物を睨み付ける。
「ぎっ、ぎさっま!!!!」
「その血を使って何をする気だ」
「ぎ、ぎぃ」
恐怖した。
首は切られているのに、言葉を発することは出来る。そして、離れた胴体はガタガタと震えている。感覚が繋がっているのに、どうにもできないこの状況で魔族は死を覚悟した。
「答えろ、何をする気でいた?」
その人物は紫色の髪をし、同じ色の瞳を宿した男だ。そして、手に持っているのは大鎌でありあれが自分の首を斬り落としたのだと分かる。
「なっ、何奴っ」
「答えろ」
「なんなんだ、お前は!!!!」
「答えろ。目的はなんだ」
怒りを露わにするも男は質問をするばかり。そして、自分の周りには同じ魔族や魔物達が居たはずだ。侵入者が来れば声で分かるのに、この男が来るまでにそんな声を聞いていない。
「どう、やって、きたっ」
「は?」
「巣を置き、光届かないこの場所に幾つも置いた。あの量の、魔物を、魔族も少ししか居ないとは言え、殺したのかお前は」
「殺したよ」
「えっ」
あっさりと当然のようにその男は言った。きっと今の自分は物凄く間抜けなをしている。それ位、男の言った事が理解出来ずそして訳が分からないと訴える。
「あぁ、もしかしてこれの事?」
パチン、と指を鳴らす。魔族に操られていた蚊の魔物も、首を斬り落とした時に倒しているので援護など期待できない。そして、ズズズ、と男の隣にポッカリと穴が広がっている。
「!!!」
それを見て言葉を発するを失わせた。何故なら、その穴の中には魔物、魔族達の残骸が広がりすぐに閉じられた。あれだけの数をたった1人で……とここまでくれば人間に出来る事ではないと理解し、目の前に居るのが魔族であると分かる。
「………お前は………一体」
「答えろ」
今度は魔力の質が変化した。大気が、地面が、微かに振動を伝えて来る。自分に向けられたプレッシャーなのか、体はとうに消滅していた。残ったのは首だけの自分、そしてこのプレッシャーはある人物と似ていると瞬時に理解した。
「っ、魔王………だと」
バカな、と。何かの間違いだと、気のせいだと思うも自分を睨み、魔力の質が重みとなり降りかかるこれは自分達とは違う底知れぬ闇の力。
「もう一度言う」
そんなプレッシャーの中、それ等を発したランセは質問をする。一度だけ目を閉じ、蒼と赤の瞳を宿して首だけの魔族を見下ろす。
「何が目的だ。彼女の血を使って、何をする気でいる」
「ははっ……………ははははっ」
笑うしかない。
抵抗も無意味、隠し立ても無意味なこの魔王に対して。どうせ、自分はもう死ぬのだからとそう思いポツリ、ポツリ、途切れ途切れにランセに情報を伝える。
「そう。ご苦労様、もう死んで良いよ」
引き返し何食わぬ顔でユリウス達と合流を目指す。この森に居た魔族も含め、巣を破壊した彼にもう用は無かった。
ボロボロと朽ちていく魔族の首は最後まで笑い続けた。自分が逆らった者は決して触れられぬ、触れれば死を意味すると身を持って知ってしまったからだ。
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「わあっ、凄いです!!!!凄い眺めですよ」
夕方になる首都は、日が沈むのも合わせて綺麗だ。それを城の隠し通路を使い、王族しか知られない場所へと来た麗奈とドーネル。
3つの塔にはそれぞれ渡り廊下があり、その中央の塔には他よりも高い理由がある。
隠し通路により空間を広げており、時計台の役割も担っている所から少しだけ小さな穴がある。それは表から見ればかなり小さくて、目視は出来ない。
麗奈が来ているのはその時計台から見える首都だ。
仕掛けによりその小さな穴は現れるので、朝から夜まで政務から逃げる為に父が使っていた事もある場所だ。
その為、時計台を動かす機械がせわしなく鳴り響く空間でも、ドーネル達が居る所には簡易ベット、照明、本棚、テーブル、3人掛けのソファーとくつろげるものが広がっている。
設計する段階で、この部屋の様な空間を作ろうとしていた辺りに歴代の王達がひっそりと逃げれる場所として作っていたに違いないと考えた。
時計を動かく為の音が響くのに、この部屋にはその音が一切来ないようにしている辺り計算されているのは確定だ。
そして、この秘密基地を知っているメイド達はたとえ使われなくなったとしても毎日掃除している。
「ふふっ、ここは王族専用の秘密基地だからね。喜んで貰えて良かったよ」
「はい、素敵な風景です。ありがとうございます」
あまり前に乗り出すと秒針とぶつかると言う事故を招きかねない。と言うより、身を乗り出すと言う行為自体思いつかないのだ。
だと言うのに、麗奈は綺麗な眺めと言いながら普通に身を乗り出すので慌てたドーネルは後ろから抱き寄せ、これ以上前へは行かせないようにしている。
最終的に、ドーネルの膝に乗せられると言う形になる。距離が近いのと体がかなり密着しているが、それよりも風景に目を奪われている麗奈には関係ない様子でもあった。
(まっ、あとで慌てるから良いか)
既に麗奈が慌てる条件を知っているドーネルは密かに思う。おぉ~と風景を飽きもせずに眺める麗奈に、思わず自分の妹とこうして見ていたなと言う記憶が蘇る。
ー兄様、兄様!!!きれい、皆小さい!!!!ー
そう言えば妹のサースも結構なお転婆だったなと思い、ウルッとなるも麗奈の前だからと我慢をする。ふと、麗奈と目が合えば「ドーネル」と頬を優しく触れ、目元を軽く抑えられる。
「……泣いてます。もしかして、妹さんとここに来た事が?」
はっとなり、思わず麗奈とは反対側の頬を撫でればツゥと涙が流れている事に気付く。情けないな、と思うも夕方になり肌寒くなるのを考えたドーネルは仕掛けで穴を閉じ麗奈を抱えてソファーへと移動をする。
「何だろうね。君を前にすると………自分が弱くなった感じになるな」
「すみ、ません」
「これは俺の問題だ。君は気にしないで。ねっ、麗奈ちゃん」
反射的に謝る麗奈に、違うよ言う意味で優しく頭を撫でる。それでも申し訳なそうにする麗奈に「ごめんごめん」とドーネルが謝る。そうだ、とドーネルは本棚の上の置いてる小さな袋から箱を取り出した。
「はい。今日のお礼」
「……お礼、ですか?」
上目遣いで不思議そうに見る麗奈に反射的に抱き着きたいのを抑え、我慢して「そうだよ」と振り絞って言った。箱を開けて見ればダイヤの形で削られた水晶のペンダント。
金色の鎖が時々、七色に光っているのを見て思わず「綺麗……」と口にすればドーネルから付けて欲しいなと言われ躊躇した。
「えっ、と」
「じゃ、俺が付けるよ」
「ふえぇ!!!」
「こら動かない」
驚く間もなく、ビクッと固まる。その隙にペンダントを付けられ満足気のドーネルは「可愛いよ」とニコニコして言って来る。
「………」
その水晶は最初透明だと思っていた。しかし首に付けた途端にそれは緑色へと変化した。
驚いているとドーネルが「お揃いだよ」と言って、服で見えなかった首元から同じ水晶のペンダントを見せた。
麗奈が緑色の光を放っていたのと違い、ドーネルの水晶には七色が発していた。目をパチパチと瞬きを繰り返すと「持ち主の魔力に反応するんだ」と説明をしてくれる。
「持ち主……にですか」
「そう。俺と麗奈ちゃんの2人だけ」
「えっ!?」
「覚えてない?互いに目が覚めて少しだけ話した時、この大きさの水晶に触って貰ったじゃない」
弔いを終えたあの後、少しだけドーネルと話す時間があった。その時、確かにこのペンダント位の大きさの水晶を触った記憶がある。綺麗に加工されているからアクセサリー用だとも思った。
(さ、最初から計画されてた!?)
「あ、気付いた?」
思わず心の中を読まないで!!と思うも、自分の表情が分かりやすいだけかと諦めた。そしてたら、いきなり目の前が真っ暗になった。抱きしめられていると分かり、思わず身じろぐもそれを許してくれるはずもない。
「ありがとう」
強く抱きしめられ、頭上から聞こえてきたお礼の言葉。思わず何で彼が?と思った。自分が言うべき事であり、誘った側が言うのはおかしいのではと思ったからだ。
「俺は、あのまま行けば確実に父を殺していた。……道が外れるような事もなく、命の危機も救ってくれた麗奈ちゃんにずっと、ずっとお礼が言いたかったんだ」
「あ、あれは自分でもよく分からなくて」
「それでも助けられた。刺されたギルティスも、操られていたグルムも……俺もこうして満足に生きていられるのも全部、君のお陰なんだよ」
やっと、言えた、と満足げになるドーネルを真正面から見上げる。お礼を言われるのは慣れていない。
「だから、君と契約を結ぶよ。義兄妹のね」
「………はい?」
「だからこれからは俺の事はお義兄様って呼んでね?麗奈ちゃん」
「え、え、あの、何を………」
契約と言う言葉、そして義兄妹。それだけでも頭がこんがらがるのに、これからはお義兄様呼びを強制されている状態。
えっと、何で??と目で訴えるときちんと説明をしてくれた。
「この水晶ね。守り石と同じで契約の力があるんだ。これも、この国の王族の秘宝だから間違いないよ。それでもって魔力に反応するから、互いに兄妹と言う証明にもなるし、これで麗奈ちゃんはディルバーレル国って言う後ろ盾がある貴族のご令嬢としても発揮するんだよ」
国の秘宝だから世界でただ2つしかないよね!!と力説されてしまい、ポカンとなった。何でそんな事に………とうな垂れる麗奈にドーネルは「ユリウスと結ぶには必要だよ」と無理矢理に上を向かされる。
「いい、麗奈ちゃん。ユリウスはどうあがいても王族だ。彼の呪いを解いたと言っても、それはその国と事情を知っている国だけだ。他は知らないし、そんな秘密めいて侵略されるような弱みは決して見せない」
分かるね?と返答を促されコクリ、と頷く。ニコリとしたままドーネルは説明を続けた。
「ラーグルング国の名はニチリと同盟を結び、俺の居るディルバーレル国とも結ぶんだ。そうなれば滅んだとされる国が実は生きていた。と言うのは大きな波紋を呼ぶし、ユリウスを我が物にしようとする連中は居るよ」
例えユリウスが拒んだとしても、国同士の繋がりを考えれば王族同士が結ぶのが互いの同盟で強固なものとなる。イーナス達が認めなくても、ユリウスが認めなくても大きな権力があればそれらは、簡単にも覆してしまうものだ。
「だから、ね。ユリウスと無事に結ばれるには、君は何処かと繋がりがあると言う証明を持つ必要がある。………周りを黙らせるだけの権力。権力には権力で向かうしかないからね」
「それで………義兄妹の契りとしてのペンダントですか」
「そう♪このペンダントは2つしかないし、魔力が帯びているから触れるのだって出来ない。強い証明でしょ?私は風の魔法を扱うから、瞳と同じ色の緑色で麗奈ちゃんは大精霊アシュプと結んだことで虹色の水晶になるんだ」
偽装を疑うなら、それはディルバーレル国を敵に回るも同然だよと笑顔でとんでもない事を言い放つ。
「えっと………ドーネルは、何でそこまで」
「………」
「………ドーネル、義兄様」
「麗奈ちゃんの幸せを願うからだよ」
小さく言った兄様呼びに即座に反応を示した事で、もうこの呼び方でないと分かり泣きたくなった。その後で、麗奈の幸せを願うと言った事により別の意味で泣きたくなった。
「命懸けで国を救い、魔法の消滅を防いだ麗奈ちゃんにお礼をするのはこれでは小さいかな」
「い、いいえ。むしろ、むしろ……大きすぎる位です」
「じゃ!!!これを皆に自慢しよう~」
「うえええっ!!無理無理!!!!!」
まずは、お義兄様呼びに慣れないといけないと言う高いハードル。これではドーネルと話すのだって一苦労するのに、それをユリウス達の前で言うなんてとんでもない、と止める。
「じゃっ、言ってよ。お義兄様って」
「うぅ………」
「ほらほら~」
「………に、にぃさま」
「声が小さい!!!!」
「あぅ、無理……無理です!!!!」
「言うまでこの部屋から出さないよ」
「はぐっ!!!!」
グサッ、と心に刺さり羞恥心に体が折れる。しかし、抱き寄せられて再び呼び方を強要される。顔が近くて顔が真っ赤なのを知っているのに。
それを空気で「さぁ、言おう」と言うのが分かり涙目になるも解放する気はない。
「………に、義兄様ぁ」
「だから声が小さいの~」
「い、意地悪だぁ~~!!!!!」
後ろ向きに抱き抱えられ、完全に逃げ場を失わせる。耳元で「言わないと、部屋出れないよ?良いの?」と言われるもその羞恥心よりも、これからも人前で「兄様」と呼ばないといけない事の方が麗奈には耐えられない事でもある。
今のこの状況にも、十分耐えきれないけれどもと思うが………。
結局、ドーネルが意地悪してくる所為で無理矢理「ドーネル義兄様」と呼び慣らされてしまった。
怒りを露わにするギルティスとキール、そこに探し回っていたユリウス達とも合流する。
その視線を受け流しドーネルは「麗奈ちゃんと義兄妹の契約結んだよ」と、笑顔で言われピシリと空気が凍る。
キールは絶対零度の視線でドーネルを睨み付け、ギルティスは麗奈に憐れむ視線を送る。ユリウスは暫く思考を停止し、ゆき達は状況が分からず流れを見るままとなった。




