表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第3章:平穏のその裏で……
104/433

第84話:少しの変化

 翌朝、リーファーの所へ行った麗奈。仕事場に行ってもおらず、薬草を保管している場所に居た様子もなく、もしかして……と城の敷地内にある庭園へと向かった。




(いた!!)




 ビニールハウスでは薬草のみ育てており、花は置いていない。しかし、薬草の中には花の様な香りをしたものもあり、中に入ればほのかに甘い香りが広がってくる。




「…………」




 麗奈が探していた目的の人物、リーファーは確かに居た。ただし、コクリとコクリと頭を揺らしている姿が見えた。それで寝ているのではと思い、静かに寄ってみれば案の定立ったまま寝ている姿があり、思わずクスリと笑ってしまう。




「……リーファーさん?」




 声を掛けるも起きる様子がない。頭の中で黄龍に呼びかけるようにして念じれば『部屋に運ぶんだよね?』と、小声で確認してくれる。当たっていると言う意味でコクリと頷けばリーファーを背負い、2人で仕事場にあった簡易的なベットまで足を運んだ。





 最初は気のせいだと思っていた。微かにこんがりと焼いたような良い香り、時々バリバリと言う音が響き、何の音だと気になった。しかし、目が開かない。瞼が重いな、と思いながらも、ゆっくりと、頭を覚醒させ徐々に視界がはっきりしてきた。




「………」

「おはようございます、リーファーさん」




 そこにはエプロン姿の麗奈。まず、何で?と疑問があがり最後に自分は何処で寝たかも覚えていない。




「……何で、アンタが」

『庭園で立ったままの貴方を、優しい優しい主が見付けたの。お腹減ってると思って朝食も出来てるから』

「ちょっ、私も減ってたのにそんな言い方はないよ黄龍」

『いやいやー、この人ありがたみ分かってないと思ったからさ』




 優しいを強調してくるあたり、本当に主の事しか考えてないな、と思った。まだ寝ぼけている頭を覚醒させる為に、顔を洗い欠伸をしながら戻ればタオルを差し出される。




「……なんだ、これ」

「顔拭き用にと、思いまして……要りませんでしたか?」

「いや、いい。使う」




 顔を拭き畳んだのを、ポイッと投げる。黄龍が密かにキャッチして小さく畳む。テーブルには、こんがりと焼けたパンと目玉焼き、サラダが置かれており2人分が用意されていた。その隣にはドレッシングです、と言って見せて貰った透明な液体。




「………」

「あ、その粒はピクルスを刻んだ物で」

「一緒に食べる、のか」

「のつもりです。嫌なら出ますけど……あ、あとコーヒー入れたので頭スッキリしますよ」

『…………』





 じーっと黄龍から見られている。ここまでして、出て行けと言う気?とプレッシャーがヒシヒシと伝わる。一方の麗奈はリーファーからの返答を待っているのか、じっと見ていた。


 はぁ、と溜息を漏らし「ここまでして貰ったんだ。後片付けも一緒に頼むよ」と恥ずかしそうに答えた。その答えを聞いた途端に笑顔で「はい!!!」と元気よく答えて食事を始めた。




(……誰かと、こうしてゆっくりすんのも……良いもんだな)





 野営していた時にも思った事。その時はただの気まぐれにしか思わなかったが、今、確信した。食事はやっぱり誰かと食べてた方が断然良いのだと。




(アイツ………恨んでるだろうが、やるだけやるか)




 何も言わず息子のフリーゲに押し付けた。陛下に掛けられた呪いの解明。しかし、同時に襲った妻の魔力欠乏症により命を亡くした事。


 妻を亡くして一気に臆病になり、誰にも何も言わずに国を飛び出した。暫く経ってから、妻と同じような悲劇を繰り返さない為に、と薬草が豊富なディルバーレル国へと赴いていた。


 


(あれから8年………色々あったな)




 隣では楽しそうに食べる麗奈の姿。その後ろでは嬉しそうに微笑む黄龍の姿があり、自分もこの異質な空間に慣れてしまった。




(さて、ドーネルの奴に催促するか)




 自分以外の薬師を用意しろ、自分はもう居ないのだから、と。逃げ続けていた事を止め、今のラーグルング国の現状を見てやれる事をやる為に決意を固めた瞬間でもあった。 





=======



「ディルバーレル国からは何も報告があがらないのか?」




 ギクリと震わせるも「な、なにぶん……距離があり、ますから」と自分の声がこんなだったろうかと、思いながら頭を垂れていた。




「ふむ………潮時か」




 ここで見ない薬草は、自然と値打ちが上がる。希少だと分かれば、我先にと群がる貴族達。希少であるが故なのか、ヘルギア帝国が扱って来た薬の何倍もの性能があった。


 独占出来るのは貴族だけで、その中でも王族と密接に関係を持ったごく一部。それ等が派閥を効かせようとも、小競り合いを始めようとも構いはしなかった。



 全ては王の為。



 国の財力を、軍事力を高める為のものなら無関心を貫いた。が、この男ディガルト・ヘルギア・ラーデンは別の関心を向けていた。定期券に納品されるはずの薬草が、ここ2週間程何の便りもないのだ。




「確か、ルーベン大佐に任せていたがあれとの連絡はどうした」

「申し訳ありません。未だに連絡が取れずにいる状態です」

「ふむ。まぁ、元々平民から来たのをグリフ家の者が気まぐれで貴族として仕立てたからな。長くは持たないと分かっていたがな」

「申し訳、ありませんでした」 




 ヘルギア帝国の皇帝に再度、頭を深々と下げているのはルーベンを貴族へと上がらせた上司。あの時は街の管理をしていたが、今では帝都を管理するまでに出世していた。そこに、ノックする音が聞こえ「入れ」とディガルトの声を聞いてから「失礼いたします」と言って入って来たのは軍服を来た男性だ。




「お話し中申し訳ありません。ですが、ディルバーレル国から至急の連絡をと言う事と、その相手が王に即位したドーネル・ディナ・バーレルと名乗りました」

「……王、か。分かった、すぐに繋げ」

「はっ!!」




 緊張した面持ちの男性だったが、すぐに魔法通信機を持ってくる用意を始めた。向かいで話をしていた人物もすぐに席を立とうとして呼び止められる。




「なに、1人で聞くのは寂しいからな。一緒にどうだ?」

「分かりました」




 少し経ってから持ち込まれた直径5センチ程の水色の魔石。宝石の原石の様に形は角ばっておりきちんと成形をされていないのは通信用であり、消耗品だからだ。

 ラーグルング国では魔道隊に所属する全ての者達と騎士団といった大人数編成で、ニチリでは部隊長、副隊長、独立部隊といった少数。

 ダリューセクでは、魔道隊に所属する中でも隊長、師団長、騎士団団長のみと国力や扱う用途により様々な使い方をする。


 へルギア帝国では定期連絡用に、用いている通信機としての機能を持っている魔石。それがポゥ、と光り輝き1人の男性が半透明で映し出されていた。




【初めまして。俺は、ドーネル・ディナ・バーレル。新たにディルバーレル国の王となった者です】




 水色のセミロングに緑色の瞳を宿した20代後半の男性。水色の上下の長袖長ズボン、その上に白いマントを羽織った者はこちらに頭を下げながら簡単な自己紹介をした。




「ドーネル……ほぅ、父親は健在か?」

【父なら病に掛かりこの世にはいません。父に代わり、自分が一国の主としてこうして連絡をさせて頂ております】

「病か………」

【それと、今まで父と結んでいたと思われる同盟の事だけれど……俺はそれを続ける気はない】

「……ほう」




 目を細め、獲物を定めるような目つきに思わずゾクリと背筋が凍った。話を黙って聞いていた相手は密かに冷や汗をかきも、ドーネルはそれを気にした様子もなく話を続けていく。




【村人や首都に住む人達からの徴収が明らかに度を超えている。その所為で、村人達に十分な食事も行き届いていない。村を捨てた所もある上、貴重な薬草が帝国の所為で良いように独占し放題】




 同盟を続ける意味があると思うか?



 口には出さなくとも、怒りを向けた声色がそう物語っている。クツクツと笑うディガルトは「要塞を今すぐに撤去と言うわけにもいかないだろ」と、話は聞くがドーネルの同盟破棄をやんわりとかわす。




【あぁ、その要塞なんだけど。運の悪い事に魔物に襲われて壊されているんだよ。だから、気の毒だが要塞に居た人達の生存はこちらで確認出来ていない】




 全滅してるんじゃない?と、冷ややかな視線を送る。最近、帝都の周辺でも魔物の多さに手を焼いていると報告があるのは知っていた。ギルドにその辺の処理を任せるも、日を増す毎に魔物の数は多くなる一方だとも。




「しかしな。今、こちらも魔物の被害で困っているんだ」

【そんなの何処でも同じだ。自分達だけと思うなよ】




 睨み付けたドーネルはそう吐き捨て【じゃ、2度とこちらに連絡は寄こすな】と通信を切った。役目を終えた水晶はパキリ、と割れて消滅した音だけが静かに響く。居心地の悪さに思わずチラリと、ディガルトを見れば彼は面白そうに目を細めていた。




「暗部よ。今の聞いていたな?」

「はっ」




 シュタッ、とディガルトに頭を下げながら現れたのは白いフードを深く被った者。その見た目だけでは男か女かも分からない。声色もくぐもったような声にワザとしているからか、判別がつかない。

 帝国の皇帝には、身の回りの世話をする者とは別に個別に動ける特殊部隊がある暗部と呼ばれる者達。彼等は暗殺、諜報、拷問など行う事もあり多彩でいるのも、特別な任務ゆえの特殊性から来ている。


 その暗部は皇帝自らが気に入った者を招き、訓練させて人数を多くさせてきた。また、その暗部は皇帝以外にも帝国に住む貴族達の御用達として利用されている為に帝都で住んでいる者はおらず、それ等と無縁の国民、外から来た者達にしか彼等の存在を把握していない状態だ。




「確か、ルーベンの所にはハーフエルフの者が一緒に付いていたそうだな」

「はい、そのように聞いております」

「探せ」




 眼光を鋭くし、ハーフエルフを連れ戻せと言う指令。この帝国にはエルフ、ハーフエルフの種族を奴隷とし運営している。貴族の見世物、闘技場の魔物の餌食など様々だ。




「ハーフエルフの特徴を知っているとも思えないが、探し出して殺せ」

「はっ」

「ついで、ディルバーレル国の魔物に襲われたと言う真偽。協力している連中がいる筈だ。何でもいい逐一報告を怠るな」

「承知しました」




 気配が消える。

 部屋にはパキンと役目を終えた水晶を眺めるディガルド。クツクツ、と面白そうに笑い久々に味わった高揚感に気分がいいな、と窓からさす太陽の光に目を細めた。





=======




「だーーーーーー、疲れたーーーーー!!!!」




 ぐー、と背筋を伸ばしそのまま屈伸を始めるドーネル。彼の執務室にはルーベン、ワクナリ、ギルティス、グルムの4人が居た。目が覚めるまでの間、ルーベンとワクナリの処遇はかなり優遇されていたのだ。


 ユリウス達が使う客室を同様に用意され、その後も拷問の様な事もなく王へと即位した後は首都への観光を進められ、いつの間にか出かけている始末。



 ルーベンが驚いたのはワクナリの変化だ。最初、彼女は表情をあまり見せず事務的に作業をしながらもルーベンの僅かな変化を感じ取り、先へ先へと仕事を進めていた優秀過ぎる位の印象しかなかった。

 しかし、事件に関わった事で麗奈達と知り合い触れ合う中で、少しずつでも僅かな変化をもたらした。今では彼女達と居る姿も見かけ楽しそうにしているワクナリに、ルーベンは心が洗われるような満たされるような感覚になった。




「流石に最後のは不味いだろ、ドーネル」

「なーんーでー?」

「あれでは喧嘩を売られていると思われても」

「イーナスにも言われたじゃん、喧嘩売るんだねって」

「…………」




 そのまま睨むギルティス。隣ではグルムは面白そうに笑い「マジか」と一言で済んできた。ルーベンとワクナリはドーネルに呼び出され、遂に処罰されるかと覚悟したら魔法通信機を使い、帝国の皇帝たる人物と直接コンタクトを取った。

 そして、今の会話の流れを全て見せたのだ。緊張しているのに、ドーネルはずっと「あーーーー」とうな垂れている。




「あの、ドーネル王………発言をしても良いですか?」

「いいよー。堅苦しくしないでよ。麗奈ちゃん達みたいに普通にしてて~」




 そう言う訳には……と、言葉を飲み込みながら咳ばらいをし質問した。何故、自分達にこれを見せたのかと。




「そりゃあ、ユリウス達が帰る時に君等も付いていくからに決まってるじゃん♪」

「………は?」




 思わず出た声はルーベン。ワクナリからは息を飲む音が聞こえ、グルムは納得したように安心していた。ギルティスはずっと溜め息を漏らし、密かな抵抗としてドーネルを睨み付けながら、どう嫌がらせをしようかと考えている。




「え、と………な、何故」

「今ので帝国からは確実に使者じゃないのが来るだろう?裏仕事専門みたいな連中がこの国に来るのは分かる。でも嘘は言ってないでしょ?魔物に襲われたのは事実だし、要塞もキメラの襲撃を受けて少し壊れた。それをユリウス達が徹底的に破壊したからねー」




 ユウトの術式の破壊の為に、龍脈に沿うようにして作られていた要塞。黄龍から頼まれていた事だが、この際使える物は何でも使おうと嘘を織り交ぜなら話したと言う。




「でも、そんなに嘘は言ってないよね?」

「そうですが…………」

「あのっ、ユリウス陛下にこの事は……」




 申す訳なさそうに言うワクナリに「あ、まだ言ってないや」と答えるドーネル。グルムは「また思いつきか」と言えば、ギルティスはすぐに部屋を出てユリウス達に知らせようと動く。




「思いつき、ですか」

「調べられても君等が居ないのなら、向こうもそんな派手な事はしないでしょ。それとも生き残ってたら帝国にとっては都合が悪いのかな」

「……ハーフである私が、狙われると思います」

「んじゃ、好都合。ユリウス達の所に居れば平気平気」

「あー、柱が感知するからか」

「そうそう♪」

『そんな便利にされてもねー』




 ドーネルの頭上に黄龍が音もなく現れては声を発していた。扇子を広げパタパタと仰ぎ、足を組んでダラリとしている。




『決定権は確かにあの陛下さんと主だけど』

「魔物の感知も行えて、悪意のある奴にも感知するんでしょ?便利じゃないか」

『悪意を消せる奴いたらどうするの。暗部って裏仕事専門なんでしょ?感情を消せる人なんて居るからね。イーナスって奴がそれにあたるじゃない』

「あぁ。彼、元暗殺者だから感情消すのは得意だよ」

『まぁ、青龍が見ればそれでもわかるだろうけど』

『俺は主の名でもない限りはやらんぞ』

『って、言ってるけど?』




 今度は青龍が現れそんな事を言って来た。ドーネルは「え、頼むよ」とお願いし頭を下げる。と、そこへノックする音が聞こえて来たので「どうぞー」と言えば水色のズボンにチェック柄の上着を着た麗奈が入って来た。




「あの、ドーネルさん。これ、どうでしょうか?」

「可愛いーーーー!!!!!」

「へっ、きゃああっ!!!」




 何処からそんな体力があるのか、気付けば麗奈を正面から抱き着いており何度も「可愛い可愛い♪」を連発している。言われた側は、ずっと顔を赤くしており「あぅ、もう、良いですから………」と密かな抵抗をする。

 聞こえないフリをしているドーネルはずっと同じ言葉を繰り返す。そしたら、耳まで真っ赤になり俯かれる。




「君、何してんの?」




 ドスを利かせたのはキールだ。チラッと見て麗奈を正面に向かせ「ねっ、可愛いよね?可愛いよね?」と勧めれば「当たり前でしょ」と当然のように言われ耳を塞ぐ麗奈。




「これから麗奈ちゃんとデートするんだぁ」

「はい?」




 ピキリと空気が明らかに凍り、キールから既に雷が発しており手に集中している。驚いた麗奈は「キールさん、魔法使わないで下さい!!!」と注意するもそれ聞くはずもなく軽く放たれる。




「勝手に連れまわすなーーーー!!!!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ